SENSA

2022.07.01

ジャンルはもちろん、ナショナリティーから次元まで──音楽関係者が語る、今 注目すべき"ボーダレス・ポップ"

ジャンルはもちろん、ナショナリティーから次元まで──音楽関係者が語る、今 注目すべき"ボーダレス・ポップ"

コロナ禍の影響もあり、アーティスト自身の音楽表現の仕方、また、リスナーによるその受け止め方にも変化が訪れたここ数年。一つの場所に集まって音を鳴らす機会が減ったことも一因となったのか、特にソロで活動する有望なアーティストが続々と現れている印象もある。そんな面々に多く見られる特性として、今回SENSAが掲げたキーワードは"ボーダレス・ポップ"。 ジャンルはもちろん、ナショナリティーから次元までを跨いだアーティストが鳴らすサウンドを掘り下げるべく、オカモトコウキ、みのミュージック、藤田琢己、金子厚武と各方面で活躍中の4人の音楽関係者を招聘し、このキーワードを軸にそれぞれが注目しているアーティストをセレクト(それぞれ2~3組)してもらった。
間近でシーンを見ている参加者たちの注目ポイントは多岐に渡り、現在の、そして今後の音楽シーンにも目を向けたトークは、結果的にいい意味で思いもよらない方向へ。ここに挙げられた音楽を聴きながら読んでもらえれば、新たな気づきに出会えるはずだ。



曲作りの回路が違う

金子厚武:今回はそれぞれ注目しているアーティストを挙げてもらい、今の音楽シーンについて語ろうという座談会です。事前にSENSAの編集部から"ソロアーティスト"や"ボーダーレス"といったキーワードをもらっていたわけですが......。

藤田琢己:バンドマンとしてはどうなんですか? ソロアーティストを特集するということについて。

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オカモトコウキ:ソロもバンドも両方おもしろい人たちが出てきてるなと思うんですけど、ソロに関して言うと、音楽の最初の作り方自体がバンド出身の人とは結構違うじゃないですか? DTMが発展して、ステージで実演をしたことはないけど、音源を発表するアーティストが増えていて、そうなると最初の発想から違う。バンドマンだと「ドラマーはこういう動きをする」とか考えるじゃないですか? でも、たとえば長谷川白紙くんみたいなぶっちぎりのヤバい人(笑)が出てきて以降、そういうところから解放された考え方のソロアーティストがすごく多いなと思って。みの(ミュージック)くんが挙げてた浦上想起くんとかもそうだと思うんですけど、そもそもの曲作りの回路が違うなと思うことが多いですね。

金子:"再現性"みたいなことが最初から取っ払われてる?

コウキ:そうですね。それによってどんどんおもしろくなってきてる感じがします。

みのミュージック:大変おこがましい話なんですけど、僕はそのあたりの人たちのジャンルに名前をつけようとしていて、"Bento Wave"と呼んでるんです。"幕の内弁当みたいにたくさん具材が入ってる"みたいなイメージ。長谷川白紙のジャンルは既存の言葉では説明できないと思ってて、そこに浦上想起とかぷにぷに電機とか、そういう一群もワッといて。それこそコウキくんが挙げてた松木美定とかもそうですけど。

コウキ:浦上くんと一緒にやってますもんね。

みの:なので、そのあたりを"Bento Wave"と呼んでみて......まあ、アーティストはそういうレッテル貼りを嫌がるとは思うんですけど、せめて議論の起点にでもなればなって。で、そういうことをするからには、ある程度責任を持って、影響元とかも引いてこないといけない気がして、僕が起点として挙げているのはコーネリアスの『FANTASMA』。で、特に近年はコロナ禍で家に籠っていた時期が長かったこともあって、DTMでああいう構築的(コラージュ/カットアップ的)な作風の音楽を作る人がどんどん増えてるのかなって。そういう意味では、"Bento Wave"にはネオ渋谷系っぽい感じがあるんですよね。

