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2024.05.09
シンガーソングライターの阿部芙蓉美が5月3日、ワンマンライブ「『Super Legend』販売促進会」を東京・渋谷のライブハウスduo MUSIC EXCHANGEにて開催した。
今年3月にフルアルバムとしては通算3枚目、前作『How To Live』から実に11年ぶりとなる『Super Legend』をリリースしたばかりの阿部。本公演は、その「販売促進」と(彼女ならではのユーモアで)銘打ち京都・紫明会館(6月29日開催)と併せて企画されたものである。
ゴールデンウィークの真っ只中ということもあり、多くの人でごった返す道玄坂の喧騒を抜け会場へ。立ち見を含む、着席スタイルのフロアはすでに満員のオーディエンスで埋め尽くされていた。
静かな熱気が漂うなか、定刻となりサポートメンバーを率いて阿部が姿を表すと大きな拍手が鳴り響く。この日、彼女を支えるのは東川亜希子(Key)、Shigekuni(Bass)、菅沼雄太(Dr)、そして林田順平(Cello)の4人。ドラマー神谷洵平とのユニット「赤い靴」の鍵盤ボーカルである東川は、阿部がアルバム『Super Legend』を制作するにあたって全面的に協力したミュージシャンの一人である。阿部は、赤い靴のいくつかの楽曲で作詞を手がけたことがあり、東川は今回「Some True Love」 の作曲にも関わるなど、お互いのクリエイティブに深く影響し合ってきた。
一方、ボーカルKateとのポップデュオDadaDのトラックメイカーであるShigekuniもまた、『Super Legend』のレコーディングに数年前から携わっていたことが、この日のMCで明かされた。さらに、坂本慎太郎や中納良恵(EGO-WRAPPIN')のライブやレコーディングでもサポートを務める菅沼、岩井俊二率いるヘクとパスカルやパフォーマンス集団MIMI et MEMEなどにも参加している林田も、阿部とは旧知の仲だ。
まずは東川、Shigekuni、菅沼、そして阿部の4人で『Super Legend』からの楽曲「Neverland」を披露し、この日のライブをスタートした。音数を削ぎ落とした東川のシンプルなピアノに導かれ、阿部の囁くような、ため息のようなスモーキーボイスがフロアに響き渡ると、固唾を飲んで見守っていたオーディエンスの緊張感が、すっと和らいでいくのを感じる。菅沼はパッドを使って川のせせらぎのような、草木を撫でるそよ風のようなサウンドを発し、Shigekuniは親指で弦を弾きミニマルなフレーズで低音を支えている。阿部の声を含め、一つ一つのフレーズが小さな音で奏でられるからこそ、そこに含まれる倍音や空気感をよりはっきりと感じられる。〈旅をするなら 君と〉〈道草もいいよ 生きていく〉という歌詞も、この特別な空間を共有している私たちの心に優しく響いた。
続く「鳥」では阿部がアコースティックギターを抱え、低音弦をおもむろに刻み出す。その短音フレーズに身を委ねていると、時間感覚まで失われていくようだ。ブルージーにフラットするメロディと、くぐもったエレピのフレーズが交差しながらたおやかな模様を描き、大口径のバスドラが遠くで鳴る雷のように心をざわざわと掻き立てる。
2010年シングルで発表した「空に舞う」では林田も加わり、切なくも美しいこのミドルバラードをしっとりと演奏。続く2021年リリースの配信限定曲「Soda」は、軽やかにアコギをかき鳴らす阿部が〈さぁ 元気出していきますか〉と歌うのを合図に、躍動感たっぷりのバンドサウンドが放たれる。明るく開放感に満ちた曲調ながら、〈2020年 渋谷でいろんなことが もう全部わからなくなった〉と歌われる歌詞は、コロナが明けた今も胸に迫るものがあった。
アルバム『Super Legend』の中でも、ひときわ神秘的な、それでいてどこかユーモラスな楽曲「シュッ」は、音源ではシンセにより奏でられていた印象的なフレーズを、林田がチェロでなぞる。アブストラクトな前半から一転、東川や菅沼と共に〈シュシュシュシュ〉と呪文のように唱えながら、カオティックに展開していく後半の怒涛のアンサンブルに、フロアからはひときわ大きな拍手が鳴り響いた。
