SENSA

2021.07.22

アツキタケトモ×okkaaa対談──真逆なふたりが解剖する新作『幸せですか』

アツキタケトモ×okkaaa対談──真逆なふたりが解剖する新作『幸せですか』

全楽曲の作詞、作曲、編曲、演奏、録音のすべてをひとりで行うシンガーソングライターのアツキタケトモが、2ndアルバム『幸せですか』をリリースした。
昨年9月にリリースした前作『無口な人』までは、タケトモアツキ名義で作品を発表してきたが、今回のアルバムタームからは、アツキタケトモ名義に心機一転。先鋭的なサウンドプロダクションに歌心あふれるメロディをのせるという自身の持ち味をアップデートさせた今作は、より鋭く研ぎ澄まされた歌詞が社会に普遍的な問いを投げかける。
以下のインタビューでは、アツキタケトモと親交のある同世代シンガーソングライターokkaaaを迎え、『幸せですか』という作品に込められたこだわりと思想を紐解いた。


atsuki_okkaaa_3.jpg
ふたりの関係を深めた喫茶店の「#ナポリタンで人生内省」

―おふたりはどんなふうに出会ったんですか?


アツキタケトモ:共通の友人がいて知り合いました。Ghost like girlfriendっていうソロプロジェクトをやってる人なんですけど。僕はokkaaaくんを知ってたんですけど、okkaaaくんに僕を紹介してくれたのが(Ghost like girlfriendの岡林)健勝さんで。

okkaaa:「おもしろいやつがいるから、絶対に会わせたいんだよね」って聞いてたんです。

―最初にコンタクトをとったのは?


アツキ:初めてはClubhouseだったんですよ。ちょうどClubhouse が流行ってた時期だから......去年の11月、年末ぐらい。okkaaaくんがルームを立ち上げてて、最終的にいろいろな人が入ってきたんですけど。最初に話したのはあそこだよね。

okkaaa:あそこがファーストタッチでしたね。

―そこから仲良くなっていったきっかけはあるんですか?


okkaaa:インスタを交換して、コミュニケーションを密にとるようになってから、「喫茶店に行かない?」みたいな話になって。「ナポリタン食べたいんですよね」って言って(笑)。

―okkaaaくんはツイッターでも、喫茶店でアツキくんと話せるのがうれしいっていうようなことを書いてましたね。



okkaaa:自分のApple Musicのトップ20に入ってるぐらい聴いたアーティストなので、自分の好きなアーティストと喫茶店で語り合えるなんて最高すぎですよね。

アツキ:むしろ僕のほうが恐縮でしたからね。リスナーとしては前から知ってるので。年齢的にはokkaaaくんのほうが若いですけど。

okkaaa:そんなそんな。

―喫茶店ではどんな話をしたんですか?


okkaaa:いちばん最初のテーマが、「#ナポリタンで人生内省」っていう(笑)。

アツキ:インスタでDMをやりとりして、「ナポリタンを食べに行こう」みたいな話になって。「どういう話をしようか?」って話したときに、僕は本当に音楽にしか興味がないのと、しいて言えば、人生観だったり、恋愛観とかも含めた人の価値観、そういう話を真剣にするのが好きっていう話をして。で、okkaaaくんはokkaaaくんで、大学の友だちとかに「真面目な話をしに行くやつ」みたいなポジションらしくて。

okkaaa:そうなっちゃってて(笑)。「僕もそういうのが好きなんですよね」って言ったら、じゃあ、人生内省しますかっていう。

アツキ:それで、ナポリタンで人生内省しますかっていうことですね。

―ふつうは居酒屋でお酒を吞みながらやりそうなことですけど。


okkaaa:そうですね。でも、このご時世ちょっと......っていうことで。

―喫茶店で「幸せって何だろう?」みたいなことを話すんですか?


