SENSA

2022.04.14

フレデリックの"熱"を伝える音像の変化。新たな手法に満ちた『フレデリズム3』を赤頭と高橋が語る

フレデリックの"熱"を伝える音像の変化。新たな手法に満ちた『フレデリズム3』を赤頭と高橋が語る

バンドがさらに逞しくなったことをはじめ、「FREDERHYTHM TOUR 2021-2022~朝日も嫉妬する程に~」と題したツアーのZepp Haneda(TOKYO)公演(2022年2月3日)を観たときに筆者が感じたさまざまな変化は、フレデリックが3月30日にリリースした3rdフルアルバム『フレデリズム3』にもはっきりと表れていた。それは2019年2月に『フレデリズム2』をリリースしてから、EP『VISION』(2019年10月)、EP『ASOVIVA』(2020年10月)、フレデリック×須田景凪名義のEP『ANSWER』(2021年12月)という3枚のEPや配信シングルをリリースしながら、新たなチャレンジを繰り返してきた創作活動の賜物と言ってもいい。

和田アキ子に提供した「YONA YONA DANCE」のセルフカバーを含む『フレデリズム3』の全14曲を聴きながら脳裏に浮かぶのは、コロナ禍においても歩みを止めることなく、そしてシーンのトレンドに易々と与することなく、自分たちの表現を研ぎ澄ませようとひたすら音楽に打ち込んできたバンドの姿だ。

赤頭隆児(Gt)と高橋武(Dr)というなかなか珍しい顔合わせになった今回のインタビューでは、『フレデリズム3』に結実したさまざまな変化──もちろん"進化"と言い換えることもできる──がどんなチャレンジから生まれたものなのか、2人が具体的に語ってくれている。


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コロナ禍を経て上がったアレンジの精度

―いただいた資料でも"タームベスト的『フレデリズム』シリーズ最新作"と謳っているとおり、『フレデリズム3』は『フレデリズム2』をリリースしてから足かけ3年にわたる創作活動の集大成と言える作品なんじゃないかと思うのですが、クリエイティブの積み重ねがこうして1枚のアルバムとしてまとまると、やはり感慨深いものがあるのではないでしょうか?


高橋武(Dr):以前の作品もそれぞれに感慨深いものはありましたけど、今回はこれまで以上に感慨深いという思いが自分のなかにあります。それは2019年から時間をかけて作ったアルバムということもあるし、昨年、「『フレデリズム3』を制作します」と発表してからSNSにレコーディングの経過を上げていたせいか、リスナーと一緒に作っている感覚が、これまでよりも強いからなんです。その"一緒に作っている"という感覚は、ライブに来てくれる人や、配信リリースを聴いてくれる人にも伝わっているという手応えが常にあって、そういう意味で、これまでと違った思い入れの深さがあるんですよ。そこが過去作とはちょっと違うところだと思います。

―アルバムを作りながら、ファンのみんなとその経過を共有することって、普通ないですよね。


高橋:そうですね。アルバムができ上がっていく過程で(収録曲の一部を)先行リリースして、その曲からファンが情報を得るってことはあると思うんですけど、今回はより細かいところをアウトプットしていたし、それこそツアーの合間にレコーディングしたこともたくさんあったので、ツアー中に得たものを音に反映させてレコーディングするってこともできていた気がするし。それは意図的なところもあれば、自然とライブのテンションが(演奏の)テイクに乗ったところもあるんですけど、いろいろなことが繋がっていると思います。

―赤頭さんはどんな手応えを感じていますか?


赤頭隆児(Gt):「VISION」以外は、ほとんどがコロナ禍になってから作った曲なんですけど、ライブの本数が減ったことの他にもコロナ禍になってから変わったことがバンド内にもあったんですよ。たとえば、メンバー4人がテレビ電話で話し合うってことは、コロナ禍になる以前はしたことがなかったんですけど、コロナ禍以降はそれがあたりまえになったんです。もちろん、コロナ禍以前からバンドでミーティングするってことはありましたけど、コロナ禍になってからは手軽にオンラインで4人が集まれるから、コロナ禍前に比べて、話し合う回数がむちゃくちゃ増えたんですよ。それによってバンドが変わったところもけっこうあって、たとえば、曲に対する考え方は同じやと思っとったけど、あとになってから実はちょっと違っていたって気づくことが以前はけっこうあったんですけど、それが1曲1曲、考え方の違いを擦り合わせながら、同じ方向性で作れるようになったんです。