レイドバックしたドラムと繊細なピアノのバッキングで始まったのは、東川との共作曲「Some True Love」。本サイトのインタビューで阿部は、2014年8月のミニアルバム『ABEFUYUMI EP』から2018年11月のシングル『Heart of Gold/ごみ溜めのバラード』までの、音楽から「離れていた」時期について、「本当にただ生きるのに精一杯だった。それに尽きます。何か大変なことが起きたとか、そういうことが仮にあってもなくても『こんなに生きるのって大変なんだね』みたいな」と語っていたが〈致命傷は避けなきゃ だって私たちこれからでしょう〉〈ああやっと辿り着いた、会いたかった 君の元へ〉と歌われるこの曲は、もがきながらも再び歌うことを選んだ阿部の心情を表しているかのようだ。
ここで菅沼と林田がステージを去り、『Super Legend』のレコーディングに深く関わった東川、Shigekuniとともに楽曲制作のエピソードについて明かしたあと(MC、というより3人の雑談を盗み聞きしているような緩やかなトークだった)、「希望のうた」を東川と2人だけで披露。2012年にリリースされた2ndフルアルバム『沈黙の恋人』の最後に収録された、まるで讃美歌のように荘厳なバラードだ。さらに、この曲と対をなすようなゴスペルチックな「凪」を演奏し、菅沼のドラムを加えた3人で「Fountain」を演奏した。
Shigekuniもステージに戻り、再びバンド編成で「オーガンジー」。シンプルなコード進行の上で、〈オーガンジーのドレスで とりあえず気分上げよう〉〈クタッとよれた スニーカーの機動力をなめるなよ ミスマッチなんて言わないで〉と歌う浮遊感たっぷりのメロディが、あくまでもナチュラルに気分を上げてくれる。続くアルバム表題曲「Super Legend」は、ピアノ、ベース、チェロという変則的な編成で披露。ノスタルジックなチェロのフレーズが繰り返されるたび、時間が過去へと遡っていくような錯覚を覚えた。
本編の最後は、5人編成で「ごみ溜めのバラード」を演奏。アンコールでは、2008年のファーストアルバム『ブルーズ』から「開け放つ窓」と「青春と路地」を披露し、この日のライブを締めくくった。
阿部と、阿部の音楽に一対一で向き合いながら、いつしか自分自身の内面へと深く降りていく。「シンガロング」も「コール&レスポンス」も、ありきたりの「ハンドクラップ」もそこにはなく、どこまでも「個」であることを許される。彼女のライブには、いつでもそんな「特別な時間」が用意されているのだ。
「今まで苦しくて、ここからもたぶん苦しい『しんどいね、みんな。どうする?』みたいなことも含めて言いたい。(中略)私は私で抱えているしんどさやどうしたらいいかわからない気持ちはあるんだけど、音楽を『やるか、やらないか』の二択しかないんだったら、とりあえず『やる』って決めて、この作品を出した上で『どうする?』って一緒にお茶がしたい」
先のインタビューで、こうも語っていた阿部。彼女のライブでしか経験し得ない、この「特別な時間」を切実に求めている人たちは、きっと少なくないはず。阿部芙蓉美には、これからもマイペースに音楽を作り続け、それを(一緒にお茶をするように)奏で続けてほしい。
文:黒田隆憲
撮影:高田梓
阿部芙蓉美「Super Legend」
2024年3月13日(水)
Format:Digital/CD
Label:ABEFUYUMI RECORD
Track:
1.Some True Love
2.シュッ
3.Super Legend
4.ごみ溜めのバラード(Band)
5.凪
6.Fountain
7.オーガンジー
8.Neverland
9.鳥
試聴はこちら
CD予約受付ECサイト
https://abefuyumi.official.ec
2024年6月29日(土)
京都 紫明会館
OPEN17:00/START17:30
【料金】¥6,800(DRINK別)
出演:
阿部芙蓉美(Vo.G)
東川亜希子(Key)
菅沼雄太(Dr)
チケット販売URL:
https://solecafe.jp/inquiry/
@abefuyumi_dtcm
今年3月にフルアルバムとしては通算3枚目、前作『How To Live』から実に11年ぶりとなる『Super Legend』をリリースしたばかりの阿部。本公演は、その「販売促進」と(彼女ならではのユーモアで)銘打ち京都・紫明会館(6月29日開催)と併せて企画されたものである。
ゴールデンウィークの真っ只中ということもあり、多くの人でごった返す道玄坂の喧騒を抜け会場へ。立ち見を含む、着席スタイルのフロアはすでに満員のオーディエンスで埋め尽くされていた。
静かな熱気が漂うなか、定刻となりサポートメンバーを率いて阿部が姿を表すと大きな拍手が鳴り響く。この日、彼女を支えるのは東川亜希子(Key)、Shigekuni(Bass)、菅沼雄太(Dr)、そして林田順平(Cello)の4人。ドラマー神谷洵平とのユニット「赤い靴」の鍵盤ボーカルである東川は、阿部がアルバム『Super Legend』を制作するにあたって全面的に協力したミュージシャンの一人である。阿部は、赤い靴のいくつかの楽曲で作詞を手がけたことがあり、東川は今回「Some True Love」 の作曲にも関わるなど、お互いのクリエイティブに深く影響し合ってきた。
一方、ボーカルKateとのポップデュオDadaDのトラックメイカーであるShigekuniもまた、『Super Legend』のレコーディングに数年前から携わっていたことが、この日のMCで明かされた。さらに、坂本慎太郎や中納良恵(EGO-WRAPPIN')のライブやレコーディングでもサポートを務める菅沼、岩井俊二率いるヘクとパスカルやパフォーマンス集団MIMI et MEMEなどにも参加している林田も、阿部とは旧知の仲だ。
まずは東川、Shigekuni、菅沼、そして阿部の4人で『Super Legend』からの楽曲「Neverland」を披露し、この日のライブをスタートした。音数を削ぎ落とした東川のシンプルなピアノに導かれ、阿部の囁くような、ため息のようなスモーキーボイスがフロアに響き渡ると、固唾を飲んで見守っていたオーディエンスの緊張感が、すっと和らいでいくのを感じる。菅沼はパッドを使って川のせせらぎのような、草木を撫でるそよ風のようなサウンドを発し、Shigekuniは親指で弦を弾きミニマルなフレーズで低音を支えている。阿部の声を含め、一つ一つのフレーズが小さな音で奏でられるからこそ、そこに含まれる倍音や空気感をよりはっきりと感じられる。〈旅をするなら 君と〉〈道草もいいよ 生きていく〉という歌詞も、この特別な空間を共有している私たちの心に優しく響いた。
続く「鳥」では阿部がアコースティックギターを抱え、低音弦をおもむろに刻み出す。その短音フレーズに身を委ねていると、時間感覚まで失われていくようだ。ブルージーにフラットするメロディと、くぐもったエレピのフレーズが交差しながらたおやかな模様を描き、大口径のバスドラが遠くで鳴る雷のように心をざわざわと掻き立てる。
2010年シングルで発表した「空に舞う」では林田も加わり、切なくも美しいこのミドルバラードをしっとりと演奏。続く2021年リリースの配信限定曲「Soda」は、軽やかにアコギをかき鳴らす阿部が〈さぁ 元気出していきますか〉と歌うのを合図に、躍動感たっぷりのバンドサウンドが放たれる。明るく開放感に満ちた曲調ながら、〈2020年 渋谷でいろんなことが もう全部わからなくなった〉と歌われる歌詞は、コロナが明けた今も胸に迫るものがあった。
アルバム『Super Legend』の中でも、ひときわ神秘的な、それでいてどこかユーモラスな楽曲「シュッ」は、音源ではシンセにより奏でられていた印象的なフレーズを、林田がチェロでなぞる。アブストラクトな前半から一転、東川や菅沼と共に〈シュシュシュシュ〉と呪文のように唱えながら、カオティックに展開していく後半の怒涛のアンサンブルに、フロアからはひときわ大きな拍手が鳴り響いた。
