2022.01.20
YAJICO GIRL 四方颯人×BBHF 尾崎雄貴 共鳴するゲストと臨むツーマンイベント「YAJICOLABO」対談 -前編-
そこで今回は両バンドのフロントマン、BBHFの尾崎雄貴(Vo/Gt)と、YONA YONA WEEKENDERSの磯野くん(Vo/Gt)を迎えて、YAJICO GIRLの四方颯人(Vo)とそれぞれに対談を行った。ともにコンテストの出身で、音楽的な共通点も多いBBHFと、お互いが持ってないものを持っているYONA YONA WEEKENDERSとの対バンは、YAJICO GIRLの多面的な魅力を浮かび上がらせる機会になるはず。そんな予感を確かに感じさせる、充実の対談となった。前編は、四方と尾崎の2人に話を訊いた対談インタビュー。
バンド初期に共通していた試行錯誤
―今回のイベントでBBHFに声をかけた理由を教えてください。
四方颯人:Galileo Galilei(BBHFの前進バンド)のときからずっと聴いてて、憧れのバンドだったんです。僕が中3とか高1の頃に『PORTAL』が出て、当時USインディーとかを聴いてた中で、「日本でこんな音できんのや!」って驚いたんですよ。もともと「閃光ライオット」で名前は知ってたんですけど、うちのバンドのドラムに「たぶん四方これ好きって言うと思うで」って、『PORTAL』を教えてもらって、1曲目で「このシンセの音、海外のバンドでしか聴いたことない」ってなって。しかも、二番煎じとか焼き直しじゃなくて、ちゃんと日本のポップスとして、メロディーもよくて......そこからもうトリコです(笑)。
―そんなバンドと、遂に共演を果たすと。『PORTAL』はGalileo Galileiにとって2枚目のフルアルバムですが、あの作品を作った当時のことを話していただけますか?
尾崎雄貴:ひたすらレーベルと喧嘩してました(笑)。今思い返しても、すごくワガママなバンドだったと思います。一旦東京に出てきて、また北海道に戻って、メンバーと共同生活をしながら作ったのが『PORTAL』という作品だったんですよね。僕らはその前に「閃光ライオット」で優勝して、メジャーデビューをしたわけなんですけど、その頃は正直まだコピーバンドの延長でやってたところがあって。まだ自分たちの音楽みたいなものがないままプロとしてデビューして、メジャーのバンドとして活動しながら、他の人だったらデビュー前に経験するであろう成長を、ファンの人に見せながらやってきたというか。でも最近はその時代を見ていた人たちが支持してくれることが増えて、自分たちとしては恥ずかしいあの姿に共感してくれてたのかなっていう気はしています。
―まさに、四方くんもその一人だと言えそうですよね。YAJICO GIRLが2019年にリリースした『インドア』という作品は、デビュー当初の音楽性からブレイクスルーを果たしたという意味で、『PORTAL』とも似た意味合いの作品だったように思います。
四方:規模感は違うと思うんですけど、そんな気はします。活動しながら音楽的に成長していったのは同じというか、僕らは「閃光ライオット」の後に始まった「未確認フェスティバル」で優勝したんですけど、そのときは初期衝動的な感じだったから、このままこのテイストで曲を作り続けたら、途中で限界が来るというか、やってて楽しくなくなりそうだなっていうのがあって。なので、一回ワガママを言って、自分のやりたい音楽をやらせてもらったタイミングで、あの作品を作れてよかったなと思ってます。
―やっぱり、2組の始まりには似てるところがありますね。尾崎くんはYAJICO GIRLに対してどんな印象を持っていますか?
尾崎:対バンの話をもらって、YouTubeで曲を聴いて、音が洗練されてるなと思ったのと、あと僕はちゃんと歌詞が聴き取れる歌がすごく好きで、自分もそうありたいと思ってるんですけど、YAJICO GIRLもすごく歌心のある音楽だと思いました。なので、一緒にステージに立つのが想像できるというか、ときどき想像できないバンドもあるんですけど(笑)、今回は想像できる対バンだと思いました。
四方:うれし!
―作り込まれたサウンドメイクの一方で、日本語の歌心があるというのは確かに共通点だと思います。四方くんもそこは意識していますか?
