SENSA

2021.09.07

VivaOla「Juliet is the moon」──変わらぬ人間の本質を現代に問う、ファーストフルアルバム

VivaOla「Juliet is the moon」──変わらぬ人間の本質を現代に問う、ファーストフルアルバム

 噂が本当ならば、今月、iPhoneの新機種が出るそうだ。心待ちにしているApple信者のざわつきが早くも聞こえているが、iPhoneに限らず、すべてのスマホは日進月歩で発展してきた。高性能、高機能、高画質は当たり前。鮮やかな色彩には本当に驚かされる。
 音楽シーンをざわつかせている期待の新旗手、VivaOlaの初フルアルバム「Juliet is the moon」は、曇ったドラムと清涼な歌声のコントラストで幕を開ける。やがてファルセットに変わる歌声は絶品の美しさ。群青の海に差し込む光のように神秘的で、優雅でスムースチルな音風景が耳に広がっていく。
 ポップスとR&BをスタイリッシュにハイブリッドさせるVivaOlaの音楽は、多種多様な創意工夫で構築されている。仕掛けを凝らしたコーラスや立体的な音像はイヤフォンで聴くとなおさら耳を捕まれるだろう。それらはデジタル技術によって作られているわけだが、VivaOlaの音楽には、どこかアナログな佇まいがあるのが特徴だ。湿り気を帯びた彼のスモーキーな歌声がそう感じさせるのか。はたまた温もりを忘れないトラックの音色に因るものか。綺麗なだけじゃなく翳りもある彼の音楽に横たわるのは、エロス(生きる情動)とタナトス(破壊の衝動)。柔らかな聴感の奥にドロッとした人間臭さが渦巻いている。
 本作を制作するにあたり、彼が題材したのはシェイクスピアによる名作「ロミオとジュリエット」だったという。古典文学をどのように解釈し、反映させたのか。「Juliet is the moon」というアルバムタイトルの由来など、詳細は彼のインスタに投稿されているアルバム制作後記を参照して頂きたいが、本作は10曲で1つのストーリーを紡ぐコンセプト作となっている。
 スマホのスワイプで見つけた女性に心奪われた主人公。夜を照らす月のような女性と晴れて恋人になるものの、関係はすぐに冷え、捨てられてしまう。ひび割れた心。耐えようのない喪失感。色を失った世界。打ちひしがれて自己破滅を進む男の中には、やがて怒りと悲しみが沸き上がってくる。それを打ち消すように別の女性に幻想を求め、月の向こう側に隠れている太陽を探し続けるが、果たして空っぽになった心を埋めることができたのか......。そんな淡く切なく泥臭い物語が、感情の揺れ動きを音と声で見事に捉えた楽曲と共に繰り広げられる。
 VivaOlaは本作で、古典的かつ反逆的であることをテーマにしたという。発表当時は斬新で、のちに普遍的作品として語られるようになるものをめざしたそうだ。
 思えばスマホもそうだろう。電話という古くからあるものの概念を打ち破り、常識を一変させたスマホ。登場した当初は斬新で、すべてが目新しかったが、今では広く生活に行き渡り、当たり前のものとなっている。
 今、あなたはこれをスマホで読んでいるかもしれない。その手元のスマホで「Juliet is the moon」を隅々までじっくり味わって欲しい。そうすれば、古くから変わらない人間の本質ともいえる恋物語を通してVivaOlaが現代に伝えたかった、誠実と不実に気付くはずだから。

文:猪又 孝




RELEASE INFORMATION
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VivaOla「Juliet is the moon」
2021年9月1日(水)
Format: CD / Digital
Label: HIP LAND MUSIC

Track:
01. Saving Grace (Intro)
02. Not Enough For You
03. My Moon (feat. ZIN)
04. Love you bad (feat. YonYon)
05. All This Time
06. Goodbye
07. Waste
08. Mixed Feelings
09. Over The Moon (feat. Sagiri Sol)
10.Two Years (Outro)

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