SENSA

2022.07.06

フレデリック、ミュージック・ジャンキーたちを歓喜に導くクールな熱狂

フレデリック、ミュージック・ジャンキーたちを歓喜に導くクールな熱狂

 2022年6月29日、フレデリックは国立代々木競技場第一体育館でワンマンライブ『FREDERHYTHM ARENA 2022~ミュージックジャンキー~』を開催した。自身4度目となるアリーナ公演、しかも、2018年の神戸ワールド記念ホール、2020年横浜アリーナ、翌2021年の日本武道館公演を超える過去最大キャパシティという一夜限りのワンマンライブ。この日の東京は、6月としては前例がないほどの記録的な酷暑となったが、代々木第一体育館の中も、実にクールかつ熱いライブが展開された。

 開場時に流れていたBGMが鳴り止み、暗くなった場内にブルーのライトが直線状に放たれる中、フレデリックの4人がステージ登場。「FREDERHYTHM ARENA、始めます」。SEに続いて三原健司(Vo/Gt)の声でアナウンスされると、聴こえてきたのは「名悪役」のイントロ。昨年の武道館公演でラストを飾ったこの曲からのスタートだ。ステージ後方のビジョンに歌詞がグラフィカルに表示され、軽快なシーケンス音と共に高橋武(Dr)がタイトなビートを刻む。それを三原康司(Bs/Chor)のピック弾きベースがドライブさせていき、幾何学的なリズムを赤頭隆児(Gt)のギターが縦横無尽に乗りこなしていく。そこに健司の歌声が乗ることで、会場は一瞬にしてフレデリックの世界へと染まっていった。

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 続けざまに始まった「TOMOSHI BEAT」では、スネアの連打とライティングがシンクロして楽曲の躍動感をより一層際立たせる。続く「蜃気楼」は、音源ではスタイリッシュなリズムで構築されていたが、今回はよりロック色の強いドラムでアレンジ。そのリズムの隙間に歌のディレイが溶け込んでいった。

「我々フレデリックは、3月に3rd Full Album『フレデリズム3』を出しました。そこで自分たちのフレデリックらしさ、フレデリックはこういう風に音楽を打ち出していきますというひとつの旗を打ち出しました。じゃあ、この音楽をどこでみんなに届けようかと思った時に、ライブハウスじゃない、野外じゃない、めちゃくちゃでっかいアリーナ、代々木でやろうと決めて、しっかりオレたちの音楽を磨き上げ、ここにくることができました。ここに来たからには、オレたちがやることはシンプルです。素直に、純粋に、オレたちの音楽をやり切ります。なので、あなたもそうであってください。一対一でやりましょう」

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 健司がこう語ると、レーザーが鮮やかに彩った「VISION」、クラップで会場全体が一体となった「かなしいうれしい」、そのエンディングとクロスフェードするかのように秒針の音が鳴り響き、「ANSWER」を立て続けに披露。「Wanderlust」では康司がシンセベースで重低音を轟かせると、スモークに覆われたステージでは「うわさのケムリの女の子」が歌われ、続く「ラベンダ」ではなんとラベンダーの香りを場内に漂わせるという心憎い仕掛けが。数年前まで、誰もが当たり前のものとして受け取っていたリアル・ライブならではの体感、そしてステージとの"一対一"になれるフレデリックならではのライブ感を、観客の脳裏に強く刻み込んでくれた。

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 ここで長めのMCを挟み、会場の空気を一旦落ち着かせると、メンバーはセンターステージへ。自分たちの人生において、最も輝いている音楽を作れたという『フレデリズム3』。その"最高"な出来栄えさえもライブの場で常に更新していき、今、一番カッコいいフレデリックを表現するために、「こういう風にしたら、より面白いだろうなという編成で、ここからは、康司と、隆児と、(高橋)武ちゃんの3人で音楽を届けさせていただきます」と健司は告げ、彼は一旦ステージ袖へ。MCをバトンタッチされた康司は、「健司にデモを聴かせたら『この曲は康司が歌った方がいい』と言われて」と制作時のエピソードを披露しつつ、「あなたが、あなたらしくいられますように」と語り、3人で「YOU RAY」を演奏した。音源ではマリンバやストリングスが印象的なアレンジだが、この日は赤頭がアコギ、高橋はリムショットを効かせたアコースティック調の特別なアレンジで、満員の観客を魅了した。

