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2022.07.05
先日26歳になったばかりの次世代音楽家、アツキタケトモの新作である。2021年発表のセカンド・アルバム『幸せですか』以降にリリースされたシングルを中心に新曲を加えた6曲入りEPだ。
本作に於ける顕著な変化は、これまで全作詞曲・歌・演奏・アレンジ・録音まで、ほぼすべてをひとりでやっていたワンマン制作態勢から、アレンジや演奏、録音などを一部外部コラボレイターに委ねていることだ。田中佑司(bonobos)、TAKU(韻シスト)、サトウカツシロ(BREIMEN)、平畑徹也といったプレイヤーが演奏で、TAAR,PARKGOLFといったトラックメイカーも、ビートメイクで参加している。ミックス・エンジニアも宮沢竣介、小森雅仁、奥田泰次、白石経といった経験豊富な職人たちが参加、マスタリング・エンジニアは『幸せですか』も担当した大物ランディ・メリル(ハリー・スタイルズ、テイラー・スウィフト、シルク・ソニックなど)が全曲を手がけるという万全の布陣だ。
つまり、それまでたった一人の孤独な作業で自己の世界を紡いできたアツキタケトモが、外部の協力者たちの手を借りて、今までになく開かれた境地を目指したのが本作『Outsider EP』ということになる。
ファースト・アルバム『無口な人』は、全8曲中5曲が失恋の歌だったことからもわかる通り、すべてがアツキタケトモの内面で完結する世界だった。ちっぽけでみじめな日常から脱したいと願いながらも果たせず「何も言わない」「何も言えない」社会の中で埋没していくしかない自分への嘆きが、その表現世界のほとんどすべてだった。ただそうした鬱屈した内面を、スガシカオあたりを思わせるキャッチーでメロディアスで親しみやすいポップスとして表現することがアツキタケトモの個性であり、そうした彼の美点はその後も発展しながら引き継がれていく。
『無口な人』で、溜まりに溜まっていた自身の内面の葛藤や苦悩、孤独や不安を吐き出した彼が次に表現すべきものを模索する段階で自然に生まれたのが、COVID‑19のパンデミックで様々にあぶり出された社会の矛盾や歪み、混乱の中で翻弄される人びとの思いをメッセージにして表すことであり、それがセカンド・アルバム『幸せですか』だった。つまりここで彼は彼個人の内面をミクロに眺めるだけではなく、より広い社会的視座の中で位置づけるようになってきたのである。
そして『Outsider EP』では、さらにそのメッセージは普遍的になり、鋭さを増している。歌詞は平易で、誰にでも理解できる言葉を使い、誰でも思い当たるようなシチュエーションを設定して、伝えたいメッセージを効果的に伝える。とりわけ「誰かといる時の方が一人より孤独」というパンチライン(アルバム全体を通じてのキーワードでもある)が印象的なタイトル曲「Outsider」は、その代表的な曲だ。不条理な社会とそれに翻弄される個人の内面を描いた歌詞の鋭さと、シティ・ポップスさながらの軽快な曲調のバランスが素晴らしい。田中佑司やTAKUといった腕利きたちが奏でる解放的でグルーヴィな演奏とポップなコーラスが相乗した気持ちよさは過去のアツキタケトモにはなかったもので、コラボレイターを導入した成果が表れている。前作では封印していたラヴ・ソングも復活しているが、風通しはずっと良く、より普遍的でポップな表現となっている。
本人が言うように歌謡性の強いJ-POP的な楽曲とオルタナティヴなロックやR&Bの最新の音を融合させるのがアツキタケトモの方法論である。メロディアスでオーソドックスなメロディに最新の洋楽の意匠を取り込んで新鮮なポップスを作るやり方は、古くは明治時代から、新しくは第二次大戦後の日本の流行歌に洋楽=外来文化が受容される程に於いて自然に生まれてきたものだ。いわばアツキタケトモはその衣鉢を受け継ぐ末裔であり、『Outsider EP』は最新の成果である。
『Outsider EP』はこれまででもっともオルタナタティヴで実験的なサウンドが聴ける。とはいえ決してマニアックなものにならないバランス感覚は、80年代の日本のニューミュージックの良いところを受け継いでいる感もある。アコギ弾き語りのフォークが洋楽的意匠を加えて最新のポップスとしてブラッシュアップしたのがニューミュージックであるなら、アツキタケトモはアコギをDAWアプリケーションに持ち替えた新時代のニューミュージックである、と言えるかもしれない。
文:小野島大
アツキタケトモ「Outsider - EP」
2022年6月29日(水)
Format:Digital
Track:
1.Untitled
2.Outsider
3.Family (Co-Produced by TAAR)
4.Shape Of Love (Co-Produced by PARKGOLF)
5.Period
6.それだけのことなのに
試聴はこちら
FRIENDSHIP.
