SENSA

2021.09.06

VivaOla×Wez Atlas対談。最新作から紐解く、ジャンル論の無意味さとルーツの大切さ

VivaOla×Wez Atlas対談。最新作から紐解く、ジャンル論の無意味さとルーツの大切さ

ラッパーのWez Atlasがミニアルバム『Chicken Soup For One』を、R&Bシンガー/プロデューサーのVivaOlaが初のフルアルバム『Juliet is the moon』を発表した。アートコレクティヴSolgasaのメンバーとしてともに活動する2人は、グローバルなポップシーンと共鳴しつつ、英語と日本語を織り交ぜたラップや歌唱によって、ストリーミングを中心に多くのリスナーを獲得しつつある。そして、「自己反省と自己治癒」をテーマとした『Chicken Soup For One』と、『ロミオとジュリエット』を現代に置き換えたストーリーを展開する『Juliet is the moon』は、それぞれのアーティスト性をより広く知らしめる作品となるはずだ。お互いの楽曲に参加もしている2人に、制作の背景を聞いた。

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変化していく2人の居場所=Solgasaの定義

―8月14日に約1年ぶりとなるSolgasaの配信ライブがオンラインスペースFS.で開催されました。まずはあの日の感想から教えてください。


VivaOla:コラボの曲を中心に、普段やらない曲をやったりしたので、結構はっちゃけられました。Tommi Crane(Solgasaのメンバー)が留学でしばらく日本を離れることもあって、セットリストも彼がちょくちょく出るようにしたり、パーティー感があったというか。

Wez Atlas:もともとは2019年に下北沢のDaisyBarで、同じメンバーでライブをやって、いろんな友達を呼んで遊んでたんですけど、コロナになってからはみんなで集まってライブをすることができなくて、昨年も別々に収録した映像を編集して出す形だったんです。なので、久々にみんなで集まれて、すごく楽しかったですね。

―もともとSolgasaは常に一緒に動いてるわけではなかったけど、この1年はより個人個人の活動が目立っていて、特にWezくんとVivaOlaくんは外部のアーティストとコラボをしたり、外に開けた活動をしてきた印象があります。実際、意識の変化はありましたか?


VivaOla:昨年までは各々何をしたいのかがわかってなかったというか、漠然としてたと思うんです。でも僕で言うと、それこそもっと外側に出て、ある程度シーンにのし上がることで得たものをSolgasaに還元したいし、内輪ネタで終わりたくないんですよね。

Wez Atlas:Solgasaを始めた頃はまだ自分たちの音楽性も未熟だったけど、そこからみんなどんどん進化して、今年に入ってもう一回「Solgasaとは何なのか?」をみんなで話して、ちょっと定義が変わったような気がしていて。「コレクティヴ」という言い方は変わらないと思うんですけど、僕らが集まったときにやるイベントだったり、僕らが集まったときに作る音楽がSolgasaであって、常にSolgasaとして活動してるわけじゃないよなって。なので、この1年は僕もVivaOlaも自分のプロジェクトをやり、彼も言っていたように、自分の名前が前に出ることで、それをSolgasaにも還元できればなって。


Wez Atlasの作品に、VivaOlaが与えた逸脱
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―そうやって個々に動いて完成したのが今回の2作品で、まずはWezくんの『Chicken Soup For One』が7月にリリースされました。今年に入ってisseiやstarRoとコラボした曲もリリースしてるけど、それらの曲は入っていなくて、作品のコンセプトに見合う楽曲で構成されています。こういった形にしたのはどんな理由だったんですか?


Wez Atlas:僕は自分の頭の中の会話みたいな感じの歌詞が多くて、そこに誰か違う人の声が入るとちょっと違和感があるので、普段人とコラボするときはアプローチを変えてるんです。今回はソロの作品で、自分と向き合うことがコンセプトなので、客演はナシにしました。J・コールが客演を入れないことで有名で、「客演ナシでダブルプラチナ」みたいなのがミーム化されてるから、それに対する憧れもあったり。

―J・コールは以前から一番の影響源として名前を挙げていますもんね。アルバムの中で一番古い曲は昨年の4月に発表された「Overthink」で、あの曲が多くのプレイリストに取り上げられて、たくさんの人に聴かれた。っていうこともあって、あの曲の持っているムードが今回のミニアルバムの起点になったのかなと思ったのですが、いかがですか?