レイドバックしたドラムと繊細なピアノのバッキングで始まったのは、東川との共作曲「Some True Love」。本サイトのインタビューで阿部は、2014年8月のミニアルバム『ABEFUYUMI EP』から2018年11月のシングル『Heart of Gold/ごみ溜めのバラード』までの、音楽から「離れていた」時期について、「本当にただ生きるのに精一杯だった。それに尽きます。何か大変なことが起きたとか、そういうことが仮にあってもなくても『こんなに生きるのって大変なんだね』みたいな」と語っていたが〈致命傷は避けなきゃ だって私たちこれからでしょう〉〈ああやっと辿り着いた、会いたかった 君の元へ〉と歌われるこの曲は、もがきながらも再び歌うことを選んだ阿部の心情を表しているかのようだ。
ここで菅沼と林田がステージを去り、『Super Legend』のレコーディングに深く関わった東川、Shigekuniとともに楽曲制作のエピソードについて明かしたあと(MC、というより3人の雑談を盗み聞きしているような緩やかなトークだった)、「希望のうた」を東川と2人だけで披露。2012年にリリースされた2ndフルアルバム『沈黙の恋人』の最後に収録された、まるで讃美歌のように荘厳なバラードだ。さらに、この曲と対をなすようなゴスペルチックな「凪」を演奏し、菅沼のドラムを加えた3人で「Fountain」を演奏した。
Shigekuniもステージに戻り、再びバンド編成で「オーガンジー」。シンプルなコード進行の上で、〈オーガンジーのドレスで とりあえず気分上げよう〉〈クタッとよれた スニーカーの機動力をなめるなよ ミスマッチなんて言わないで〉と歌う浮遊感たっぷりのメロディが、あくまでもナチュラルに気分を上げてくれる。続くアルバム表題曲「Super Legend」は、ピアノ、ベース、チェロという変則的な編成で披露。ノスタルジックなチェロのフレーズが繰り返されるたび、時間が過去へと遡っていくような錯覚を覚えた。
本編の最後は、5人編成で「ごみ溜めのバラード」を演奏。アンコールでは、2008年のファーストアルバム『ブルーズ』から「開け放つ窓」と「青春と路地」を披露し、この日のライブを締めくくった。
阿部と、阿部の音楽に一対一で向き合いながら、いつしか自分自身の内面へと深く降りていく。「シンガロング」も「コール&レスポンス」も、ありきたりの「ハンドクラップ」もそこにはなく、どこまでも「個」であることを許される。彼女のライブには、いつでもそんな「特別な時間」が用意されているのだ。
「今まで苦しくて、ここからもたぶん苦しい『しんどいね、みんな。どうする?』みたいなことも含めて言いたい。(中略)私は私で抱えているしんどさやどうしたらいいかわからない気持ちはあるんだけど、音楽を『やるか、やらないか』の二択しかないんだったら、とりあえず『やる』って決めて、この作品を出した上で『どうする?』って一緒にお茶がしたい」
先のインタビューで、こうも語っていた阿部。彼女のライブでしか経験し得ない、この「特別な時間」を切実に求めている人たちは、きっと少なくないはず。阿部芙蓉美には、これからもマイペースに音楽を作り続け、それを(一緒にお茶をするように)奏で続けてほしい。
文:黒田隆憲
撮影:高田梓
RELEASE INFORMATION
阿部芙蓉美「Super Legend」
2024年3月13日(水)
Format:Digital/CD
Label:ABEFUYUMI RECORD
Track:
1.Some True Love
2.シュッ
3.Super Legend
4.ごみ溜めのバラード(Band)
5.凪
6.Fountain
7.オーガンジー
8.Neverland
9.鳥
試聴はこちら
CD予約受付ECサイト
https://abefuyumi.official.ec
LIVE INFORMATION
阿部芙蓉美ワンマンライブ『Super Legend』販売促進会
◾️京都公演2024年6月29日(土)
京都 紫明会館
OPEN17:00/START17:30
【料金】¥6,800(DRINK別)
出演:
阿部芙蓉美(Vo.G)
東川亜希子(Key)
菅沼雄太(Dr)
チケット販売URL:
https://solecafe.jp/inquiry/
LINK
オフィシャルサイト@abefuyumi_dtcm