金子:おそらく中田ヤスタカとかも"Bento Wave"に繋がる存在だと思うんですけど、彼ももともとネオ渋谷系的な立ち位置だったりして、そういう流れってきっとありますよね。

コウキ:たしかに、CAPSULEの最初の頃はめっちゃ渋谷系っぽかったですよね。あとハイテクニカルな感じはサンダーキャットとか、ああいう海外のジャズっぽいところのアーティストの影響もありそう。ジェイコブ・コリアーとか、あのあたり。

みの:たしかに、その視点もあるかも。リハモしまくったジャズスタのコード進行みたいな、部分転調しまくって、「絶対それライブで歌えないでしょ?」っていう(笑)、MIDIで打ってから歌ってそうなメロディが最近はすごく多いですよね。

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日常の延長線上にあるちゃんぽん感

金子:さっきコウキくんから「再現性を度外視して曲作りが始まってる」という話がありましたけど、今の若い子たちは自分で楽器演奏をする身体性を持ったうえで、それと同じ感覚でDAWとも接して、構築的な音楽を作っている印象があって。バンドはやったことがないかもしれないけど、演奏は上手で、なおかつ打ち込みもできる、そういう人たちが新しい音楽を作ってる感じもあるなって。

藤田:今ってジャズも弾けてテクニカルでっていう20代がすげえ増えてますよね。一昔前から上の世代のバンドマンが「今の若い子はホント上手い」みたいなことをずっと言ってて、それは楽器の値段とかが手ごろになって、始めるのも早くなったりしたからで。だから、中学生から楽器を始めて、そのうえで打ち込みもやったり、すでに10年いろいろやってきてるような20代が、今めちゃめちゃ高いレベルでハイブリッドなことをやってるっていう。

コウキ:ボーカルに関しても同じようなことが言える気がして、琢己さんが挙げてたitsumiさんとかすげえ歌上手いなって思ったんですけど、でもいろんな下地があったうえでそこに到達したというよりは、そこにポーンといきなり到達してる感じがして。音楽の聴き方とか入り方が全然違うんだろうなって。

藤田:下地で言うと、この子はJ-POPとか歌謡曲を通ってないイメージで、たとえば、最近バズってるGAYLEちゃんとか、オリヴィア・ロドリゴとかと同じ線上にいるなって。「デビューに向けてボイトレしました」とか「プロデューサーについて歌を学びました」みたいな日本人の子が出す発声じゃない。英語がネイティブなのも関係あるとは思うけど、声の出し方が一から違う気がして、でもそういう子が日本で活動をしてる。10~15年前のロックバンド界隈で言うと、バイリンガルで、ガチの英語で歌えるシンガーってあんまりいなくて、「発音いいよね」みたいなことがトピックにもなってたけど、今はもうitsumiさんみたいな人が普通にいる。マレーシア生まれだっけ?

金子:マレーシア生まれで東京育ち。

藤田:そういう子たちがトレーニングで何かを習得するんじゃなくて、最初から洋楽のテイストで、J-POPにはないもので一音目から歌ってる。すごく今を象徴してるなって。



金子:僕がJuaくんを挙げたのも今の琢己さんの話と通じる部分があって。Juaくんは日本とフランスとカメルーンのミックスで、日本語と英語とフランス語を使い分けてラップをして、最近の曲だと結構歌も歌っていて。「ラッパーが歌う」ということは海外だとここ10年くらいで普通のことになって、日本もそうなってきてるけど、Juaくんは「ラッパーが歌も歌う」というレベルではなく、普通にシンガーとしてもめちゃいいなと思ってて。itsumiさんにしろJuaくんにしろ、ルーツの多様化が今の若い世代はより普通のことになってきていて、そういう人たちがこれからよりオーバーグラウンドに出ていくんだろうなって。



