SENSA

2022.05.26

従来のイメージをひっくり返す「踊れる」音楽──ゆうらん船 2ndアルバム『MY REVOLUTION』

従来のイメージをひっくり返す「踊れる」音楽──ゆうらん船 2ndアルバム『MY REVOLUTION』

ゆうらん船が2ndアルバム『MY REVOLUTION』を完成させた。シンガー・ソングライターの内村イタルを中心として2016年に結成し、それぞれが多方面のプロジェクトで活躍している5人組バンド......というような枕詞も、もはや不要な気がしてくる。1stアルバム『MY GENERATION』(2020年)でそれまで色濃かったフォーク・ロックに加えて、サイケデリック・ロックや最新のR&Bやヒップホップまで貪欲に取り込んでいった現代のロック・サウンドを展開。それ以降、プレイヤビリティ溢れるミュージシャンの集合体という在り方そのものは変わらないのだが、5人にとっての航空母艦みたいな本拠地として、より結束が強まったようにも感じていた。

そして2年ぶりのアルバムとなる本作では、5人の音楽的興味や志向を緻密に同居させていく姿勢がさらに加速。楽曲の構成やメロディがシンプルになった分、音響面でのアイデアが豊富で確かな成熟を遂げた。内村の歌は変わらず軸としてありつつ、緊張感を保ちながら、思わず身体を揺らしてしまう。この高揚感やスリルはもはや今現在、どこを見渡しても本作だけでしか得難いものではないだろうかとも感じている。そんな新作『MY REVOLUTION』について、内村イタル(Vo / Gt)、砂井慧(Dr)、本村拓磨(Ba)の3人にリモートでインタビューを実施した。


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L→R:永井秀和 (Pf) 、内村イタル(Vo/Gt)、本村拓磨 (Ba)、砂井慧 (Dr)、伊藤里文 (Key)


100%納得いくまで制作したかった

―2年ぶりのアルバムとなりますが、どんないきさつで本作の制作は始まりましたか?


内村イタル(Vo / Gt):レコーディングの進め方を変えたいということは、『MY GENERATION』をリリースした直後からみんなで話していました。前作は伊豆スタジオに合宿して5~6日で一気に全部録音したので、次に作る時はもう少し時間をかけたいねと。だから今回は梅ヶ丘のhmc studioに毎月1,2回くらい集まって、じっくり作っていきました。

砂井慧(Dr):『MY GENERATION』は今思えば過渡期みたいな作品で、それ以前に出してきたEP(『ゆうらん船』(2017年)、『ゆうらん船2』(2019年))とは大きく違って、ポストプロダクションをしっかりやるようになりました。だけどまだ意識し始めたばかりだし、短い期間でレコーディングしたので、もう少しアプローチを考えるところからしっかり取り組みたかったんです。

本村拓磨(Ba):そういう意味では前作からやりたいことやモチベーションはそんなに変わってなくて。でももっと時間がかけられたらどうなったんだろうと思う部分もあったので、今回は自分たちが100%納得いくところまでやってみようとしました。

砂井:今回はまずベーシックを録音して、それを元に上物やダビングをどう重ねていくのか考えてからまた次の録音......という工程をとにかく繰り返しましたね。去年の6月くらいから始めて、今年の2月までずっとレコーディング期間。腰を据えてできた気がします。

―前作はイタルさんの家でレコーディングに入る前の曲作りやプリプロダクションを進めていたということですが、そこのプロセスは今回どうでしたか?


本村:前回ほど全員で集まることはなかったですね。その代わり知り合いのレコーディングスタジオを作業場として時間を気にせず使えることになったのでそちらに移りました。内村家での作業はイタルと永井(秀和 / Pf)が2人で作業をする時くらい?

内村:そうだね。今回も自分が弾き語りで曲の大元を作ったんですが、永井と一緒に構成やコードを決めていって、全員に渡すまでの作業をしたくらい。それ以降はその作業場とかhmc studioに集まって進めました。

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―進め方は大きく変わったようですが、アルバムの音楽性やテーマとして考えていたことはありましたか?