高橋:そうですね。ちょっとした個人個人の考え方の違いもバンドのおもしろさのひとつだと思うんですけど、曲について話し合いを重ねることで、より曲の精度が高まった気がします。だから、今回はアレンジ面でも整合性が取れている曲が多いと個人的には思います。

赤頭:そう、違ってもいいんです。ただ、今回はそういう場合も、「あ、そうやったんや」と4人とも納得してそうしたという感じが多いかもしれないです。

―『フレデリズム3』には「VISION」をはじめ、順々に配信リリースしてきた楽曲が収録されていますが、1曲1曲、いろいろな試みをしてきたなかで特に印象に残っている曲をそれぞれに挙げるとしたら?


高橋:僕は「ラベンダ」が印象に残っています。コロナ禍になって、スタジオでレコーディングすることが難しいという時期があったんです。それは横アリ(2020年2月の横浜アリーナにおけるワンマン公演)のあとぐらいなんですけど、『ASOVIVA』ってEPを作ろうとしたとき、スタジオに入れないからレコーディングを延期するのか、その状況でもできることを探すのかってことになって、結局、「フレデリックはその状況を楽しんで、できることを探すバンドなんだから」とメンバーそれぞれに宅録できる機材を揃えたんです。僕は電子ドラムを買ったんですけど、そうやって『ASOVIVA』を作ったとき、スタジオで作る良さと宅録で作る良さには違いがあるってことに気づいたんです。それはもちろん、どちらが勝っているということではなく、単純に手法の違いなんですけど、どこに辿り着きたいかによってそれを使い分ければいいってことに、『ASVOIVA』の制作を通して自分たちで自覚できたんです。それを経て、『フレデリズム3』の制作のなかでも自分たちで選んで、「これはドラムを打ち込みにしてみよう」とか、「宅録にしてみよう」とか、そういう選択ができて。「ラベンダ」は僕がPCで打ち込んだドラムの音源を使っているんですけど、それは『ASOVIVA』がなかったら生まれなかった作り方なので、自分としては思い入れが深いし、さっき話したアレンジの整合性が取れているっていうのはまさにこの曲のことで、きれいな引き算ができているし、休符の聴かせ方もうまい。こういうアレンジは、1人のクリエイターが作っている曲に多いと個人的には思っていて。



―あぁ、確かに。おっしゃることはわかります。


高橋:この精度をバンドで出すのはなかなか難しい。それができているのは、隆児君がさっき話していたように4人の方向性にズレがないことに加え、アレンジの精度が上がっているからだと思うんですけど、そういったいろいろなことがこの曲のアレンジとか曲調とかには封じ込められているんですよ。

―「ラベンダ」は確かにフレデリックの新しい音像を打ち出していると思って、どうやってレコーディングしたのだろうと興味が湧いたのですが、やはりドラムは打ち込みだったんですね。


赤頭:ドラムの宅録は他の曲でもあって、そっちでは電子ドラムを叩いてMIDIにしたデータをもとに武君が音を選んだり、ミックスを海外に出したときにエンジニアさんに音を選んでもらったりしているんですけど、「ラベンダ」ではそもそもドラムを叩いていないので、そこが僕的にはけっこう大きくて。ほんまにグリッドで打ち込んだんですけど、そういう試みは初めてなんですよ。そこが違うと言うか、「Wanderlust」も宅録なんですけど、これはドラムがちょっと跳ねていて......。

高橋:それは俺が叩いてるからね。

赤頭:そう。その違いはあきらかにあると思います。

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ライブのことはまったく考えてなかった

―「ラベンダ」のギターもスタジオで1曲丸々レコーディングしたと言うよりは、レコーディングしたフレーズをエディットで重ねているように聴こえますが。


高橋:けっこう切り貼りしてるよね?

赤頭:そのやり方です。『ASOVIVA』の「正偽」という曲でもちょっとやったんですけど、そこで1回やってみて、もっといろいろできるなと思ったことを「ラベンダ」では詰め込みました。この曲、けっこうギターの音ばかりなんですよ。切ったり、貼ったりするとギターっぽくなくなることもあるんですけど、意外とギターの音ばかりで、そういう意味でも珍しい曲になったと思います。

―フレデリックの楽曲は三原康司(Ba/ Cho)さんが作っていますが、4人それぞれに自宅でレコーディングした「ラベンダ」を、康司さんは最初どんなふうに作ってきたんですか?


