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2022.08.08
8月2日、古川麦がニューアルバム『Xin』のリリースパーティーをCOTTON CLUBで開催した。この日はアルバムの録音メンバーでもある杉本亮(ピアノ)、千葉広樹(ベース)、田中佑司(ドラム)、関口将史(チェロ)、田島華乃(ヴァイオリン)がバンドとして、角銅真実(ヴォーカル)と井上銘(ギター)がゲストとして参加し、一日限りのスペシャルな公演となった。本稿ではセカンドショーの模様をお届けする。
ライブは千葉もヴァイオリンを弾き、ポストクラシカルのような雰囲気の中で古川がガットギターを爪弾きながら歌う「Angel」からスタート。2曲目には千葉がウッドベースを持ち、バンド全体でフィジカルなアンサンブルを生み出す「Green Turquoise」を披露した。最新作の『Xin』と2014年発表のファーストアルバム『far/close』のともに1曲目を飾るこの2曲の印象の違いが、そのまま現在の古川のモードを表していると言える。つまり、『far/close』のころはまだコンポーザーでありプレイヤーの側面が強かったのに対し、現在の古川はよりシンガーとしての側面を強めているということだ。
その象徴と言えるのが「Weep」から参加し、最後までステージに立ち続けた角銅の存在。ceroのサポートメンバーとしても共演している彼女の参加が古川の「歌」あるいは「ヴォーカル」への傾倒を示し、角銅のトライアングルと田中のカウベルから始まった「Weep」ではラップも披露。角銅がメインヴォーカルを務めた「Why」の繊細な美しさに対し、古川の歌とピアノのみで始まる「雪」も決して引けを取らず、途中から角銅のコーラスが加わることでより歌の魅力が増す展開はとても印象的だった。古川はコロナ禍の中でカバー曲をYouTube配信したりもしていたので、その成果の表れとも言えるだろう。
もちろん、この日のライブはコンポーザーでありプレイヤーとしての側面も十分に堪能できるもので、その側面を象徴したのが「Vacilando」から参加した井上の存在。こちらもceroのサポートとして共演する小田朋美とともにCRCK/LCKSのメンバーとしても活動する井上のプレイは、古川のルーツを感じさせるボサノヴァ色の強い「Vacilando」に艶のあるトーンで色気を加えていく。そして、角銅とともにレコーディングにも参加している「Ritual」ではささやかながら印象に残るギターソロも披露。〈気がつけばもう取り返しのつかない事態〉という歌い出しで始まるこの曲は、コロナ禍の様々な揺らぎの中で制作が行われた本作を歌詞の面で象徴しているが、「歌」と「コンポーズ」が高次元で融合しているという意味でも、現在の古川を代表する一曲だと思う。
一度井上がステージを降りると、2020年に『each night, each morning』の収録曲として発表され、アルバムには新たなミックスを施したバージョンが収録された「灯火」と「見つからなかった」を演奏。千葉の弓弾きを含め、前半がストリングスと古川の歌のみで進行する「見つからなかった」は特に素晴らしかった。ライブ後半では再び井上がステージに戻り、音源では台湾のバンド・DSPSのヴォーカル・エイミーが参加している「Town of Light」から、短いインストを挟み、こちらもストリングスのアンサンブルが優美な「Gomennasai」を続けていく。
この日最後に披露されたのは、以前からのレパートリーであり、『each night, each morning』に収録されていた「Smile」。古川はこの曲の録音時に自宅で一人で歌うことと人前で歌うことの違いを発見し、「歌に対する気づき」という意味で非常に大きな一曲になったことを語っている。そう、古川の歌の変化で何より大きいのが、「誰かに届ける」という想いだったのかもしれない。
『Xin』というアルバムタイトルは中国語で「手紙」を意味していて、コロナ禍で部屋で過ごす時間が長かったからこそ、どこかの土地や会えない誰かに想いを馳せる気持ちが詰まった作品になっている。音楽的にも南米の要素が入っていたり、ジャケットには台湾が映っていて、台湾のミュージシャンが参加していることも、そんな作品の色合いに大きく貢献。それらのすべてがアルバムの親密なムードに繋がっていて、この日のライブもバンドと共に音を楽しみ、オーディエンスに歌を届けようとする、その親密なムードこそが何より感動的だった。
古川はいつになくノリノリになって、文字通り笑顔で「Smile」を歌い上げると、「はけるのがめんどくさいんで」と笑い、そのままアンコールとして、『far/close』から「芝生の復讐」を全員で演奏。サンバ風のリズムに場内から手拍子が起こり、後半では古川と井上がギターでの掛け合いを見せて、特別な一夜は大団円を迎えた。オーディエンスに丁寧な感謝を伝える様子からは、この親密なムードを作り出しているのは古川の飾らない人柄であることも確かに伝わってきた。
文:金子厚武
写真提供:COTTON CLUB
撮影:山路ゆか
古川麦「Xìn」
2022年7月6日(水)
Format:Digital/CD
Label:A GRAIN OF WHEAT RECORD
Track:
1. Angel
2. Ritual
3. Weep
4. Why feat. Manami Kakudo
5. 雪
6. Vacilando
7. 灯火(Xìn mix)
8. 見つからなかった(Xìn mix)
9. Town of Light feat.曾稔文(Xìn mix)
10. Gomennasai
試聴はこちら
FRIENDSHIP.
