SENSA

2021.10.20

選ぶことは生きること──音楽でそのことを明らかにする BROTHER SUN SISTER MOON、No Buses、Newdumsによる3マンツアー初日東京公演

選ぶことは生きること──音楽でそのことを明らかにする BROTHER SUN SISTER MOON、No Buses、Newdumsによる3マンツアー初日東京公演

今年アルバムをリリースした(する)バンドの中でも海外インディーミュージックの影響を独自に昇華し、国内外で共振し得る3組――BROTHER SUN SISTER MOON、No Buses、Newdumsのスプリットツアーは界隈のライブシーンを熱心に追いかけているバンド好きはもちろん、コロナ禍でなければ、Pitchfolk主宰のフェスや東アジアのフェスに出演して然るべきラインナップだと感じている。リスナーはブルックリンにもバンコクにもパースにもきっといるだろう。という想像はさておき、10月に入り、緊急事態宣言が解除された街には音楽や映画、舞台などのカルチャーを楽しむ日常が少しずつ戻ってきた。この日の新代田FEVERも感染対策はこれまで通りしっかりとりながら、アルコールの提供が許可された場内では久々に友人と遭遇し、乾杯する人も散見され、なんとなく2年前までのこの会場のムードを思い出させた。バンド仲間も多かった様子で、Soldoutしたこともあり、再びここからミュージックラバーの日常が始まる予感もあった。ワンマンライブとは違う、ライブハウスで未見のバンドに出会う楽しさを思い出させてくれたのだ。

東名阪で開催される今回の「FAR FROM HOME」。11月に名古屋、大阪公演が控えているので、詳述を避けながら印象に残った場面をお届けしよう。

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一番手は6月にニューアルバム『N.N.N.』をリリースしたNewdums。彼らの第一音がこの日のムードを決めそうな気配があったのだが、伊井祥悟(Vo/Gt)と林幸次郎(Gt)のフレージングがドリーミーに溶けた瞬間、「あ、今日、最高だな」という確信が沸いてきた。このスプリットツアーの開催に向けて行った鼎談で、林が「懐かしいって新しいと似てる」というパンチラインを放ってくれたのだが、Newdumsの音楽はまさにそれだ。どこか架空のアメリカの片田舎の酒場に突如現れたグラムスター、みたいな普通なら相容れない、でもオーセンティックな音楽の輝きが溶け合う。「Stand by me」のようにメロウなナンバーもあれば、林のレスポールのファットな音がタフな印象の「Naked」のようなナンバーも並列して全く違和感がない。懐かしさを感じながら、音像は全ての楽器の分離が良いモダンなミックスであること、それを耳や目を含む身体と感覚で受容することが楽しい。いまの自分の反応が楽しいのだ。

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『N.N.N.』からの選曲以外に『Inherent Vice』からマイナーチューンもチョイス。レイドバック気味の平間誠太(Ba)のベースラインがネオソウルの匂いを放ちつつ、上モノはサイケにメランコリックに感情を揺らす「Another one」なども盛り込んでくる。ノンアルコールでも酩酊状態だが、飲みたくなる。いいライブの証左だ。ドラムの丹埜由一郎の繊細な声が幽玄かつブルージーな「Mist」でたゆたう。彼のボーカルナンバーが、グッと感情のレンジを広げていくのが分かる。対照的な伊井のブルース/ロックンロールからブギーが似合うボーカルとのコーラスも鮮明で、35分のステージが終わる頃にはちょっとした旅を経験した気分に。『N.N.N.』にヤラれたリスナーはこの後の名古屋、大阪を観る人は期待して間違いない。この一音は必要なのか?という選択と磨き上げ方が素晴らしかった。

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唯一、ニューアルバムがこの日の時点でリリースされていなかったBROTHER SUN SISTER MOON(以下、BSSM)。それでもオーディエンスは転換からサウンドチェックのあいだも最も集中してステージを観ていたように思う。惠愛由はステージ右にキーボードとシンセに囲まれており、どうやらボーカル&鍵盤専任なのだなと思っていたら、ベースは大阪のオルタナティブR&Bバンド、トライコットの乾拓也が務めていた。

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大いなるネタバレだがブルーの照明に照らされ、Sharon Van Ettenバージョンの「Silent Night」(「きよしこの夜」)を登場SEにしているあたりから、もう完全にBSSMの世界に引き込まれる。1stアルバム『Holden』はこの時点でまだリリースされてはいないものの、2作のEPや単曲をドロップしてきたため、耳馴染みのある楽曲が空間に解き放たれる興奮を感じる。愛由の弾くホーリーなオルガンと惠翔兵のメランコリックなギターが溶け合う「I Said」のゆらめき。惠兄妹のボーカルが交互に歌われる楽曲ではどこか高い空間で魂が呼応しているような不思議な感覚も。アルバムから先行配信されたポップネスがあふれる「A Whale Song」では岡田優佑(Dr)が挟むパッドの音が一瞬、別の空間に飛ばされるような効果もあった。「All I Want」のフランスのオールドなポップスを思わせる甘いメロディが似合う翔兵のハイトーンからファルセットも明快に聴こえる。良く練られたアレンジはライブでも一切の妥協がない。