高橋:もっとネイキッドなデモだったと思います。そもそもデモ音源としては、昔からあった曲で。「かなしいうれしい」(2017年)のリリースより前だからけっこう前なんですけど、バンドでアレンジを練ったこともあったよね?

赤頭:うん。

高橋:そのときの音像はもうちょっと生っぽかったんです。だから、今回こういう音像になったのは、このタイミングでレコーディングしたからなんだろうなって思います。

赤頭:そうですね。そのときはギターを切り貼りするなんて発想はなかったですね。

高橋:それを言ったら、ドラムを打ち込みにするって発想も(笑)。

―ドラムの打ち込みって簡単にできるんですか?


高橋:うーん、「ドラムって簡単に叩けるんですか?」って質問に答えるくらい難しい質問ですよ(笑)。

赤頭:でも、ドラムを叩けるやんか?

高橋:うんうん。

赤頭:俺はドラム叩けへんから、「これとこれは同時に鳴らせない音やな」みたいな感覚は俺にはないやんか。

高橋:あぁ、なるほど。それを叩くには手が3本いるみたいなやつね。

赤頭:そこは意識しちゃうんじゃない?

―確かに。


高橋:いや、あんまり意識はしないですね。『フレデリズム3』の制作のなかで、デモの段階ではドラムを打ち込むことが多かったんですけど、そのときの前提としてレコーディングでは生で叩くのか、打ち込みとして完結させるのかってところで、意識は全然違うんですよ。

赤頭:なるほど。

高橋:「ラベンダ」に関しては、そもそも数年前の段階で1回、生ドラムでアレンジを考えているわけですけど、そのときイメージしたのはジャミロクワイとか、ホセ・ジェイムズとか、RHファクターとか、そういうR&B/ファンク/ジャズ界隈のアーティストのベースとドラムだけでリフになっていて、そのリフを聴いただけで何の曲かわかるようなアレンジだったんです。そういうアレンジが「ラベンダ」にハマると思ったんですけど、それを打ち込みでやったら、けっこう新しいものになるんじゃないかと思って着手した感じでした。

―その「ラベンダ」をライブでやるとき、どうしますか?


赤頭:それなんですよ。

高橋:「これから考えようね」って言ってるんですけど、少なくともドラムに関しては、生で一度考えたフレーズなので、フレーズ自体を生に置き換えても悪くなるってことはないと思います。もちろん、変えようはいくらでもあると思いますけどね。

赤頭:ギターが大変なんですよ。まったくライブのことは考えてなかったんで。

高橋:でも、ライブのことを考えて、制作にブレーキが掛かっちゃうのは良くないからね。それでいいんだと思うよ。

赤頭:だから、別バージョンを作ることになると思います。


須田景凪とのコラボで得たギター表現と、伝わる"熱"

―赤頭さんも今作で印象に残っている曲を教えてください。


赤頭:迷うんですけど、やっぱ須田(景凪)君とコラボレーションした「ANSWER」かな。「ANSWER」を録ったのは、けっこう前やんな?

高橋:そうだね。1年以上前だね。

赤頭:須田君とやることになったとき、"一緒に音楽を作る"ってバンド・メンバーになるのと同じくらいのことだと思って、ちゃんと須田君のことも理解したうえで尊敬しながらやっていきたいと思ったんです。それで、須田君の音楽をいろいろ聴いたとき、須田景凪として発表している音楽ももちろんですけど、ボカロPのバルーンとして発表した曲も刺激になって、これはフレデリックでも生かせるなって思うことがいろいろあったんです。そこからバルーン以外のボカロPも聴くようになったんですけど、須田君とやることがきっかけになって、自分が聴く音楽のジャンルの幅が1個広がったので、「ANSWER」はすごく印象に残っています。ボカロPの曲をいろいろ聴きながら、「ボカロPと言えば、めちゃくちゃコンプが掛かったテレキャスターの音なんだ」というイメージが、あくまでも自分の解釈ですけどひとつでき上がって、それをめざそうと思ってギターを買ったり、エフェクターを買ったりっていうのを、その頃から始めたんです。
フレデリックの曲にも、その要素を入れたいと思ったんですけど、「ANSWER」以降に録ったのが「名悪役」と「サーチライトランナー」で。それまでは自分のギターとエフェクターだけで全部、自分で音作りしていたんですけど、その2曲のレコーディングで初めてギターテックさんに入ってもらって、「こういう音にしたいんです」ってやってみたんです。それ以降は、そこで学んだことを自分なりにやってみようと思って、またギターの音が変わっていって、最終的に『フレデリズム3』の1曲目に入っている「ジャンキー」に辿り着きました。つまり、須田君と一緒にやったことで、ギターの音の幅も広がったんです。

―「ASNWER」で導入したテレキャスターの他にもギターは買いましたか?


