SENSA

2021.03.24

下津光史「Transient world」──途方に暮れた世界を慈しむかのような、穏やかで優しい名曲集

下津光史「Transient world」──途方に暮れた世界を慈しむかのような、穏やかで優しい名曲集

踊ってばかりの国のフロントマン・下津光史による2枚目のソロアルバム。2018年に発表した『下津光史歌集』が弾き語り作品だったのに対し、本作ではベースやドラムを含むほぼすべての楽器を自ら演奏していて、実質的なファーストアルバムと言ってもいいのでは。フォーク、カントリー、ブルースを基調に、アコースティックなサウンドで統一された作風は決して派手ではないものの、歌うたいとしての下津の魅力が詰まったタイムレスな逸品であり、多彩なアプローチで重ねられたギターや、繊細なアンビエンスも聴きどころだ。

〈痩せてく世界よ 弱きに愛を〉〈群青の空と朱色の朝日を いつまでも僕は救えないのか?〉と歌うタイトル曲「Transient world」は、コロナ禍によって途方に暮れている世界を慈しむかのような、穏やかで優しい名曲。下津の歌詞からはかねてよりヒッピー的な自然崇拝が感じられるが、行き過ぎたデジタル化をはじめ、人間中心的な価値観に対する見直しを迫られた2020年を経て、彼の言葉にはいま一度耳を傾ける必要があるように思う。

それはアルバムを締め括る「bird song」にしても同様で、鳥たちが自由に飛び回る美しい地球を、未来の子どもたちに手渡していくことを願うこの曲は、踊ってばかりの国の「サリンジャー」ともリンクして、現在の下津のメッセージを色濃く伝えている。

アルバムの核を担っているのは間違いなくこの2曲だが、個人的にもう一曲グッと来たのが中盤に収められている「ベンガルタイガー」。そもそも踊ってばかりの国は、はっぴいえんど以降の日本のポップスと、00年代のUSインディにおけるサイケの流れを組み合わせることで、2010年代におけるYogee New Wavesやnever young beachの登場を用意したバンドである。また、本作に拙いフルートで参加し、人肌の温度感を醸し出しているbetcover!!のヤナセジロウのように、さらに下の世代にも影響を与えているはずだ。

その影響力は、例えばceroのようなバンドと比較してもいいように思う。しかし、横の広がりをもって、現在ではコレクティブ化しているceroに対し、メンバーチェンジを繰り返しながら、愚直にロックバンドであり続けた踊ってばかりの国は、良くも悪くも孤高の存在であり続けてきた(少なくとも、10周年を機に対バン形式の自主企画を始めるまでは)。

そんな中にあって、下津が近い世代でシンパシーを寄せる数少ない存在が小山田壮平だ。彼もまた後続に大きな影響を与えつつ、独自のキャリアを築いてきた人物だが、この2人は歌うたいとして信頼を寄せ合う盟友だと言える。そして、小山田がandymori時代に残したのが、檻の中からただきれいな空が見たいと願う「ベンガルトラとウィスキー」で、鳥を見て、〈オイラも飛んでみたいわ〉とこぼす「ベンガルタイガー」はその続編のよう。

どちらの曲も彼らの思想形成に大きな影響を与えているであろうインド(ベンガルトラの生息地)への傾倒が背景にあるわけだが、こうして下津と小山田のリンクが楽曲として明示されたことを、2人のファンとして嬉しく思う。小山田は昨年初めてのソロアルバム『THE TRAVELLING LIFE』を発表。ここから始まる彼らの新たなタームに期待したい。

文:金子厚武




RELEASE INFORMATION

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下津光史「Transient world」
digital:2021年3月24日 (水) / LP:2021年6月2日(水)
Format: digital / LP
Label: FIVELATER

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