Wez Atlas:そうですね。音的にも歌詞の内容的にも、自分がいいと思うものと、人がいいと思うものがあの曲で一致したというか、自分が一番書きたいことを書いたら、みんながそれを喜んでくれたので、それをもっと大きくして、ミニアルバムにした感じです。



―「Overthink」にはプロデューサーとしてVivaOlaくんも参加していますが、どうやって作った曲なのでしょうか?


VivaOla:ThatKidGoranっていうビートメーカーのビートがYouTubeにあって、ドラムはそのまま使ってるんですけど、その上からピアノとベースとギターを重ねました。Wez Atlasっていうアーティストは真っ直ぐというか、純粋というか、さっき言ってたみたいに、自分がしたいことにいい反応がもらえたら、このまま同じことをやろうっていう強い意志があるんです。でも、プロデューサーとしてはある意味それに反するというか、本人が気づかない形で、そこからどれだけ逸脱するかを考えてたりするんですよね。なので、「Overthink」の捉え方も僕はジェームス・ブラウンみたいなオールドスクールなR&Bを模してるんですけど、それを彼がヒップホップ的に捉えて、結果的にはバラードみたいになってるっていう。

―そうやって生まれるある種のずれが、楽曲の魅力になっていたりしますよね。曲作りのスタートは基本トラックからですか?


Wez Atlas:曲によってきっかけが違って、「Overthink」はYouTubeのビートからだし、「Minestrone」はVivaOlaが俺に合いそうなビートを作ってくれて、そこからリリックを書いた感じだし、「Daily Calm」はリファレンスがあって、「こういう曲を作りたい」って伝えてできた曲なので、ホントに曲によってそれぞれですね。

―ちなみに、「Daily Calm」のリファレンスは?


Wez Atlas:マック・ミラーの「Good News」がすごく好きで、あのギターみたいな感じにしたいって、VivaOlaに伝えました。

―マック・ミラーは音もそうだし、作品の内省的なムードもリンクしますね。


Wez Atlas:そうですね。『Swimming』も『Circles』もすごく癒されるような音楽で、それは僕も目指してるところなので、結構参考にしてます。

―Wezくんはヒップホップ、VivaOlaくんはR&Bというそれぞれのルーツがありつつ、VivaOlaくんが参加したWezくんの曲はジャズ要素が強い印象もあるんですけど、そのあたりはいかがですか?


VivaOla:ジャズを感じるのは、僕にジャズのバックグラウンドがあって、それをWez Atlasに投げてるからっていうだけかなって。でも僕普段はジャズってEDMとかよりも聴かないんですよ。たぶん勉強したものと自分が好きで聴くものってまたちょっと違って、もしかしたらWez Atlasのほうがジャズっぽいものを聴いてるかもしれない。

Wez Atlas:ヒップホップの中にジャズが入ってるのはよく聴きます。でも僕普段からジャンルのことは全く考えてなくて、ビートを聴いて書きたいことを書くだけだから、自分でもこのアルバムに何のジャンルが入ってるのかあんまりわかってないかもしれない(笑)。

VivaOla:「Overthink」のギターを入れるときに彼と話したのは、「この音を入れると内向的な雰囲気が出る」みたいなことで、それってジャズというよりも、カントリーの考え方に近いんです。「音に意味を見出す」みたいな。「ここでこの音を出すと、歌詞のこの悲しさと連動する」みたいなことを言うと、彼はすごく納得してくれて、そういう考え方はカントリーっぽいけど、でもジャンルで言うとヒップホップで......難しいですね(笑)。