内村:レコーディングを始めた時は曲も出そろっていなかったので、最終的に全体像が見えてきたのも、2022年に入ってから。だから全体として考えていたことはなかったかな。

本村:でもEPの頃から『MY GENERATION』ができたあとも、フォークという言葉で表現されることが多かったので、そう思われないようなものを作りたいとは話していましたね。

内村:確かに結成した当初は全員で共有する音楽もウィルコとか、フォークっぽいものが多かったのでなんとなくそうだろうなと。でももうダンスミュージックとか色々幅も広がっているので、もう違う方向にいっていることは見せたかった。

―フォークに当てはめられることに対して自覚的に抗いたかったということでしょうか?


砂井:我々の音楽が「フォーキー」と形容される場合、温かさやナチュラルな音像を言い表していて、音楽の様式としてはすごく曖昧なものだという気がするんです。だからそこに収まるのはつまらないねと。でもシンプルに聴いていた音楽が移り変わっていっただけだと思います。前回のアルバムが完成した直後からトーキング・ヘッズや、アーケイド・ファイアみたいな踊れるようなものを聴いていたので、そこが今回は反映された。

―あくまでゆうらん船はいわゆるフォークロック・バンドではなく、5人がその時々で変化していく嗜好を反映していくバンドだと。


本村:まったくその通りです。

それぞれ違うこだわりポイントが作品にもたらしたこと

―その変化していく方向に対して、5人の足並みは揃っているんですか?


砂井:実際にみんなで話し合ったことはないんですけど、聴いているものやどこを重視して聴いているのかも違うので、音楽に取り入れるポイントが違う気がします。例えば僕は全体的なイメージでしか考えなくて「こういう音楽をやってみない?」って関連するバンドの音楽をかけてみたりする。でも本村くんとか伊藤(里文 / Key)さんは、使う機材や具体的にどういう音色にするとか、ディティールに考えを反映させていく。それぞれのこだわりポイントが違うから、やりたいことをミックスさせられるんだと思います。

本村:確かにゼロから1を作るようなアイデアは砂井くんが出してくれることが多い。

砂井:逆に僕は全然機材とかわからない。だから方向性を打ち出したら投げっぱなしで、あとはみんなが散らばってそれぞれが何とかする。だから最終地点は全然予測できていないし、イニシアチブは誰もとっていないんですよね。

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―すごく面白いバンドのあり方ですね。3人それぞれの本作で反映されているこだわりポイントを伺いたいです。


内村:僕はやはりソングライティングに反映されると思うんですが、今までとは違うこととして、使うコードが少なく、リフレインしながら展開していくようなものがやりたいなと意識していました。ギターの弾き語りで作っている段階ではちょっと物足りなくて、他のみんなが乗っかる余地を大きく残すような。

―そこが先ほど砂井さんが仰っていたトーキング・ヘッズや、アーケイド・ファイアのような「踊れる」ものに繋がっていると?


内村:そうですね。特に『アメリカン・ユートピア』は制作の途中で観て、リズムの陶酔感がやっぱりかっこよかったし、映画としても去年見た中ではかなり刺さりました。特に"Waiting for the sun"とか"Parachute"、"Hurry up!"あたりは、なんとなく頭の片隅にイメージとしてあったかもしれません。

―本作でもポイントとなるリズムの部分について、砂井さんはどんな意識がありましたか?


砂井:ドラムについては、フィルインを少なくできたことに満足しています。今回そうしたかったというよりも、昔からずっと考えていたことで、音源では演奏で自己表現をしたいという考えが一切ないんです。ライブだったら盛り上がりをつけるために必要だと思いますし、手癖も出てしまいます。だからライブやリハーサルで仕上げていった曲を録音する場合、「なんとなく」なフレージングのまま収録してしまう。
でも今回は最初から音源に向けた制作だったので、まっさらな状態からまずはリズムがどうあるべきか考えてから、その後に上物やダビングを考える進め方でした。なので反復性があるリズムが適切だと判断できたし、フィルインはほぼ使わない割り切ったものができたんだと思います。"Waiting for the sun"なんて一つもない。

―ドラマーとしての表現欲求はなく、ゆうらん船の表現としてどうあるべきかだけを考えることができた感覚なんですかね。


砂井:はい。だからドラムを練習するモチベーションも沸かなくて、いつまで経ってもうまくならないんですけどね(笑)。あくまでドラムはその曲をよくするための道具だし、自分はその曲にふさわしい演奏ができるパーツでありたい。今回はそれがしっかりできた。

