SENSA

2022.10.06

切迫感に満ちた時代を踊り続ける強い意志――踊ってばかりの国『Paradise review』インタビュー【後編】

切迫感に満ちた時代を踊り続ける強い意志――踊ってばかりの国『Paradise review』インタビュー【後編】

踊ってばかりの国が新作EP『Paradise review』を発表した。本作はバンドが普段からリハーサルで使っている吉祥寺・GOK SOUNDで、エンジニアの近藤祥昭によるオープンリールを使ったアナログレコーディングが行われ、練り込まれたバンドのアンサンブルを豊かな音質で記録。一方、歌詞ではパンデミックやウクライナでの戦争によって混沌を極める世界を見つめながら、それをあくまで日常の視点で切り取っていて、ドキュメント的な側面も色濃い。タイトルトラックの〈Paradise review 手短に言う 俺達に明日はない〉という痺れるフレーズには、そんな時代の切迫感とともに、それでも日々を踊り続ける強い意志が込められていると言えよう。

メンバーチェンジを経て、5人編成になってからは4年で4枚のアルバムを発表。そのなかでメンバーそれぞれが自らのプレイスタイルを模索し、変化を繰り返していくことによって、現在のバンドは間違いなく充実期を迎えている。そこで今回はレコーディングの現場でもあるGOK SOUNDで、メンバー全員でのインタビューを実施。前編では新作の制作に至るこれまでの歩みを振り返り、後編では『Paradise review』の収録曲をそれぞれの視点から紐解いてもらった。




「こんなに自由にやっていいんや」って、メンバー全員が驚いた

―ここからは曲ごとに聞いていこうと思うんですけど、まず『Paradise review』には入っていない「ニーチェ」について聞かせてください。やっぱり間奏以降の展開がすごく印象的なんですけど、どのように作っていったのでしょうか?


下津光史(Vo/Gt):たしか、タニがあのベースブレイクを......。

谷山竜志(Ba):あの音符の分け方をマルが言い出して。

下津:で、最初はベース1コードだったけど、結局2コードにしたのはめっちゃ覚えてる。

―ドラムに関しては?


坂本タイキ(Dr):最初はダブっぽい感じのベースのフレーズに合わせてたんだけど、ジャムしてるうちにちょっとずつ変わっていって、もうちょっと16分ノリの、細かめのグルーヴ感でみんなで上がっていくっていうか、熱いんだけど冷めてるみたいなイメージでしたね。

―最近の曲だとそれこそTHE★米騒動のときのような、タイトで手数の多いフレーズもときどき出てくるようになって、自由度が増してるように感じます。


坂本:テクい音楽は昔から好きなんですけど、でもメタル的な上手さというよりは、ジャズっぽいフィーリングの上手さというか、ちょっと意表を突くようなプレイを意識しつつ、歌の邪魔にならない形でどういうドラムをつけるかっていうのは、加入した頃よりも自由にやってる感じがします。

―丸山くんも仁くんもジャズのバックグラウンドがあると思うし、インプロとまでは言わないまでも、ポップな歌ものの中に即興的な要素を入れてる部分もありそうですね。


大久保仁(Gt):そういう感覚も大切にしたいと思ってます。

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―「ニーチェ」の最後で単音フレーズを繰り返してるのは仁くんですよね?あんなにがっつり、エモーショナルに弾くのも珍しい気がする。


大久保:......盛り上がっちゃったんでしょうね(笑)。

下津:ギャル男のめっちゃいい後輩みたい(笑)。

谷山:テキーラめっちゃ運んできてくれるやつ(笑)。

―あの後半の展開は盛り上がっちゃいますよね、歌も演奏も。


下津:あそこまでオクターブ上で歌わないっすよ。だから、あんなに抑揚つけてくれて、ホントにすごいと思います。弾き語っちゃったらただのバラードですからね。最初はコードももっとシンプルな、CFCFみたいな曲やったんですけど、丸ちゃんのアイデアからどんどん変わっていって。「こんなに自由にやっていいんや」って、メンバー全員が驚いたというか、今でもライブでやるたびに驚きがあるので、あの曲をやるのは楽しいです。

新宿のネオンの虹色みたいな、人間がパラダイスと呼んでるそれを歌ってやろうと

―『Paradise review』の中で最初にできたのはどの曲ですか?


