SENSA

2021.05.19

ゆうさり「由来」──言葉の絵の具で描かれる多彩な情感

ゆうさり「由来」──言葉の絵の具で描かれる多彩な情感

 ゆうさりは、2002年生まれのniikawa rikoによるソロ・プロジェクト。埼玉に住む彼女は2018年ごろから音楽制作を始めた。2020年に入るとゆうさり名義を使うようになり、現在はセルフ・レコーディングで作った作品の発表が活動のメインとなっている。
 また、ヴォーカルやコーラスとして他作品にゲスト参加する機会も多い。なかでも、作編曲家まつもとたくやによるioniの楽曲「Shelter(feat. Niikawa Riko)」は、DTM RECORD AWARD 2020で最優秀賞を獲得し、彼女の知名度を高める一助になった。

 そんなゆうさりのファースト・ミニ・アルバムが『由来』だ。本作はヴォーカルとギターが軸のシンプルな作品でありながら、空気の揺れや呼気も感じられる内容はさまざまな情感を滲ませる。耳にスッと寄り添うメロディーは心地よく、終始漂う親密感はリスナーを暖かく包みこむ。この魅力は筆者からすると、リンダ・パーハクス、ヴァシュティ・バニヤン、ニック・ドレイクといった70年代のフォークを想起させる。あるいは、まだ名前がない情感を手繰り寄せるように言葉が歌われるという意味では、青葉市子も引きあいに出したくなる。

 本作は歌詞も聴きどころが多い。穏やかな風景画を描くかのように、言葉の絵の具を丁寧に塗っていく姿は、ドイツ文学の代表的作家ヘルマン・ヘッセの小説や詩を彷彿させる。多彩な感情が渦巻く一瞬を切りとった歌の数々は滋味で溢れ、繰りかえし聴きたくなる繊細な言葉選びが際立つ。
 谷川俊太郎みたいに平易な言葉をリズミカルに重ねるところもおもしろい。その側面によって、基本的にメロディーはゆったりと奏でられるのに対し、言葉のグルーヴは時折軽快になるほど起伏が激しいというギャップを楽しめる。

 『由来』は音楽でありながら、極上の文学としても聴ける多面的表情を持っている。それを受けとめるため、ひとり部屋で本作の音と言葉に向きあう時間は、このうえない贅沢だ。

文:近藤真弥




RELEASE INFORMATION
由来_jacket.jpg
ゆうさり「由来」
2021年5月19日(水)

Track:
01. 予感
02. 汽水
03. 月
04. 目映く
05. みなも
06. 曇り
07. みなそこ

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