四方:「同じです」とは恐れ多くて言えないですけど(笑)、でもそうですね、日本語の歌詞の乗せ方とか、日本語のポップスとしての強度みたいなものは結構意識しているので、通じるところというか、すごく影響を受けてる部分だと思います。
それぞれの曲作り。スタジオか、ラップトップか
―どちらもスタジオでセッションをして曲を作るようなオーセンティックなタイプのロックバンドではないというか、曲調やサウンド感も幅広いですし、現代的なバンド像を体現しているように思います。改めて、それぞれの曲作りについて聞いてみたいです。
四方:僕らはまず僕が家でデモを作って、それをメンバーに共有して、各々アレンジを足し引きして、微調整して、それで完成ですかね。デモの完成度は曲によっていろいろで、弾き語りくらいのときもあれば、「もう何も変えたくないです」くらいのときもあります。『インドア』のときはデモで作ったのがそのまま採用されたようなのもあったり。
『インドア』から『アウトドア』、新作の『Retrospective EP』までの間では、どんな変化がありましたか?
四方:自分の濃さがちょっとずつ......「薄まってる」と言うと悪く聞こえるかもしれないけど、他の人の意見やアイデアを取り入れるパーセンテージが増えた気がします。『インドア』でガラッと音楽性を変えるってなったときは、バンドの中で共有できるイメージがなかったから、自分が「こういうのをやりたい」っていうのをしっかり作らなきゃいけなかったけど、それを聴いていいと思ってくれたので、ちょっとずつ他の人にも委ねられるようになってきました。
―BBHFの曲作りはいかがですか?
尾崎:僕はずっと兄弟で、ドラムの和樹と一緒にやってて、中学生のときにカセットMTRを使って曲を作り始めた頃から変わってないと言えば変わってないんですよね。そこに誰かが参加するかしないかの違いで、これからもそうなんだろうなって。BBHFになってからはより兄弟でやってる感じで、正直やってること自体は一人でやるのとあんまり変わらないことを、わざわざ2人でやってる感じも若干あるんですけど(笑)、でもそれが自然だし、どっちが欠けても曲を仕上げられない気がします。今僕の家にスタジオがあるので、和樹は基本毎日そこに出勤するみたいな感じで、ちょっとめんどくさそうに来るんですけど(笑)。その分、第三者は入りづらいと思うので、そこが兄弟のいいところでもあり、悪いところでもあるのかなって。
―最近はコロナの影響もあって、バンドでもリモートでの曲作りが増えてますけど、BBHFの場合は自分たちのスタジオがあるので、そこは強みですよね。
尾崎:そうですね。DAIKI(Gt)くんもなるべく呼ぶようにしてますし、自分たちのスタジオでミックスも含めてある程度やっちゃうので、おそらく周りが想像する以上に肉体的というか、実際に合わせながらやってる感じはあります。まあ、ラップトップを使うことは今みんなやってると思うんですけど、それって単なるデータのやり取りというよりは、ラップトップの中でセッションをしてる感覚なので、リモートだからと言って何かが変わるわけではないというか、その感覚はどんな環境でも変わらない気がします。
―YAJICO GIRLはコロナ以降でレコーディングの方法に変化はありますか?
四方:レコーディングは各々が竿をパソコンに繋いで録音するのが主流になりました。けど、作ってる段階ではそんなに変化はない気がします。それこそパソコン上のセッションじゃないけど、僕らもそうやって作ってる感じです。
―自分たちのスタジオがあるのは羨ましいですよね。
四方:羨ましいですね。
尾崎:ただ、レコーディングスタジオにちゃんと入ることも大事だなって。最近ビートルズのレコーディングの映画(『Get Back』)を観ても思ったんですけど、ああやってスタジオにメンバーが集まって、そこで出し切らないとダメだっていう時間って、すごく貴重だし、それでしか出せないものが絶対あるなって。なので、自分たちのスタジオはあるけど、あえてレコーディングスタジオを借りて録音したりもしてます。
―もちろんラップトップは便利だし、緻密な作業もできるけど、やっぱりレコーディングスタジオで録るという作業には特別なものがあると。
尾崎:ラップトップもスタジオに持って行って、でっかい卓の上にMacをポンって置いてやる、そういうのが大事っていうか。「俺たちはプロで、レコーディングスタジオでやってるんだ」っていう、そういう気持ちも大事だなって、最近特に思いますね。
直接的ではない「リファレンス」の在り方
―この1~2年で刺激を受けた音楽、リファレンスになった音楽についてお伺いしたいです。
尾崎:最近「これ!」っていうのを聴く感じがなくなっちゃって、Apple Musicが自分に合ったやつを選んでくれるじゃないですか? あれをダラッと聴いて、気に入ったやつを自分のプレイリストに入れて、その中からランダムにリファレンスにしてるというか。例えば、曲調は全然エド・シーランじゃないんだけど、あえてエド・シーランを参考にしてみるとか、わざと異質なものをリファレンスにしたりはしてますね。「これがやりたかったんでしょ?」っていうものになっちゃうと単純に面白くないし、リファレンスがあってもある段階から聴かないようにするとか、そうやってコントロールはしてます。
―今年よく聴いた特定のアーティストとか作品を挙げてもらうのは難しいですか?