アツキ:まさにそういう話をした気がする。

okkaaa:「タケトモさんにとって音楽って何ですか?」とか。もちろんいま話題の音楽とか、作り方、テクスチャーについて話し合いながらも、「どういう音楽を作っていきたい?」みたいなことを話せて、すごく実のある時間でしたね。

okkaaa_6.jpg

―「音楽って何だろう?」の答えは出るんですか?


okkaaa:いや、出ないよね?

アツキ:答えはないですよね。答えがないことが楽しいっていうか(笑)。

okkaaa:そのときはふたりのバックボーンを語り合いながら、どういうふうに音楽と密接になってきたのかっていう話をして。

アツキ:対照的だなと思ったのは、僕は3歳ぐらいの幼い頃から、音楽家になる以外の道を考えたことがなかったんですけど、逆にokkaaaくんは、幅広くいろいろなところに興味があって、それが音楽にも反映されていく研究家気質なんですよ。

―そのへんの感覚が対象的なふたりが意気投合してるのはおもしろいですね。


アツキ:でも、聴いている音楽の好みはかなり近いみたいな。

okkaaa:「昔どんな音楽を聴いてた?」っていう好みがばっちり合ったんです。

―具体的な共通するフェイバリットと言うと?


アツキ:岡村靖幸さんとか。

okkaaa:もともと僕も歌謡曲的なポップミュージックから入ってきた人だったから。

アツキ:僕としてはそれが意外だった。

okkaaa:僕はそういうアプローチをやってこなかったですからね。だから最初に『無口な人』(2020年)を聴いたときに、「うわ、これは僕が求めてるサウンドだ」って直感的に思って。「学ばせてください」っていう感じです。



アツキ:逆に僕は歌謡性が強いのが自分の強みでもあると同時に、ここまで歌謡性が強いと、聴き手がサウンドに意識を持っていきづらくなるというか。トラックだけ聴いてもらうと、かなり洋楽的なアプローチをしてるんだけど、歌が強すぎるがゆえに歌謡として聴かれちゃうっていうのがコンプレックスだったりもしてて。okkaaaくんの曲はちゃんとトラックに対して言葉をのせてるから、音と同化して聴くこともできるし、メッセージを汲み取ることもできる。そこに憧れますね。

okkaaa:その歌謡性がタケトモさんのシグネチャーサウンドなのかなあって。歌謡的な懐かしさもありながら、海外のビリー・アイリッシュとかエクスペリメンタル・ポップとか。その界隈の匂いもすごく感じるんです。

atsuki_3.jpgokkaaa_5.jpg

―『幸せですか』を聞かせてもらうと、前作『無口な人』以上に、より歌を聴かせることに重きを置いているようにも感じますけど、そこは自覚的ですか?


アツキ:『無口な人』までは、音にしか興味がなかったんですよ。22、3歳だから......いまのokkaaaくんぐらいの年齢なんですけど。胸を張って世に出せる作品を作れるまでは、制作し続けようって籠ってた時期で。歌とか歌詞っていうよりも、譜割だったり、サウンドのおもしろさをどう突き詰めるか?みたいなことを考えて作ってたんですね。ただ、当時トラックメイキングするうえで、ループ素材があることを知らなくて。まずスネアの音に自分でエフェクトをかけて1音作って、次にキックを作って、ハイハットを作っていく。ドラムのリズムトラックを作るだけで10時間ぐらいかけてたんですよ。で、あるとき、サンプルクラウドを友だちにオススメされて。それを開いたら、俺がいままでかっこいいと思ってた音が全部ここにあるじゃん!って気づいたんです。

okkaaa:(笑)。

アツキ:「あ、みんな、これ使って曲作ってたの?チートじゃん」って。そのチートを手に入れたことによって、『無口な人』が生まれたんですね。ループ素材を使っちゃえば、いくらでもおもしろくできるっていう気づきがあったからこそ、歌までこだわれたというか。そうやって『無口な人』で見えてきた歌謡性みたいなものを、更にかたちにしようと思ったのが、今回の『幸せですか』ですね。

