SENSA

2022.11.23

MURAバんく。「電波道中記-EP」――心とカラダをどこかに連れて行ってくれる、言葉のない音世界の尊さ

MURAバんく。「電波道中記-EP」――心とカラダをどこかに連れて行ってくれる、言葉のない音世界の尊さ

ここ数年、いやもう10年ぐらい前からだろうか。情報過多になっていく一方な世の中で、インストゥルメンタルを聴く機会が増えた。特に今年は、目を覆いたくなるような悲しいニュースの数々と、品位に欠ける言葉の氾濫に耳をふさぎたくなって、ますます情報を遮断したくなっている。そんなときに、想像力を喚起され自分の心をどこかに連れて行ってくれるインスト曲が欲しくなる。様々な楽器で紡がれた世界に、思いっきり身を委ねたくなる。

MURAバんく。は、"きわめて最⾼なセカイ系エンターテイメント⾳楽集団"と銘打つ、愛知県尾張出⾝の5人組インストバンドだ。その新作『電波道中記-EP』を聴くと、まさに今の時代だからこそ求められている音がここにある。一枚まるごと、とにかく最高に心地良い。何しろ、先行配信リリースされたリードトラックのタイトルが「うんたら紀行」である。"うんたら"ってなんなんだ。だがそれがイイ。言葉の意味なんて、ときに音楽の前には無意味でいいのだ。EPを起動させる冒頭の「log in」に続いて始まるこの曲は、郷愁を掻き立てるトランペットのスローな導入から、小気味良いドラムのハイハット、絶妙にジャキっとスパイシーな音色のギターのカッティング、キラキラしたドリーミーな鍵盤、曲に背骨を通して疾走するベースが、聴く者を"わっしょい、わっしょい"と担ぎ上げて勝手にどこかに連れて行ってくれる。

メンバーは、ジャズやカントリー、ポップス、キューバ⾳楽など、様々な⾳楽ジャンルで活
躍しているプレイヤーだという。今作では、電波ソングといった"アキバの⾳楽"と、東洋やアフリカ、ラテン、アメリカなどの⾵⼟を連想させるジャンル"エキゾティカ"の提唱者マーティンデニーの⾳楽それぞれに、"妙な懐かしさ"といった共通項に気付き、そこから「オンラインエキゾ」というテーマを掲げて制作されたのだとか。なるほど、そう思って聴くと「⼿札」なんかはRPGの世界をテクテク進んで行く主人公のような気持ちにもなれる。途中から登場する⼆胡の音は、ゲーミングチェアに腰掛けたまま数時間PC画面を見つめ続けている状態で聴くと、優しく肩を揉まれているような気分。凝り固まった心とカラダをほぐしてくれる聴くマッサージ的要素もあり。

デジタルサウンドを散りばめながらビッグバンド的な演奏で盛り上げる「紐解きのテーマ」、遠い異国の山々のようなサウンドスケープが広がる「tokiyadori」、幽玄な世界でエンディングへと誘う「105番道路(夜)」を経て、最後は「log out」でハッと我に返る。そうして目を開け耳を澄ますと、現実社会もそう悪くないなと思えたりもするのだった。

文:岡本貴之



RELEASE INFORMATION

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MURAバんく。「電波道中記」
2022年11月18日(金)
Format:CD/Digital
Label:Minnie's Record

Track:
1.log in
2.うんたら紀行
3.手札
4.紐解きのテーマ
5.tokiyadori
6.105番道路(夜)
7.log out
8.ナナナナイスデイ ※パラレルセッションver. (bonus track)

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