尾崎:そうですね......女性シンガーが好きで、自分の歌も若干そっちを意識しちゃう、みたいなところがあるんです。ROTH BART BARONの三船(雅也)さんと対談をしたときに、「ディーヴァ感がある」と言ってもらって、それまで言われたことなかったけど、「なるほどなあ」と思ったりもして。それで言うと、最近ひたすら聴いてるのはケイシー・ヒルなんですけど、でもそれが何かの曲に出てるかっていうと、そういうことでもないかなって。それこそ『PORTAL』のころは、そのとき好きで聴いてたものの影響が顕著に出てたと思うんですけど、今はもっと実生活の部分、例えば、「寂しい」とか「今日は満たされてたな」とか、そういう想いをどう音にするかとか、そういうのが大きいですね。昔は「こう見てほしい」っていう気持ちで音楽をやってたけど、今は自分の中にあるものを出したいなって、今さらですけど、ゆっくりそうなっていった気がします。
四方:BBHFのファンとしてはめちゃめちゃ貴重な話ですね。話を聞きながら、「そうかあ」「確かになあ」ってなりました。Galileo Galileiは海外文学っぽい歌詞が多かったと思うんですけど、最近の「カラオケに行こう」みたいな、ああいうのは昔なかったよなって。あと、僕もケイシー・ヒルは大好きで、プロデューサーのジム・イースタックとかも好きですね。オルタナティヴ、インディー、エレクトロ、どこにも属さないけど、でもその全部を感じる、ああいうのはこの1~2年好きで聴いてます。
―それが最近のYAJICO GIRLにも還元されてる?
四方:『インドア』のときとかは、アレンジからミックス、マスタリングの出音感まで、全部自分でプロデュースして、ディレクションしてって感じだったので、そのとき聴いてる音楽の影響が顕著に出てたと思うんですけど、他のメンバーのアレンジが入ってくることによって、「これがリファレンス」っていう分かりやすさは薄れてきたと思いますね。
曲調が広がった新作『Retrospective EP』について
―さっきの「オルタナティヴ、インディ、エレクトロ、どこにも属さないけど、でもその全部を感じる」というのは、YAJICO GIRLの新作もそうだなと思いました。
四方:今回は「曲ごとに全然違う曲を」っていうのがあったんです。例えば、「雑談」はハイパーポップとか、ああいうバキバキなのを意識したし、「チルドレン」はめちゃめちゃJ-POP、地上波のドラマ主題歌でかかりそうな感じを意識したり、曲によってバラバラにしたかったんですよね。
―「雑談」や「どことなく君は誰かに似ている」のようなダンストラックが非常に新鮮でした。これらの曲が生まれたのはどういった背景があったのでしょうか?
四方:もともとすごく影響を受けてるフランク・オーシャンがナイトパーティーみたいなのをやってて、DJミックスが出てたり、自分もDJをちょこっとやらせてもらう機会があったりして、ダンスミュージックに興味が湧いたっていうのがありました。ただ、そこまで「それをやろう」と思ったわけではなくて、今回はYAJICO GIRLの音楽の幅を広げたかったんですよね。今まで「それはナシ」みたいなのをバンドの中に作っちゃってたけど、「どこまで行ったら(自分たちが)無理してることになるのやろ?」っていう(一歩手前の)ラインを探したEPな気がします。
―おそらくは尾崎くんもGalileo GalileiからBBHFでの活動を通じて、同じように少しずつ曲調の幅を広げていったんでしょうね。
尾崎:ライブのセトリを決めるときに、曲の幅が広いと大変ではあるんですよね(笑)。そんな中で、軸を決めるのが大事というか、僕らは何よりドラムがしっかり気持ちよく鳴っていることを大事にしています。僕はフリートウッド・マックにめちゃくちゃ音楽観を変えられたんです。彼らのライブ映像を観て、「ドラムの音だけでもご飯食べれる」みたいな、あの音を聴いて、サウンドに対する考えが大きく変わりました。
―いつ頃の話ですか?