赤頭:ジャズマスターも買いました。

―「ジャンキー」のMVではフライングVを弾いていますが。


赤頭:あれは見た目重視です(笑)。レコーディングでは使ってないです。

―今回、全体的にギターの音がこれまでよりも際立ってきたという印象がありました。


赤頭:(ピックアップが)シングルコイルのギターを使う機会が増えたということもあるし、エンジニアさんも変えて、音源もライブっぽい音像にしていこうってなったこともあるし。けっこう今までは、「良い意味でのレンジの狭さがあった」って言ったらいいのかな?

高橋:音源は音源、ライブはライブって差別化もしてたしね。それこそ、以前は「80sっぽい」ってすごい言われたじゃない?

赤頭:音源はそうやな。

高橋:『フレデリズム3』に関しては、けっこう取材を受けましたけど、"80s"って単語は一度も出てきてないんですよ。それはギターの音色の変化もあるし、これまでと違うエンジニアさんとやって、音像が変わったっていうのがデカいですよね。

赤頭:ギターの音作りも変わったし、ギターの聴こえ方ももうちょっとライブのレンジの広さに近づいた気がします。

―そういう音像の変化は、もちろんバンドが求めたものなんですよね?


高橋:ライブのフレデリックの良さと音源のフレデリックの良さの差を楽しむっていうのも以前はあったと思うんですけど、やっぱり両方の良いところを出していきたいっていうのが、今のフレデリックのモードなんです。それはバンドの意思として、4人共通してあるものだし、まだライブに足を運べない人もいるので、個人的にはそういう人に音源でも自分たちの持っている熱を伝えたかったっていうのもあります。それこそ"熱"っていうのは、『フレデリズム3』を作るときのキーワードだったんですよ。

―確かにギターの音色が楽曲に熱を加えているという印象はありますね。


高橋:(弾いている)人が見えますよね。

赤頭:ギターがちょっとクリアになったら、歌もそのままではダメなんで、歌もクリアになったと思います。

高橋:1個が変わると、イコール全部が変わるってことだもんね。

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ドラム録音の変化が導いた思いどおりの音像

―ということは、当然、高橋さんのドラムも変わったわけですね?


高橋:ドラムに関しては、エンジニアさんの変化によるところが大きいのかな。

―ドラムも耳に残るフレーズやプレイが多かったと思いますよ。


高橋:ありがとうございます。さっきの80sって話とも繋がってくると思うんですけど、これまでの作品と比べると、『フレデリズム3』ではスネアドラムにレイヤーで打ち込みの音を重ねるってことがだいぶ減ったんですよ。

―あぁ、これまではけっこう重ねていましたね。


高橋:これまではむしろそれがメインで、生だけで完結させるってことはほぼなかったんです。たぶん、それが過去作の80sっぽさの大きな要因だったと思うんですけど、『フレデリズム3』は、そもそも打ち込みっぽいことをやるなら打ち込んでしまうって作り方だったので。

赤頭:あと、ドラムは掛け録りが多かったよな。

高橋:ああ、それもあるかも。ドラムを録ってからコンプを掛けるのではなくて、録る段階でコンプやEQの処理をしたものを録ったんですよ。それをやると、録り音がほぼほぼ完成になるんで、録り音と完成した音源のギャップを埋めた状態でギターとベースを録れるっていうのもだいぶ違ったよね。

赤頭:だいぶ違った。ミックスによって、ドラムの音ってけっこう変わるんで、ミックス前のドラムで音を作ってたとき、ギターの音って地味になりがちだったんです。

高橋:ドラムの音があとから派手になるからね。

赤頭:だから、ギターもあとから派手にしないといけなかったんですけど、派手にするとき、音色をこだわるのってけっこう難しかったんです。でも、どのくらい派手になるかある程度わかると、音を作るときに「これだと地味やな」って自分でわかるんで、どう派手にしたいかを自分で調整できるし、エンジニアさんとの話も早い。だから、今回は全員が思いどおりの音像になっていきましたね。

