SENSA

2021.07.22

揺らぎ、初ワンマンライブ「For you, Adroit it but soft」Release Event──曖昧模糊とした感情を呑み込む音楽

揺らぎ、初ワンマンライブ「For you, Adroit it but soft」Release Event──曖昧模糊とした感情を呑み込む音楽

滋賀発のスリーピースバンド、揺らぎが6月30日にリリースした最新アルバム『For you, Adroit it but soft』のレコ発ライブを渋谷WWWでおこなった。2015年の結成以来、バンドにとって初のワンマンライブ。それは、会場を埋め尽くした立体的で美しい轟音が圧倒的な陶酔感を生む、とても素敵な時間だった。

IMG_2836_yuragi_2107.jpg
揺らぎのルーツには、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやシガー・ロスといったシューゲイザーバンドであることが想像できるが、同時にメンバーのルーツには、グランジ、メタル、ハードロック、ブルース、邦楽ロックなど、様々な音楽の影響もあるという。そんな揺らぎが鳴らすオルタナティブなロックサウンドは、シューゲイザーを「目的」として鳴らすのではなく、表現の「手段」として機能させるように感じるのだ。未来への焦燥や希望、醒めない夢、胸を締めつける恋心、消えない葛藤――心に渦巻く感情を表現する「手段」として、音を選び取っていくような揺らぎの在り方は、どこまでも自由で伸びやかだ。

IMG_3020_yuragi_2107.jpgIMG_3164_yuragi_2107.jpg
最新アルバムのオープニングを飾るインスト曲「While The Sand's Over」が会場に流れ、緞帳が開くと、すでにステージには、下手から、Miraco(Vo/Gt/Piano)、Romeo(Ba ※サポートメンバー)、Kntr(Gt/Synth)、Yusei(Dr/Samplar)の4人が半円を描くようなフォーメーションでスタンバイしていた。透明感のあるMiracoのウィスパーボイスが英語詞のメロディを清らかに紡ぎ、はじめは静かに寄り添っていたバンドサウンドはやがて煌々と大きな起伏を描いていく。力強く躍動感するリズムが閉ざされた視界をぐっと広げてくれる「soon」、軽やかにハミングするメロディがまどろみの海を泳ぐような「bedside」。歌も、楽器の一部として音のなかに溶かしてゆく揺らぎの音楽は、山や海を俯瞰する雄大なスクリーン映像の演出も借りて、聴き手の体を丸ごと包み込むような幻想的な空間を作り上げていった。
IMG_2990_yuragi_2107.jpgIMG_2947_yuragi_2107.jpg
タイトルがステージに映し出され、青い髪の女性の物憂げな表情と共に届けた「That Blue, I'll be coming」。Yuseiが軽やかに刻んだマーチングドラムが、次第に強くシンバルを打ち鳴らす激情へと変わり、世界に新しい光をもたらされていく「B/C」から「Horizon」への流れ。「Unreachable」では、今度は赤みがかった茶髪の女性が海岸をさまよう映像と共に、決して手離したくない感情を掻き立てる。緻密なアンサンブルによって曲ごとに異なる陰影を描く揺らぎのライブは、人と人の間に、なにか言語ではないコミュニケーションを投げかけてくるようだった。心に"揺らぎ"を起こしていくバンドの意志を音にも歌詞にも込めた「While My Waves Wonder」を後半のハイライトに、静と動を繰り返しながら昇り詰めた本編のラストは「Path of the Moonlit Night」だった。渇いた砂地に水が沁み込むように、瑞々しい萌芽を祝うように、とてもドラマチックに鳴らされた音には、色褪せない青が刻まれていた。

IMG_3125_yuragi_2107.jpgIMG_2830_yuragi_2107.jpg
MCでMiracoが「今日はライブがいっぱいあって。かぶって選べへん、みたいなのも聞きました。そんななかで、揺らぎを選んでくれてありがとうございます。」と、集まったお客さんに感謝を伝えていた。
この日7月17日は、関東でたくさんのライブが開催されていた。アリーナ会場の大規模イベントがあったし、渋谷周辺では複数ヵ所のライブハウスをめぐるサーキットも盛り上がっていた。ライブではないが、テレビをつければ、「音楽の日」と題した生放送の音楽番組に豪華アーティストが集結していた。「音楽を止めるな」とは、コロナ禍によく叫ばれる言葉だが、音楽はコロナごときには負けない、それを痛感する1日でもあった。
Twitterのタイムラインにそれぞれの場所で起こる感動が次々に報告される様を見ていると、たしかに音楽は選び取るものだなと思う。大好きな音楽、選べる音楽があるということは、自分の居場所を持っていることと同じことだとも思う。
わかりやすさとは一線を画し、曖昧模糊とした感情を優しく抱きしめる揺らぎのような存在は、いまの日本の音楽シーンでは、知る人ぞ知るマイナーなバンドということになるのだろう。それでも、この日、彼らが渋谷の片隅で届けたライブは、他のどの場所を選んでも得られなかった幸福な音楽体験をもたらしてくれた。
揺らぎの音楽が、それを必要とする人に選ばれ、もっと大勢の人たちの居場所になってほしい。たくさんの場所で様々な種類の音楽が流れた1日だったからこそ、そんなことを心から願わずにいられなかった。

IMG_2885_yuragi_2107.jpgIMG_3008_yuragi_2107.jpg

RELEASE INFORMATION

アルバムジャケットYuragi_For you, Adroit it but soft.jpg
揺らぎ『For you, Adroit it but soft』
2021年6月30日(水)
試聴はこちら


LIVE INFORMATION

1st Full Album"For you, Adroit it but soft"Release Event - One Man
2021年08月21日(土)名古屋stiffslack(ワンマン)
2021年10月02日(土)大阪JANUS


PROFILE

アーティスト写真_yuragi.jpg
揺らぎ
2015年結成。1stシングル『bedside』、1st EP『nightlife EP』を発売したのち、2018年8月、FLAKE SOUNDSより初の全国流通EP『Still Dreaming, Still Deafening』をリリース。映像ディレクターPennackyのディレクションのもと、収録曲から「Unreachable」のMVを公開した。
2019年2月、羊文学、No Busesの2組を迎え、自主企画「Wearing The Inside Out」を開催。7月、FUJI ROCK FESTIVAL'19 ROOKIE A GO-GO出演。
同年12月、初のリミックスEP『Still Dreaming, Still Deafening Remixes & Rarities』をリリース。リミキサーとして、ミニアルバム『feel a faint your mind』を発表した新鋭エレクトロ・ポップ・バンド sayonarablueから9:en、InstupendoのリミックスやPhoraのプロデュース、Lontaliusとの共作で知られるsingular balance、LORD APEXやRalphをゲストに迎え最新作『However Well Known, Always Anonymous』をリリースしたBig Animal Theory、Ryan Hemsworth主催レーベルSecret Songs所属のカナダ在住プロデューサーKogane、数々のWebCMの楽曲を手掛ける同バンドギタリストKntrの5名が参加した。
これまでに、Turnover、Japanese Breakfast、Nothing、I Mean Us、Tigers Jaw等多くの海外アーティストのゲストアクトに抜擢され、今後も国内外での活躍が期待される。
2021年6月30日に1stフルアルバム『For you, Adroit it but soft』をリリース。7月17日には渋谷WWWにて揺らぎ初のワンマンライブとなるリリースイベントが予定されている。


LINK
オフィシャルサイト
@_yuragi_yura
@_yuragi_yura
Official YouTube Channel


気になるタグをCHECK!