SENSA

2022.11.23

笹倉慎介「Little Bug」──過去とも現在とも通じ合う芯のある作品

笹倉慎介「Little Bug」──過去とも現在とも通じ合う芯のある作品

 淡々とした佇まいと細く柔らかい声だが、音楽的体内は折れることのない芯に貫かれている。自分で録音やミックスまで完成させられる人だ。デビューから10数年を経て、若い世代から見ればとっくに完成された「ミュージシャンズ・ミュージシャン」なのかもしれない。しかし、本当はすごく熱くて感じやすく、自分という人間が正直に音楽に出てしまう人だとも思う。彼の作りだす歌を聴けば、「満ち足りた落ち着き」からはほど遠い心情や景色が何度も耳に突き刺さるはずだ。
 『Little Bug』は笹倉にとって1年2ヶ月ぶりのオリジナル・アルバム。コロナ禍にリリースされる作品としては2作目となる。前作のタイトル『Embankment』(21年9月)は「堤防」という意味で、パンデミックにより顕在化した社会の断絶を、プライベートなまなざしで問いかけた作品になっていた。それから何度かの波が来ては去り、社会は「ウィズ・コロナ」を標榜し、少しづつ結界をほどいていった。だが、軋みを抱えたままの世界は、ふとしたきっかけで大きなシステムエラー(戦争)さえ起こしかねない小さなバグだらけだと、新作で笹倉は訴えようとしている。あるいは「バグ=虫」という意味であるとすれば、小さな虫は、甘美な匂いの花にも腐敗してゆく生物の周りにも同じように舞い飛ぶ。その暗喩は、社会で起きていることだけでなく、今を生きる人の心そのものにも通じるだろう。バンド演奏と加工音を二重写しにしたようなアルバム全体のサウンド作りにも、ひとつだけの「言いたいこと」に収斂しない表現を感じた。
 驚いたのは、収録曲のタイトルはすべて英語表記だったこと。この試みは笹倉にとって初めてだろう。自分の音楽がサブスクリプションの中を舞う小さな虫であるのなら、日本語を解しない国を生きる人の心のバグとして入りこむことも可能ではないのか、という思いを勝手に受け取った。
 笹倉が敬愛するジェームス・テイラーやニール・ヤングといった先達の名曲や名盤に、サブスクリプションで偶然に出会っている若者も多い。JTやヤングの古いアルバムを聴いた若いリスナーが、最初は「耳あたりのいいアコースティック感」や「やさしげな歌声」に惹かれたとしても、やがてその音楽から小さなバグを感じとることはあるはず。だったら、「日本には、その先に笹倉慎介がいる」と伝えたい。このアルバムに収められた楽曲の、不安気だが祈りのような真摯さを持つムードは、過去とも現在とも通じ合う芯を持っている。

文:松永良平



RELEASE INFORMATION

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笹倉慎介「Little Bug」
2022年11月16日(水)
Format:Digital

Track:
1.STAR
2.Little Bug
3.Summer Coming
4.Scene to Scene
5.Stay Morning
6.Evolution Is the Reason
7.Ikisatsu
8.go to Ukraine
9.Our House

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LIVE INFORMATION
「Embankment&LittleBug」Wレコ発ライブ
12月26日(月)
高円寺 座・高円寺2
開場18:00 開演19:00
前売 ¥4,500 当日¥5,000(自由席、当日先着順)

チケット:
ZAIKO
https://puffin.zaiko.io/item/352260
イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/3761680001-P0030001
チケットぴあ
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