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2022.11.25
パジャマで海なんかいかない、豪華ミュージシャンを迎えた「PAJAUMI SESSION」COTTON CLUB公演
才気走ったポップ・アルチザンたちのコレクティヴ――。パジャマで海なんかいかない(以下、パジャ海)の音楽を聴いた時、彼らについて、まずそう思った。アルチザンとは日本語で言うところの「職人」「職人的芸術家」にあたる。彼らがプレイヤーとして職人的な手さばきを有しているのは音源を聴けば分かるが、同時に、型にはまらない発想とヴィヴィッドな感性を持っているバンドに違いない。今年9月にリリースされたアルバム『Trip』を聴いて、そう確信した。
要するに、鍛錬を重ねた上での揺るがないテクニックがあり、どんな音に対しても瞬時に反応できるスキルがあり、先鋭的なことをやっていてもポップに落とし込むセンスがある。音源、ライヴ問わず、どんな場面においても、自分たちの理想とする音をアウトプットできる能力があるわけだ。
それもそのはず、パジャ海の発起人であるキーボードの別所和洋は、数々の大物アーティストのサポート務めてきた才人。Ovall、藤原さくら、Keishi Tanaka、竹内アンナなどの裏方仕事はどれも見事なハマリ具合だったし、柔軟な耳と感受性を持つ人なんだな、と思っていた。だが、別所がただの職人気質でないことを、ライヴを観て得心した。
話をライヴに移そう。11月16日にCOTTON CLUBで行われたパジャ海らのライヴが、別所のピアノ・ソロで幕を開けたのには驚嘆した。裏方的なイメージがあったから、戸惑い、面食らったのかもしれない。ここまでがっつり彼のピアノ・ソロを生で聴くのは初めてだったが、その豊麗な響きは、例えばブラッド・メルドーと比較しても遜色ない。このソロを最初にフィーチャーしてくるというのは、かなり意想外だった。そして、それは勿論、嬉しい驚きだった。
ライヴの話を続けると、女性ヴォーカルがメンバーにふたりいるのも、全体のアンサンブルに深みをもたらしていた。ふたりとも歌い手としてずば抜けた実力派であり、かつ、可憐な出で立ちで観客を魅力する。ふたりがステージに上がる度に、ステージ全体、いや、会場全体が華やいだムードに覆われる。その歌声は、エリカ・バドゥやエスペランサなどにも通じており、ふたりの歌を聴けただけでも、この日のライヴは満足できるものだった。
ちなみに、パジャ海の歌詞はほぼすべて英語であり、彼らはグローバルなマーケットで勝負できるはず、という想いを強くした。実際、パジャ海の音楽はSpotifyなどで日本国外のリスナーに広く聴かれているそうで、海外でも支持される予兆や予感がある。それらは彼らの紡ぐ音楽が、国境を越えて支持される基盤があるからだ。
具体的に言うと、その音楽性は、ロバート・グラスパーやハイエイタス・カイヨーテ等の音楽を好むリスナーにもリーチするはず。あるいは、ディアンジェロとの共振を感じた人もいるだろう。だが、パジャ海が流行ものの模倣やコピーでないことは、アルバムやライヴに触れたことがあれば、即座に了解できるはずだ。
むしろ、パジャ海のサウンドからは、グラスパーらが醸成してきた音楽的ヴォキャブラリーを、大幅にアップデートせんとする志の高さが窺える。グラスパー以前/以降でジャズ・シーンの布置が変わったのは確かだが、それももはや昔のことになりつつある。そろそろヴァージョン・アップする時期がきたのを、彼らは実感しているのではないか。自分たちの手で音楽地図を塗り替えよう、という気概の持ち主かもしれない。
と、ここまで書いて、ライヴに登場したミュージシャンが皆、パジャマを着ていたことを思い出した。ハレの舞台で、バンド名にひっかけてパジャマ(しかもとびきりオシャレな!)という出で立ちで登場した彼らには、筆者が先述したような気概(あるいは気負い)はなかったのかもしれない。とにかくリラックスしていて、かつ、ソロ・パートでは、スポーツで言うところのゾーンに入ったような瞬間も度々あった。緊張と弛緩のバランスが絶妙だったのである。
なお、この日のライヴは、PAJAUMI SESSIONという触れ込みで、佐瀬悠輔 (tp)、馬場智章 (ts)、関口シンゴ (g.)といったゲストを迎えたもので、彼らとの演奏も素晴らしかった。そして、パジャ海が気の置けないゲスト陣たちと楽しくセッションする様子は、多幸感溢れる空気を醸していたのだ。楽器とストイックに向かい合い、鍛錬を重ねてきたメンバーたちは、皆この日のライヴを純粋に楽しんでいた。それでいて、客を楽しませるエンターティナーぶりも忘れてはいなかった。これは一朝一夕ではできないことだと思う。