本作に於ける顕著な変化は、これまで全作詞曲・歌・演奏・アレンジ・録音まで、ほぼすべてをひとりでやっていたワンマン制作態勢から、アレンジや演奏、録音などを一部外部コラボレイターに委ねていることだ。田中佑司(bonobos)、TAKU(韻シスト)、サトウカツシロ(BREIMEN)、平畑徹也といったプレイヤーが演奏で、TAAR,PARKGOLFといったトラックメイカーも、ビートメイクで参加している。ミックス・エンジニアも宮沢竣介、小森雅仁、奥田泰次、白石経といった経験豊富な職人たちが参加、マスタリング・エンジニアは『幸せですか』も担当した大物ランディ・メリル(ハリー・スタイルズ、テイラー・スウィフト、シルク・ソニックなど)が全曲を手がけるという万全の布陣だ。
つまり、それまでたった一人の孤独な作業で自己の世界を紡いできたアツキタケトモが、外部の協力者たちの手を借りて、今までになく開かれた境地を目指したのが本作『Outsider EP』ということになる。
ファースト・アルバム『無口な人』は、全8曲中5曲が失恋の歌だったことからもわかる通り、すべてがアツキタケトモの内面で完結する世界だった。ちっぽけでみじめな日常から脱したいと願いながらも果たせず「何も言わない」「何も言えない」社会の中で埋没していくしかない自分への嘆きが、その表現世界のほとんどすべてだった。ただそうした鬱屈した内面を、スガシカオあたりを思わせるキャッチーでメロディアスで親しみやすいポップスとして表現することがアツキタケトモの個性であり、そうした彼の美点はその後も発展しながら引き継がれていく。
『無口な人』で、溜まりに溜まっていた自身の内面の葛藤や苦悩、孤独や不安を吐き出した彼が次に表現すべきものを模索する段階で自然に生まれたのが、COVID‑19のパンデミックで様々にあぶり出された社会の矛盾や歪み、混乱の中で翻弄される人びとの思いをメッセージにして表すことであり、それがセカンド・アルバム『幸せですか』だった。つまりここで彼は彼個人の内面をミクロに眺めるだけではなく、より広い社会的視座の中で位置づけるようになってきたのである。
そして『Outsider EP』では、さらにそのメッセージは普遍的になり、鋭さを増している。歌詞は平易で、誰にでも理解できる言葉を使い、誰でも思い当たるようなシチュエーションを設定して、伝えたいメッセージを効果的に伝える。とりわけ「誰かといる時の方が一人より孤独」というパンチライン(アルバム全体を通じてのキーワードでもある)が印象的なタイトル曲「Outsider」は、その代表的な曲だ。不条理な社会とそれに翻弄される個人の内面を描いた歌詞の鋭さと、シティ・ポップスさながらの軽快な曲調のバランスが素晴らしい。田中佑司やTAKUといった腕利きたちが奏でる解放的でグルーヴィな演奏とポップなコーラスが相乗した気持ちよさは過去のアツキタケトモにはなかったもので、コラボレイターを導入した成果が表れている。前作では封印していたラヴ・ソングも復活しているが、風通しはずっと良く、より普遍的でポップな表現となっている。
本人が言うように歌謡性の強いJ-POP的な楽曲とオルタナティヴなロックやR&Bの最新の音を融合させるのがアツキタケトモの方法論である。メロディアスでオーソドックスなメロディに最新の洋楽の意匠を取り込んで新鮮なポップスを作るやり方は、古くは明治時代から、新しくは第二次大戦後の日本の流行歌に洋楽=外来文化が受容される程に於いて自然に生まれてきたものだ。いわばアツキタケトモはその衣鉢を受け継ぐ末裔であり、『Outsider EP』は最新の成果である。
『Outsider EP』はこれまででもっともオルタナタティヴで実験的なサウンドが聴ける。とはいえ決してマニアックなものにならないバランス感覚は、80年代の日本のニューミュージックの良いところを受け継いでいる感もある。アコギ弾き語りのフォークが洋楽的意匠を加えて最新のポップスとしてブラッシュアップしたのがニューミュージックであるなら、アツキタケトモはアコギをDAWアプリケーションに持ち替えた新時代のニューミュージックである、と言えるかもしれない。
文:小野島大
RELEASE INFORMATION
アツキタケトモ「Outsider - EP」
2022年6月29日(水)
Format:Digital
Track:
1.Untitled
2.Outsider
3.Family (Co-Produced by TAAR)
4.Shape Of Love (Co-Produced by PARKGOLF)
5.Period
6.それだけのことなのに
試聴はこちら
LINK
オフィシャルサイトFRIENDSHIP.