―単純にひとつのジャンルで括れるものではないですよね。


VivaOla:ジャズの話で言うと、プロデューサーのnonomiくん(『Chicken Soup For One』と『Juliet is the moon』の両方に参加)は僕が留学中に向こうで出会った仲間で、バークリーはジャズ要素が強い学校ではあるから、nonomiくんとはそういう話もできるんです。ただ、今回自分のアルバムを作るときに彼とよく話したのが、もうジャンルの時代じゃなくて、ルーツの時代だっていうことで。ネットとかも関係してくると思うけど、やることは何をやってもいい。ただ、大事なのは何をやるかよりも、その人のルーツが何なのか。それで言うと、Wez Atlasは間違いなくヒップホップなんです。


音楽がメンタルヘルスの時代に投げかけるもの
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―『Chicken Soup For One』の「チキンスープ」は体調が悪いときにおばあちゃんが作ってくれるもので、作品のテーマは「自己反省と自己治癒」だそうですね。このテーマはやはりこの1年の生活の中での自身の経験から生まれたテーマだったのでしょうか?


Wez Atlas:そうですね。コロナでずっと家にいて、授業もオンラインで、先が見えない感じだったので。ただ、昔自分が作った曲の歌詞を見返してみると、そこでも同じような内容を書いてたんですよね。なので、単純にこの1年の僕の状態というよりは、もともと僕の歌詞はこういう内容ばっかりだったっていう(笑)。アメリカのラッパーは社会問題について書いたりするけど、僕がそれをやっても説得力がない気がして、僕が書いて一番説得力があるのはこういう内容だと思うので、そこは貫いてますね。

―「This Is My Medicine」を意味する「T.I.M.M」という曲もあるけど、この1年だけではなくWezくんにとってもともと音楽は心の薬のようなものだったと。


Wez Atlas:そうですね。あと小さいときに、1日の終わりにその日がどういう日だったかを書くっていうのをお母さんとずっと一緒にやってたので、それもすごく影響してると思います。小っちゃいときからずっと「今日は楽しかった」とか「今日は上手くいかなかった」とかを日記みたいに書いてきたので、そういうことに敏感なんだと思います。

―今はもうやってない?


Wez Atlas:今は夜じゃなくて朝に書く、モーニングページみたいなことをやってます。悩みでも何でもそのとき頭にあることをバーッて書いて、クレンジングするというか。

VivaOla:それ僕も昔先生に言われてやってました。とにかく書くのを止めちゃいけないんですよ。どう書いていいかわからないときも、「わからない」っていうことをそのまま書けばいいって教えられました。「一回書くことで思考が整理される」とか言うけど、むしろその逆、整理されてない状態をそのまま出すことで、素直になれるというか。

Wez Atlas:僕がモーニングページのコンセプトを知ったのもJ・コールからで、彼がインタビューでジュリア・キャメロンの『The Artist's Way』っていう本を紹介してて。

VivaOla:僕もその本読んだ(笑)。

Wez Atlas:そのインタビューを読んで、すぐamazonで買って、それをやり始めたのが昨年の春くらいだから、そうやって書いてきたことがこの作品になったとも言えるかも。

VivaOla:もともとラップは上手かったけど、今回単語の選び方とか文章力がめっちゃ上がってて、英語圏でも文句言われないくらいの歌詞になったというか、ただ通じるっていうだけじゃなくて、ちゃんとキャラクターが立ったなって。だから、昨年作った「Overthink」とか「Minestrone」を聴くと、いつ作ったかわかっちゃう。

Wez Atlas:確かに、「Overthink」とか今聴くとすごくシンプルに聴こえる。筋トレみたいな感じでずっと書き続けてるから、自分ではそんなに差を感じてなかったけど、気づいたらめっちゃ重いの上げられてた、みたいな感じがしますね。

VivaOla:「Fun + Games」が一番好き。内容は重いけど、単語が精査されてるから、精密で、純度が高いものになってる。

―2曲目の「Love Me Not」はSNSがテーマになっていて、〈I wish I could turn it off/自戒のスイッチを消したい〉と歌われてるけど、WezくんはTwitterの昔の発言を一回全部消して、5月から再スタートしてますよね。


