SENSA

2020.07.08

odol | background - 「答えを出しながらここまできたバンド」odolの歴史を辿るインタビュー

odol | background - 「答えを出しながらここまできたバンド」odolの歴史を辿るインタビュー

6月24日に約7ヶ月ぶりのDigital EP『WEFT』をリリースしたodol。今作EP収録曲はオールタイアップソング。新たにodolを知ったという人も多いであろう今回のリリースタイミングでSENSAではodolを大特集!
(odolのMusic Videoやライブ演出に迫る記事 "odol | background" はコチラ
今回はodolを初期から知る、音楽ブロガー・ライターのレジー氏がodolの全楽曲の作曲を手掛ける森山公稀(Piano,Synthesizer)とフロントマンのミゾベリョウ(Vocal,Guitar)にこれまでの作品を振り返るスペシャルインタビューをリモートで敢行した。


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−このインタビューでは、これまでにリリースされた作品を振り返りながらodolの歴史を辿ってみたいと思っています。ちなみにお二人は過去の楽曲を聴くことはありますか?


森山 アルバムを通して聴くことはそんなにないんですけど、最近は「Rework Series」という形で昔の曲を録り直したりもしているので、その候補曲を選ぶためにざっと聴いたりすることはあります。

ミゾベ たまに昔の自分たちの音源を聴くと「正直下手だな...」って思う時もありますね(笑)。日々成長しているはずなので、そりゃそうなんですけど。

森山 (笑)。ただ、いきなり結論っぽい話になっちゃうんですけど、技術的にはまだまだ足りなかった1st(『odol』)や2nd(『YEARS』)も含めて、過去の作品が今の自分たちに対してほんとに大きな影響を与えていると思うんですよね。これまでリリースした曲が積み重なって今のodolがあるし、そういう意味で「間違っていたこと」は一つもなかったと自信を持って言えます。

−そうやって着実に歩んできたodolですが、これまで音楽的にも様々な変遷を見せてきました。今改めてodolのことを誰かに紹介するとしたら、どんなバンドだって言いますか?


森山 そうですね...いいバンドだと思います(笑)。

−なるほど(笑)。具体的にどういいんでしょうか。


森山 嘘をつかないバンドです。

ミゾベ そうだね。何事に対してもちゃんと向き合って、そして答えを出しながらここまできたバンドだと思います。

−わかりました。では、昔のことを思い出していただきながら、それぞれのタイミングでどんな「答え」を出してきたのか、いろいろお聞かせいただければと思っています。よろしくお願いします。


ミゾベ森山 お願いします!


【『odol』『YEARS』】「メロディへの美学は今も昔も全く変わっていない」



−2015年にリリースされた『odol』は、きのこ帝国やTHE NOVEMBERS、90年代のRadioheadあたりとの親和性を感じられるサウンドになっています。ああいう音からodolのキャリアが始まったことについて、改めて振り返っていただければと思います。


森山 「正直に音を出したらああなった」っていう素直さだったり青さだったりが大きいんですけど、当時は自覚的ではないながらも、感覚の中で「狙ってやった」部分もあると思います。ギターのノイズとミゾベの歌の相性がいいのは高校のころから一緒にやっていて何となく感じていたので、odolを始めた当初はそれを前面に出したサウンドをイメージしていました。

ミゾベ 当時、ギターがあれだけしっかり鳴っているところに正統派のピアノが入る構成のバンドは他にいないと感じていました。

−今とは音楽性が違いますが、「これがodolの音だ!」みたいな感覚はあったんですか?


森山 うーん...そういう感じではなかったと思いますね。ただ、「やけに褒められるな」とは思っていました(笑)。デモを送ったらUK.PROJECTの方に見つけてもらえたり、さらに結成して数か月でフジロックにも出られたりして(注:FUJI ROCK FESTIVAL '14のROOKIE A GO-GOにSuchmosやYogee New Wavesなどとともに出演)、「東京すげえ...」ってなってたんですけど(笑)。だから漠然とした「これならやっていけるかも」みたいな予感はあったんですが、自分たちがやっている音楽に関して「odolの音はこういうもの」みたいに言語化できるような状態には全くなっていなかったですね。