okkaaa:これはもうJ-POPをネクストレベルに引き上げてる傑作だなと思います。

アツキ:ありがとう(笑)。

okkaaa:最初に(先行配信曲の)「カモフラージュ」を聴いたときとか、エフェクトの使い方とかは、「このエディット感はヤバい」って驚くこともあれば、詞曲にすごく感動して。思わず口ずさんでしまう楽曲に羨望の眼差しがありますね。

okkaaa1.jpg
シンガーソングライターとアレンジャーの視点を切り分けたアレンジ
atsuki_okkaaa_5.jpg


―ここからはアルバムの話を中心に話を聞ければと思います。okkaaaくんは、いろいろ話したいことをメモしてきてくださってるそうで。


okkaaa:めちゃくちゃありますよ(笑)。どこから踏み込んでいけばいいのかなっていうのはあるんですけど......タケトモさんは、シンガーソングライター的立ち位置とアレンジャーとしての立ち位置がある。二足のわらじを切り分けて作ってらっしゃるじゃないですか。いまはアーティストにも"ディグり力"を求められる時代だと思っていて、その点、タケトモさんはすごくインディーの音楽にも造詣が深いなと思うんですけど。どういうところを意識して、アレンジを固めていったのかを聞きたいです。

―なるほど。ちょっと質問を整理させてもらうんですけど。まずアツキくんの中にシンガーソングライターとアレンジャーのふたりがいるというのはどういうことですか?


アツキ:先日、インスタグラムで「悪者」っていう曲の弾き語りを上げたんですけど。そのアレンジがアルバム音源と全然違うかたちで歌っていて。音源だと3拍子のワルツっぽい要素があるのが、弾き語りはしっかり頭4つで(リズムを)とってるんですね。で、その演奏が終わったあとに、「いま演奏したのはシンガーソングライター的な自分が提出したデモのバージョンで、世に出ている正式な音源は、トラックメイカーの自分が作ったものなんです」みたいな説明をしたんです。

―ふたつの役割はどう違うんですか?


アツキ:僕は17歳のときに違う名義(「竹友あつき」名義)でデビューしてて。シンガーソングライターとしての自分はそこからの延長線上なんですね。当時を知ってくれてる人は、最近の僕の音楽に対して、「音楽性を変えてきていて、すごいな」みたいなことをツイートしてくれてる人がいるんですけど。僕のイメージとしては、シンガーソングライターとしての自分は変わらないんです。今回のアルバムに入ってる「しあわせのうた」とかも、17歳のときにライブでも歌ったことがあるような曲なんですね。

okkaaa:あ、そうなんですか。

アツキ:そうそうそう。「Cloudy」とかも16歳のときに書いた曲で。「しあわせのうた」は歌詞をだいぶ書き変えたけど、「Cloudy」はほぼノータッチなので。そういうシンガーソングライターの自分のストックもあって、その作り方は変わってなくて。じゃあ、なんで音楽性が変わった印象を作れるかって言ったら、そこに6年間ループを使わずに音を研究し続けたトラックメイカー・アツキタケトモが、高校時代のシンガーソングライター・竹友あつきの曲をより現代的に聴かせるためのビジュアルメイクをしてる。あとから組み立てていまっぽく演出してるっていうことなんです。

atsuki_1.jpg

―なるほど。


アツキ:これは異論もあると思うんですけど、僕は、YOASOBIも小室哲哉さんのサウンドも、ある種同じだと思ってるんですね。外堀が変わってるだけで、結局、歌謡のメロディにのってるし、A→B→サビ、A→B→サビ→サビっていう構成のなかで、職業作家が、すごく声が特徴的な人と組んでやるっていう意味では、僕の感覚では同じに見える。新しくも見えるけど、やってること自体は、積まれてきた歴史のうえにあるジャパニーズポップを実践してるイメージですよね。

―歌謡曲的なメロディの外堀を構成するトラックが、いまの最先端のトレンドを取り入れているのか、90年代当時の最先端だったかの違いにすぎないわけですね。


アツキ:そう、テクノロジーの進化だと僕は思いますね。

okkaaa:タケトモさんは楽曲のそのバランスが非常に良いですよね。トラックが歌謡曲的なメロディを殺していない。その外堀を作るときに、自分のメロディを殺さないように、意識していることはありますか?

