SENSA

2025.08.21

「何かとの出会いが自分にとって大きな意味のある出来事だと捉えられるか」──SEVENTEEN AGAiNが歌う、自らの目で見つけ出す私のための小さな光

「何かとの出会いが自分にとって大きな意味のある出来事だと捉えられるか」──SEVENTEEN AGAiNが歌う、自らの目で見つけ出す私のための小さな光

SEVENTEEN AGAiNから、『世界は君たちを変えることは出来ない』以来、約4年ぶりとなるアルバム『光は眩しいと見えない』が届けられた。本作の背骨になっているのは、自らの意志で他でもない己の人生を開拓せんとする行動力である。ありふれた言葉を日記へ大切に書き留めたって良いし、仮想現実に没頭することだって悪くない。重要なのは、自分の手で何かとの出会いを手繰り寄せること。ドラマにさえならない恋を運命と名付けるみたいに、この初めましてを僕だけのものだと信じられること。人に誇れる能力なんて持ち合わせていない私が過ごす、簡単に割り切れないことばかりで、どっちつかずになることばかりの365日。SEVENTEEN AGAiNは、それを普通と呼ぶ。



今のSEVENTEEN AGAiNにとってのファーストアルバムを作れた

─7月9日(水)に『光は眩しいと見えない』がリリースされました。「STAY GOLD」「新繁華街」のようなミドルテンポの楽曲の柔らかさやリバーブ感の強いギター、「光は眩しいと見えない」を筆頭とする「誰かひとりのための言葉、音楽になってほしい」という思いが込められたナンバーが、SEVENTEEN AGAiNの暖かさと素朴さを伝えてくれる作品だと受け止めています。改めて本作を振り返ってみて、ヤブさんはどのような一枚になったと感じていらっしゃいますか。


ヤブ:アルバムを作る時、毎回「ファーストアルバムを作ろう」って気持ちで制作に臨むんですけど、今回のアルバムはその思いが特に強かった気がしています。開世くん(Dr)が加入して一発目の音源というのもありましたし、今のSEVENTEEN AGAiNにとってのファーストアルバムを作れた手応えがありますね。

─元来SEVENTEEN AGAiNはピュアな情動や煌めきをパッケージングしてきたバンドだと思うのですが、特に今作がファーストアルバムらしい手触りになったのはなぜなのでしょうか。


ヤブ:ライブでちゃんとやれる曲だけをアルバムに入れていったことが大きかったと思っていて。アルバムの構成を考えた上で、「こういうタイプの曲もあったら良いよね」と追加した曲がないというか。ライブでやっている絵が浮かぶ曲だけが生き残っていったので、ミニマムだし無駄もない。悪く言えば淡白だとも受け取られるかもしれないんですけど、余計なことをしなかったからこそ、「このパートは無くて良かったな」と思う必要もない一枚になりました。

─ライブを強く意識しながらアルバムの制作に臨んだ結果、作品全体のバランスや構成を考えるよりも、ただただ純粋に良い曲を詰め込んでいくことになっていったと。


ヤブ:「セットリストに入らなさそうだな」と思った楽曲は制作段階で削ぎ落とすか、曲の構成を大きく変更していましたね。というのも、音源としては前作の『世界は君たちを変えることは出来ない』で完成した感覚があったんです。その上で、3、40分しかないライブの中に新曲を組み込んでいくとなると、これまでの曲と相乗効果を生みながら遜色なく演奏できる曲を作る必要があるじゃないですか。そういう意識は根底にあったと思います。

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何かを自分で見つけ出したと思えることが一番大事なんじゃないか

─アルバムの開幕を飾る「どんな言葉もただ通り過ぎてゆく」は、「2025年世界で最も普通なバンド」を名乗っていたり、本作に「世界で最も普通なアルバム」とコメントを寄せているSEVENTEEN AGAiNの人生観が投影された楽曲だと感じていて。〈なにより普通になりたい〉というリリックをはじめ、幾度も登場する「普通」というワードにヤブさんはどのような思いを込めているのでしょう。


