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2025.09.21
New Release Digest Part 1
みさと:9月15日週にFRIENDSHIP.からリリースの新譜全24作品の中からPart-1をダイジェストでご紹介しました。リリースおめでとうございます。今週ははじめましてさんが多いですね。まずはYüksen Buyers House(ユクセンバイヤーズハウス)。
金子:Part-1のはじめましてさんは、インディーズバンドに詳しい方だったら聞き馴染みのある名前かもしれないです。まずYüksen Buyers Houseはもともと2014年に結成されているので、10年以上やってるバンド。2019年から活動を休止してたんですけど、2024年から活動を再開して、今回が活動再開後では初めてのシングルになります。
以前までの楽曲スタイルは80'sシンセポップやエレクトロポップを基にしたものだったけど、現在はヘヴィネスな演奏の爆発とフォークソングの親密さの揺らぎを行き来しながらアンサンブルを構築していると。曲を聴くと、この文言の中間というか、シンセポップ、エレクトロポップ的な浮遊感もありつつ、でもバンドサウンドもしっかりあって。今回ミックス・マスタリングがMaika Loubtéさんで、彼女はどちらかというと電子音楽寄りな作家だったりするので、電子音楽とバンドサウンドの中間、そんな音像がすごく気持ちよかったです。
みさと:作品の世界観としては「月を見ている」という情景がベースになっているのですが、「冬の朝、凍てつく空気を吸い込んだときのような透明感と、靄に包まれたドリーミーな音像に仕上がっています」というセルフライナーノーツもいただいています。月を見るときって、やっぱり一人では見たくない、という生っぽさがありつつも、それでも孤独を愛せるような、体の内側にある温もりを味わえる、そんな感覚がありますよね。この"靄っぽさ"が電子音楽で見事に表現されていて、絶妙な体温を感じさせてくれる、素晴らしい曲でした。続いてもはじめましてさんです。Johnnivan(ジョニヴァン)。
金子:彼らは2018年に結成されたロックバンドで、プロフィールには「生楽器とダンスミュージックの融合テーマに幅広いジャンルを取り入れた楽曲は音楽ファンであれば誰もが体感すべきである」と書いてありますね。ちょっと前にポッドキャストで喋ったんですけど、下北沢BASEMENTBARで開催された『TRANSITION』という、Geloomyやaldo van eyckが出てたイベントにJohnnivanも出てて、めちゃめちゃ盛り上げてて、まさにダンスミュージックを生で演奏する気持ち良さを感じました。今回はライブアルバムの先行リリースとして2曲リリース。ライブアルバムと言っても、実際にお客さんを入れてやったライブではなく、ライブ録音をしている作品。でもライブのモードがよく伝わる作品になっていて、今回の曲もダンスミュージック的な高揚感が感じられる一曲になってました。
みさと:私はまだライブを観たことないんですけど、この曲を聴いて、絶対ライブを観なくちゃいけないなと思いました。お客さんが入っていると勘違いしながら聴かせてもらいました。それぐらいの生感とフィジカルの強さというか、ライブパフォーマンスはすごい圧巻なんだろうなと。楽曲の良さももちろんなんですけど、演奏にパッションがすごく乗っている感じがあったので、本当に生で体感したいですね。まずはライブアルバムを楽しませていただこうと思います。そして、ドミコ!
金子:FRIENDSHIP.からはひさびさの新曲ですね。最近だと、PEDROのサウンドプロデュースをさかしたひかるくんがやっていましたが、ドミコとしてはおひさしぶり。今年の2月にドラムの長谷川くんが活動を休止して、最近はサポートを入れながら活動をしているんですけど、今回の曲は大井一彌くんが参加していると。
みさと:いいですね〜。
金子:大井くんは大活躍ですよね。彼は本当にいろんなドラムプレイができますけど、やっぱりドミコと一緒にやると、ロックな部分が引き出される感じがします。曲自体もドミコらしい疾走感のあるロックナンバーになっていて、僕の世代で言うとArctic MonkeysとかKlaxonsとかを想起させます。そこに特徴的なギターワークが、今回もどんなエフェクトを使っているんだろう?というサウンドが乗っていて、非常にドミコらしい曲でした。
みさと:ひかるくんと一緒にやると、自分の中にあるスリリングで挑発的な部分が引き出されるのかなって思うような、大井くんのパフォーマンス。同時に、リスナーである私たちも煽られる感じというか、すごく前のめりになってしまう。そんなドミコらしさが詰まっていました。彼がいる限り、どんなドラマーとやっていても、その"せめぎ合う感じ"が音になるんだなあと思いました。
New Release Digest Part 2
みさと:お送りしたのは新譜ダイジェストPart-2でした。リリースおめでとうございます。こちらにもはじめましてさんです。EYRIE(エイリー)。
金子:EYRIEは鈴木瑛子、Rina Kohmotoによるピアノ連弾とドラムで新たなジャンルを開拓する音楽プロジェクト。もともと3人組だったんですけど、ドラムの方が抜けちゃって、現在はメンバーが2人。2人ともバークリー音楽大学の出身で、その確かな技量は曲を聴けば伝わると思います。去年、手塚治虫の『火の鳥』連載開始70周年記念アルバムというのを出してるんですけど、新曲も『火の鳥・未来編』から着想を得た楽曲で、物語の序盤、人類が核戦争で自滅するシーンまでをテーマに、連弾とドラムで描いていると。
みさと:とんでもない着想点ですよね。
金子:スケールがでかいですよね。核戦争で自滅するシーンですからね。でも、わかる!