アツキ:どれだけ歌を良くしておくか、じゃないですかね。弾き語りで聴いてちゃんと感動できるものを作っておけば、どう調理しても、歌が勝つ、みたいな。

okkaaa:(深く納得して)なるほどっ......。

アツキ:逆に言えば、弾き語りの段階であんまりぐっときてなくて、でも、アレンジのイメージはできてるから、最終的にいい感じのところまでもっていけるなと思ったとしても、それは採用しない。とにかく歌だけで泣けるものを作っておけば、どういう外堀をつけても負けないでしょっていうところがあるかもしれないです。

atsuki_6.jpg

―言い方が悪いかもしれないけど、いまはいくらでも誤魔化しが効くんですよね。「いい曲っぽいもの」が誰でも作れちゃう時代だから。


アツキ:いまはびっくりするぐらい手間をかけなくても曲を作れますからね。僕は2012年ぐらいからDTMをやってるので。どんなにがんばっても、宅録だとここまでしか持ってこられないよねっていう時代も、ある程度知ってるので。すごいラクになってるわけですよ。これだけラクになっちゃうと、たぶん1ヵ月も軽く勉強すれば、それなりにかっこいいデモを作れる時代になったと思ってて。だからその1ヵ月じゃ絶対に持っていけないレベルにするためには、結局、歌を作り込んでおくことが大事になってくるんです。

okkaaa:歌は、誰にも負けない自信があるぞっていうことですよね。

アツキ:そういうことです。

―アツキくんのアレンジで個人的にひとつ気になったのが、メロディとかビートはすごく美しいのに、すごく鋭利な歪とかノイズを重ねてるじゃないですか。


okkaaa:あ、それは僕も気になりました。

―あれは、どういうイメージで作っていくものなんですか?


アツキ:それ、無自覚なんですよ。単純に良かったからやってるだけで。自分ではそんなにぶっとんで聴こえてないんです。作ってるときは、おもしろいひっかかりを作ろうと思ってエフェクトをかけてるんだけど、何回も聴いてるうちに、どこが尖ってるのかわからなくなっちゃって(笑)。

okkaaa:僕、いまいちばん考えてるのがピュアと暴力性の中間を目指したいっていうことなんですよ。いままでの潮流って、サッドとチルだったと思うんですね。ムーブメントとしては。そこからエモがきて、それをもっと深めるような暴力性だったり、それと反対のピュアなところが表現されるようになってる。(タケトモさんの曲には)その暴力性とピュアが混ざってるから。これを感覚でやってるのはスゴいと思いますね。

okkaaa_3.jpg
モラトリアムから発生した「幸せとは何か?」という問いかけ
atsuki_okkaaa_6.jpg

―okkaaaくん、他に聞きたいことはありますか?


okkaaa:歌詞についても聞きたいなと思ってて。僕が、今回のアルバムを聴いて思ったのが、どの楽曲にもダメな自分がいて、そのダメな自分を克服するために、「自分って何なのか?」とか、「幸せって何?」みたいなものを、社会の枠組みを通して一貫して伝えようとしてるんだなって思ったんですね。そこにモラトリアム性をすごく感じてて。奇しくも僕も、「モラトリアムの狭間で」っていう公演をやっていて、モラトリアムがテーマとしてあるんですね。で、タケトモさんにも先駆的なモラトリアム性があるように感じたから、どんなモラトリアムを過ごしてきたのか?とか、 その文脈を聞きたいなと思います。

アツキ:ああ、なるほど。

okkaaa:モラトリアム的な構造があるっていうのは合ってますか?