ヤブ:幼少期の頃から夢や将来の目標を聞かれた時は、いつも「普通がいい」と答えるような子供だったんです。自分が特別な環境に身を置いていたから逆説的にそう言っていた訳でもないんですが、今思えば何か自分を説明しなければいけない状況の時にその時から一貫した受け答えをしていた気もしていて。バンドをやっていく中でも、SEVENTEEN AGAiNは特筆する特徴のないバンドだと思うこともあるんですね。奇をてらったことをやっているわけでもなくて、他のバンドには自分達より優れているポイントがそれぞれたくさんありますし。だから、SEVENTEEN AGAiNをどんなバンドか説明する時に、普通という言葉が一番しっくりくるのかなと思ったんですよ。

─なるほど。一方でアルバムのクロージングを担う「光は眩しいと見えない」では、自分のための言葉や歌を求めている姿が描かれていて。オンリーワンの何かを欲しがることは「普通でありたい」という願いと相反するように感じたんですけど、ヤブさんの中で2つの思いはぶつかり合わない?


ヤブ:ほとんどの人が一面的に切り取れば多数派だし、どこか一面的には少数派だったりするんじゃないかという気がしていて、それを一緒くたに説明することって難しいじゃないですか。だとすると、相反する価値観が混沌とした状態の方がむしろ自然体なのかなと。

─自分のための何かを求める思いと、普通でありたいと叫ぶことは確かに表裏一体だけれども、そういう相反する側面をひっくるめて内在していること自体がノーマルである。


ヤブ:そうですね。人の性格や気持ちは天気にも似たようなものだと思うんです。どんな状況でも「俺はこういう人間だ」と一貫して言い切り続けられることの方が、少し不思議な気もしますし。

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─相反する思いを抱えていること自体がニュートラルだと考えていらっしゃることを踏まえてお聞きしたいんですが、「光は眩しいと見えない」では自分だけの光を求める様子が歌われているじゃないですか。こうした普通であろうとする生き方と異なるメッセージは、どこから生まれてきたのでしょう。


ヤブ:「光は眩しいと見えない」の歌詞は、普遍的な感情を書いた歌詞だと感じているんですよね。例えば、誰もが知っている流行りの音楽を聴いて「俺のための音楽だ」と感じることだってあるし、どこのコンビニにも売っているお菓子を食べて「俺のためのお菓子だ」と感動することだってあるはずで。出会ったもの自体が特別かどうかよりも、その何かを自分で見つけ出したと思えることが、その人にとって重要に思えるか否かを判断する基準になるんだと考えているんです。「自分でこれを見つけたんだ」という手応えが、その出会いをかけがえのないものにするかどうかを決める気がするので。人生をなるべく楽しく生きるためにも、「自分で何かを見つけられた」と思えたら良いなと。

─「自分で自分の道を決めていかなきゃいけない」という思いは、「光は眩しいと見えない」に限らず本作全体を貫くものだと感じているんですけれど、そのような考えに至ることができた理由は何だったんですか。


ヤブ:私自身、自分が必要としていること以外はなるべくやりたくない性分なんだと思います。幼い頃の記憶を辿っても、幼稚園の頃から「意見を合わせてみんなと仲良くなろう」と思ったこともないし、小学校の頃も休み時間に毎日1人で黙々とバスケの練習をしていて、先生から虐められているんじゃないかと心配されるような子供でした。生まれ持って染みついている感覚ですらあるので、理由があれば自分も知りたいくらいです......。

─生来の性質として自分のやりたいことにこだわっていくタイプだったとのことですが、今作では「自分の道を決めることが重要だ」「自分の求めるものを自分で見つけられたら、人生は面白いんじゃないか」という一歩進んだ結論が綴られている気がして。抱き続けてきた考えを咀嚼するキッカケがあったからこそ、改めて生き方を表明できたのではと考えているんですけど。


ヤブ:そういう意味合いを込めている側面もあると思うんですが、そこまで明確な強い意図を持って歌詞を書いた訳ではない気もします。とにかく自分のやりたいことをやっていくことが、楽しく生きていくコツなんだろうなって。

─まだ完全な結論ではない?


