SENSA

2022.06.30

YMB 「Tender」 ──ポップソングの名手たる4人組が紬ぐ、ポストコロナのハートビート

YMB 「Tender」 ──ポップソングの名手たる4人組が紬ぐ、ポストコロナのハートビート

大阪発の4人組バンド、YMBが2021年にリリースしたサードアルバム『トンネルの向こう』には、コロナ禍での生活における先の見えない不安、思うままに動けない状況から生まれた焦燥感が素直に映し出されていた。とはいえ、そうした陰のある感情を肥大化させ、過度なエモ味とともに表現するのではなく、彼ら特有のソフトなポップソングに忍ばせたその手つきにこそ、このバンドの矜持が出ていたと言えるだろう。『トンネルの向こう』は、パンデミックの時代における〈普通の人々〉の息吹を記憶した作品として、ポップミュージックの歴史に位置付けられていい。

コロナ以降のフェーズへとようやく世の中が歩みはじめた2022年の夏、YMBもまたかつての日常を取り戻しつつあるようだ。〈ささくれた心が優しさに触れた 揺れた〉という癒しを示唆するフレーズではじまる新作 『Tender』には、なんてことのない日々における、ありふれた心の動きがつまびらかに描かれている。

ディスコビートを刻む"joke"で歌われるのは、心にもないセリフから衝突してしまった恋人たちの姿。ジャジーなネオソウルの"rain"はその名の通り、降り止まぬ雨に、消えぬ不安と自由への渇望を託す。ブレイクビーツドラムとカッティングギターのコンビネーションが90年代ポップスを彷彿とさせる"ありがとうもいらない"では、伝えられなかった想いをたぐり寄せるようにようにかき集めている。『Tender』の登場人物たちはみな、(コロナが過ぎ去ってもなお)心のなかに曇り空を浮かべているようだ。やれやれ、なんて難儀な人たちなのだろう!? でも〈その実感を〉〈回る世界の中でこれからも/続いていけばいい〉のだ。だって繊細で傷つきやすく、それがゆえに愛らしい彼らはまるで、私やあなたのようじゃないか。そういや〈Tender〉は〈柔らかさ〉や〈脆さ〉を意味する言葉なんだ。

音楽制作における産みの苦しみを率直に綴ったメロウなソウルチューン"SHOCK!!!"で、ソングライターの宮本佳直は〈書けそうだぼくなりの人間讃歌〉と口にする。少しばかりのいい予感を匂わせること、自分のまなざしで人を肯定してみること。YMBは『Tender』の制作にあたって、そんなことをみずからに課していたのかもしれない。バンド史上もっとも屈強なファンクネスを紡ぐ本作は、ダンスにうってつけのアルバムでもある。最終曲"fall"で歌われるように、『Tender』は〈希望に満ちた音〉として響いては、ポストコロナを生きる〈普通の人々〉のステップあるいはハートビートと重なっていくのだろう。

文:田中亮太




RELEASE INFORMATION

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YMB「Tender」
2022年6月29日(水)
Format:Digital
label:FRIENDSHIP.

Track:
1.Tender
2.joke
3.rain
4.SHOCK!!!
5.ありがとうもいらない
6.似たもの同士
7.fall

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オフィシャルサイト
FRIENDSHIP.

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