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―砂井さんのスタンスがよくわかりました。本村さんは今回一部でミックスも担当されていますね。


本村:"Parachute"、"Hurt"、"Headphone2"の3曲を手掛けたので、そこに自分のやりたいことが反映されていると思います。先ほどから出ている「踊れる」ものを音響の部分でどう表現すればいいかを考えるのが今回の僕の大きな役割でした。単に低音が強く出ていて、四つ打ちで「踊れる」とするのはやはり安直ですし、実際にそういう曲ではない。ただイタルが作ってきたコード進行やメロディ、歌詞にはリフレインが多かったので、全ての楽器が等しくクリアに聴こえるようにしようと思いました。5人が鳴らす縦のビートが揃っていて、有機的に交わっている状態を「踊れる」としてみようと。まさに『ストップ・メイキング・センス』や『アメリカン・ユートピア』で一人一人が放っているリズムが絡み合って一塊になっているあの感じ。

内村:本村くんの話聞いて、確かに5人の音が絡んでいる感じがよく聴こえるようにはしたいと曲作りの時から思っていました。だから僕の歌はこれまでより落ち着いていて、キーも全体的に下がっているんです。全然意識してなかったけど、一歩引いた感じにしたかったのかもしれません。

本村:自分がミックスしていないそれ以外の曲もhmc studioの池田洋さんの作業にはほぼ立ち合って、お話ししながら仕上げていったので、アルバム全体としてもこの有機的な絡み合いや塊という意識は反映されていると思います。あ、"Headphone2"は少し違って、自分がエレクトロの音でとにかく遊んでみたというものですが。

―永井さん作曲による"at dusk"と、本村の"Headphone2"もインタールードとして、それぞれの色を強く感じます。またイタルさんは以前のインタビューで、アルバム制作中のバンド内では「ハイパーポップ」という言葉が流行っているとコメントされていました。


内村:それも去年レコーディングしている最中に、砂井くんが今聴いているものとして教えてくれたんだと思う。

砂井:そうですね。A.G.クックとか去年亡くなったソフィーを聴いていく内に、ムーヴメントに気づいて、しばらく調べていた時期があります。とりあえず流行りは一通りチェックしておきたいので(笑)。本作に直接的な影響を与えたわけではないと思いますが、内省的な爆発感とか、内にこもったパワーみたいなハイパーポップが持つイメージは反映されているかもしれませんね。

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―新しい試みも多い一方で、本村さんと伊藤さんはパーカッション、永井さんがチェロ、砂井さんがエレキと、イタルさん以外は全員楽器を持ち換えた"少しの風"と、最後の"good morning"は、これまでのゆうらん船を引き受けるような印象も感じました。


本村:"少しの風"こそ砂井さんのヘッド・アレンジが光った曲じゃないでしょうか。

砂井:聴いた直後からヴェルヴェッツ(ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)の"Heroin"がアレンジのイメージに浮かびました。それぞれが持つ楽器を変えようというのも、"Hurry up!"まで緻密に作り上げた「踊れる」スタンスからの箸休めという意味合いもあります。この曲と"good morning"は、少し一階層上がったメタ的なものにして、カーテンコールみたいに聴けるようにしました。『MY GENERATION』も最後は"Rain"といういわゆるフォーキーな小品なので、こういう締め方が好きなんですよね。

内村:確かに"good morning"はアルバムの中で唯一、EPの頃に近い雰囲気を持った曲だと思っていました。重めな曲が多いし、最後はトンネルを抜けるような、一息ついて終わるようにしたかったんです。



もはや「内村イタルの音楽を表現する」というバンドではない

―そんな本作を『MY REVOLUTION』というタイトルにしたのはどういう意味がこめられていますか?


内村:前作を『MY GENERATION』とした時点で、次は『MY REVOLUTION』と何となく考えていました。言葉の強さがいいなと。またコロナ禍という状況や、その中で作った音楽も大きく変化しましたし、ちょっと大げさかもしれないけど、これが自分たちの『REVOLUTION』と言ってしまおうと思ったんです。

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―『MY GENERATION』の時はタイトルについて、それぞれ個人のバックボーンや環境がある中でバンドとして集まることの大事さを込めたという旨を仰っていました。5人の関係性は前作から2年を経て変わったところはありますか?