高橋:ドラムに関してもそうですね。ミックスが進んでいくなかで、自分が叩いたときの音とのギャップは当然ないわけで。もちろん、ギャップがあったらあったでその都度、修正すればいいんですけど、録りの段階で音をちゃんと作っておけば、そもそもそのギャップは生まれないんで、(演奏の)テイクを録って、それを聴いて、「こういう音にしたい」という話をエンジニアさんとしてチューニングを変えるのか、コンプの掛け方を変えるのか、それを録りの段階で話せるっていうのは完成度の高さに直結していると思います。

赤頭:「YOU RAY」みたいな生音を生かした曲だったら、これまでの録り方でもそんなに変わらないってことが想像できるからいいかもしれないけど。

高橋:思い出した。今回、掛け録りしたいと思ったのは、UNISON SQUARE GARDENの斎藤(宏介)さんと須藤(優)さんがやっているXIIXのレコーディングに呼んでもらって、1曲叩かせてもらったとき、掛け録りだったからなんですよ。そのやり方、めっちゃいいなって思って、フレデリックでもやってみたかったんです。

―なるほど。それも曲の精度が高まった要因の1つだったわけですね。


赤頭:それもありますね。

高橋:確かに。「YOU RAY」はミックスが進んでいくなかでのギャップが少ない曲だからってことで、従来の録り方でドラムを録りましたからね。

赤頭:そういうところもメンバー4人でちゃんと話せたもんな。この曲はミックスしても変わらないと話したうえでの選択だったんです。

高橋:それぞれの曲に合った制作の進め方はできたと思います。

―それは今回、順々に録っていったからこそですか? たとえば、「アルバムを作ります。10曲ガッと作って、ガッとレコーディングします」という作り方だと"1曲ごとに"というのは難しかったのかな、と。


高橋:確かに。毎回、1曲録るごとに何かしら吸収して、次に向かっていくって感じがあったので、確かに「10曲、1週間ぐらいでパッと録りましょう」っていうやり方だったら、もうちょい違ったかもしれないですね。1曲1曲、振り返ることができる期間があったのは大きいかもしれないです。

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曲のためにいちばん良い選択

―ところで、「YOU RAY」は、とても良い曲ですよね。


高橋:康司君が歌うっていうのが良いですよね。(三原)健司君(Vo/Gt)が康司君に「歌ってほしい」って提案したんです。健司君のその感覚は尊敬します。やっぱりボーカリストが「この曲は自分よりも」って思うってことは、そもそも難しいと思うんですよ。「曲のためにいちばん良いのは康司君が歌うことだ」って思えることがすごいと思うし、信頼できるボーカリストだと改めて思いました。

―「YOU RAY」で赤頭さんが弾いているのは、ガットギターですか?


赤頭:あれはアコースティックギターです。音色をやさしい感じにしたくて、アコギを選んだんですけど、康司君の歌とせつない感じのストリングスを立てたいと思って、できるだけ弾かないようにしました。

高橋:堅実なプレイに徹しているよね。

赤頭:あの曲、僕がアコギを弾いて、康司君が歌っているんで、健司君は参加していないんですよ。

―あぁ、そうか。


赤頭:だから、健司君のアコギを使いました(笑)。いや、たまたまだったんですけど。

高橋:でも、あるよね。バンド全員の何かを音源に封じ込めたいっていうのは。「ジャンキー」もギターは......。

赤頭:全部、俺。

高橋:だから、ビブラスラップを健司君にやってほしかったんです(笑)。最初、デモには入ってなかったんですけど、レコーディングが進んでいくなかで、「フレデリックらしいユニークさを入れるなら、ビブラスラップがいいんじゃないか」って提案して、健司君にお願いしました。

赤頭:練習しとったよ(笑)。

高橋:一応、叩き方だけ教えたんですよ(笑)。打楽器だから僕がやってもよかったんですけど、「YOU RAY」で隆児君が健司君のアコギを使ったっていうのは、"楽器として"以外にも理由があるじゃん。

赤頭:自分のアコギと比べたら、健司君のアコギのほうが良かったからなんだけど、確かにスピリット的な理由もあるかもね。

高橋:だから僕もビブラスラップ、健司君にやってほしかったんですよ。

―そこはバンドならではですよね。「YOU RAY」の木琴は誰が叩いているんですか?