Wez Atlas:インスタも一回全部消したんですよ。昔の自分の写真を見ると恥ずかしい感じがして、自分のイメージをもっと固めなきゃと思って。ただ、そこはきれいに作らなくても、常に素であればそれが自分だから、気にしなくてもいいと思えるようになったんですけど、Twitterは全部消して、めっちゃすっきりしました。

―『Chicken Soup For One』はメンタルヘルスをテーマにした作品とも言えるわけで、やはりSNSの問題は避けて通れないものですよね。


Wez Atlas:それって僕ら世代の共通の問題というか、例えば、昔の人は戦争のトラウマが一番大きなメンタルの問題だったりしたと思うけど、僕らの世代にとってはSNSがすごく大きくて、普段はなかなか気づかないけど、すごくダメージを受けてると思うんですよね。なので、そういうことに関しては曲だけじゃなくて、子供たちへの教育だったり、将来的には音楽以外の形でも何か貢献したいと思っています。


日本のポップシーンに変革をもたらす作品を少数精鋭で目指す
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―続いて、VivaOlaくんの『Juliet is the moon』について聞かせてください。前作『STRANDED』が全曲セルフプロデュースだったのに対して、今回は外部からプロデューサーを招いているのが表面的な一番の変化だと思いますが、どんな狙いがありましたか?


VivaOla:一周した結論を先に言っちゃうと、やっぱり少数精鋭に限るというか。これって音楽の話だけじゃなくて、マーケティングとか、さっきのSNSでのアーティストイメージとかもそうだと思うんですけど、やっぱり自分でできることは全部自分でやった方がいい。最終的にはそう思ったんですけど、そこに辿りつくまでの過程で学びは多かったです。

―「一回トライしてみる」というような感覚だった?


VivaOla:そうですね。何事も「できるけどやらない」がかっこいいと思ってて、そういう意味でも、まずは何でもできるようになっておきたい。今回外部の人と一緒にやるという課題を乗り越えたことで、この課題は次から選択肢のひとつになるから、もしまた必要だと思ったら人を呼ぶこともできる。まあ、今回にしてもたくさん人を呼んだわけではなく、プロデューサー3人、客演3人、あと僕の計7人で、これくらいがきれいな形かなって。

―資料によると、今回のアルバムの背景には「日本の音楽シーンの在り方を、よりよくしたい」という想いがあったそうですね。歌詞は日本語の割合が増えていたりもしますが、日本の音楽シーンに対するアプローチを考える中で、「外部のプロデューサーと曲を作ってみる」という課題にもチャレンジをしたわけですか?


VivaOla:日本語の歌詞に関しては、さっきの「できる、できない」っていう話と一緒で、まずはできるようになって、選択肢のひとつにすることが今回の課題でした。

Wez Atlas:VivaOlaがいつも言ってるのは、「日本語を日本語っぽくなく歌う」みたいなことで、それは意識してるよね?

VivaOla:そうそう。さっきの「日本のシーンに対して」っていう話にも通じるんですけど、日本のシーンに対して何かを言うなら、自分が日本のシーンの中でどういう存在で、自分の日本語がどういうものかを考える必要があって、最終的に気付いたのは、「変革すること」が一番のテーマだと思ったんです。なので、歌詞で言うと既存のJ-POPに捉われない日本語の使い方をしたくて、一番それに近いかもしれない宇多田ヒカルを聴き直してみたり。

―宇多田さんを聴いて、どんな気づきがありましたか?


VivaOla:やっぱり音として捉えてるというか。日本語はちゃんと構成して、接続詞で繋げて、文章としてきれいにすると思うんですけど、英語は音で合わせて並べたら、韻が自然と内容を教えてくれたりするので、そのプロセスを日本語に当てはめてみたり。例えば、「こんにちは」は「ん」を除いて、「コニチハ」にしても音で通じると思うんです。「My Moon」でZINさんは〈本当はそんなじゃない〉を「ホトハソナジャナイ」って言ってて、あれも音で捉えて、ちゃんと意味が通じるっていう、そういう面白さとかですね。

Wez Atlas:VivaOlaとかZINさんがやってることって、ヤング・サグとかがやってることに近いというか、どんどんひねって、言語を面白く操るみたいな、そういうのは聴いてて面白いです。

―Wezくんはアルバム全体に関してどんな印象を受けましたか?


