SENSA

2022.09.21

踊ってばかりの国「Paradise review」──音楽の羽はここまで飛べる。リアルから生まれた祝福の歌唱集

踊ってばかりの国「Paradise review」──音楽の羽はここまで飛べる。リアルから生まれた祝福の歌唱集

下津光史の歌声はいやらしい。ドキッとする色気があると同時に、どこかダーティな含みを持った声。無邪気な天使と手練のチンピラが同居しているみたいな声。それは世の中の不思議なルールになんとなく縛られている我々の、痛いところを平気で突いてくる。

たとえるなら、クラス全員で文化祭の出し物を必死に考えている時に、たった1日で終わるものを文化なんて呼んでいいの?と問われるような感じだ。急に真実を言い当てられた爽快さと、己の凡人ぶりを思い知らされる羞恥が混ざり合う。もっとも、そこが気持ちよくて癖になり、結局ズルズルと聴き続けてしまうのだけど。

近年はズルズルが途切れない。下津ソロも含めれば年に1枚か2枚。驚くべきペースで生み出される踊ってばかりの国、最新7曲入りEP。全曲がオープンリールのアナログレコーディングで、できた曲から順に録り続けていったそうだ。トリプルギターとは思えないほど隙間のあるサウンド。ゆったりと溶けだすサイケデリック。爽やかな解放感、キラキラした光のニュアンスもたっぷりある。眼差しはたいそう優しかろうと歌詞を熟読し、ぎょっとした。......死んでるじゃないの。

〈Sing〉ではなく過去形の〈Sung〉で歌われる「Your Song」。肉体を離れた魂は鳥になり風になり唄に化けていく。4曲目「Amor」も然りで、ここで祝福されているのは、はっきりと魂が召された瞬間である。来世や天国の話でもない。この美しいサウンドスケープの中、下津の意識は、万人に訪れるいつかの終わり、シンプルに言えば死に向かっていく。それなのに痛みも不安も恐怖もないのはなぜだろう。これらの歌はなぜこんなにも気持ちよく届くのか。

〈死ぬまで知る由もないぜ〉と突き放す5曲目、そして、殺し合いや戦火といった単語が初めて出てくる「Paradise review」に辿り着き、ようやく気がついた。ウクライナの映像を見つめ、愚かな歴史は繰り返されると溜息するのは、たかだか80年そこらしか生きられない我々の安易な諦観ではないか。命は有限。それは当然。だが音楽は永遠になる。作品になれば無限の羽が生える。その喜びを信じる眼差しが、この楽曲たちを恐怖から解放しているのだろう。リアルタイムがすべてかい?本当の文化や芸術の永久性に触れたことがないの?そんなふうに言われたようで、悔しいが、ものすごく嬉しい。


文:石井恵梨子



RELEASE INFORMATION

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踊ってばかりの国「Paradise review」
2022年9月21日(水)
Format:Digital/CD
Label:FIVELATER

Track:
1.your song
2.Ceremony
3.待ち人
4.Amor
5.知る由もない
6.海が鳴ってる
7.Paradise review

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