藤田:それこそJuaくんとも近いけど、VivaOla周りの人たちとかね。

コウキ:Wez Atlasとか。

藤田:あのへんの人たちって、m-floが出てきたときにワッと思った感覚に近くて。最初から「何かと何かを足してみました」じゃなくて、ちゃんぽん感が日常の延長線上にある。歌詞でいうと、日本語に置き換えられない部分は英語のままだし、英語にできない〈おつかれ〉とかは日本語のまま。そういうインターの子たちの電車のなかでの会話を聞いてると、「これVERBALのリリックそのままじゃん」みたいな、あの感じだなって。そういう感性が音楽性にも表れてて、J-POPっぽい節回しも入ってはいるんだけど、洋楽と同じように進化してる感じのシーンだと思います。

コウキ:コロナ禍でみんな内に籠ったけど、インターネットの世界はむしろいろんなところに繋がっていて、何かが縮小したというよりは、逆に、これまで以上にいろんなことが並列になって、それを部屋から覗けるみたいな感覚もあるし、可能性は広がったんじゃないかなって。

藤田:そう考えるとやっぱり、みのさんが言う"Bento Wave"的な感じになるというか。ひとつの括りでアタマからケツまで説明できるものじゃなくて、とにかくいろんなものが詰まってて、ひとつのパッケージなんだけど、パカッと開けると意外な組み合わせがあって、「この順番で食べたことなかったな」みたいな、そういうことになるんだろうね。

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結果的に音楽がメインになった才人たち

コウキ:Vaundyとかを聴いても、俺は同じようなことを思うんですよね。俺らの世代だと、ジャンル感をある程度固定しなきゃいけないんじゃないかって思い込みがどこかにあったと思うけど、Vaundyはアニメで映えるような曲もあれば、めちゃくちゃ洗練されたR&Bもあるし、でっかい会場でシンガロングできる大ぶりなロックもある。いろんなジャンル感の一番いいところを雑多に入れていいんだ、みたいな感覚がすごくあって。

藤田:それもソロならではって感じがするけど、OKAMOTO'Sはそれをかなり早いタイミングでバンドとしてやろうとしてたよね? 「OKAMOTO'S、こんな曲も出すんだ」って、何回も思った記憶がある。

コウキ:でもそれって危険なんですよね。「ここが好きだったのに、こうなっちゃった」みたいな跳ね返りもあって。でも今のリスナーはそういうのに慣れてきてるから、「次はこういう感じなんだ」って、受け入れやすくなってるのかもしれないですね。

金子:Vaundyの話が出ましたけど、琢己さんが挙げている小林私もすごく今を象徴する人かなと思います。

藤田:今回はコウキくんやみのさんが、ミュージシャンの人がいるから、僕はあえて音楽そのものというよりも現象側から提示しようと思って、それで3組を選んでいて。小林私は多摩美の油絵を出てて、芸術方面に行ってもおかしくないのに、これだけの音楽的な才能を発揮してる。あとすでに自分のレーベルを、自分の会社を作って活動してるんですね。美大を出て、音楽をやり、生配信で2時間歌い、そんなにメディアにバンバン出てくる感じでもなく、自主レーベルを作り、会社を設立。それを20代前半でやってるっていう。

コウキ:スーパーマンだなあ。

藤田:何かの成功に基づく元本をそれに当てるんじゃなくて、自分のやりたいことを自分で見つけて、その延長線上に今の活動があるっていう、それに結構ハッとさせられて。で、歌ったら歌ったで、がなるシャウトもするし、そのわりにきれいな声質も持っていて。



コウキ:前から名前は気になってたんですけど、今回初めてちゃんと聴いて、総合的な作り込みもすごいし、意外にめっちゃロックなところもあるんだなって。勝手に自分のなかで、一人でフォークギターを抱えて歌う人なのかなと思ってたんですけど。

藤田:あ、でも配信だとアコギで歌うスタイルで。

金子:ライブはずっと弾き語りで、音源はアレンジャーが入って多彩な曲調になってる。

コウキ:なるほど。両方やれるパターンですね。

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金子:今の日本を代表する若手のソロアーティストって考えたときに、一人はさっき名前の挙がったVaundy、もう一人が藤井 風だと思うんですね。で、Vaundyも音楽だけじゃなくて、そもそもモノを作ることが好きで、そのなかで結果的に音楽がメインになったタイプで、藤井 風はYouTubeでの配信からスタートして、基本はピアノの弾き語りだけど、アレンジにYaffleが入ることで曲調が幅広くなってる。そう考えると、小林私はこの2人のハイブリッドだな、みたいな印象もあって。

藤田:米津くんも何でもできるタイプですよね。

コウキ:米津さんは嗅覚もすごくて、浦上くんは米津さんの楽曲で弾いてるんですよね?