−このころの音源に関して、「今のodolと変わっていない部分」があるとするとどういったところでしょうか。


森山 音楽的な側面だと、メロディへの美学は今も昔も全く変わっていないですね。

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ミゾベ うん。あと、コーラスワークも特徴的だと思います。

森山 そうだね。「メロディ」と一口に言っても旋律そのものだけじゃなくて、どういうハーモニーに乗っているか、曲全体の展開の中でどういう位置づけにあるか、ってことまで含めて大事なので、コーラスはメロディとハーモニーをつなぐ架け橋としてすごく重要なものだと認識してます。



−メロディへの「美学」は随所に感じますね。たとえば「生活」のメロディラインの美しさは普遍的なものだと思いますし、今聴いてもodolというバンドのコアが垣間見える楽曲になっていると思います。そういう意味で言うと、初期衝動的な側面も強かった『odol』に対して、翌年にリリースされた『YEARS』はより自分たちの強みに自覚的になった作品なのかなと。特にリード曲の「years」は非常にスケールの大きな楽曲に仕上がっていました。


森山 あの曲は仮タイトルを「リード曲」にしていたんですよ(笑)。リード曲らしいキャッチーさとか広がりとかを作ろうとして作ったので、まとめ上げるのは大変でしたけどあれが完成したときにはかなり手ごたえを感じましたね。

−歌詞も難産だったんですよね、確か。


ミゾベ そうですね。「このタイミングで何を歌えばいいんだろう?」ということにすごく悩みました。当時は大学4年生の代で、周りには就活をしている人たちもたくさんいて、「これからどうやって音楽を続けていけばいいのかな?」とか思う瞬間もあったんですよね。そういう人生の岐路みたいな瞬間を歌う、って状況もなかなかないので...でも「years」に関しては、悩みながら最終的にできた歌詞も、メロディラインも、それを表現する自分の歌も、全部ひっくるめて「新しい扉を開けたな」と思いました。

−『YEARS』をより発展させる形で次の作品に向かうこともできたと思うんですが、当時からインタビューでは「『YEARS』をバージョンアップさせたものを作る気はない」と発言されていました。この時点で、odolというバンドがどんどん違った形に進化していくことはある程度予期できていたんでしょうか。


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森山 予期していたというよりは...『YEARS』を作り終えた後くらいから、だんだん「覚悟」が決まっていったんですよね。『YEARS』までは「半分本気、半分楽しい」くらいの気持ちでodolをやっていたのが、年齢的なこととかも含めてだんだん「音楽しかない」みたいなモードに変わっていったんです。そういう意識の変わり目がちょうど『YEARS』を作った後に来たので、それがこの先の作品にも何かしら影響を及ぼすだろうなとは何となく感じていました。



【『視線』『往来するもの』】「ほんとに心をすり減らしながら書いていた」



−今森山さんに話していただいた「覚悟」の話について、ミゾベさんの視点ではどのように捉えていたんでしょうか。


ミゾベ 『odol』『YEARS』のころは特に自分の気持ちを疑うこともなくただ楽しいからバンドをやるって感じだったんですけど、さっき話したように周囲は就活だ何だって言っている中で「自分はどうやって音楽を続けていくんだろう」って深く考えるようになっていきました。別に趣味でやればいいんじゃないか、と思う瞬間もあったんですけど、自分はフロントマンなので、僕がそう決めたらバンドとしてもそっちに流れていくんだろうなと想像したり...『YEARS』を作ってからはほんとにいろんな角度から悩んで、バンドとしても「新曲を作ろう」「次の一歩を踏み出そう」って空気になかなかならなかったんですよね。『視線』を作りながら自分の決めたことややるべきことを解釈していけた感じです。

−なるほど。今お話のあった『視線』、それからその次の『往来するもの』、この2作にはいずれも「GREEN」という楽曲が収録されています。そういう意味でも『odol』『YEARS』を経て『視線』『往来するもの』の時期がodolの第二章ということになるのかなと思うのですが、この時期はバンドとしてかなり「話し合い」を重ねた時期だったんですよね。