アツキ:合ってます。okkaaaくんの公演も見させてもらってて。最近のokkaaaくんのテーマがモラトリアムに置かれてるなっていうのはシンパシーを感じてるんです。むしろ、okkaaaくんのほうがリアルタイムですよね。僕は、"竹友あつき"時代に高校生シンガーとして1回デビューしてて。そこで1回人生が途切れたんですよ。大学生以降の自分が「アツキタケトモ」というか、そこで第二人格が形成された感覚なんです。っていうのは、高校のときまでの僕の悩みのメインって、40人しかいない狭い教室のなかで、「ふつう」っていう価値観があって、その「ふつう」に自分が括られちゃうことにすごく抵抗感があったんです。自分は「ふつう」じゃない部分もあるのに、「ふつう」にしていなきゃいけない、みんなと一緒の制服を着てなきゃいけないとか。でも大学生になると、その教室がなくなるわけじゃないですか。

okkaaa:はい。

アツキ:付き合う友だちも自分で選べるし、感覚が合う人とだけ一緒にいれば、自分が「ふつう」なのか、「ふつう」じゃないのかを考えずに振る舞える。っていう経験をしたうえで、それまでは「ふつう」に括られることに抵抗感があったのに、いまは「ふつう」がなさすぎて、そもそも「ふつう」とは何?みたいな疑問が湧いてくる。そこから、「ふつう」の幸せって何だ?みたいなところに行き着いたんです。

okkaaa:なるほど。

アツキ:高校にいたときは、大学に行くのが幸せです、就職するのが幸せですって言われるのが嫌だったし、幸せは自分で決めるものだって思ってたけど、いざ、周りに幸せを決められなくなったら、今度は幸せが見つけられなくなっちゃった。

atsuki_4.jpg

―それが今作「幸せですか」のテーマにもなってきたわけですね。


アツキ:たぶん「ふつう」の枠のなかで生きてない人を見る機会が多かった影響もあると思います。大学もそうだし、音楽の関わりのなかでもそうだし。そういう人を見たときに、それはそれで苦しんでいる。逆に、就職した、結婚したっていう、いわゆる世間的にゴールインって言われるようなものを体験してる友だちが、じゃあ幸せなのかって言ったら、意外とそうじゃなかったりもして。両方がいるなっていうときに、最終的にこのアルバムが「幸せって何だろう?」っていう問いかけで終わる作品になったんです。だから、23~25歳だからこそ作れたアルバムっていうか。そういう時期のモラトリアムですよね。

リスナーとの距離を縮める「弱さを曝け出す」という才能
atsuki_7.jpg
okkaaa:僕、今回のアルバムのなかで「おとなげ」の歌詞がすごく好きなんですよ。リアルタイムの僕の情景とマッチしてるんです。

アツキ:そうですよね(笑)

okkaaa:いい曲の条件って、情景をありありと映してくれたり、友だちが支えてくれてるようなスタイルだと思うので、まさにそれだなと思って。

―なかなか〈大学を留年した友だちは〉から歌い出す曲もないですしね。


アツキ:そこが、さっき僕が言った、ちょっとしたコンプレックスだったりもするんですよね。これで歌い出しちゃうと、どんなにトラックとかメロディが洗練されたものでも、きっとこの言葉で抵抗感が出ちゃう人もいるなと思うんです。逆に、この言葉だからこそ、いまのokkaaaくんみたいに「自分の歌だ」って思ってくれる人がいることも期待して、こういう言葉を選んでるけど。それ以外の想像の隙間がないんですよ。その経験がない人だったり、そこから遠ざかってる人だったり、あと、音楽でそこに近づいてほしくないと思って音楽を聴いてる人からすると、このフレーズが出てきた瞬間に嫌悪感が出ちゃうこともあるだろうなとは思いますね。