Wez Atlas:さっき「日本での居場所」みたいな話があったけど、VivaOlaに似てるようなアーティストは全然いない気がします。サウンド的にも、どこかのカテゴリーにスポッとハマらない感じがすごくいいなって。

―『STRANDED』の時点でサウンドは幅広かったけど、まだR&Bやネオソウルにカテゴライズしようと思えばできた気がする。でも、今回はもうそこも取っ払われたというか。


VivaOla:逆に『STRANDED』から変わってないのって、やっぱり「ルーツ」だと思うんです。外側に身に着けるものは関係ないというか、この10曲の「歌い方」に関しては、ロックでもポップでもなく......。

―「R&B」というルーツを確かに感じさせる。


VivaOla:そうなんです。だから、曲作りのプロセスはヒップホップアーティストに似てて、トップラインと歌詞だけ全部できてて、BPMも決まってて、トラックを後から作るっていう、ヒップホップみたいなことをR&Bでやってるんですよね。でもそれって別に珍しいことでも新しいことでもなくて、僕は海外ではよくあることをただ日本でやってるだけなので、そういうところを伝えていくのがVivaOlaというアーティストなのかなって。

―資料にも「海外の流行りを新しい音楽として提案するのは違う」とありますもんね。その意味では、starRoも海外の音楽シーンを熟知した上で、今は日本の音楽シーンとも向き合っているわけで、今回のコラボには必然性があるように感じます。


VivaOla:僕とWezくんでstarRoさんのホームスタジオに遊びに行って、とりあえず1曲作ってみて、そのとき「Vise le haut」のリミックスをお願いして。で、その後にもう一回「ちゃんと作りましょう」となって、それぞれ作りました。リミックスはアフロ要素が強かったけど、Wez Atlasの「Zuum!」は音楽的にはディスコに近くて、ギターがメインで、ロックの要素も入ってる。「All This Time」はキューバンアフロな感じで、パーカッション多めで、ジャズの要素も入ってる。そうやっていろいろ派生したのが面白かったです。

―「All This Time」を作ったときはどんなやりとりがあったんですか?


VivaOla:一応デモはあったんですけど、この曲はstarRoさんが「漢」を出してきて(笑)、「トラックは聴かないから、アカペラで歌って」って言われて、そこから作っていったので、僕はほとんど見てるだけというか。でもそこで変に僕っぽさを入れちゃうと、お願いした意味がなくなっちゃうし、それによって音楽的に広がったっていうのもあって。KRICK(「My Moon」と「Mixed Feelings」をプロデュース)にしても、僕と違ってUKがルーツにあるから、「Mixed Feelings」はUKガラージになってたり。これも日本と海外の話ですけど、日本のR&Bはみんな決まったジャンルしかやってない気がするんですよ。でも韓国にしろアメリカにしろ、歌とかコード感はR&Bなんだけど、入ってる楽器は全然違って、フューチャーベースもハウスR&Bもあり。僕のアルバムもそうなってると思います。

―日本のR&Bも一時期に比べるとだいぶ変わってきてると思うんですけど、最近日本人で面白いと思うアーティストはいますか?


VivaOla:SIRUPさんの『cure』は面白かったです。あれは使ってる楽器のテクスチャーも面白いし、音圧は低いんだけど、ボーカルは生もの感があって、本人はゴスペルっぽい歌い回しが上手いっていう、あれは面白かったですね。

―SIRUPさんとZINさんはSoulflexのメンバーで、あの周辺の人たちは面白いですよね。それこそ、ジャンルは何でもよくて、でもルーツがしっかりしてる人たちというか。


VivaOla:あっちはソウルがルーツなんですよね。で、僕はR&Bがルーツだけど、Solgasaはヒップホップが好きな人が多いから、そういう違いも面白いですね。
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古典文学『ロミオとジュリエット』からの発見
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―『Juliet is the moon』というタイトルは、『ロミオとジュリエット』の「Juliet is the sun」という一節をモチーフにしたそうですが、なぜ『ロミジュリ』を題材にしたのでしょうか?