森山 そうですね。ミゾベも言ってたように「odolは次にどう進むのか」って状況だったので、意識のすり合わせをかなりやりました。

−このタイミングでいろんなことを言葉にしてぶつけ合ったことで、「odolとは何か」みたいなものが明確に形作られていったんじゃないかと思います。


森山 はい。あの時期のやり取りは、バンドにとって確実に必要なプロセスでした。それまではバンドのような集団では「あえて言語化しないコミュニケーション」も大事だと思っていたんですけど、作品を作ることに本気で向き合うと「やっぱり違う人間なんだな」ということに直面せざるを得なかったんですよね。「違う人間」がバンドとしてひとつのものを作るのであれば、お互いが徹底的に言語化して認識を合わせていくしかないんじゃないか、という思いが強くなったんです。だから当時は「阿吽の呼吸」みたいなものをまったく信じていなくて、例えば曲を作ったときに考えていたことを本来は言う必要のないようなレベルまでミゾベに伝えるようにしていました。そういう地道なプロセスを通じて、odolというものの存在意義に対する理解がバンドの中で揃っていったと思います。

−『視線』『往来するもの』に関しては、ミゾベさんの言葉の変遷も印象的です。「GREEN」における怒りの感情や、「four eyes」「大人になって」のちょっとシニカルなスタンスなど、綺麗な情景を描写するだけではない生々しい感情の吐露が増えたように感じます。


ミゾベ 何を歌にすればいいのかわからなくなって、音を出すよりもバンド内で話をして音楽に対する向き合い方を深めていくことが多くなりました。そんな期間を経て、たどりついたのは、「自分が考えた、感じたことに関する言葉にこそ価値がある」ということでした。『odol』『YEARS』のときは「ここにこういう言葉を当てれば響きが良い」みたいに、ある種美しさをデザインするように歌詞を書いている部分もあったんですけど、『視線』からそういう考えはすべて排除して、「本当にそう感じたのか、思ったのか」ということだけに向き合いました。なので、歌詞もよりリアルな感触になっていってると思うんですけど...ちょうどこの前『視線』を聴き返していたんですが、今と比べると相当不健康な自分がいることに気がつきまして(笑)。『視線』『往来するもの』の歌詞はほんとに心をすり減らしながら書いていたんだなと改めて実感しましたね。当時の苦しみとか不信感みたいなものがダイレクトに言葉に反映されていると自分でも思います。

−歌詞がより生々しい重みを増していく中で、サウンド面についても狭義のギターロックのフォーマットからは大きく逸脱していくようなバラエティに富んだ楽曲がそろっていきました。この時期で面白いなと思ったのは、「GREEN」「光の中で」のような音楽的なチャレンジが際立つ曲がある一方で、「虹の端」「時間と距離と僕らの旅」のような歌を大事にした曲がますますピュアになっていっているなと。


森山 確かにサウンドの振れ幅は大きくなっていたと思いますけど、その両極をやろう!とかって意識していたわけではないですね。

ミゾベ 「こういうやり方で曲を作ったから今度は違うやり方でやろう」みたいな純粋な興味による部分が大きいかもしれないです。森山がデモを作りこんだ曲をやったらじゃあ次はセッションっぽく作ろう、とかそういう流れはありましたね。

−ちなみに言葉やサウンドが大きく変わっていく中で、「最初にodolを好きになってくれた人が離れちゃうかも」みたいな不安を感じたりはしましたか?

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森山 うーん...実際に離れた人もいるはずですが、それよりは「自分たちがやりたいことを正直にやる」方が大事だと思ってましたね。僕らが続けたくなくなってしまったら、ファンがつくとか離れるとかそういう話ですらなくなってしまうので。もちろん結果として聴いてくれる人は多ければ多い方がいいと思っていましたが、それが最重要課題だとは考えていなかったですね。



【『眺め/POSE』『身体』『WEFT』】「ずっと良くなり続けている過程として今がある」



−『往来するもの』以降の作品は、バンドとしての「抜け」みたいなものがさらに良くなったように思います。「odolというのは音楽性がどんどん変わっていくバンドだ」というような説明すら不要というか、森山さんのお話にあった通り「やりたいことを正直にやっている」スタンスがよりクリアになっていっているのではないでしょうか。


森山 『視線』『往来するもの』を経てまたバンドが次のステージに進んでいるとは思うんですけど、その2作で「odolがまったく違うものになった!」とは認識していないんですよね。あくまでも「ずっと良くなり続けている過程」として今に至っているというか。あと、最近はタイアップで曲を作らせてもらうことも増えているので、そこでまた新しい視点を獲得できている部分もあると思います。

−最新EP『WEFT』の楽曲は3曲ともタイアップですが、そういう形での楽曲制作はodolにどんな影響を及ぼしていますか?