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 3人の演奏を受け、再び姿を現した健司は、彼らを「オレの自慢の仲間です」と言い、今度はメインステージからセンターステージへとつながる花道の中央付近に一人で立ち、アコギの弾き語りソロで「サイカ」を伸びやかに歌う。今ではフレデリックになくてはならない健司の歌声だが、かつてはその声がコンプレックスだったことを明かし、「でも、康司は曲を通して、隆児は行動で、武ちゃんは言葉で『その声が必要だ』と伝えてくれた」と続けた。まさしく「サイカ」は、一人一人の個性や才能をお互いに尊重し、大切にしようという歌であり、すべての観客が静かに耳を澄ます中、アリーナに健司の歌声がこだますと、その余韻を大きく温かい拍手が包み込んだ。

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 すると場内は暗転となり、シーケンス音が鳴り響いて「Wake Me Up」へ。いよいよ後半戦だ。まさしく"踊らにゃ損"と言わんばかりに「YONA YONA DANCE」で場内を一気に盛り上げると、「KITAKU BEATS」では、歌詞の一部を〈今日は代々木だ、最高の夜にしような!〉を変えて歌う。そしてここで、8年前のデビュー曲「オドループ」の登場だ。"今"にこだわるフレデリックだが、やはりこの曲は欠かせない大切な曲であると同時に、最新曲が目白押しのセットリストの中にあることで、改めて「オドループ」の突出した音楽的個性と、デビュー時点で、既にフレデリックの存在意義が確立されていたことに改めて気付かせてくれた。

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 続けざまに本編ラストとして、アルバム『フレデリズム3』のオープニングを飾る「ジャンキー」を畳みかけると、会場の盛り上がりも頂点へ。MVと同様に、双子のダンサーSAHOSHIHOがステージに登場し、中毒性の高いダンスを披露。すると突然、客席に配置された警備スタッフまでもがキレキレのダンスを始め、代々木体育館がまさしくミュージックジャンキー一色に染まる。そしてエンディングで、「オレたちミュージックジャンキーの旅はまだまだ続きます。まだまだ踊ってください!」と健司が叫ぶと、再び演奏がスタート。アウトロが何度もループされ、ステージのビジョンには秋からスタートする全国ツアー『FREDERHYTHM TOUR 2022-2023〜ミュージックジャーニー〜』、そして来年3月に大阪・オリックス劇場、東京・NHKホールで開催される『FREDERHYTHM HALL 2023』の日程が映し出される。そしてラストの爆発音(特殊効果)の大音響と共に、この日のライブはクライマックスを迎えた。

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 ライブ序盤をリズミックなフレデリックらしさ全開の楽曲で固め、中盤では観客の耳と心をグッと掴む歌を聴かせ、そして終盤で際限なく盛り上げていくという、実に見事なセットリスト。しかも注目すべきは、過去最大規模の、しかも一夜限りのスペシャル・ライブでありながら、お祭り騒ぎ的な演出は極力控え、アンコールを含めた全18曲中、過去曲はわずか4曲のみとし、あくまで『フレデリズム3』を前面に押し出したセットリストを組んでいたという点だ(『フレデリズム3』収録曲は全曲が披露された)。これこそ、ライブ中のMCで健司が何度も語っていたように「今が一番カッコいいフレデリックでありたい」という意思の表れであると同時に、最新アルバムに対する彼らの自信と誇りを感じさせるものであった。

 そして何よりも、その演奏自体にフレデリックらしい説得力があった。一般的にロック・バンドのライブと言えば、バンドが放つ大音響、息苦しいほどの熱気や汗により、我を忘れるほどの興奮状態に到達できることがひとつの醍醐味だ。しかしながら誤解を恐れずに言えば、フレデリックのライブは、ある意味でそれらとは対極を成す覚醒感が味わえる。極めてハイファイなサウンドとクリーンな空気感の中で、言葉とリズムが観客の感性を刺激し、脳が興奮状態へと導かれるという、いわば"クールな熱狂"なのだ。