金子:「POP SONG」に参加してます。

みの:前に飲み会で米津くんと会って、まだみんな浦上くんの話をしてない頃に、「天才がいるんだよ」って言ってて、だいぶ早い段階から目をつけてたんだろうなって。

金子:星野源さんがいち早くSTUTSとコラボしてたり、メジャーのど真ん中にいる人がおもしろい人をフックアップするようになってますよね。日本にもフィーチャリングの文化がだいぶ浸透してきた、みたいな話とも通じると思うんですけど。

藤田:海外は早いもんね。ちょっと売れるとすぐジャスティン・ビーバー来るからね(笑)。

金子:日本でもチャートで活躍してる人がまだアンダーグラウンドレベルのおもしろい人を連れてきて、そこから新しい才能が注目されるケースが増えてるのはいいですよね。

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匿名性に見る新世代の共通項

みの:名前の話をしてみたいんですけど、小林私の"私"って、自己完結型の活動をもろに表してる名前なのかなって思うんですよ。

藤田:あー、たしかに!

みの:芸名の付け方で時代ごとにシーンを占えるところってあると思うんです。長谷川白紙の"白紙"は、今の世代のアーティストに共通してる、匿名性の高さに繋がるところがあると思う。ジェンダーがわからないアーティストも結構多いし。

金子:諭吉佳作/menとか。

藤田:きっちりした漢字の、名前感のある人が多いですよね。みんなランダムにつけてるはずなのに、そこから浮き彫りになるものがあるって、すごくおもしろい。

みの:手前味噌な話をしちゃうと、YouTuberの芸名にも一個のマナーみたいなものがあって、たいてい下の名前をそのまま使うか、それを縮めるとかで、それがワッと一群として出たときは際立たないけど、だんだんとそれが名刺っぽく、「このシーン出身の人なんだ」みたいになっていくんです。たとえば、ローマ字大文字で下の名前だけだと、あの年代のバンドマンっぽいなとか。

藤田:あー、そうか!ジャンルでもあるしね。文化人類学だな(笑)。

みの:今のアーティストたちもそういう空気を集団で纏ってる気がしますね。

金子:コウキくんが挙げてくれた松木美定もそうですよね。

コウキ:美定くんの音楽もなかなかすごくて、ドゥーワップとかジャズの要素を強く感じて、それをめちゃめちゃ完成度の高いポップスとしてやってるのが結構衝撃的で。自分の好きなフィールドで接続するなら、ヴァン・ダイク・パークスとかのバーバンクサウンド、ハリウッドとかディズニーのような世界観、そういうところを上手く2022年の日本で、ポップとして表現してるのがすごくいいなと思いました。



みの:僕もこのあたりのアーテイストを紹介する機会があったら、ヴァン・ダイク・パークスとかソフトロック系、『Pet Sounds』から数年のブライアン・ウィルソンとか、あのあたりをジェイコブ・コリアー的なハイコンテキストとくっつけて、みたいに言ってる。

金子:そのあたりの文脈的にも、松木くんと浦上くんが一緒にやってるのは納得ですよね。

みの:必然だと思いますね。僕、浦上くんの曲は「White Christmas」を挙げていて。こんな暑くなってきた時期に(笑)。でも彼が「White Christmas」をやってるおもしろさって、彼が往年のポップスの文脈を意識して、その最終地点で音楽を作ってる自覚があるっていうことなんだろうなって。