砂井:確実に仲良くなっているんじゃないですか(笑)?。それぞれが別の音楽活動や仕事もしていた中で集まった5人なので、結成した当初はこの集団でどういう音楽をやるのか、その都度チューニングしながらやっていくことが大事だと思っていました。でも最近は特にそこを考えなくてもみんなの考えていることがわかってきたし、方向性を確認したり、調整点を見つける必要もなくなってきた。だからそれぞれが好きにやるようになりましたね。

―そうなった背景には、何かきっかけがあったのでしょうか?


砂井:それまでは内村イタルの音楽をこのバンドでどう表現するかが目的だったと思います。だけど『MY GENERATION』を完成させたあたりから、そこは関係なくなったというか。5人がその時々でやりたいことを反映させていこうというモードになったので、前作がやはりターニングポイントだった。

―『MY GENERATION』でこのバンドのあり方が定まって、その方針をさらに推し進めたのが『MY REVOLUTION』と位置付けられそうですね。


砂井:そうかもしれません。

本村:実際に今回は時間もかけたので、自分たちの意思が隅々まで反映できた手ごたえはあります。ジャケットも自分たちで考えて、伊藤くんが撮った写真を使いました。5人が集まって、構図を変えながら何パターンも撮影したものから、砂井くんが鏡に映った赤い写真を選びました。これもレコーディングしている時と同じような熱量とテンションでやれたと思います。

―では本作を経て、次に取り組みたいことやアイデアはありますか?


内村:かなりカロリーが高めな作品になったので、次はもう少し開けたようなことをやってもいいかな。

砂井:前作に戻るということではなく、温かくて、少しレイドバックするような方向はいいですね。個人的には2010年代前半のザ・ウィークエンドとか、ジェネイ・アイコみたいなアンビエントR&Bと言えるようなものが最近のモードなんですが、次の作品を作るタイミングでどうなっているかはまだわかんない。

本村:自分の興味はここ数年電子音楽に寄っているので、リズムマシンとサンプラーをいじる時間が増えました。聴く音楽も90年代〜00年代のテクノやエレクトロニカが多いのですが、それをこのバンドにどれほど持ち込むかはわからない。でもフォーク的な温かいサウンドにもそういう音を導入する術はたくさんあると思うし、とにかくこれまでのイメージをひっくり返すような音楽をやっていきたいですね。

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取材・文:峯大貴
撮影:馬込将充

RELEASE INFORMATION

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ゆうらん船「MY REVOLUTION」
2022年5月25日(水)
Format:Digital
Label:O.O.C Records

Track:
1. Waiting for the sun
2. Flag
3. Parachute
4. Tide
5. Bridge
6. at dusk
7. Hurt
8. Headphone2
9.Hurry up!
10. 少しの風
11. good morning

ゆうらん船「Flag」Music Video


LIVE INFORMATION

ゆうらん船 2nd ALBUM「MY REVOLUTION」リリースツアー
2022年7月9日(土)
名古屋 KDハポン
OPEN 18:30/START 19:00
出演:ゆうらん船
チケット料金:前売り3,500円/当日 4,000円 +1drink
問い合わせ先:KDハポン

2022年8月11日(木・祝)
大阪 梅田Shangri-La
出演:ゆうらん船、Guest(後日発表)
OPEN 18:00/START 18:30
チケット料金:前売り3,500円/当日 4,000円 +1drink
問い合わせ先:GREENS

2022年8月13日(土)
福岡 Live House 秘密
OPEN 17:00/START 17:30
出演:ゆうらん船、小山田壮平
チケット料金:前売り3,500円/当日 4,000円 +1drink
問い合わせ先:BEA

2022年9月23日(金・祝)
東京キネマ倶楽部
OPEN 18:00/START 19:00
出演:ゆうらん船
チケット料金:前売り3,500円/当日 4,000円 +1drink
問い合わせ先:キネマ倶楽部

全公演オフィシャルサイト先行受付URL:https://eplus.jp/yuransen/
受付期間: 05/25(水)20:00〜06/20(月)23:59まで


ゆうらん船 インストアライブ
2022年6月20日(月)
新宿タワーレコード店


LINK
オフィシャルサイト
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