赤頭:あれはマリンバなんですけど、マリンバ奏者の方にリモートで参加してもらいました。ちなみに「YOU RAY」のエンジニアさんは、この曲だけしかやってもらってなくて、今回、初めての方なんですよ。この曲は音像を極端に変えたかったので、エンジニアさんを選ぶところからいろいろ話し合って決めていきました。

―「Wanderlust」は電子ドラムを含め、エレクトロニックな音像が新しいですね。


高橋:EDMやエレクトロニックなサウンドにアプローチした『フレデリズム2』の「LIGHT」の延長にある曲ですね。

―曲の後半、歪ませたギターが鳴って、エレクトロニックな楽曲に熱が加わるところがちょっと違うのかなと思いましたが。


高橋:こういう曲の場合、ギターが入っていないこともあるから、そこに隆児君のギターが入ることで、フレデリックっぽさが出たというのはあるかな。

赤頭:「Wanderlust」と「Wake Me Up」は、バンドで基本的なところを録って、いつもミックスをお願いしているカナダのエンジニアさんにシンセとか、パーカッションとかを入れてもらったんですけど、海外のエンジニアってバランスを整えるとか、コンプを掛けるとかだけではなくて、これが要るからこれを足すとか、これは要らないから切るってこともけっこう大胆にやってくることが多いんです。その2曲はそれをやってもらおうという意図でお願いしました。やっぱり発想が違うというか、楽器をやっているからこうするっていうのとはまた違う、もうちょっと音楽を作る人みたいな感じの入れ方をしてくるところがおもしろいんですよ。キックの思い切りも全然違うし、重きを置くところがけっこう違っていて、そこでも刺激をもらいました。

―じゃあ、どんなふうにでき上がってくるのか楽しみでもあったわけですか?


赤頭:一応、オンラインでやりとりはしたんですよ。そのとき、あえてアバウトなオーダーの仕方をして、そのエンジニアさんの発想で入れてもらったんですけど、メンバーが増えたみたいな感覚があっておもしろかったです。



広い会場での表現が似合うアルバム

―今回、『フレデリズム3』で初出となる「蜃気楼」は、TVアニメ『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』のオープニングテーマに使われるそうですね?


高橋:『遊☆戯☆王』、僕らめちゃめちゃ好きだったんですよ。それこそ世代で、実際遊んでたし、タイアップのお話がくる前から、自分らのラジオ番組でもよく話題に上がっていたんで。

赤頭:な。

高橋:めちゃくちゃうれしいお話だと思いました。楽曲としてもすごい疾走感があるし、ここでも新しいことにチャレンジしているんですよ。楽曲の方向性の話なんですけど、ドラムをめちゃくちゃ激しいロックの感じにするのか、わりとシュッとしたスタイルにするのか、最初、その2パターンをバンド内で話していて、僕はけっこうガツガツした感じがいいと思ってたんですけど、「それだと普通っぽくなりそうだから、スタイリッシュにいきたい」という康司君の提案があったので、スタイリッシュな、ちょっとドラムンベースっぽいアプローチを意識しました。この曲はスネアドラムの上に小さいシンバルを乗せて叩いているんですけど、そうするとスネアを叩いたときに微妙に金属音が残るんですよ。

―なるほど。


赤頭:「サイカ」でもやってるよね?

高橋:そうそう。「サイカ」のド頭のスネアの音はそれなんですけど、ここ4、5年ぐらいで、海外のドラムンベース系を得意としているドラマーはわりとよくやる手法になってきていて。昔だとドラムソロでやる人はいたんですけど、音源でも使うパターンが最近は増えてきて、それをこの曲でやったら合いそうだなと思って、取り入れてみました。生ドラムで打ち込みっぽいニュアンスを少し出してみようと思って作った音像なんですけど、今回いちばん、生と打ち込みの中間を、生ドラムを使って狙った音作りになっています。

―そういう曲にギタリストとして、どんなふうにアプローチしましたか?