みさと:見えますよね!
金子:彼女たちの表現力の高さがわかりますよね。プログレッシブな展開を用いて、ピアノの連弾とドラムだけで表現するっていうのは、表現力としてもたくましいし、それはさっきも言ったように、技量があるからこそできることで、本当にすごいなと思います。
みさと:終わりの崩壊するところとか、本当にガラガラと崩れていくような様子をこの楽器の少なさ、音だけで何で表現できるんだろう。音楽の可能性をすごく味わわせていただいたし、テクニックも秀でているし、その作品を作るクリエイティビティを2人してお持ちというのが本当にすごい。なかなかいらっしゃらないユニットだと思います。要チェックです。続いて、黒沼英之さん。
金子:黒沼さんは2ヶ月ぶりの新曲。今回はサウンドプロデュースを、さらさやMichael Kanekoといったアーティストのライブサポート、さらにコンポーザー/マルチプレイヤーとして知られる石田玄紀さんが担当しているということで、そういった名前からも連想されるように、R&B/ソウルを感じさせる楽曲になっていて。サックスとかも入っていて、ムードもめちゃめちゃいいし、それによって黒沼さんの伸びやかな歌声がさらに引き立てられている感じがしました。
みさと:サックス、ピアノも際立っていたし、全体的な音はすごく大人な雰囲気もあるんですけど、歌詞の世界としてはタイトル通り「BAKA」。このバカは自分に対しての叱咤激励ではあるんですが、大人の魅力に包まれているから、いろんな解釈ができる一言に変わったなと。余白というか余韻を広げさせるところは黒沼さんの持ち味だなと思います。素晴らしかったです。そんなPart-2からどうしましょう?
金子:grating hunnyの新曲を紹介しようと思います。
みさと:いや〜、よかったですね。
金子:先日ボーカルのタイヨウくんとベースのオオグロくんがゲストに来てくれましたけど、それ以来となる新曲。僕はラジオに来てくれた後にメンバー4人にSENSAで取材をさせてもらっていて、そのときに「未成年だった」の話もしていて。セルフライナーノーツでも軽く触れられているんですけど、タイヨウくんが高校生のときにお母さんを亡くしていて、その頃の自分の気持ち、記憶が楽曲に綴られているという背景があって。
みさと:近しい人のことかなと思いながら聴かせてもらったんですけど、お母さんなんだ...。
金子:そのときの気持ちはすぐに解消されるわけでもなく、沈んだり、まだ混乱してる心情がそのまま描かれていて、後半の畳みかけるようなポエトリーっぽいところで、うわーっと気持ちが溢れ出ていて、グッと来るものがありますよね。もともとパンクな、荒々しい演奏をするバンドで、もちろん今もそれが魅力の一つではあるんだけど、今回の曲ではタイヨウくんの心情に寄り添うようにバンドの演奏、アレンジ、表現力も非常に巧みになっていて、そのすべてがこの1曲の中に詰め込まれているというか、バンドにとってもすごく大事な曲になったかなと思います。
みさと:泣いちゃった。一番最後〈幸せになるために生まれてきたから 僕は今日もチャリを漕ぎます〉で終わるんですけど、その一言を聞いて、特別な毎日を今は生きられてないかもしれないし、後悔も不安もあるだろうし、命の大切さと危うさを体験したけど、それでも未来を信じて日々を生きるその等身大さが、「チャリ」という単語を含めた最後のポエトリー部分から伝わってきました。最近の話だと思うけど、それをこれだけ自分の血肉にして作品に落とし込んでいる心の強さと、音楽に自分の身を委ねたというか、その感じが1曲に込められてるなと思いました。素晴らしい曲ですね。大切に聴かせてもらおうと思います。
New Release Digest Part 3
みさと:お送りしたのは新譜ダイジェストPart-3でした。リリースおめでとうございます。こちらにもはじめましてさん、乙女絵画。
金子:彼らの名前も最近よく見かける気がするんですけど、2022年に札幌で結成されたバンドで、9月23日にNOT WONKの加藤くんが発案者で、苫小牧でやる『FAHDAY』というイベントがあって、それにも出演が決まっていたり、注目を集めているバンドですね。サウンド的にはサイケデリックな要素もあったりするんだけど、歌がすごく印象的。サニーデイ・サービスの曽我部さんに通じるような、色気のある歌声が特徴で、サウンドもかっこいいけど、僕は特に歌がいいなと思いました。
みさと:色気と湿度を感じるような一曲でした。歌詞の世界は、僕の天使に対しての別れと感謝が綴られているんですけど、その喪失感というか、失うことに対して美しさ、美意識が込められていて、手放されてしまったこと、今手元にないことってマイナスに捉えてしまいがちだけど、そうではなく、心の機微が感じられる、素晴らしい切り口だったと思います。続いて、MURABANKU。
