SENSA

2021.06.02

踊ってばかりの国「moana」──頭の中だけでも自由でいるための音楽、2021年版

踊ってばかりの国「moana」──頭の中だけでも自由でいるための音楽、2021年版

 今から16年ほど前に、「頭ん中なら自由だ」という歌いだしで、「Queen」という曲を書いたのは、アナログフィッシュの下岡晃である。頭の中だけなら何を考えたっていい、その自由さだけは守らなければならない、と、数十年の間、一貫して言い続けているし、そういう表現を生み続けているのが、演出家・劇作家の松尾スズキである。ジョニー・ロットン→ジョン・ライドンや、デビューの頃のビースティ・ボーイズや、どんと(ローザ・ルクセンブルグ時代もボ・ガンボス時代も含む)や、坂本慎太郎(ゆらゆら帝国時代もソロになってからも含む)を、自分が大好きなのは、そんなような、社会の常識や規範やルールに縛られない自由さ──「アナーキーさ」と言った方が通りがいいかもしれないが──を、彼らの音楽が持っているからだと思う。社会に生きる人間としては、そのあたりを踏み越えてしまうとアウトだが、音楽の中ならありだ。というか、音楽の中でぐらい自由じゃなきゃ、やってられない。

 音楽に限らず、表現というもの全般において、そのような自由が、どんどん許されなくなっていく。道徳的・倫理的に正しくないものは、たとえそれが頭の中で完結するものであっても、「考えること自体が許せない」みたいな按配で、叩き放題叩かれるのがあたりまえになっている。そんな今の世の中において、踊ってばかりの国の音楽が孕む自由さが、とても貴重に、救いのように響く時が、僕にはある。
 前作から1年半のインターバルでリリースされたニュー・アルバム『moana』。下津光史の2作目のソロ・アルバム『Transient world』の直後だったり、コロナ禍での(つまりライブ活動を封じられた状況での)制作だったりと、いろいろあった末に完成したのだろうし、そのせいかどうかわからないが、とても詩的で、端正な楽曲集になっているように感じる。倫理的にむちゃくちゃなことを歌っていたりとか、人でなしな感情を曲が宿していたりとかするような作品ではない。もっと、(変な言い方だが)ちゃんとまっとうに美しい、どの曲も。
 であるにもかかわらず、自由でアナーキーな空気感は変わらない。音の端正さが増した分、逆にいっそう強まっているかもしれない......いや、自分がそういう音楽に飢えているせいで、そこばっかり嗅ぎ取って聴いてしまっている可能性もあるか。でも、どうしようもなく魅了される。
〈色とりどり夢に飛び込み 野生の味のターキー呑んで 頭の中で鳴る雷 街も浮かれているわ 聞き訳の無い雨が降ったり〉
 先にシングルとして発表され、2021年バージョンにアップデートされて本作の10曲目に収められた「Orion(2021)」のこの一節。何のことを歌っているのでしょう、と問われても、一切説明できないが、でも、強烈に、わかる。

文:兵庫慎司




RELEASE INFORMATION

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踊ってばかりの国『moana』
2021年6月2日(水)

Track:
01. Hey human
02. Notorious
03. Lemuria
04. Twilight
05. Mantra song
06. メーデー
07. Hello good-bye
08. 風
09. 凪を待つ
10. Orion(2021)
11. I was dead
12. ひまわりの種(2021)

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