森山 バンドって常に「他者と音楽を作る」形態だと思うんですけど、タイアップだと映像作家の方や元の作品に関わってる方のような「今までとは違う他者」とさらにかかわるので、その面での刺激はかなりあります。あと、そういう方々は「外側から見たodolの良さ」みたいなものを僕らにリクエストとして提示してくれるので、それに乗っかる形で今までやり切れなかったこともできるようになったり。基本的に僕らは外に向かって全力疾走できないというか、「みんなー!」って叫びながら手を振って誰かに寄っていったりとか無理なんです(笑)。でも、「odolのこういう部分がいいよね」と言ってもらえると、「今までその部分にフォーカスするのはちょっと気恥ずかしかったけど、今回はそれをやってみようか」というモードになれるというか。そういうところがレジーさんのおっしゃっていた「抜け」ともつながっているのかなと思います。

−ミゾベさんはyuiさんとのコラボレーションという大きなチャレンジもありましたね。


ミゾベ あの企画はボーカリストとしての自分のプレイを客観視できる貴重な経験でしたね。『odol』のころと比べると自分の歌い方もだいぶ変わっていて、昔は喉を絞めていかに強い声を出すかを大事にしてたんですけど、今は「弱い声でどれだけ強く響かせられるか」みたいなことを考えています。森山の言う「他者」と接することで、自分の強みとか目指すべき方向も改めて考え直すことができました。

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−『WEFT』の曲だと、「瞬間」が改めての直球バンドサウンドで気持ち良かったです。


森山 「瞬間」は映画のために作った曲なので、制作中はずっと映画館のスクリーンでみんなが聴くシーンを想像していました。他の2曲がウェブとかラジオとかどちらかというと一人で楽しむものを意識した曲なので、それと比べると...

ミゾベ 「瞬間」は特に自分の声もシャキッとしてると思う(笑)。

森山 確かに(笑)。「音がでかい」感じは特に強いかもしれないですね(注:『WEFT』収録曲は以下の3曲→radikoブランドムービー・オリジナルソング「小さなことをひとつ」、UCC BLACK無糖「#この気持ちは無添加です」キャンペーンソング「かたちのないもの」、映画「サヨナラまでの30分」劇中バンド"ECHOLL"への提供曲セルフカバー「瞬間」)。


−ありがとうございました。ここまで5年間、かなり濃密な経験をされてきたと思いますが、この先もさらにodolのあり方も変わっていくのかなと思います。


ミゾベ これまでの活動を通じて、自分個人としては「もう限界かも」って思ったことが次の作品と向き合うことでどんどんアップデートされてきた実感があります。この先もそうやってバンドを続けたいと思っています。

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−最後に、この記事を読んでいただいた方、特にodolのことを最近タイアップを通じて知ったような方向けにメッセージをいただいて終わりにしたいです。


森山 うーん...長い目で見てください、かな(笑)。今のところodolの音楽はこの先何十年も残していくつもりでやっているので、もし次の作品が気に入らなかったとしても、ちょっとでも覚えておいてもらえればまたどこかで出会えると思います。

ミゾベ 僕らの音楽は今のところ街中どこでも流れているような音楽ではないので、odolのことを知ってこのインタビューに辿り着いてくれたこと自体に感謝したいです。もしかしたらここまで読んで「いろいろ面倒くさいことを言ってるな」って思うかもしれないんですけど(笑)、曲を聴いてもらって単純に「いい」と思ってもらえればとても嬉しいですね。

Text:レジー




RELEASE INFORMATION

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odol『WEFT』
2020年6月24日(水)Release!!
1. 小さなことをひとつ(radiko ブランドムービーオリジナルソング)
2. かたちのないもの(UCC BLACK 無糖「#この気持ちは無添加です」キャンペーンソング)
3. 瞬間(新田真剣佑× 北村匠海W 主演映画「サヨナラまでの30分」劇中バンド"ECHOLL" への提供曲セルフカバー)

各デジタル・ストリーミングサービスで配信中!
詳細はこちら

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