okkaaa:たしかにタケトモさんの音楽って、すごい聴き手との距離が近いなと思います。僕はわりと社会を俯瞰的に「こういうシステムってダメだよ」って見るタイプで。

アツキ:うん、だからね、僕はokkaaaくんの曲を聴いてると、たぶんみんな気づかないけど、けっこう同じことを歌ってたりするんですよ。

okkaaa:たしかに。テーマは一緒だったりするんですよね。

アツキ:たとえば、「喪失」っていうテーマがあったときに、僕だったら、「リセット」(『無口な人』収録)みたいな、いつかまた君が違う誰かと出会ったときに、僕のことを忘れちゃうのかな、みたいな表現になるところを、okkaaaくんは、夢のなかで見えてる人がいるっていう「明晰夢」みたいな表現になったりする。その差はおもしろいなと思います。




okkaaa:それを聞いてて、すごく思ったのは、「喪失」を書くときに、僕が苦手なのは、自分に足りないところ、欠けてるところを映し出すのが得意じゃないんです。かっこつけちゃうというか。すべてを曝け出したつもりではいるけど、それを前提として書かないっていうのが足かせになってる部分ではあって。「おとなげ」の歌詞とかも、僕が絶対に書かないフレーズがめちゃくちゃありますもん。

アツキ:そうだよね(笑)。

okkaaa:「将来有望」の、〈あいつのように出来る人にはなれなくて 唯一の強み 僕にあるのか分からない〉とかもそうで。自分にはない他者性みたいなものをしっかり書く。誰かに対しての羨望を、社会構造として曲にしてるのはすごいなと思いました。

okkaaa_4.jpg

―アツキくんは、どうして自分の弱さを表現できるんでしょうね。


アツキ:まず自己肯定感が超低いんですよ。自己肯定感を、中3......もうちょいかな、高1ぐらいで使い切った。

okkaaa:使い切った!? 使い切るようなものなんですかね(笑)。

アツキ:小学生のときは人が傷つくっていう想定がゼロだったんです。相手が自分を嫌ってるわけがない。自己肯定感が最強みたいな。で、中学で吹奏楽部に入って、周りに女子部員しかいなくなったときに、そこまでの世界観とは違うものになっていったんですね。自分は完璧だ、みたいな理想が崩れて、うまく立ち振る舞えないことに気づいて。どんどん「自分って駄目だな」って責める思考になっていって、自信が持てなくなっていったんです。だから弱さまで書き切ってやろうっていうよりは、本当にこうやって思ってるんですよね。

okkaaa:とはいえ、前向きじゃないですか。

アツキ:ああ、そうですね。

okkaaa:最終的には希望を見せてくれてるし、それを書き切ることによって、自分もがんばっていこうって思える瞬間もあるし。「ありのままでいいんだよ」って訴えてくれるというか。そういう優しさみたいなものを感じるんです。

アツキ:それは人間性っていうより、自分としてはAメロで自分の素直な気持ちを書いて、サビはポップスのマナーに合わせてるっていう印象なんですよ。

okkaaa:ああ、そうなんですね。

―さっきのシンガーソングライターの自分と、プロデューサーの自分にわかれているっていう考え方に近いのかもしれないですね。


アツキ:サビは作家として書いてる感覚ですね。サビで自分のエゴを出し過ぎちゃうと、共感性が薄くなっちゃうから、ある種、人格を演じてるっていうか。

okkaaa:なるほど。

アツキ:作家として、15秒のCMで流れたときにどういう印象になるかって想定して書く。ただ、ありがちな言葉を選べば選ぶほど、引っかかりがなくなっちゃうから、そこの説得力を持たせるために、Aメロで素直になっているっていう感じなんです。「おとなげ」とかも、歌い出しは、〈大学を留年した友達は〉なんだけど、サビは、〈大人になるのは簡単ね 自分を捨てればいいもんね〉っていうキャッチフレーズっぽい普遍的なメッセージでまとめてるんです。だから、「将来有望」は、サビでは希望を書いてはいるけど、自分はそうは思えない。〈あいつのように出来る人にはなれなくて 唯一の強み 僕にあるのか分からない〉ままなんです。だけど、できることなら、誰もが将来有望って思いたいよねっていうか。歌の中だけはそう思いたいっていうところではありますね。