谷山:「ニーチェ」の次にできたのが「Ceremony」ですね。

―その頃には下津くんが言ってくれた"日常"みたいな作品のイメージはすでにあったわけですか?


下津:太陽で見えるフレアの虹色よりも、新宿のネオンの虹色みたいな、人間がパラダイスと呼んでるそれを歌ってやろうと思って書いたっすね。だからこそ、一年で家にいるより長くいるかもしれない、この吉祥寺の埃臭い地下で録りたかったし、そういう感覚をコンパイルした感じです。

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―1曲目の「your song」はベースラインが引っ張るダンサブルなナンバーで、前作の「Mantra song」といい、このタイプの曲も今の踊っての十八番になってきましたね。


谷山:もともともうちょっとコードが多かったんですけど、僕があのリフを思いついて、これを押していこうってなってから、結構コードが減って。最初は遊びで弾いてたのを、「それで行こうよ」みたいな感じだったんですけど。

下津:ちょっとトライバル感あっていいなって。

坂本:「your song」のAメロとかは好きな感じのビートで、リフっぽい部分は面白いフレーズをつけつつ、でもサビはしっかり大きめのノリが出るように、歌がどっしりと乗っかれるようなビートを叩きたいなとか、セクションごとに考えて作りました。

下津:今回は7曲っていう曲数だったこともあって、曲を何回も練りこめて、一曲の中にいろんな表情のリズムが出てくるアルバムだなって。「海が鳴ってる」とかは一個のリズムからどんどん派生していって、そういう遊び方も楽しかったっすね。

―ギターに関しては、最近の丸山くんはライブで弾くギターが変わりましたよね?


下津:今回丸ちゃんは全部エレガットです。

―なぜエレガットに?


丸山康太(Gt):求めてる音がそこだったので。

―自分の求めてる音?曲が求めてる音?


丸山:自分の中っすね。

―かなり大きな変化ですよね。


谷山:一時期めちゃくちゃ機材変わったもんね。「また買ったの?」みたいな時期があって。

下津:「あれもう売った」「マジで?」みたいな。3パターンくらい変わってる。

―丸山くんが求めてた音はどんな音だったわけですか?


丸山:指で弾きたいと思って。普通のエレキはネックが細くて指が入らないから。

下津:自宅で弾くのはクラシックギターが多いんじゃない?

丸山:そうですね。家で弾いてる感じで、でもそれをバンドで、すげえデカい音で弾いてたら面白いかなって。

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―アプローチが上手くハマった曲を具体的に挙げてもらうとどうですか?


丸山:「海が鳴ってる」のバッキングが一番わかりやすくて、3個の和音のどの音を一番目立たせるか......難しいんだけど、そういうことに興味があるというか。

―そういう繊細なアプローチをデカい音を鳴らすバンドの中でトライするというある種の矛盾が面白いし、その分やりがいがある。


丸山:そうですね。他にないかなと思って。

下津:スリリングですよね。それでファズ踏むと、「キタキタ!」ってなります。バンドの中でそんな音出してる日本人他にいないし、全員そういう人になってるんじゃないかと思います。

既存のロックの響きみたいなものを回避したかった

―それぞれが他の誰もやってないことをやっている人の集まりになっていると。あとわかりやすく新しい部分で言うと、「知る由もない」のゲートリヴァーブっぽいスネアの音は新鮮でした。