尾崎:Galileo Galileiの『Sea and The Darkness』を出す前くらい、あの頃からライブに対する考え方も変わって。それまではライブが嫌いだったんです。「再現しなきゃいけない」っていうのが怖くて、裸にされる感じもあるし、立たなくていいならなるべくステージには立ちたくないと思ってて。でも、作品性とライブが直結するようになってから、ライブも楽しめるようになりました。ライブのリハで一回ステージを下りて、ドラムの音を聴く時間がすごく好きで、「この音をお客さんも聴くんだ」と思うと、すごくワクワクするんですよね。
―曲調を広げるにあたっては、軸があることが大事だと。
尾崎:例えば、ケイシー・ヒルの声からはお母さん味を感じるんです(笑)。僕はあの声がすごく好きで、それが軸にあるから、サウンドが変わっても聴き続けると思います。
梅田クアトロはお互いに「パンチ」する日
―『Retrospective EP』はタイトル通り「振り返り」「回顧」がテーマになっているそうですが、なぜそのようなテーマになったのでしょうか?
四方:曲調がバラバラな分、歌詞の雰囲気は一緒がいいなと思ったのと、あと今回地元に帰ったときに歌詞を書いたんです。地元に帰るとノスタルジックな気持ちになるし、今僕は25歳なんですけど、まだ大人になり切れてない感じがありつつ、でも社会人で言うと2~3年目で、ちょっと中途半端な年というか。もうちょっとで成熟するけど、まだ子供の部分も引きずってる、その感じが出せるのはここ数年しかないと思って、そういう歌詞を書きました。
―BBHFは10月に「ホームラン」という新曲を配信でリリースしていますが、あの曲はどういったテーマで書かれたのでしょうか?
尾崎:DAIKIくんとかと、コロナ禍でちょっと疲れたから、子供に戻りたいというか、「何も考えずにギターを弾いてた頃に戻りたいね」っていう話をして、自分が昔から聴いてたthe pillows、くるり、BUMP OF CHICKENとかを聴き返したんですよね。自分がまだギターを弾けなかった頃に、曲を聴きながら、クラスメイトの前でギターを弾いてる姿を妄想してたのを思い出したり(笑)。自分がギターを持ったのって、「俺でもできるかも」って思ったのが大きかったから、「ホームラン」は誰でも弾けるような感じにしたくて。
―YAJICO GIRLとはちょっと意味合いが違うけど、でも「Retrospective」な1曲ではあるわけですね。2010年代はチルな雰囲気の方がトレンドだったけど、それが少しずつ変わりつつある中、2021年はギターサウンドも多く聴こえるようになってきたので、「ホームラン」はそういう時代性も感じました。
尾崎:音楽に対して、直にパンチしてきてほしいなと思うことが最近多くて、自分も直にパンチしたいなっていうのがありました。
―じゃあ、対バンは殴り合いですね(笑)。
四方:殴られるんですか?(笑)
尾崎:でもホントに、ライブもパンチされるようなライブが好きで、それはただ音がデカいとかそういうことではないので、YAJICO GIRLのライブにはすごく期待してます。
四方:パンチできるように頑張ります。尾崎さんにはこの前挨拶したときに直接言ったんですけど、僕が初めてGalileo Galileiを観たのが梅田クアトロなので、その場所で対バンできるっていうのは本当に楽しみです。よろしくお願いします!
取材・文:金子厚武
写真:鈴木友莉
RELEASE INFORMATION
YAJICO GIRL「Retrospective EP」
2022年1月19日(水)
Format: Digital
Label: MASH A&R
Track:
1.雑談
2.VIDEO BOY
3.どことなく君は誰かに似ている
4.チルドレン
5.Life Goes On
試聴はこちら
LIVE INFORMATION
YAJICOLABO 2022 "OSAKA / TOKYO"
2022年1月30日(日)梅田CLUB QUATTRO
YAJICO GIRL / BBHF
2022年2月5日(土)
渋谷 CLUB QUATTRO
YAJICO GIRL / YONA YONA WEEKENDERS
TICKET:
¥4,500-(税込/ドリンク代別途要)
一般発売:https://eplus.jp/YAJICOLABO/
LINK
オフィシャルサイト@YAJICOGIRL
@yajicogirl
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