アツキタケトモの曲は闘い続けている
atsuki_okkaaa_1.jpg

―なるほど。okkaaaくん、他に気になった曲はありますか?


okkaaa:「悪者」の話は聞きたいです。「おとなげ」から「※」「悪者」って、社会に対するファイティングポーズをとっていくような流れになってるなと思ってて。自分は社会の悪い面とかを、世界の儚さみたいなものに捉えてしまいがちなんですよ。それに対して、わざわざファイティングポーズをとらないし、「世界ってそういうものだよね」っていうような雰囲気を持っているきらいがあって。

アツキ:たしかにそうだね。

okkaaa:それこそ「悪者」のなかのメディアとマスコミの描き方に関しても、タケトモさんはしっかり正義と悪っていうものを断ち切りながら、気の利いた皮肉を提示してきてくれてるので。そこは僕にない部分なんです。タケトモさんは、生きていくなかで、そこをどういうふうに捉えてるのかな?って気になってて......。

―要するに、okkaaaくんは社会に対してどこか諦念を抱いている部分があるけれど、アツキくんはまだあきらめきれない部分があるんじゃないか、ということですね。


アツキ:うん、たしかに僕はあきらめてないかもしれないです。「カモフラージュ」でも、〈結局、他人なんて どこまでいっても理解できない それでも理解しようとすることで見えることがある〉って歌ってますけど。どこかで同じ人間なんだから、わかり合えるんじゃないかみたいな希望を持ってるんです。自分の正解とか、「こうなるべきだよね」っていうベストアンサーを押し付けすぎることで相手を傷つけることもあるし、日常生活では、諦念があるからこそ相手を尊重できる。むしろそれがないと社会はまわらないじゃんっていうところに気づきつつもあるけど。この「悪者」とか「ヒーローショー」とかは、ソングライターとしてはあきらめたくないっていう気持ちなんだと思いますね。


―今回は「幸せとは何か?」を投げかける作品だからこそ、同時にそこには、いかに社会と対峙するかっていう視点も必要不可欠だったのかもしれないですね。


okkaaa:うん、だからこの流れがすごいですよね。最後の「幸せですか?」で〈幸せですか?〉をリフレインする終わり方とか、めちゃくちゃポストモダン的というか。社会を意識してるっていうことが否応なく浮かび上がってくる。

―さっきの話で言うと、もともと「幸せですか」っていうテーマは、アツキくんのモラトリアム的な疑問から発生したものだったと思うんですね。でも、最終的には、いまokkaaaくんが受け取ったように、社会に対して「幸せとは何か?」っていう普遍的な問いを投げかけるものになっていく。それは、どういう経緯だったんですか?


アツキ:今回のアルバムの制作が始まって、「Cloudy」「しあわせのうた」「おとなげ」「ヒーローショー」「将来有望」っていうような順番で曲ができていったんですね。その5曲ぐらいが出揃ってきた段階で、「将来有望」でも、〈幸せって何だろう?〉って言ってるし、「ヒーローショー」だったら、〈僕だけが不幸な気がしてた〉って言ってて。幸せか不幸か、みたいなところがキーワードになってると思ったときに、もともと作っていた「幸せですか」っていう曲の存在を思い出したんです。最初からそこに標準を絞っていたというよりは、いくつかのパーツが揃ってきたときに、「幸せですか」っていう曲がアルバムのキーになるな、みたいな感じで見えてきて。最後のリフレインも、最初は3、4回しか言ってなかったんですよ。でもアルバムの最後に持ってくるって決めてから、いまokkaaaくんが言ってくれたような印象を持たせるために延長することにして。