下津:裏面にリヴァーブっすね。スナッピーの音って気持ちいい。

谷山:ドラムのサウンドは近藤さんがいろいろアイデアを出してくれて。

坂本:「知る由もない」はここで借りたスネアを使わせてもらって、バスッとドスの効いた感じ。バックビートで、「後ろで押さえてます」みたいな、縁の下の力持ちじゃないけど、そういうイメージのサウンドです。近藤さんとは日頃からいろいろ話してるので、音作りも相談しやすいっていうのはあります。

下津:近藤さんのダブ処理とタイキのスタイルの相性が良くて、歴代でもこんなダブし続けた曲はなかったなって。もちろん、タイキとディスカッションもしてるんやろうけど、途中でも話したように、近藤さんはセッティングの段階からサウンドのイメージが見えてて......ドラムの音はホンマにヤバい。

谷山:近藤さん、もともとドラムやってたんだよね。

下津:そうなんや......近藤さんについてのインタビューみたいになってる(笑)。

―バンドのことをちゃんと理解してくれてるエンジニアさんの存在はデカいですからね。


下津:楽しんでやってくれてるのも伝わるっすね。

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―「知る由もない」はギターの音像も印象的ですが、どんなことを意識していますか?


大久保:空間系の音を際立たせたいけど、原音はちゃんと鳴っててほしくて、そのバランスの理想形みたいなのは自分の中でありますね。

―一時期の踊ってばかりの国はよく"シューゲイザー"とも呼ばれていたと思うんですけど、最近は歪みの分量がちょっと減って、アンビエントっぽいニュアンスが強いというか。


大久保:アンビエントは好きですね。

下津:仁はヒーリングやと思います。音的にも人間的にも癒し担当で......すいません、ちょっと黙っときます(笑)。

―いや、でもわかる。音圧で押す感じでもないし。


大久保:音圧に関しては、マルがエレガットになったから、そこまで歪ませられないっていうのがあって。できるだけ距離感が出ないように、でもインパクトはある、その絶妙なところを目指しました。

下津:それは俺もありますね。でも歪ませずとも行けちゃうんだなって。歪ませることでオルタナ臭とかシューゲイザー臭がしちゃうというか、既存のロックの響きみたいなものを回避したかったっていうのもありますね。

―機材とかセッティングの時点でどうしても"あれっぽい"みたいになっちゃうけど、エレガットを使って、なおかつバンドでデカい音を鳴らすっていうのは、そこを回避する手段にもなっていると。


丸山:単純にもともと音が多いので、倍音だらけになっちゃうと......それにはそれのよさもあって、ライブだとそういう部分もあるけど、日常的に聴くってなると、疲れない音像の方がいいなって。

下津:家でロイヤル・トラックス聴けないっすよ。クラブで聴いたらぶち上がるけど、家であれを日常的に聴いてたら狂ってますよね。

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「こんな絶望でも音楽には踊らされちゃうんだ」

―既存のロックの響きを回避しつつ、"日常"という作品性にも寄り添う音作りにもなってるわけですね。作品のテーマ性という意味では、タイトルにもなっている「Paradise review」という言葉はどんなニュアンスで使っているのでしょうか?


下津:ウクライナで戦争が起こったときに、GEZANの十三月が発起人になって、新宿でデモみたいな、アピール活動みたいなことをして、そのとき"いろんな想いが渦巻き過ぎてる2万人"みたいになってて。これ本来やったらロックイベントで、日ごろの喜びや悲しみを音楽に投影して、歓声を上げて、みんなでぶち上がるものなのに、掲げてるのは"NO WAR"で、何がパラダイスやねんと思って、それ歌ったろうって。俺がそこで「戦争反対!」って叫んでも戦争は止まらんし、じゃあ俺に何ができるのかを考えると、歌を書くしかない。あのステージから見た景色はホントにえげつないものがあって、もっと向かうべき方向あるやろと思って、その帰り道に「Paradise review」っていう言葉が出てきたんです。