VivaOla:何かを変えるとか、自分の存在を知らしめるとか、大きなアクションを取るときは、どれだけオルタナでいられるかが大事だと思っていて、でもオルタナでいるためには逆にクラシックを知ってないとダメだから、一回クラシックに戻りたいと思ったんです。僕はもともと読書は嫌いだったんですけど、中学生のときに何度も『ロミジュリ』を読まされて、個人的に一番恨めしい作品だからこそ、勉強してみようかなって(笑)。それで読んでみたら、面白かったんですよね。メタファー重視のストーリーだったので、ストーリーそのものというよりも、そのメタファーを結構取ってきた感じです。

―「Juliet is the sun」という台詞もまさにそうですよね。


VivaOla:もともとロミオが「月に向かって誓う」って言ったら、ジュリエットが「月は変わっていくものだから、あなたの私への愛も変わってしまうのね」って言われて、それで言ったのが「Julie is the sun」で、最後まで2人は変わらず愛し合ったんですよね。でも今回は「月みたいな愛情だったらどうなんだろう?」と思って、なおかつそれを自分が生きている2021年に置き換えて書いたっていう。

―マッチングアプリで出会った男女の話になってるんですよね。


VivaOla:『ロミジュリ』って、書き直される作品じゃないですか? 映画なんて3本くらいあって、レオナルド・ディカプリオのやつなんてギャングスタの話ですからね。ああいうのが結構インスピレーション源になりました。

Wez Atlas:VivaOlaがナレーターみたいな存在になって、ストーリーを語るっていうのが、僕とは違うやり方だなって。僕は自分の視点しかないから、偏ってるところもあるけど、VivaOlaは一歩引いてるから男女それぞれの視点が見えて、完全なストーリーになってる。

―Wezくんは客演ナシで、VivaOlaくんが客演アリなのはそういう作品性の違いも表していますよね。なおかつ、男女の話だからこそ、女性シンガーが参加していることにも意味があるし、さらに言えば、「Love you bad」に参加してるソウル生まれのYonYonさんはルーツも同じだから、そこにも意味があるなって。


VivaOla:でも、生まれのルーツはそんなに意識してなくて。もちろんルーツは大事だけど、人間的な多様性を考えて客演を入れたからかっこいいかって言ったら、そういうことじゃないというか、これからの時代はもうそれを意識しなくてもいい時代だと思っていて。とはいえ、いろんなバックグラウンドの人が参加してくれて、素敵なコラボレーションばっかりになったと思います。



それぞれのリリースパーティーと、その次に目指すもの

―最後にそれぞれのリリースパーティーについて聞かせてください。まずは10月にWezくんのリリパがありますが、どんな内容になりそうですか?


Wez Atlas:その日はアルバムのストーリーをステージ上で表現したいと思ってます。僕高校のときに文化祭の演劇に出たりしてて、そういうのも楽しかったから、ただ曲をやるだけじゃなくて、ちょっと演劇的な要素も入れたりして、面白いものにしたいなって。

―ちょっと気が早いけど、この次はフルアルバムを考えてたりしますか?


Wez Atlas:ああ......でも僕ここで引退しようと思ってて。

―え?


VivaOla:あははははは! 今の今年一面白かった!

―あ、ラッパー特有の引退詐欺か!


Wez Atlas:Logicとか「引退する」って言ってすぐ戻ってきたし(笑)。

VivaOla:ホントに引退したら面白いのに。で、カムバックアルバムを作る(笑)。

―『Chicken Soup For One』を出して引退したら、「ガチでメンタルやられたのか」ってなっちゃうと思うよ(笑)。


VivaOla:個人的に思ってるのが、やっぱりコロナになって、これからはもっと力がいると思うんですよ。人を持ち上げられるくらいの音楽の力というか。自分の作品はそれも考えて作ったつもりなので、もし次のWez Atlasの作品にも関われるとしたら、そういうところに力を入れると思います。

―自分の内側と向き合った作品を作ったからこそ、確かに次は外向きの作品を聴いてみたいっていうのはある。


VivaOla:『Chicken Soup For One』は僕の『STRANDED』に似てると思ってて、『STRANDED』は自分を見つめ直した作品で、あれがあったから、『Juliet is the moon』でここまで暴れられたというか、クラブサウンドを目指したのもあるけど、本質的に力強さを求めてたんです。90年代リバイバルみたいなのも、あの時代の力強さが今の時代に合ってるのかなって。

―そんな作品を、リリースパーティーではどんな風に表現するつもりですか?


