SENSA

2022.09.30

切迫感に満ちた時代を踊り続ける強い意志――踊ってばかりの国『Paradise review』インタビュー【前編】

切迫感に満ちた時代を踊り続ける強い意志――踊ってばかりの国『Paradise review』インタビュー【前編】

踊ってばかりの国が新作EP『Paradise review』を発表した。本作はバンドが普段からリハーサルで使っている吉祥寺・GOK SOUNDで、エンジニアの近藤祥昭によるオープンリールを使ったアナログレコーディングが行われ、練り込まれたバンドのアンサンブルを豊かな音質で記録。一方、歌詞ではパンデミックやウクライナでの戦争によって混沌を極める世界を見つめながら、それをあくまで日常の視点で切り取っていて、ドキュメント的な側面も色濃い。タイトルトラックの〈Paradise review 手短に言う 俺達に明日はない〉という痺れるフレーズには、そんな時代の切迫感とともに、それでも日々を踊り続ける強い意志が込められていると言えよう。

メンバーチェンジを経て、5人編成になってからは4年で4枚のアルバムを発表。そのなかでメンバーそれぞれが自らのプレイスタイルを模索し、変化を繰り返していくことによって、現在のバンドは間違いなく充実期を迎えている。そこで今回はレコーディングの現場でもあるGOK SOUNDで、メンバー全員でのインタビューを実施。前編では新作の制作に至るこれまでの歩みを振り返り、後編では『Paradise review』の収録曲をそれぞれの視点から紐解いてもらった。


004085110008.jpg
『moana』を作ってから、ライブでめっちゃ歌いやすくなった

―現在の編成になってから4年で4枚のアルバムを作ってきたわけですが、タイキくん、丸山くん、仁くんが踊ってばかりの国における自分のプレイスタイルを確立できたと感じたのは、それぞれいつのタイミングでしたか?


坂本タイキ(Dr):俺は『moana』かなって感じがします。踊ってに入る前は踊ってっぽいスタイルのバンドをやったことがなかったので、いろんなチャレンジがあったんですけど、それが『moana』で固まった感じがあります。

―固まったのはどんな部分がポイントでしたか?


坂本:単純に5人で長い時間をともにして、自然とできあがっていったというか......もちろん、いろいろ話し合った部分もあるんですけど、今は話さなくてもわかる部分が増えて、熟成してきた感じがあります。

―タイキくんが以前やっていたTHE★米騒動のアンサンブルはすごくタイトで、変拍子とかを手数多く叩きまくるタイプだったから、最初は「踊ってに入ってどうなるんだろう?」と思ったけど、結果的には谷山くんと面白いリズム隊になったなって。


坂本:タニとは音楽的なバックグラウンドが全然違うので、お互いすり合わせて、近づける時間も必要だったけど、そこが『moana』でがっちり固まった感があって。なので、『moana』以前の曲も、今はライブで当時よりいい表現ができてると思います。

―谷山くんはどう感じてますか?


谷山竜志(Ba):同じ印象ですね。『moana』のときにめちゃめちゃ近づいて、固まったなって。

―それってこれまではライブをしながら曲作りをしてきたけど、『moana』はコロナ禍の影響で曲作りに向き合う時間が増えたから、ということ?


谷山:そうですね。コロナでライブが減って、スタジオの時間がめちゃくちゃ増えて、前よりも濃密に顔を合わせるようになったのは単純に大きいと思います。

2I1A9020.jpg

―"バックグラウンドの違い"という話がありましたけど、タイキくんのバックグラウンドとして、「このドラマーの存在は大きい」みたいな人っていますか?


坂本:いろんな人をリスペクトして、その人のいい部分をかいつまんで、自分のものになってたりすると思うので、"この人"みたいなのはあんまりないかもしれないです。いろんな音楽を聴いて、「このリズム叩けるかな?」ってチャレンジしたり、そういうちょっとずつの積み重ねで自分ができてると思ってて、「この人を真似したい」みたいなのはあんまりないです。

―踊ってで演奏するにあたっては下津くんの歌との関係性をどう考えるかも大事な部分だと思うんですけど、そこに関してはどうですか?


坂本:どうやったら歌が一番生きるんだろうっていうのは、みんなで悩んだ部分でもあって、しもっちゃんのリズム感に合わせるのがいいのか、それを生かすためにまずリズム隊としてがっしりしてるのがいいのか......曲にもよると思うんですけど、そういう話し合いも一緒にバンドを続けていくなかで、より深くできるようになった感じです。

下津光史(Vo/Gt):さっきタニが言ったように、コロナでスタジオワークの時間が圧倒的に増えて、今タイキが言ったように、下津に寄り添うのか、リズムとして確立して、そのうえに下津を泳がせるのかってところの答えも、その期間に見つけた感じがあって。実際『moana』を作ってから、ライブでめっちゃ歌いやすくなってるんですよ。肌感ではあるけど、その答えをベースとドラムが見つけたんかなっていうのは、歌ってて感じます。

―ちなみに、その"答え"はどっちだったわけですか?