金子:コーネリアスもヴァン・ダイク・パークスやビーチボーイズに影響を受けてるから、そこも接続してると言えそうですね。

みの:コーネリアスがブライアン・ウィルソンみたいなポーズで撮ってる写真ありますもんね。

コウキ:コーネリアスはサンプリングの文化圏の上であの音楽性を作ってると思うんですけど、今の人たちは実演するから、より時代が進んだ感があるなって。コーネリアスはまた別のベクトルで演奏のほうに行くけど、『FANTASMA』はサンプリングの極致というか。

みの:"円環してるけど、向かってる方向は逆"みたいな、そういう感じなのかもしれない。

いい意味でのあざとさ

金子:みのさんが挙げている、ぷにぷに電機に関してはどうですか?

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みの:最初は"Bento Wave"の代表アーティストのひとつかなと思ってたんですけど、どうやらそういう時期があっただけっぽくて、彼女にとってそこは通過点だったみたいで。「tropical仮想ガール」はボサノバとかジャズっぽいのが入ってて、もともとこういうのをやってたんだけど、"Bento Wave"みたいなことをやったうえで、こっち(現在の音楽性)に戻ってきたというか。でもこれって"Bento Wave"的な様式が、それを身の上にしてないアーティストにも波及してるっていうことだと思うから、だからこそ名前をつけて、「こういう影響源があります」って、ちゃんと説明できないとダメな段階に来てるんじゃないかなって。



藤田:でもそれってすごいバランス感覚ですよね。自分の好きなもの一辺倒には行かない、その感覚って何なんだろう?情報がいっぱい入ってくるからなのか......。

コウキ:僕、数年前に衝撃を受けた出来事があって、SASUKEくんと話す機会があったときに、「どんな音楽好きなの?」って聞いたら、「これです」って、プレイリストを見せられたんですよ。そのプレイリストがホントに雑多で、文脈からしたら、相当掘らないと到達しないであろうものから、誰でも知ってるものまで入ってて......こういう感じかって(笑)。

藤田:まず一人好きなアーティストを挙げて、そこから芋づる式に......とかじゃないんだ。

コウキ:「それが好きってことはあれも好き?」みたいな、そういうことではなくて、それがすごい衝撃的で。まだその感覚がアウトプットにまでは反映されてない感じがしたけど、それが3年くらい前だから、今はその感覚がそのままアウトプットされてるというか。

藤田:そのバラバラなプレイリストのまま、バラバラな曲たちが世に放たれてる。だからさっきのみのさんの話みたいに、ぷに電さんの曲を聴いて、このグループの人だと思ったら......。

みの:全然違った(笑)。僕みたいな世代はすぐ騙されちゃう。あとこの前Mega Shinnosukeくんの新しい曲を聴いて、めっちゃいいなと思って、「これ生で爆音で聴いて気持ちいいタイプのロックじゃね?」って思ったんだけど、鳴ってる音は絶対生で再現できない組み合わせで。そういう謎な音楽もどんどん出てきてる気がする。

藤田:Megaくんもおもしろいよなあ。最初「シティポップか?」ってザワッとしたけど、もっとバラバラに飛んでいく感じがある。バンドでツアーをやってすごく楽しそうだったから、そのインスピレーションもあって、バンドサウンドでやってみようと思ったのかもしれないけど、結局彼が調理すると彼独自のものになるんでしょうね。

コウキ:そこで変に気にしないっていう、それがいいですよね。

みの:それを良しと思ってるあざとさすら、あの世代にはある気がする。「俺らの世代の感覚はこうで、上の世代からすると驚異でしょ?」って、腹の底では思ってそう(笑)。

コウキ:それ確信犯的にやってたらめっちゃおもしろいなあ。

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プレイヤーシップによるアレンジの自由度

金子:コウキくんが挙げているbetcover!!に関してはどうですか?