okkaaa:なるほど、天才だな。

アツキ:その時点では、この言葉をちゃんと世の中に投げかけようっていう意識を強くもってディレクションしてましたね。

okkaaa:タケトモさんの曲は闘い続けてる気がします。僕はそこから離れてしまってるから。このテーマ性が本当にうらやましいです。それはこのアルバム全体を通して、すごく思うことですね。

アツキ:僕は僕で、「社会ってやっぱりこういうものだよね」って諦念的な考え方をしてるokkaaaくんのほうに惹かれてるんですけどね。

atsuki_2.jpg

―最初のほうにも言いましたけど、本当に真逆なところが多いふたりですよね。


アツキ:うん、お互い違うからこそのリスペクトがあるんだと思います。

取材・文:秦理絵
撮影:林直幸


PROFILE

at_a_1500.jpg
アツキタケトモ
全楽曲の作詞・作曲・編曲・全演奏・録音を一人で行う、新鋭の音楽家。16歳から楽曲制作を始め、今後発表されるであろう未発楽曲はすでに300曲以上。現代人の内面を鋭く抉りだした独特の詞世界、90年代を彷彿とさせるキャッチーなメロディラインを、先鋭的なサウンドプロダクションにのせ歌う。その楽曲からは歌謡曲に由来する歌心も感じる、新しさと普遍的な良さを兼ね備えたポップスで、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスを中心に注目を集める。Bon Iver、Dirty Projectors、James Blakeなど海外ミュージシャンを敬愛する音楽愛好家でもある。

okkaaa_a_1500.jpg
okkaaa
1999年⽣まれの21歳。 アーティスト、文筆家。ミュージシャン/ライター/フォトグラファーという様々な側⾯を持つ今期待の新世代DIYアーティスト。心地よく響くウィスパー・ボイスと歌詞が特徴で、ヒップ・ホップ、R&B、ゴスペルなど様々なジャンルの要素を感じることができる。楽曲制作もさることながら、ミュージック・ビデオの制作、楽曲のジャケットやwebサイトなども全てセルフ・プロデュースしている。 2019年2⽉には曲「シティーシティー」がSpotifyのバイラル・チャートにランクインし、2019年7⽉にはSpotifyの新人発掘プロジェクト「Early Noise」のカバーを飾る。Enter Tech Lab主催『CHACCA CHALLEGE』で最優秀賞を獲得。シングル「積乱雲」は2019年のベスト・ミュージックとして数多くのキュレーターからピックアップされ、グラミー賞にノミネートされたプロデューサー/ DJのstarRoなど、日本の最もホットなプロデューサーからの支持を得ている。2020年にはVirgin Music Label and Artist Servicesから、シングル「CODE」および5曲入りEP『ID20』をリリース、作品の幅を広げるとともに新たなリスナー層をつかんできている。9月にはシングル「煌めき」をリリース。流動的でボーダーレスな芸術性を持つokkaaaは、インディペンデントな姿勢を保ちつつ、現⾏シーンを横断する今期待のマルチ・クリエイターである。



RELEASE INFORMATION

taketomo_AL_jk_1200_20210701.jpg
アツキタケトモ「幸せですか」
2021年7月21日(水)
Format: Digital
Label:FRIENDSHIP.

Track:
1. 「はじめに」
2. カモフラージュ
3. しあわせのうた
4. マイライフ
5. おとなげ
6. 「※」
7. 悪者
8. ヒーローショー
9. Cloudy (Full Length)
10. 将来有望
11. 「おわりに」
12. 幸せですか

試聴はこちら


LINK
@atsukitaketomo
@okkaaa_1109

気になるタグをCHECK!