ヤブ:自分に関して言えば、現状のやり方が今の自分にとって最高なんじゃないかという感触はありますね。バンドを趣味としてではなく、フルタイムで仕事しながら全力でやる。それを成立させるためには、バンドで飯を食っている人以上に知識量や経験を蓄えなくては太刀打ち出来ないだろうと学生時代から考えていたので、誰よりも音楽を聴いて色んなライブに行こうと思っていました。そういう生活を続けることが目標だったから、今のところその目標通りなんです。でも自分のやり方がベストだったかどうかは音楽を辞める時か、死ぬ直前にしか出ない気もするので、その時まで音楽をやり続けて結論を出そうと思ってます。

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何も持っていない人が何か一発かますことに対して、理想や憧れを抱いている

─〈やるかやらないか自分次第〉と歌う「想像力ばかり育ちすぎてどこにも行けなくなった」も、ここまでお話いただいた自己決定や好きなものを追求していく意思が宿った楽曲ですが、「光は眩しいと見えない」とニュアンスは異なりますよね。今作のジャケットに広大な海に見向きもせずTVに釘付けになるヤブさんの背中が映し出されているように、仮想現実や空想に捕まった様子を描くことで、逆説的にリアルで行動することの重要性が立ち現れる構成になっている。この楽曲はどのように生まれたんですか。


ヤブ:おっしゃっていただいたように、例えばゲームやSNSみたいな仮想現実の方が現実よりも面白くなってきている感覚はあるんですけれど、まだギリギリ現実の方が楽しいんじゃないかなとも思うんです。でも、現実を楽しむためには仮想現実よりもエネルギーが必要だし、現実を楽しくすることの難易度は相対的に年々上がっている気もする。だから、現実を楽しくするにはとにかくやってみるしかないよな、みたいな曲です。



─ヤブさんの中では現実以上に仮想現実が面白くなっていることに危機感や恐怖感があったんですかね。あくまでも現実を楽しみたいというか。


ヤブ:そういう思いや現代を風刺して批判する意図はなくて、ゲームが面白すぎた結果どこにも行けなくなってしまった、という現象を例えとして引き合いに出している感じですかね。この曲に関して言えば、自分の感情というか結論みたいなものは〈やるかやらないか自分次第 それは今も同じ 何もいらないね〉の部分に集約されている気がします。

─この楽曲然り、「世界は君たちを変えることは出来ない」然り、SEVENTEEN AGAiNの楽曲は、不可能や何かの欠如を前提とした上で、それでも現実を楽しむことを歌ったり、分かり合うことを歌ったりしている印象があって。現実の無常さを知っているからこそ、もう一歩だけ前に進むエネルギーを備えていると感じているんですが、そうした構成になっているのはなぜだと思います?


ヤブ:言われるまで自覚していなかったんですけど、確かにそうかもしれません。「Nobody Knows My Song」もそうですし、「ダイヴ」も言われてみるとそういう節がある気がしますし。きっと自分が人より何か秀でているとか、何かを多く所持しているとか、そういう感覚がもともとないからかもしれないですね。「自分は何者でもない」みたいな自己自認が昔から染み付いてるので、その感覚がブレていないんだと思います。

─でも、ヤブさんは何者でもないことを決してネガティブに捉えているわけじゃないですよね。


ヤブ:そうですね。何もないところから何かを生み出したり、何も持っていない人が何か一発かますことの方が面白いと感じているのかなと。

─番狂わせやジャイアントキリングに対して魅力を感じるというのは、もともとバンドで食べていこうと思っていなかったというお話とも近しい気がして。プロにならなくても、プロと遜色ないほどに1つのものを追求し、最前線にいる人たちと戦っていく。それはまさしくSEVENTEEN AGAiNが『リプレイスメンツ』をはじめとする活動で提示しているスタイルだと感じたんですけれど、こうした感覚は何に由来するものなんでしょう。