下津:曲にもよるし、一曲の中でもAメロとBメロで違ったりして。そもそも抑揚の癖が強い歌と、自分のパートの演奏とを、より広い視野で見てくれるようになったんじゃないかなって。

谷山:しかも、いろいろ話してそれがわかるというよりも、"自然とそうなっていく"みたいなことが増えたと思います。

新しいこともしたいけど、ポップ性みたいなものは失いたくない

004085110009.jpg

―丸山くんと仁くんにもこのバンドの中で自分のプレイスタイルが確立できたタイミングを聞きたいんですけど......今の話の感じだと、やっぱり『moana』になるのかな?


下津:これまでは"奇跡の一曲"みたいなのが意図せず生まれてたんですよ。「ghost」とか「光の中に」とか「Boy」もそうですけど、結構偶発的に生まれた曲なんですよね。でもそういう曲を生み出す方程式みたいなものをバンドの中で見つけられたのが『moana』なのかなって。その分、スイートスポットに向かうまでに時間を要さなくなりました。

丸山康太(Gt):毎回アルバムを出すたびに変わる部分もありますけどね。

大久保仁(Gt):これまでもいろいろやってきたけど、その成果がわかりやすく顕著に出たのは『moana』だったのかなって。

―丸山くんと仁くんは前にも一緒にバンドをやっていたことがあるそうですけど、ふたりの中でアンサンブルの理想形として共有するバンドや作品があったりはしますか?


大久保:どっちかっていうと、積み重ねというか、やりながらそれを見つけていく感じですね。

丸山:何かを目指してやったことはないです。

―そこはタイキくんとも共通してますね。


下津:"~っぽさ"が出ちゃうと恥ずかしくなってくるというか、"~ごっこ"みたいな気分になるんで、そこは意図的に避けてるっすね。

―これもタイキくんと同じ質問で、歌とギターの関係性についてはどう考えていますか?


大久保:新しいこともしたいけど、ポップ性みたいなものは失いたくないので、その上手いバランスというか、自分が気にしてるポイントはそこですかね。

下津:確かに、仁がそこを担ってくれてるかもしれない。たぶん仁がいないと骨組みだけになっちゃうんですよ。「ここでこういうメロディーがあったら」みたいに俺とか丸ちゃんが思いついても、自分のプレイがあってできないから、そういうときに伝える相手は仁で。

―アルペジオで裏メロを弾いたりしてポップ性を保ちつつ、でもその響かせ方が新しかったり、両側面を担ってますよね。丸山くんはどうですか?


丸山:歌は好きなんで、何個か選択肢を考えて、一番ハマるやつを当てて作ってく感じですね。自分はゼロから作るというよりも、何かがあって、それに反応して作るみたいなことが多くて。

下津:丸ちゃんは言葉に対するレスポンスがすごい。

丸山:そうっすね。歌詞も大事です。

大久保:情景とかね。そういう部分にインスパイアされることも多いです。

004085110010.jpg

―まさに、2本のギターが情景を浮かび上がらせるというか、空間を作り上げている感じがすごくあって、エフェクティブな色合いも強い『moana』はその部分でもひとつの極致に達した感じがありました。そして、その空間の中を下津くんの歌が泳ぐ感じが、今の踊ってばかりの国の大きな特徴になっているというか。


下津:よくコードと歌だけであんな広げてくれますよね(笑)。

―曲の作り方は今も下津くんの弾き語りから?


下津:そうです。チープなボイスメモを投げつけてます。あと、最近メトロノームを導入しました。BPMを最初に決めちゃった方が、弾き語りでも曲作りしやすくて......なんか恥ずいっすね。風呂でどっから洗うか話してるみたいで(笑)。

『Paradise review』は"肩ひじ張らずに言いたいこと言ってますアルバム"

2I1A8993.jpg

―あはは。じゃあ、そんなこれまでの歩みも踏まえて、新作の『Paradise review』の話をさせてもらうと、これまでのアルバムは伊豆スタジオでレコーディングをしていたわけですけど、今回はここGOK SOUNDで、オープンリールを使ったアナログレコーディングを行ったわけですよね。それはどういった理由からだったのでしょうか?