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 実際に、PAスピーカーから観客に届けられた歌や演奏は実にクリアで、ベースとドラムは生み出すタイトなビート、ギターのメカニカルなフレージング、そしてボーカルの感情の起伏や息遣い、コーラスとのマッチングを余すところなく味わえた。だが、ここまで高解像度のサウンドは、プレイヤーにとっては些細なミスも許されないという、非常にやりづらい環境とも言える。そんな中でも4人は、彼らの楽曲の特色でもあるハイレベルなキメやトリッキーなリズムを繊細かつダイナミックにプレイ。質の高いバンド・アンサンブルに、筆者も思わず身体を揺らぶられた(さらに観客のクラッピングも完璧であったことを付け加えておきたい)。

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 そんな歌と演奏の背景を、時に楽曲の表情豊かに彩り、時には先頭に立ってグルーヴを牽引していくような美しいライティングや、理屈抜きに観客のテンションを高揚させるレーザーなど、すべての要素がハイレベルで融合した、実に完成度の高いライブ。先ほど「お祭り騒ぎ的な演出は極力控え」と書いたが、それはあくまでも過剰なデコレーションをしていないという意味であり、むしろフレデリックは、音楽と真摯に向き合うことで十分すぎるほどスペシャルなパフォーマンスを見せてくれたのだった。

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 アンコールで再びステージに姿を現した4人は、名残惜しそうに、それでも笑顔を見せながら会場を見渡し、「音楽を好きでいてくれてありがとう」と健司は観客にメッセージを送り、「サーチライトランナー」「熱帯夜」を歌い終えると、特別な熱い一夜を締め括った。すべての演奏が終わり、再びセンターステージへと移動した4人。そこで深々と頭を下げると、場内にはBGMとして「ジャンキー」が流され、観客はライブ中と同じように(あるいはそれ以上に)手拍子を鳴らした。まだ歓声をあげられない、その観客の心の声に見送られるように、赤頭、高橋、そして健司と康司は肩を組みながら、4人はバックステージへと消えていった。

文:布施雄一郎
写真:渡邉一生、森好弘、小杉歩

FREDERHYTHM ARENA 2022〜ミュージックジャンキー〜 PLAYLIST








RELEASE INFORMATION

フレデリック 3rdフルアルバム「フレデリズム3」
2022年3月30日(水)

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初回限定盤:CD+DVD / AZZS-126 / 4,800円(tax in)

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通常盤:CD / AZCS-1106 / 3,333円(tax in)

◾︎CD(初回/通常共通)
Track:
01 ジャンキー
02 YONA YONA DANCE(フレデリズム Ver.)
03 熱帯夜
04 VISION
05ラベンダ
06 サイカ <TVアニメ「さんかく窓の外側は夜」オープニングテーマ>
07 ANSWER / フレデリック×須田景凪 <「テイルズ オブ ルミナリア」インスパイアソング>
08 サーチライトランナー <Jリーグ アオアシ「グローイングアッププロジェクト」KICKOFFムービータイアップソング>
09 Wake Me Up <TBS系「CDTVサタデー」2020年10月オープニングテーマ>
10 Wanderlust <ニュージーランド政府観光局「ニュージーランドの旅を想像しよう」キャンペーン動画テーマ>
11 YOU RAY
12 蜃気楼
13 TOMOSHI BEAT <「テイルズ オブ ルミナリア」オープニングテーマ>
14 名悪役

◾︎初回限定盤DVD
FREDERHYTHM ARENA 2021~ぼくらのASOVIVA~ at 日本武道館(2021.02.23)
Track:
01 Wake Me Up
02 リリリピート
03 もう帰る汽船
04 ふしだらフラミンゴ
05 他所のピラニア
06 正偽
07 うわさのケムリの女の子
08 まちがいさがしの国
09 スキライズム
10 オンリーワンダー
11 されどBGM
12 サーチライトランナー
13 オドループ
14 名悪役
※メンバーによるオーディオコメンタリー付

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