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「Hey,Hey,ここでゲストが登場します。Gateballersの夏椰くん!「Cactus」って曲のレコーディングでラップスティール(ギター)を弾いてくれていて。いつも面白いことをしてくれる」という愛由の紹介で、濱野夏椰が参加。その「Cactus」ではラップスチールもシンセも何もかもがロングトーンでグッと夜の中に吸い込まれていくような心地に。もはや集団催眠のごとく、フロアが左右に静かに揺れている。意識が揺らめくような没入感だ。洋の東西も時間も超越して、世界のどこかにありそうでなさそうな街や自然を描き出すBSSMのサウンドスケープはライブハウスごとどこかに飛んでいきそうだった。凝ったギミックもなく、演奏でこんなに感情が移動することなんて、そうそうない体験だと思う。アルバム楽曲も披露してくれたので、聴き込んだ上でライブに臨める名古屋、大阪のオーディエンスはまた違う受け取りをするかもしれない。

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トリのNo Busesはセッティングとサウンドチェックからそのまま本番へ。ステージという非日常、のような演出は彼らからもっとも遠いのだろう。それでいて音を出すと人が変わったように5人がクールなアートピースの一つひとつとして駆動し始めるのだから目が離せない。ちなみに筆者は9月にNOT WONKとの2マンを観たのだが、そのときと同じく9曲で組まれたセットリストは微妙に内容が変更されていた。だが、セルフタイトルのニューアルバムから聴かせたいマストなナンバーは決まっているようで、歌メロと後藤晋也(Gt)のフレーズがユニゾンする聴感など、随所にニューウェーヴのニュアンスのある「Preparing」や、後藤と和田晴貴(Gt)のリフが抜きつ抜かれつ、次第にパラレルなフレーズへ展開する「Having a Headache」などは定番になっている様子だ。和田が正式メンバーになってから初めてのフルアルバムでもあり、フロントにギター3本というインパクトも去ることながら、誰が単音アルペジオ担当とか、コードをメインに弾くとか、必ずしも決まっておらず、あくまでも楽曲によって3人の音の重ねや積み方が違うことを目撃できる楽しさはライブならでは。

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また、「そのためだけにシンセをセッティングしてるのか」と驚くぐらい、近藤大彗(Vo/Gt/Syn)が「Yellow Card」のイントロで空間を拡張するSE的にシンセを弾いたり、必要最低限しか鳴らされないエレクトロニクスもある。その潔さはいわゆるガレージ/ロックンロール・リバイバルの2010年代後半の再解釈的だった初期のマインドと通じながら、実際のアレンジはアップデートされているといった具合なのだ。また、No Busesのリズム隊は"リズム隊然"とした屋台骨というよりはサウンドの印象を決定づける。ピーター・フックの影響を感じさせつつ、あくまでもオリジナルな杉山沙織(Cho/Ba)のギターに対する音の独特のあてかたは実はNo Busesのクールな印象を決定づけている。Gang of Four真っ青な切れ味鋭い「Not Healthy」のコードの裏を行くよく動くベースラインのセンスには毎回唸らされる。市川壱盛(Dr)のデッドなスネアの音質やシンバルを極力使わないスタイル、ハイハットワークの細かさなど、彼のストイシズムが「Mate」にうっすらかかるシンセの効果を上げていく。

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それにしてもこの日、近藤は自分で「よく喋ってますね。リラックスしてるんでしょうか」と、「Alpena」のMVで着ていた服を「暑いんですけど、好きなんですよね」とか、「アルバムのアナログができたんですが、"ああ、こういう写真だったのか"とか見てもらうこともできるし」とか、確かに言葉数は多かった。演奏のソリッドさや正確性との落差はおなじみだけれど、楽しくなければ話さないような内容でもある。好きなバンドとツアーをまわるーー言葉にしてしまうとシンプルだが、お互いがいいライブをすることの最も大きなモチベーションには違いない。

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お互いに媚びず、いい曲を作り、おのおののステージを完遂することで、リスペクトを現し、自らの音楽も深めていく。この3バンドだからこそ実感できる清々しさはきっと与えすぎる表現に飽きたあらゆる人に響く。


文:石角友香
写真:佐藤祐紀


LIVE INFORMATION
BROTHER SUN SISTER MOON、Newdums、No Buses
3BAND TOUR "FAR FROM HOME"
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2021年11月20日(土) 大阪 SOCORE FACTORY
2021年11月21日(日) 名古屋 HUCK FINN

チケットはこちら

LINK
BROTHER SUN SISTER MOON オフィシャルサイト
@bssm_is
No Buses オフィシャルサイト
@no_buses_band
Newdums オフィシャルサイト
@Newdums


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