コウキ:ロックの文脈のソロアーティストで存在感ある人あんまりいないなと思うなかで、betcover!!は頭一つ抜けた存在感があると思っていて。アルバムを聴くと、バンドサウンドなんだけど、ローの入り方が上手く補強されていて、すごくおもしろくて。すでに有名になってきてるけど、今後さらにどうなっていくのかすごく気になります。

みの:おっしゃる通り、betcover!!はロックにおける今のミックスの位相の問題にひとつの答えをちゃんと出したなって。GLIM SPANKYの亀本(寛貴)くんが言ってたんですけど、ギターが前に出るとどうしても逆三角形の、筋肉ムキムキの人みたいなミックスになっちゃって、R&Bやヒップホップに対抗するには、ボーカルを下げるとか、苦しい選択をせざるを得ないと。そうなったときに、ビリー・アイリッシュの曲でフィニアスがやってるような、不思議な位相のミックスに行くとか、いくつか選択肢があるなかで、betcover!!はすごくいい答えを出したなって。



金子:僕の挙げたアツキタケトモさんもサウンドデザインがおもしろくて、ロックではないんだけど、それこそビリー・アイリッシュだったり、ジェイムス・ブレイク以降の感性でポップスを作っている人。で、この人はめちゃめちゃJ-POPで、しかも90年代くらいのJ-POPを連想させる楽曲に、このサウンドデザインっていう組み合わせがおもしろくて。

みの:たしかに当時のJ-POP感があって、めっちゃ懐かしい。



金子:「Family」では家族がそれぞれ問題を抱えていることが歌われていて、長男が同性愛で悩んでいて、長女がパパ活で悩んでたり、社会風刺的な内容をこのサウンドでポップスとして表現するっていう、この感じは他にないなって。もう一人挙げてる大石晴子さんもやっぱりサウンドデザインがおもしろくて、アコースティックな生演奏とシンセや打ち込みが混ざって、すごくフリーフォームなアレンジになっていて。こちらはゲストでBREIMENの高木祥太さんやBialystocksの菊池剛さんとかが参加してるんですけど、今のジャンルレスなアーティストって、一人でDTMで何でもやっちゃうタイプと、いろんなプレイヤーが集まることによって、ジャンルレスな作品になってる、そのふたつのパターンがあるなと思って。そういう意味では、アツキタケトモさんと大石晴子さんは対照的な2人でもあるかなって。



藤田:高木くん、引っ張りだこだなあ。あとは石若駿くん。スケジュールが取れない。業界の石若駿不足がすごい(笑)。

コウキ:若いミュージシャンで演奏能力すごい人ホント増えてて、この間自分のソロで一緒だった高橋佑成くん、彼はSTUTSくんのバンドとか、日野皓正さんのバンドでも演奏してるキーボーディストで、衝撃受けるくらい良くて。まだ22歳とか23歳で、アカデミックな知識もあって、演奏能力もある。そういう人が今たくさん出てきて、ポップシーンで活躍してるのがおもしろいですよね。

藤田:昔だったらクレジットにも載らなかったようなスタジオミュージシャンとかサポートミュージシャンの皆さんが、今はSNSで自分のアカウントを持てて、YouTubeで自分の演奏を広めることもできますよね。昔は知ってる人のなかだけですごく需要があったりしたけど......。

コウキ:今はサポートミュージシャンのスターみたいな人がいますもんね。

藤田:そもそも実力があるわけだからね。小西遼くんとかはCRCK/LCKSやって、象眠舎やって、TENDREのサポートをして......だから、小西遼不足でもある(笑)。バークリー時代に一緒だったとか、藝大の同級生とかも多くて、millennium paradeとかはそういう感じですよね。

コウキ:すげえ劣等感(笑)。

金子:でもコウキくんのソロにも素晴らしいミュージシャンが集まってましたよね。TAIKINGみたいに、自分の活動とサポートを並行させてる人も多いし。

藤田:音楽を学校とかで学んでいなかったとしても、DTMを駆使していくうちに、自分のレベルが上がっていくパターンもありますよね。最初から楽譜が読めなくても、テクノロジーを駆使することで、学校で理論を学んだ人たちとも渡り合えるだけのポピュラリティのある音楽ができる、そっちも夢があると思う。何かの門をくぐっていないと成功できないわけじゃないっていう、それも音楽のいいところですからね。

