SENSA

2021.04.07

宗藤竜太「magenta」──小さきものを忘れぬために。シンガー・ソングライターが刻んだ幸福と悲しみの記録

宗藤竜太「magenta」──小さきものを忘れぬために。シンガー・ソングライターが刻んだ幸福と悲しみの記録

宗藤竜太と書いて、むねとうりゅうた、と読む。東京を拠点に活動するシンガー・ソングライターだ。もともと2014年に〈もののあわい〉名義で弾き語りを開始。さらにギタリストとしてカメラ=万年筆らの作品に貢献してきた。そして、2018年に現在の宗藤竜太に改名、以降は弾き語りのみで活動している。踊Foot Worksの楽曲"夜の学校"でのゲスト・ヴォーカル(もののあわい名義)や、インディー・レーベルの名門カクバリズムが主催したイヴェント〈カクバリズムの文化祭〉への出演で、彼を知ったリスナーもいることだろう。

新作『magenta』は、2020年のデビュー作『くるみ』から約1年を経て届けられたセカンド・アルバム。声とギター。それらが起こす空気の揺れまでを封じこめたかのような生々しい音がまず耳を奪う。折坂悠太、君島大空、崎山蒼志......近年、数多くの優れたシンガー・ソングライターがみずからの息吹を歌にしてきたが、宗藤もそれらギターを抱えた歌い手たちに肩を並べるべき音楽家だろう。〈おんがくのじかんがはじまるよ〉と呼びかけるアシッド・フォーク色の強い"ライムライト"、ほのかなグルーヴと定まらない気持ちを落とし込んだかのようなコード進行がニック・ドレイクらブリティッシュ・フォークの歌い手を彷彿とさせる"百日紅"など、収録曲はさまざまな温度感を堪えているが、9曲のすべてに宗藤竜太という音楽家、人間が写っている。

軽快なリズムとかすかに漂うサイケデリアにトロピカリズモ的なムードを漂わせていた『くるみ』と比較して、この『magenta』はより静謐だ。その歌は、穏やかに時間の流れる夜、父親が幼子を寝かしつけるために歌う子守歌のように響いている。そして、ギターの弦に触れる手つきは、そっと頬をなでるかのように柔らかい。リリースに際して宗藤が寄せた文章には〈前作の『くるみ』よりも低い目線から見た景色をテーマにした〉とあるが、いくつかの楽曲では、小さな子供たちが見ている世界を、あるいは親がそれらのまなざしを通して見つめることのできる景色を、歌っているようにも思える。

とはいえ、『magenta』は決して幸福感の貫かれた作品ではない。むしろ、宗藤はひりひりとした焦燥や、未来への不安を隠さない。〈もう二度と出会えない〉〈遠くの君に言っても/気づいてくれない〉〈今週末でしばらくお別れ〉――早かれ遠かれいつか必ず、さよならを告げる日がおとずれるという事実を、彼は頭から消せないでいる。そして、その引き金は多くの場合〈死〉であることも。

宗藤竜太にとって『magenta』とは、忘却していくことへの抵抗の記録なのかもしれない。この静かで穏やかな音楽の背後には、爪をはがしながら記憶を刻もうと必死にもがく男の姿が垣間見える。その執着ゆえに、このアルバムがどこかに存在するかぎり、(誰かは)決して忘れられることがないだろう。

文:田中亮太




RELEASE INFORMATION

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宗藤竜太「magenta」
2021年4月7日(水)
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