SENSA

2022.04.19

Predawn「The Gaze」──これまで以上に色彩豊かになった〈夜明け前の国〉

Predawn「The Gaze」──これまで以上に色彩豊かになった〈夜明け前の国〉

 「夜明け前」という意味を持つ、シンガー・ソングライター、清水美和子のソロ・プロジェクト、Predawn。ファースト・アルバム『A Golden Wheel』(2013年)までは、作詞/作曲/演奏/録音のすべてを清水一人で手掛けていたが、セカンド・アルバム『Absence』では、神谷洵平(赤い靴)やガリバー鈴木、武嶋聡らが参加してサウンドに広がりをみせた。そして、5年半ぶりの新作『The Gaze』には前作の3人に加えて、Rayons、吉田篤といった面々が参加。これまではアコースティック・ギターの弾き語りが中心だったが、本作ではバンド・サウンドをしっかりと自分の歌になじませている。
 演奏者や楽器が増えたぶん、アレンジやプロダクションは細やかに作り込まれている。1曲1曲、工夫を凝らした音でデザインされていて、歌だけではなくサウンド全体で生み出す独特のムードや世界観が魅力的。そこにはオルタナティヴな感性が息づいている。
 アルバムのオープニング曲「New Life」のメロトロンを使った不思議なイントロから、白昼夢めいた歌の世界に引き込まれていく。エレキ・ギターの荒々しい響きを効果的に使った「Ocean Is Another Name for Grief」。電子音とストリングスが溶けあった「Canopus」。汽笛のようにピアニカが宙を漂う「Here We Go Again」など、フォークやルーツ・ミュージックをベースにした歌を、様々なアイデアを散りばめた多彩なサウンドで肉付け。また、リズム・セクションが果たす役割が大きくなっているのも特徴で、アルバムを貫くゆったりとしたグルーヴが不思議な浮遊感を生み出している。
 以前、清水に取材した際、彼女は「自分の曲はどこで聴いても、そこに〈自分の部屋〉があるような気がする」と語っていた。本作では部屋を思わせるパーソナルな空気感を大切にしながらも、様々なミュージシャンの演奏が混ざりあうことで、部屋の窓は大きく開かれて開放感がある。そして、その部屋の真ん中で、小さな灯のように輝いているのが歌声。甘く、メランコリックで、それでいて飄々とした軽やかさも感じさせる歌声は、朝になるとやってくる日常と夢の境界にある〈夜明け前の国〉を、一人で旅する少女が歌うハミングのようだ。
 ちなみにアルバム・タイトルの〈Gaze〉とは〈視線〉のこと。ジャケットの絵を見ると大きな瞳のようなものが描かれているが、本作では清水が見つめた世界をこれまで以上に豊かな色彩と質感で描き出していて、奥行きを増したPredawnの魅力をたっぷりと味わえるアルバムだ。

文:村尾泰郎




RELEASE INFORMATION

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Predawn「The Gaze」
2022年4月13日(水)
Format: Digital / CD
Label:Pokhara Records

Track:
1. New Life
2. Paper Bird
3. Something Here Isn't Right
4. Ocean Is Another Name for Grief
5. Floating Sun
6. Canopus
7. Willow Tree
8. Here We Go Again
9. Monument
10. Fictions
11. Star Child
12. The Bell

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