ライブは千葉もヴァイオリンを弾き、ポストクラシカルのような雰囲気の中で古川がガットギターを爪弾きながら歌う「Angel」からスタート。2曲目には千葉がウッドベースを持ち、バンド全体でフィジカルなアンサンブルを生み出す「Green Turquoise」を披露した。最新作の『Xin』と2014年発表のファーストアルバム『far/close』のともに1曲目を飾るこの2曲の印象の違いが、そのまま現在の古川のモードを表していると言える。つまり、『far/close』のころはまだコンポーザーでありプレイヤーの側面が強かったのに対し、現在の古川はよりシンガーとしての側面を強めているということだ。
その象徴と言えるのが「Weep」から参加し、最後までステージに立ち続けた角銅の存在。ceroのサポートメンバーとしても共演している彼女の参加が古川の「歌」あるいは「ヴォーカル」への傾倒を示し、角銅のトライアングルと田中のカウベルから始まった「Weep」ではラップも披露。角銅がメインヴォーカルを務めた「Why」の繊細な美しさに対し、古川の歌とピアノのみで始まる「雪」も決して引けを取らず、途中から角銅のコーラスが加わることでより歌の魅力が増す展開はとても印象的だった。古川はコロナ禍の中でカバー曲をYouTube配信したりもしていたので、その成果の表れとも言えるだろう。
もちろん、この日のライブはコンポーザーでありプレイヤーとしての側面も十分に堪能できるもので、その側面を象徴したのが「Vacilando」から参加した井上の存在。こちらもceroのサポートとして共演する小田朋美とともにCRCK/LCKSのメンバーとしても活動する井上のプレイは、古川のルーツを感じさせるボサノヴァ色の強い「Vacilando」に艶のあるトーンで色気を加えていく。そして、角銅とともにレコーディングにも参加している「Ritual」ではささやかながら印象に残るギターソロも披露。〈気がつけばもう取り返しのつかない事態〉という歌い出しで始まるこの曲は、コロナ禍の様々な揺らぎの中で制作が行われた本作を歌詞の面で象徴しているが、「歌」と「コンポーズ」が高次元で融合しているという意味でも、現在の古川を代表する一曲だと思う。
一度井上がステージを降りると、2020年に『each night, each morning』の収録曲として発表され、アルバムには新たなミックスを施したバージョンが収録された「灯火」と「見つからなかった」を演奏。千葉の弓弾きを含め、前半がストリングスと古川の歌のみで進行する「見つからなかった」は特に素晴らしかった。ライブ後半では再び井上がステージに戻り、音源では台湾のバンド・DSPSのヴォーカル・エイミーが参加している「Town of Light」から、短いインストを挟み、こちらもストリングスのアンサンブルが優美な「Gomennasai」を続けていく。
この日最後に披露されたのは、以前からのレパートリーであり、『each night, each morning』に収録されていた「Smile」。古川はこの曲の録音時に自宅で一人で歌うことと人前で歌うことの違いを発見し、「歌に対する気づき」という意味で非常に大きな一曲になったことを語っている。そう、古川の歌の変化で何より大きいのが、「誰かに届ける」という想いだったのかもしれない。
『Xin』というアルバムタイトルは中国語で「手紙」を意味していて、コロナ禍で部屋で過ごす時間が長かったからこそ、どこかの土地や会えない誰かに想いを馳せる気持ちが詰まった作品になっている。音楽的にも南米の要素が入っていたり、ジャケットには台湾が映っていて、台湾のミュージシャンが参加していることも、そんな作品の色合いに大きく貢献。それらのすべてがアルバムの親密なムードに繋がっていて、この日のライブもバンドと共に音を楽しみ、オーディエンスに歌を届けようとする、その親密なムードこそが何より感動的だった。
古川はいつになくノリノリになって、文字通り笑顔で「Smile」を歌い上げると、「はけるのがめんどくさいんで」と笑い、そのままアンコールとして、『far/close』から「芝生の復讐」を全員で演奏。サンバ風のリズムに場内から手拍子が起こり、後半では古川と井上がギターでの掛け合いを見せて、特別な一夜は大団円を迎えた。オーディエンスに丁寧な感謝を伝える様子からは、この親密なムードを作り出しているのは古川の飾らない人柄であることも確かに伝わってきた。
文:金子厚武
写真提供:COTTON CLUB
撮影:山路ゆか
RELEASE INFORMATION
古川麦「Xìn」
2022年7月6日(水)
Format:Digital/CD
Label:A GRAIN OF WHEAT RECORD
Track:
1. Angel
2. Ritual
3. Weep
4. Why feat. Manami Kakudo
5. 雪
6. Vacilando
7. 灯火(Xìn mix)
8. 見つからなかった(Xìn mix)
9. Town of Light feat.曾稔文(Xìn mix)
10. Gomennasai
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オフィシャルサイトFRIENDSHIP.