SENSA

2021.10.19

SACOYANS「Gasoline Rainbow」──諦観と共に希望を綴る、美しき轟音の私小説

SACOYANS「Gasoline Rainbow」──諦観と共に希望を綴る、美しき轟音の私小説

ニコニコ動画やYouTubeなど多数のプラットフォームで楽曲を発表し、支持を集めたミュージシャンSACOYAN。拠点を福岡に移した後、2019年にSACOYANSを結成した。そしてバンド始動2周年にあたる2021年10月にリリースしたのが2ndアルバム『Gasoline Rainbow』だ。

流れ出したら元に戻らないガソリン。それ自体はどこか虚しい光景だが、広がった油膜に鮮やかに揺らめく虹模様はやはり美しい。アルバムタイトルが映し出すのはそんな諦観と希望のイメージだろう。作中に漂う、相反するものが共存するムードが印象的だ。メロディアスでありながらノイジー。温かみの中にも不安定な揺らぎ。居心地の悪さに慣れきって心地が良くなる感覚。SACOYANのシャウトは切実でありながらも熱情に耽溺することはなく、鋭利な冷静さを突きつけてくる。様々な感情で心を埋め尽くしながら生きる、人間そのもののような"折り合いのつかなさ"が作品に宿っているのだ。

歌詞の内容も興味深い。「海水三昧」や「ヘイジョーク」といったおどけた言葉選びや幻想的でシュールな情景描写が主に目を惹くが、不意に記憶の中に沈殿する実体験を引き揚げてくる。例えば「ゴーストワールド」にある〈出口がそれぞれ変わっていく/私たちわかってて同じ思い出を買っていく〉という場面は、大人になっていくことを自覚し始めた頃の私だし、「家」にある〈このまま私は憧れを隠し続けて/とにかくひっそり不在になりたい〉は何もかもが面倒になるいつぞやの私ではないか。しかしこれはあくまで筆者の話だ。きっと聴き手それぞれの過去や、はたまた未来の断片が埋め込められている。曲中で描かれる"心の動き"はどんな時間軸でも耐久し得る普遍的な真理が刻まれているのだ。

作詞作曲を担当するSACOYANは音楽の道を挫折しかけながらも、10年以上かけて鉄壁のメンバーと出会い、SACOYANSとして歩みを進め始めた。本作の収録曲は10年以上前からある楽曲から構成されているとのことだが、最後の1曲が「のみものを買いにいこう」であることに強い意味を感じる。この曲における〈だいじょうぶ〉のリフレインと軽快なリズムはここまでの10曲と手触りが違う。どこまでいっても諦念はある、だけど希望だって消えてはくれない。ならば〈だいじょうぶ〉と繰り返し唱え、次のステージを踏みしめたい。そんな決意が滲んでいるように思えるのだ。SACOYANは過去の自分が紡いだ歌を現在で救済し、未来へと放った。時を超えた轟音の私小説、その威力は本物だ。

文:月の人




RELEASE INFORMATION

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SACOYANS「Gasoline Rainbow」
2021年10月13日(水)
Format: Digital
Label:MULTIPLE RECORDS

Track:
1. 素敵な11月
2. 家
3. 読み解いて
4. 海水三昧
5. ゴーストワールド
6. SF
7. ヘイジョーク
8. 地獄の星
9. まぼろし
10. のみものを買いに行こう

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