―なるほど。


下津:「今を変えたい」とかそういうことじゃなくて、「こんな絶望でも音楽には踊らされちゃうんだ」っていう、そこを表現したくて。ただ絶望だけじゃ嫌なので、ちゃんと陰と陽をくっきり分けたかった。それは前から曲作りで大事にしてたことなんですけど、今回はそこをより白黒はっきりつけて出しました。例えば、「your song」だと、一番の〈鳥になった後 風になってみて〉は陽のイメージだけど、二番の〈悪魔にあった後 取引をして〉は陰のイメージ。小説で言う起承転結みたいな、これがはっきりしてる曲はいい曲だっていうのが自分の中にあって、それがくっきりした7曲をぶち込みました。

―今回は音もアナログレコーディングでバンド演奏そのままが閉じ込められているし、言葉も今の現実や社会と向き合ったそのままの言葉が綴られていて、ドキュメント性の強い作品だと感じました。


下津:そうですね。音楽してることをドキュメントとしてそのまま切り取った結果の作品で、歌詞は現代の普通の一青年が言ってることって感じっすね。ただ、曲の内容的にはこんな作品は二度と作りたくなくて、もっとポジティブなメッセージを歌える世の中になってほしいというのがすごくあります。子供たちがもっと大声で、腹から笑えるような、イェー!って言えるような世の中になってたらええなって。

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―ホントにそうですよね。


下津:今回家で歌詞書いてたときは「これで大丈夫かな?」と内心思いつつ、「でもこれしか言葉ないな」みたいな、打ちひしがれてました。

―でもその言葉を音に乗せて昇華させることができるのは、バンドの醍醐味ですよね。


下津:それが醍醐味というか、生きてる意味というか、それなくなったらマジで何もないから(笑)。"使命感"とかもサラサラないっすからね。生きたいように生きて、やりたいことをやってたらこうなっただけなんで。

―でも長くバンドを続けてると変な使命感を背負い込みがちだったりもすると思うから、踊ってばかりの国の純音楽的な姿勢はすごく貴重だなと思います。


下津:このバンドはすごく健康的やと思いますね。

―10月からはツアーも始まりますね。


下津:何か月ぶり?今年ツアーやったっけ?

谷山:いや、去年の『moana』のツアー以来じゃない?

―なので、ツアーとしては一年以上ぶりですね。


下津:ギグ欲半端なくなってて、そのパンパンの俺らと何処まで行けるかゲームなんで、振り落とされないように、シートベルトしっかり締めといてください(笑)。

―今年は1月にクローズしたSTUDIO COASTでのライブから始まって、今回のツアー初日は来年の7月に閉館する中野サンプラザからじゃないですか?そのツアーのタイトルが『俺たちに明日はない』なのって、なんだか考えさせらるなって。


下津:まあ、場所がなくなっても俺らは井の頭公園でやってますよ。電力さえ通ってれば、どこでもやれるんで(笑)。

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取材・文:金子厚武
撮影:石毛倫太郎

RELEASE INFORMATION

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踊ってばかりの国「Paradise review」
2022年9月21日(水)
Format:Digital/CD
Label:FIVELATER

Track:
1.your song
2.Ceremony
3.待ち人
4.Amor
5.知る由もない
6.海が鳴ってる
7.Paradise review

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LIVE INFORMATION

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『Paradise review』release tour 「俺たちに明日はない」
2022年10月7日(金)
東京都 中野サンプラザ

2022年10月21日(金)
新潟県 CLUB RIVERST

2022年10月22日(土)
石川県 金沢GOLD CREEK

2022年10月24日(月)
兵庫県 神戸太陽と虎

2022年11月4日(金)
宮城県 仙台CLUB JUNK BOX

2022年11月11日(金)
沖縄県 沖縄OUT PUT

2022年11月20日(日)
北海道 札幌PENNY LANE24

2022年12月2日(金)
福岡県 福岡The Voodoo Lounge

2022年12月3日(土)
熊本県 熊本NAVARO

2022年12月8日(木)
愛知県 名古屋THE BOTTOM LINE

2022年12月10日(土)
広島県 広島4.14

2022年12月15日(木)
大阪府 味園ユニバース

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