ヤブ:どっから生まれた感覚なんだろう......自分でもあまり分からないんですよ。でも、幼少期から芸能人とか、サッカーや野球のプロみたいなものに対する憧れは一切なかったんですよね。

─それは音楽に対しても?


ヤブ:音楽に関しても元々は友達に誘われたから、なんとなく始めた人間だったんです。でも始めた結果、楽しくてずっと続けているというか。ただ、バンドを始めてからHi-STANDARDを観て、「めちゃくちゃ普通っぽい人たちがなんか凄いことをやっている」みたいな親近感を強く抱いた気がします。自分の中のパンクって普通っぽい、もしくは秀でた何かを持っていない、みたいな感覚と近いものがあると考えていて。そういう人が何かをかます手段の一つがパンクでもあると思うから、ずっとパンクに惹かれているんだと思います。

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─番狂わせに惹かれていたからこそ、パンクに魅力を感じるようになっていった。では、そもそもそうしたカウンター精神が芽生えたキッカケは何だったんですか。


ヤブ:なんとなく原体験的な思い出なんですが、小学校2年生の時、算数の授業中に先生が出した問題に対して頭が良いと思われていたAくんが手を上げて答えたんですね。でも、僕はその答えは違うんじゃないかと思ったから、「答えは違うと思います。答えは○○だと思います」って言ったんです。そしたら、先生が「Aとヤブの答えどちらが正解だと思いますか?」と多数決を取り始めて、Aくんの答えに自分以外のクラス全員が手を挙げたんです。実際の答えは僕の方が正解だったんですけど、その後A君が答えを間違えたことで泣き始めてしまって、クラス全員から何故か「ヤブが謝るべきだ」みたいなことを言われたんですよね。その時に群集心理というものを初めて学んだというか、ある種のトラウマが残っているのかもしれないなと。

─不利な状況をひっくり返した快感と、民意の恐ろしさを実感したというか?


ヤブ:そうですね。この出来事からも分かるかもしれないんですけど、小学校の時はいわゆるスクールカーストで言うと下層だったんだと思うんです。でも中学、高校と進学するにつれて、気が付いたらそういうカースト的なものの上層にいた気もするんですよ。だから、どちらが良い悪いとかもないし、どちらに属している気もないし、両方の立場が分かる気もする。つまり、どっちでも良いよなって思うんですよね。

─それは相反する性質を内在するってことですし、ヤブさんが言い続けている普通と同義だなと。


ヤブ:最終的に謎な話ばかりしてしまいましたが、無理やり結論を出すならそういうことになるんだと思います。

取材・文:横堀つばさ
写真提供:SEVENTEEN AGAiN

RELEASE INFORMATION

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SEVENTEEN AGAiN「光は眩しいと⾒えない」
2025年7月9日(水)
Format:CD,Digital
品番:ODCP-031/CD価格:¥2,727+税
Label:only in dreams

Track:
1.どんな⾔葉もただ通り過ぎてゆく
2.あらゆる祈りを使って
3.STAY GOLD
4.⾏きたくないところばかりだよな
5.想像⼒ばかり育ちすぎてどこにも⾏けなくなった
6.あの頃
7.FUCK FOREVER III
8.つづき
9.新繁華街
10.光は眩しいと⾒えない

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LIVE INFORMATION

真夏のリプレイスメンツ2025
新宿marble & MARZ
2025年9月14日(日)
チケット予約不要
Name Your Price(2000円以上自由価格 投銭制)
OPEN 23:00 / START 23:30 / END 4:30

SEVENTEEN AGAiN
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