そして、筆者が最も惹きつけられたのが、ドラムの小名坂誠哉 (Seiya)の爽快で老獪なプレイだ。訛りや揺らぎを含み、まるで酩酊しているようなビートは、有体に言ってしまえば、J・ディラやクリス・デイヴ以降のドラマーのプレイスタイルと通じるところもある。これは推測だが、Seiyaはバンド加入以前から、J・ディラ的なタイム感が自然に身についていたのではないか。
そもそも、ジャズやヒップホップやネオ・ソウルのドラマーは、クリス・デイヴの登場以降、もはや縁の下の力持ちとは限らない存在となっている。ドラムがバンドのうしろでサウンドを支える、という認識ががらっと変わってきたのである。これはパジャ海のSeiyaのプレイにも言えることだ。クリス・デイヴやマーク・ジュリアナ、エリック・ハーランド、ケンドリック・スコットらが、ヒップホップやテクノやロック、ネオ・ソウル、ドラムンベースを養分にしているように、Seiyaのドラムも多ジャンルを跨ぐものだ。
そのドラムとかっちり噛みあいながらも、時々予想外のフレーズを繰り出すのが、Harunaのベースである。低音の鳴りや響きを重視しながらも、全身で歌っているようなベースは、なかなか得難いものだ。そのプレイは、ディアンジェロの『ブラック・メサイア』の要となったピノ・パラディーノと較べても見劣りのないものだった。サウンドにもベースは、全体のアンサンブルの調整役として機能しているようだった。
今、PAJAUMI SESSIONが終わって数日経ってこれを書いているが、驚くべきは、メンバー全員の顔とプレイをありありと思い浮かべられる、ということだ。それだけ強烈なインパクトがあるライヴだった、ということだろう。冒頭に戻ると、彼らがポップ・アルチザンであることは当然のことながら、全員が代替不可能な個性を宿している。ライヴを見て、あらためてそう感じ入った次第である。
文:土佐有明
写真提供:COTTON CLUB
撮影:山路ゆか
パジャマで海なんかいかない「Trip」
2022年9月14日(水)
Format:Digital/CD
Label:PAJAUMI Records
Track:
1.Dream Journey
2.Blue
3.Brazen Fire
4.SOMI
5.Let me know
6.Trip
7.Insecurity
8.Between the Lines
9.Rain
10.Searching
11.Another way
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要するに、鍛錬を重ねた上での揺るがないテクニックがあり、どんな音に対しても瞬時に反応できるスキルがあり、先鋭的なことをやっていてもポップに落とし込むセンスがある。音源、ライヴ問わず、どんな場面においても、自分たちの理想とする音をアウトプットできる能力があるわけだ。
それもそのはず、パジャ海の発起人であるキーボードの別所和洋は、数々の大物アーティストのサポート務めてきた才人。Ovall、藤原さくら、Keishi Tanaka、竹内アンナなどの裏方仕事はどれも見事なハマリ具合だったし、柔軟な耳と感受性を持つ人なんだな、と思っていた。だが、別所がただの職人気質でないことを、ライヴを観て得心した。
話をライヴに移そう。11月16日にCOTTON CLUBで行われたパジャ海らのライヴが、別所のピアノ・ソロで幕を開けたのには驚嘆した。裏方的なイメージがあったから、戸惑い、面食らったのかもしれない。ここまでがっつり彼のピアノ・ソロを生で聴くのは初めてだったが、その豊麗な響きは、例えばブラッド・メルドーと比較しても遜色ない。このソロを最初にフィーチャーしてくるというのは、かなり意想外だった。そして、それは勿論、嬉しい驚きだった。
ライヴの話を続けると、女性ヴォーカルがメンバーにふたりいるのも、全体のアンサンブルに深みをもたらしていた。ふたりとも歌い手としてずば抜けた実力派であり、かつ、可憐な出で立ちで観客を魅力する。ふたりがステージに上がる度に、ステージ全体、いや、会場全体が華やいだムードに覆われる。その歌声は、エリカ・バドゥやエスペランサなどにも通じており、ふたりの歌を聴けただけでも、この日のライヴは満足できるものだった。
ちなみに、パジャ海の歌詞はほぼすべて英語であり、彼らはグローバルなマーケットで勝負できるはず、という想いを強くした。実際、パジャ海の音楽はSpotifyなどで日本国外のリスナーに広く聴かれているそうで、海外でも支持される予兆や予感がある。それらは彼らの紡ぐ音楽が、国境を越えて支持される基盤があるからだ。