金子:ひさびさの新曲ですね。今年は『FUJI ROCK FESTIVAL』の「ROOKIE A GO-GO」に出ていたり、こちらも注目度がかなり上がってきている印象です。今回の曲は小津安二郎の映画『秋刀魚の味』から着想を得ていて、この映画は高度経済成長期の人々の日々や情景がとても美しく描かれている作品ということで、そのムードを楽曲でも表していると。テルミンやヴィオラを使って、ラウンジミュージック的な仕上がりになっていますね。ホーンを使って、元気で派手なイメージもありますけど、こっちのアプローチもあるんだなと。バンドの持つ音楽性の幅の広さを見せていて、すごくいいなと思いました。
みさと:素朴感はあるだけど、ラウンジミュージック独特のおしゃれで洗練されている感じもあって、MURABANKU。だからこそ鳴らせる音でまとまっていたなという印象がありました。世界観の深さと奥行きを感じられる。なかなかできないですよね。素晴らしい曲でした。そんなPart-3からどうしましょう?
金子:Foiの新曲を紹介しようと思います。「まっさら」というタイトルで、セルフライナーノーツを読むと、"まだ誰の色にも染まっていない季節を大切な人と駆け抜けていくイメージからできた曲です"と。制作では人の手の温度を残したくて、あえてデジタルによらずミュージシャンと直接セッションをしながら一音一音積み重ねていったそうです。今は一人でも打ち込みで、どんな音楽も作れちゃう世の中ではありますが、曲のテーマとも相まって、直接セッションをしながら作ったと。だからこそ、バンドサウンドが特徴的で、管楽器も弦楽器も使われて豪華なプロダクションなんだけど、すごく軽快なポップソングになっていて、めっちゃいい曲だなと思いました。
みさと:まっさらにまっすぐ向かっているような感覚になれますよね。主人公がどこまでも未来を信じているし、隣にいる人に対して、同じ未来を見据えている感じもしました。すごく爽やかで情熱があって、「ライブで歌うのが本当に楽しみです。お客さんと一緒に、この曲の景色を完成させたいと思っています!」というコメントもいただいていますので、(ライブで)さらにブラッシュアップしていくんだろうなと、成長も感じられる一曲ができたんじゃないかと思います。
番組の後半は福島由也(Ivy to Fraudulent Game)がゲストで登場!
RADIO INFORMATION
FM 福岡「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」
FRIENDSHIP.キュレーター達が厳選した音楽をラジオで紹介するプログラム「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」。キュレーターの金子厚武をコメンテーターに迎え、奥宮みさとと共にFRIENDSHIP.がリリースをする最新の音楽を紹介。放送時間:毎週土曜日 26:00~26:55 放送局:FM福岡(radikoで全国で聴取可能)
NEW Releases FRIENDSHIP.
FM福岡で毎週水曜日の26:00~26:55まで放送中のラジオプログラム「Curated Hour〜FRIENDSHIP. RADIO」のアフタートーク、番組の中で紹介しきれなかったタイトルを紹介。DJの奥宮みさと、音楽ライターの金子厚武の2人でデジタル音楽ディストリビューション・プロモーション・サービスのFRIENDSHIP.から配信される新譜を中心に紹介するプログラム。
番組MC
金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズでのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『Real Sound』『ナタリー』『Rolling Stone Japan』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。デジタル配信サービス「FRIENDSHIP.」キュレーター。
@a2take / @a2take3奥宮みさと
ラジオパーソナリティ/ナレーター/MC/ヨガインストラクター/酵素風呂サロンオーナー。 TOKYO FM、ZIP-FM、InterFM、FM 福岡など、ラジオパーソナリティ歴12年目。 安室奈美恵さんをはじめとするお茶の間ミュージシャンからコアなインディーズミュージシャンまで無数のインタビューを経験。コロナ前は年間200件程ライブや全国のフェスに行く現場派。野外フェスのヨガプログラムなども担当。倍音と1/fゆらぎの声を持ち、耳馴染みの良いベルベットボイスが特徴。
@_M1110_ / @11misato10