VivaOla:シンガーとして一人でやりたくて、ステージには僕とDJだけで考えてます。あんまりバンドに興味がないというか、人数でごまかすみたいなのは嫌いで、自分が昨年からずっと努力してきたのは、一人でどれだけ存在感を出せるか、限られた中でどれだけ圧倒できるかなんです。自分はそういう人に圧倒されてきたから、それを次の人たちにも見せられたらなって。それも今の日本に足りないもののひとつだと思うんですよね。

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取材・文:金子厚武
撮影:山川 哲矢


PROFILE
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VivaOla
Pop×R&B シンガソングライター/ プロデューサー。韓国生まれ東京育ち。
2020 年6 月にリリースしたセルフプロデュースミニアルバム「STRANDED」は、J-WAVE TOKYO HOT100 にてトップ10 入りを果たし、Spotify 公式プレイリスト「Soul Music Japan」のカバーアーティストに選出されるなど大きな話題となった。2021 年9 月にはYonYon, ZIN, starRo などバラエティー豊かなアーティストを迎えた初のフルアルバム「Juliet is the moon」のリリースが決定。

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Wez Atlas
アメリカ生まれ、大分育ち、現在は、東京を拠点に活動するヒップホップアーティスト。多文化なスタイルを取り入れ、高いスキルで日本語と英語を組み合わせたラップを魅せる。HYPEBEAST JAPAN による注目の U20 アーティストに選ばれるなど徐々に注目を集める存在に。2021 年 6 月に starRo をプロデューサーに迎えた「Zuum!」をリリースし、SpotifyJapan の公式プレイリスト「Next Up」のカバー、そして 1 曲目に。さらには「Tokyo Super Hits!」にも選ばれた。今後の活躍が期待される中、待望のミニアルバム「Chicken Soup For One」をリリース。


RELEASE INFORMATION

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VivaOla 「Juliet is the moon」
2021年9月1日(水)
Format: CD / Digital
Label: HIP LAND MUSIC

Track:
1. Saving Grace (Intro)
2.Not Enough For You
3.My Moon (feat. ZIN)
4.Love you bad (feat. YonYon)
5.All This Time
6.Goodbye
7.Waste
8.Mixed Feelings
9.Over The Moon (feat. Sagiri Sol)
10.Two Years (Outro)

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Wez Atlas「Chicken Soup For One」
2021年7月21日(水)
Format: CD / Digital
Label: HIP LAND MUSIC
品番:RDCA-1066/CD価格:¥2300(税込)

Track:
1.Fun + Games
2.Love Me Not
3.Daily Calm
4.Chicken Soup Freestyle
5.T.I.M.M
6.Overthink
7.Minestrone

試聴はこちら


LIVE INFORMATION
VivaOla「Juliet is the moon」Release Party
11月20日(土)
渋谷WWW
OPEN 17:00 / START 18:00
¥3,500(税込/オールスタンディング/1Drink別)
出演 : VivaOla
GUEST : YonYon / and more

<オフィシャル先行>
期間:9月1日(水) 18:00~9月12日(日)23:59
受付URL:https://eplus.jp/sf/detail/3485600001-P0030001P021001?P1=0175

Wez Atlas「Chicken Soup For One Release Party」
10月29日(金)
渋谷WWW
OPEN 18:30 / START 19:00
¥3,500(税込/オールスタンディング/1Drink別)
出演:Wez Atlas and more...
※緊急事態宣言等の状況により詳細は変更になる場合があります

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