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だんだん"その人"に見えてくる

金子:琢己さんがもう一組挙げているのが、VTuberのさん。

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藤田:一番挙げなそうな人をあえて挙げたんですけど、VTuberの生業はいろいろで、ゲーム配信もするし、雑談のスパチャでも稼げますけど、やっぱり音楽好きな人が多くて。以前緑仙さんっていうVTuberさんと仕事をしたときに、カラオケ配信を見てたら、9mm Parabellum Bulletとか赤い公園とか04 Limited Sazabysを歌ってて、「他の子は知らないかもしれないけど、俺は今めちゃめちゃあがってるよ」とか思って(笑)。で、本人に話を聞いたら、やっぱりロックが好きだと。ミュージシャンの人は「じゃあ、音楽だけやればいいじゃん」って言うかもしれないけど、僕はVTuberをやりながら音楽をやることをすごくポジティブに捉えていて。特にコロナ禍になって、音楽産業自体を不安視するようなトピックがこの2年いろいろあったなかで、VTuberとして音楽でメジャーデビューして、その曲がこれまでのファン層以外にも届きはじめてるっていうのは、音楽を志す人にとっての旗振り役になると思うんですよね。



コウキ:まだ掘り起こされてない層がめちゃめちゃあるはずですよね。VTuberが好きな人たちの音楽への入口になることによって、まだ眠ってるオーディエンスを掘り起こせるというか。

藤田:それで言うと、今年前半にドームツアーをしたのがすとぷり。ドームツアーですよ?バンドでそんなことできるのってなかなかいないじゃないですか?

コウキ:自分の文化圏にないからホントすごいと思う。Mr.Childrenレベルですよね。

みの:Mr.Children、サザンオールスターズ、B'zみたいな(笑)。

藤田:って考えると、これを無視するわけにはいかないなっていうのが俺の2022年上半期のトピックで。音楽を紹介する側として、ここにあるおもしろさが認識できてないと、狭いところで終わってしまう可能性がある。もちろん、キャパだけが全てではないけど、ドームツアーができたら結構いろんな夢が実現できるじゃないですか。

みの:VTuberは僕もすごく興味があって、昨年出た月ノ美兎っていうVTuberのアルバム聴きました?僕ももともとはVTuberのこと全然知らなかったんですけど、昨年一曲、楽曲提供をして、その人の相方さんが月ノ美兎さんなんですけど、彼女のアルバム(『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』)が『Rate Your Music』っていう海外のレビューサイトの年間ベストの50位くらいに入ったんです。それ聴いたらめちゃめちゃ良くて、参加してる作家陣が長谷川白紙、ジュディマリのTAKUYAさん、堀込泰行さんとか、いい意味でめちゃくちゃなんですけど、それも本人が音楽好きで、そういう作家を集めたらしくて。スキットも入ってて、それが普段の配信と音楽の中間みたいな。

コウキ:スネークマンショーみたい(笑)。

みの:そうそう。で、僕なりの解釈で言うと、80年代の松田聖子みたいな、裏方のアーティストにインスピレーションを与える存在になってるんだろうなって。VTuberを一個のイメージ的な神輿として創作をする、音楽ファンはその二重構造のメタを楽しんで、VTuberのファンはそのイメージを純粋に楽しむ。そのふたつが両立し得るカルチャーなんだろうなっていうのが、僕なりの理解なんですけど。

藤田:あとVTuberのおもしろいのが、意外と素の部分も多いというか、雑談配信をするもんだから......隠してる部分は隠してるのかもしれないけど、キャラクターとして素を晒してる部分が結構あるんですよね。

みの:昔のアイドルほど作られたイメージではないと。

藤田:そういうことですね。何か食べながら、「これ美味しい」みたいな話をしてるから、すごく身近に感じられて、だんだんアニメーションじゃなくて、"その人"に見えてくるっていう、新しい文化だなって。