赤頭:ギターよりもシンセのアルペジオのパンチをいちばん出したかったんです。宇宙っぽいじゃないですか、あのアルペジオ。デモのときからあのアルペジオの曲っていうイメージがあったので、聴いてもらう人にもそう思ってほしくて。だから、ギターはそれを立てるためにフレーズより音作りにこだわりました。ジャーンって感じに鳴っているんですけど、ギターの音だって気づいてもらえなくてもいいから、シンセを立てる音を鳴らそうと思いました。そう言えば、この曲は健司君もギターを弾いているんですけど、健司君のギターでは曲に合わなくて、僕が使おうと思っていた僕のジャズマスターを、先にリズムギターを録る健司君に使われてしまったので仕方なく......いや、仕方なくじゃないですけど(笑)。

―音色が重ならないように(笑)?


赤頭:同じのはイヤだなと思って、テレキャスターを使いました。でも、それが結果、良かったんですけど。

―今日は、普段、なかなか聞けない曲作りにまつわるお話をいろいろ聞かせてもらえて楽しかったです。最後に6月29日に開催するフレデリック初の国立代々木競技場第一体育館ワンマンライブ「FREDERHYTHM ARENA 2022」の意気込みを聞かせてください。


高橋:『フレデリズム3』を表現するうえで、代々木第一体育館という広いところでやると、アルバムの世界をより表現できるんじゃないかということで決まった公演なんです。なので、音源を聴いて、楽しんでもらったうえで、ライブを観てもらったら、さっき話に出た「ラベンダ」のアレンジをはじめ、いろいろな変化にも気づけると思うし、CDとはまた違った表現......それは演出かもしれないし、アレンジかもしれないけど、そういうライブを観たあとでまた音源に戻ったとき、聴こえ方がガラッと変わると思うので、『フレデリズム3』を聴いてくださった方にはぜひ足を運んで、さらに『フレデリズム3』を楽しんでほしいと思います。

赤頭:たぶん、この日もマスクをして、声は出せないかもしれないけど、この間のツアーで、みんなが楽しんでいるってことを伝えようとしてくれていることはクラップの熱量からちゃんと俺らにも伝わってきたので、俺らも負けずに「思う存分楽しんでほしい」という熱量がみんなに伝わるようがんばります。

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取材・文:山口智男
写真:佐藤類


RELEASE INFORMATION

フレデリック 3rdフルアルバム「フレデリズム3」
2022年3月30日(水)

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初回限定盤:CD+DVD / AZZS-126 / 4,800円(tax in)

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通常盤:CD / AZCS-1106 / 3,333円(tax in)

◾︎CD(初回/通常共通)
和田アキ子に楽曲提供したセルフカバー「YONA YONA DANCE(フレデリズム Ver.)」や須田景凪とのコラボ楽曲「ANSWER」や先行配信中の「Wanderlust」ほか新曲含む全14曲収録
Track:
01 ジャンキー
02 YONA YONA DANCE(フレデリズム Ver.)
03 熱帯夜
04 VISION
05ラベンダ
06 サイカ <TVアニメ「さんかく窓の外側は夜」オープニングテーマ>
07 ANSWER / フレデリック×須田景凪 <「テイルズ オブ ルミナリア」インスパイアソング>
08 サーチライトランナー <Jリーグ アオアシ「グローイングアッププロジェクト」KICKOFFムービータイアップソング>
09 Wake Me Up <TBS系「CDTVサタデー」2020年10月オープニングテーマ>
10 Wanderlust <ニュージーランド政府観光局「ニュージーランドの旅を想像しよう」キャンペーン動画テーマ>
11 YOU RAY
12 蜃気楼
13 TOMOSHI BEAT <「テイルズ オブ ルミナリア」オープニングテーマ>
14 名悪役

◾︎初回限定盤DVD
FREDERHYTHM ARENA 2021~ぼくらのASOVIVA~ at 日本武道館(2021.02.23)
Track:
01 Wake Me Up
02 リリリピート
03 もう帰る汽船
04 ふしだらフラミンゴ
05 他所のピラニア
06 正偽
07 うわさのケムリの女の子
08 まちがいさがしの国
09 スキライズム
10 オンリーワンダー
11 されどBGM
12 サーチライトランナー
13 オドループ
14 名悪役
※メンバーによるオーディオコメンタリー付

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LIVE INFORMATION

FREDERHYTHM ARENA 2022
2022年6月29日(水)open 18:00 / start 19:00
会場:東京 国立代々木競技場第一体育館
料金:前売 ¥7,700(税込)

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