具体的に言うと、その音楽性は、ロバート・グラスパーやハイエイタス・カイヨーテ等の音楽を好むリスナーにもリーチするはず。あるいは、ディアンジェロとの共振を感じた人もいるだろう。だが、パジャ海が流行ものの模倣やコピーでないことは、アルバムやライヴに触れたことがあれば、即座に了解できるはずだ。
むしろ、パジャ海のサウンドからは、グラスパーらが醸成してきた音楽的ヴォキャブラリーを、大幅にアップデートせんとする志の高さが窺える。グラスパー以前/以降でジャズ・シーンの布置が変わったのは確かだが、それももはや昔のことになりつつある。そろそろヴァージョン・アップする時期がきたのを、彼らは実感しているのではないか。自分たちの手で音楽地図を塗り替えよう、という気概の持ち主かもしれない。
と、ここまで書いて、ライヴに登場したミュージシャンが皆、パジャマを着ていたことを思い出した。ハレの舞台で、バンド名にひっかけてパジャマ(しかもとびきりオシャレな!)という出で立ちで登場した彼らには、筆者が先述したような気概(あるいは気負い)はなかったのかもしれない。とにかくリラックスしていて、かつ、ソロ・パートでは、スポーツで言うところのゾーンに入ったような瞬間も度々あった。緊張と弛緩のバランスが絶妙だったのである。
なお、この日のライヴは、PAJAUMI SESSIONという触れ込みで、佐瀬悠輔 (tp)、馬場智章 (ts)、関口シンゴ (g.)といったゲストを迎えたもので、彼らとの演奏も素晴らしかった。そして、パジャ海が気の置けないゲスト陣たちと楽しくセッションする様子は、多幸感溢れる空気を醸していたのだ。楽器とストイックに向かい合い、鍛錬を重ねてきたメンバーたちは、皆この日のライヴを純粋に楽しんでいた。それでいて、客を楽しませるエンターティナーぶりも忘れてはいなかった。これは一朝一夕ではできないことだと思う。
そして、筆者が最も惹きつけられたのが、ドラムの小名坂誠哉 (Seiya)の爽快で老獪なプレイだ。訛りや揺らぎを含み、まるで酩酊しているようなビートは、有体に言ってしまえば、J・ディラやクリス・デイヴ以降のドラマーのプレイスタイルと通じるところもある。これは推測だが、Seiyaはバンド加入以前から、J・ディラ的なタイム感が自然に身についていたのではないか。
そもそも、ジャズやヒップホップやネオ・ソウルのドラマーは、クリス・デイヴの登場以降、もはや縁の下の力持ちとは限らない存在となっている。ドラムがバンドのうしろでサウンドを支える、という認識ががらっと変わってきたのである。これはパジャ海のSeiyaのプレイにも言えることだ。クリス・デイヴやマーク・ジュリアナ、エリック・ハーランド、ケンドリック・スコットらが、ヒップホップやテクノやロック、ネオ・ソウル、ドラムンベースを養分にしているように、Seiyaのドラムも多ジャンルを跨ぐものだ。
そのドラムとかっちり噛みあいながらも、時々予想外のフレーズを繰り出すのが、Harunaのベースである。低音の鳴りや響きを重視しながらも、全身で歌っているようなベースは、なかなか得難いものだ。そのプレイは、ディアンジェロの『ブラック・メサイア』の要となったピノ・パラディーノと較べても見劣りのないものだった。サウンドにもベースは、全体のアンサンブルの調整役として機能しているようだった。
今、PAJAUMI SESSIONが終わって数日経ってこれを書いているが、驚くべきは、メンバー全員の顔とプレイをありありと思い浮かべられる、ということだ。それだけ強烈なインパクトがあるライヴだった、ということだろう。冒頭に戻ると、彼らがポップ・アルチザンであることは当然のことながら、全員が代替不可能な個性を宿している。ライヴを見て、あらためてそう感じ入った次第である。
文:土佐有明
写真提供:COTTON CLUB
撮影:山路ゆか
RELEASE INFORMATION
パジャマで海なんかいかない「Trip」
2022年9月14日(水)
Format:Digital/CD
Label:PAJAUMI Records
Track:
1.Dream Journey
2.Blue
3.Brazen Fire
4.SOMI
5.Let me know
6.Trip
7.Insecurity
8.Between the Lines
9.Rain
10.Searching
11.Another way
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