金子:たとえば、歌い手出身のまふまふが紅白に出たり、Eveが注目されたり、かつてはニッチだった分野からオーバーグラウンドに出てくる人がどんどん増えてるわけで、VTuberからそういう存在が誕生する可能性も十分ありますよね。

藤田:自分で曲を作る人も出てくるかもしれないし、"音楽"という目線でVTuberを切り取るのもおもしろいかなと思って、議論を投げかける意味でも、あえて入れてみました。

みの:すごく重要なシーンだと僕も思います。

"ソロ"とはいえ"バンド感"も楽しめる

金子:では最後に、2022年下半期に向けての展望を話せればなと。

コウキ:2022年はだいぶ実演ができるようになってきてますよね。

藤田:ワッショーイ!って音を鳴らして、「なんかエモいよね」みたいなことが、また音楽シーンに影響を与える可能性もある。

みの:じゃあ、ギターウルフにてっぺん取ってもらいましょう(笑)。まあ、こういうのって結局揺り戻しの連続なので、バンドの復権とか、「一緒に音を出したらエモいよね」みたいな、当たり前の快楽原則が大事っていうのは、絶対戻ってくると思います。

金子:ソロとバンドの境界線も曖昧になってて、音源は一人で作るけど、ライブはバンドっていう人も多いですよね。だから、今日のテーマは"ソロアーティスト"だったけど、ライブでは"バンド感"も楽しめる。

藤田:いいとこ取りだね。でもまあ、ライブをしたいのかどうかもその人次第ですしね。

コウキ:デカい会場でのライブを成功させるよりも、会社を作っていろいろ回したほうが儲かるかもしれないし(笑)。

藤田:それはそれで時代だなって思うけど、せっかく少しずつコロナ明け感が出始めてるので、デカい音でみんな集まってワッとやりたいよねっていうのは、その魅力を知ってる者として、願いたいですけどね。

みの:そうですね。

コウキ:それは最高です。

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取材:金子厚武
文:SENSA編集部
撮影:佐藤 広理


PROFILE

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オカモトコウキ(OKAMOTO'S)
1990年生まれ、東京都出身。
中学在学時、同級生とともに現在のOKAMOTO'Sの原型となるバンドを結成。
2010年、OKAMOTO'SのギタリストとしてCDデビュー。
デビュー当時は年間平均100本を超えるライブを展開し、海外公演等も積極的に実施。
アメリカSXSWやイギリス、アジア各国などでもライブを成功させ、日本国内では日比谷野外音楽堂、中野サンプラザなどでもライブを開催、10周年となった2019年には初めて日本武道館で単独ワンマンライブを成功させた。
アグレッシブなギタープレイとソングライティング力は評価が高く、関ジャニ∞、PUFFY、Negicco、小池美由など多くのアーティストに楽曲を提供。またPUFFY、YO-KING、ドレスコーズ、トミタ栞、堂島孝平、ナナヲアカリなどのライブでのギターサポートも行なっている。ソングライティング力を生かしバンドの中心的なコンポーザーとしても活躍、バンド内のいくつかの曲でメインボーカルを務めている。

2022年4月27日には、2ndソロアルバム「時のぬけがら」をリリースし、バンドとソロとしてもその活動の勢いは止まることを知らない。

@Okamotokouki / @okamotokouki

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みのミュージック
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在36.6万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中("Bento Wave"の詳しい解説はこちら)。

Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、書籍「戦いの音楽史」も発行し活動の場を広げている。

@lucaspoulshock / YouTube

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藤田琢己
テレビナレーター、ラジオDJとして各種メディアで活動中。
今までに国内外1500以上のライブやフェスに足を運び、ライブ現場でアーティストとダイレクトにコミュニケーションを取りながらリアルな視点で音楽の今を紹介している。

オフィシャルサイト / @TakMe520

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金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズでのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『Real Sound』『ナタリー』『Rolling Stone Japan』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

@a2take / @a2take3

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