SENSA

2024.04.12

くだらない1日、盟友ANORAK!と共に下北沢SHELTERを熱気と混沌で満たした夜。

くだらない1日、盟友ANORAK!と共に下北沢SHELTERを熱気と混沌で満たした夜。

 4月6日、下北沢SHELTERは人で埋め尽くされていた。会場の外では観光客らしき外国人が「SOLD OUT」の文字を見つけ、嘆きながら立ち去っていった。この日の主役はくだらない1日。盟友ANORAK!がそれをサポートした。くだらない1日のMCで河合(B.)が、この日はソールドアウトになったけどもうちょっとイケた、と少しだけ後悔を滲ませながら話していたが、会場内は熱気が十分感じられつつも息苦しくはなく、人の詰まり具合としては最高だったと思う。ひと言で言うと、いい空気感だったのだ。今日という日を存分に楽しみたいというポジティブな雰囲気に包まれていた。

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 最初にステージに登場したのはANORAK! 彼らのライブは初見なのだが、海外バンドの来日公演のサポートなどでよく名前を見かけていたこともあって楽しみにしていた。

 この日の選曲は、現在のところ唯一のフルアルバムとなる『ANORAK!』からの曲を中心に、新曲も織り交ぜながらまんべんなくバンドの過去、現在、未来を詰め込んでいた。当然、音源しか知らない自分としては、ANORAK!のサウンドにアメリカのインディー・ロックの重鎮Superchunk的なオルタナティブ/パンク的なサウンドを期待していたのだが、いい意味で裏切られた部分があった。それは中盤に披露した新曲群だ。オートチューンや同期を使ったアプローチからは貪欲に新たな道を切り開こうとする姿勢が垣間見え、グッと引き込まれた。

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 ギタリスト2人によるアルペジオと変則的なドラム、そしてグルーヴィなベースが印象的な「Word5」は、バンドのアンサンブルのよさが凝縮されていて特によかった。軽いわけでもなく、重いわけでもない。勢いで畳み掛けるわけでも、演奏をビタビタに合わせてくるわけでもない。それよりも、4人の根っこを重ね合わせているような感覚。そこにこのバンドの芯を感じたし、それが心地よかった。終始、令和だからこその説得力と存在感を見せつけつつ、ラストは原始的なパンクの疾走感で駆け抜ける「Call Me By Your Name」で締め、短い時間ながらも充実した演奏を堪能した。新世代インディー・ロックの「今」はここなんだ。

 余談だが、彼らのMCについても触れておきたい。TVアニメ「ガールズ&パンツァー」の聖地巡礼で大洗まで行ったけど、人がほとんどいなかった。「ぼっち・ざ・ろっく!」人気で多くの観光客がシェルターを訪れているが、それもそのうち少なくなるでしょう、というつもりでしていたであろう話は、その趣旨があまりフロアには伝わっていなかったようだが、自分はシンパシーを覚えた。

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 サウンドチェック後、ステージ袖に一度もはけることもなく、SEなしでそのままライブをはじめたのは、この日の主役、くだらない1日。冒頭の「たぶんそうです」~「力水」という流れは、ANORAK!とのスプリット盤の収録曲で構成。この日のライブはアルバム『どいつもこいつも』のレコ発ではあるが、それと同じぐらいANORAK!との対バンだということを意識しているのだと思った。「力水」の前、太陽(Gt.)がひと言「カポはめるの忘れた」。うっかりなのか緊張なのか、ライブのテンポをちょっと崩してしまったが、しっかりひと笑い稼いでライブを続けた。

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 くだらない1日は、演奏はもちろんのこと、歌や言葉を届けることを大事にしているように感じる。高値ダイスケ(Vo./G.)は、この日の終盤に披露した「レッドアイズオルタナティブブラックドラゴン」のような楽曲でがなるように歌う場面もあったけど、決して言葉を吐き捨てないし、絶対に正面、つまりフロアのほうを見て歌っていた。バンドの音作りも、ボーカルを邪魔しないように工夫しているのだろう。実際、ラウドに音をかき鳴らしながらも歌詞が聞き取れた。オルタナティブだったり、パンクだったりする演奏ももちろんカッコいい。だけど、このバンドの軸は歌なんだろうなと感じた。もちろん、これは個人的な解釈なので、本人たちに聞いたら別の言葉が返ってくるかもしれない。

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 話の流れで書くと、演奏面で特に印象に残ったのは、「ニューアルバムからやっていきます」というMCのあと、「誕誕」に続いてプレイした「泣き虫」。シンプルなサウンド構成で、曲の序盤ではギター2本とベースが「ガガッ、ガガッガガッ」と同じフレーズを刻み、ドラムもシンプルなビートに徹するのだが、このゴリッと耳に引っ掛かってくる硬質なアンサンブルが痺れるほどカッコよい。音と音の隙間を聴かせる演奏とでも言うのだろうか。こんなシンプルなフレーズで脳を揺らすことができるバンドがカッコ悪いわけがない。これを踏まえた中盤以降の展開も素晴らしかった。この曲に限らず、ミッドテンポでよりシンプルな構成の楽曲で彼らの演奏の魅力を多く感じることができた。

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 低いポジションでベースを構える河合のシンプルかつ存在感のある演奏は、ポストパンクの匂いがする「trust none」でも光った。彼は無骨だけどなんとなくキャッチーなMCも印象的だったが、それと同様のベースプレイ。音に人間が出るというのはこういうことか。時折、太陽のギターから発せられる甲高いノイズが鼓膜に突き刺さるのだけど、これも効いていた。彼らが生み出すひりついたサウンドはこういった要素の積み重ねによって生まれている。

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 こんな彼らの音をフロアも全力で受け止めた。「激情部」では、完全にエモまった観客数人が大声で合唱。とてもいい光景だった。暴れたいときは暴れ、聴き入るとき聴き入り、歌いたいときは歌う。ステージと完全に呼応した動きは会場をひとつにしていた。ここから「やるせない」へと続く流れは見事に静と動を描き出し、モッシュが起こるなどフロアは一瞬にして混沌とした状況になった。

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 全体的に緊張感のあるパフォーマンスを展開していったくだらない1日だが、アンコールのMCでは太陽からいい話が聞けた。彼はくだらない1日とANORAK!の対バンを見てバンドをやろうと思ったそうで、そんな彼が今こうしてくだらない1日に加入し、ANORAK!と対バンをしているだなんて、どれだけ感慨深いことだろうか。しかも、文句なしのソールドアウト公演だ。当然、これがゴールだとは彼はこれっぽっちも思っていないはず。

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太陽の前には河合が「俺らは何も変わらずに音楽をやるだけなので」と話した。なんとかっていう事務所に入ったから、その事務所にバンドがどういうものなのか教えてやんないといけない、と。これには笑い混じりの歓声が上がった。冗談ぽい言い方ではあったけど、この言葉は彼らの本心に近いだろう。彼らはWACKという大きな事務所に所属はしたが、その大きな力に甘えようとはしていない。それはこの日のライブを目撃した人なら肌で感じたはずだ。

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文:阿刀"DA"大志
撮影:稲垣ルリコ

RELEASE INFORMATION

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くだらない1日「どいつもこいつも」
2024年3月6日(水)

Track.
M1.need
M2.heel
M3.誕誕
M4.とても大事
M5.trust none
M6.moment
M7.泣き虫
M8.ガンプラ
M9.train

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