下津:『moana』はサイケの中でも極彩色の部分を出したくて、日差しの強い、そういう場所で録ったアルバムに聴こえるんですけど、『Paradise review』は曲の内容がバカンスって感じじゃなくて、日常の中というか、飲んだ帰り道のちょっと寂しい気持ちだったりとか、そういうのをやりたかったので、日常の中で音を採取したかったというか。だから、ここで録ることにして、それが各々にとって功を奏した部分もあったのかなって。

―『Paradise review』の歌詞は日常に根差しつつ、現実とシリアスに向き合った言葉も目立ちますもんね。


下津:幻覚と現実を表現するには今ここやったのかなって。あとは単純に、近藤さんの音が好きなんです。家の畳で録音してくるくらいの感覚でやりたかったっていうのもあって。

―普段からリハもここで入ってるし、年明けに出た「ニーチェ」とか、2020年にシングルで出た「Orion」や「ひまわりの種」もここで録ってるんですよね?


下津:そうです。GEZANとかおとぎ話とのスプリットもここですね。

004085110007.jpg

―アナログレコーディングの魅力に関しては、どのように感じていますか?


下津:はっぴいえんどをレコードで聴いたりすると、やっぱり音いいなって思うんですよ。踊ってばかりの国の出したい音もその頃の感じで、使ってる機材も70年代のアンプだったり、アナログなものなんですよね。そこをデジタルに合わせちゃうとちょっと違和感があって、でも「ニーチェ」をここで録ったときにすごくハマりが良かったんです。なので今回は"信頼の近藤さん"みたいな感じ。やっぱりね、温かみが全然違うんですよ。テープに掘るんで、データになる前の姿というか、そこを手料理する方が僕らには向いてる。でも、それができる場所って全国的にもうないんですよね。

谷山:オープンリールで録れるスタジオがない。

下津:東京でも2~3か所くらい。

谷山:たぶん他でやったら高くて採算取れないけど、ここはめちゃめちゃ良心的なんで。

―タイキくんはアナログレコーディングの魅力をどう感じていますか?


坂本:アナログの魅力は正直そんなにわからないんですけど......いつも使ってる場所なんで、その延長線上というか、リラックスしてできたのはよかったですね。伊豆に行って気合い入れてバッと録るのもいいんだけど、いつものリラックスしたノリでやれたのはよかったです。

―丸山くんと仁くんはどうですか?


大久保:ナチュラルな音の太さと柔らかさは圧倒的に違いますね。

丸山:エディットできないから、一発で決めなきゃっていう緊張感とか、そういうのは自分に合ってたし、ミスをしてもそれはそれっていう感じで、すごく楽しかったです。チェックするときも音がいいから気持ちよかったですね。

下津:ひさびさの近藤さんサウンドっていうだけでめっちゃ上がったし、近藤さんは音楽を理解するスピードがすごく早くて、セッティングしてる段階で、「この曲ならこうマイクを立てて」とか「こういうプレイをやってみて」とか言って、それをダブ処理してくれたりして。アナログの技師さんなんで、そこの絵図を書くのが早くて......最初何言ってるかわからんときもあるんですけど(笑)。

―曲を作った本人ですら理解できてない(笑)。


下津:でもできあがったら、「なるほど、こう使ってたんですね」みたいな。そういうことも「がっつりミーティングをして」とかじゃなくて、いつもの慣れ親しんだ環境でやれたので、『Paradise review』は"肩ひじ張らずに言いたいこと言ってますアルバム"やと思いますね。

2I1A9027.jpg
取材・文:金子厚武
撮影:石毛倫太郎

RELEASE INFORMATION

Paradise_odotte_jk_20220824.jpg
踊ってばかりの国「Paradise review」
2022年9月21日(水)
Format:Digital/CD
Label:FIVELATER

Track:
1.your song
2.Ceremony
3.待ち人
4.Amor
5.知る由もない
6.海が鳴ってる
7.Paradise review

試聴はこちら


LIVE INFORMATION

odotte_flyer_1000_20220713.jpg
『Paradise review』release tour 「俺たちに明日はない」
2022年10月7日(金)
東京都 中野サンプラザ

2022年10月21日(金)
新潟県 CLUB RIVERST

2022年10月22日(土)
石川県 金沢GOLD CREEK

2022年10月24日(月)
兵庫県 神戸太陽と虎

2022年11月4日(金)
宮城県 仙台CLUB JUNK BOX

2022年11月11日(金)
沖縄県 沖縄OUT PUT

2022年11月20日(日)
北海道 札幌PENNY LANE24

2022年12月2日(金)
福岡県 福岡The Voodoo Lounge

2022年12月3日(土)
熊本県 熊本NAVARO

2022年12月8日(木)
愛知県 名古屋THE BOTTOM LINE

2022年12月10日(土)
広島県 広島4.14

2022年12月15日(木)
大阪府 味園ユニバース

チケット一般発売中!


LINK
オフィシャルサイト
@odotte_official
@odottebakarinokuni_official
Official YouTube Channel
STORE

気になるタグをCHECK!