SENSA

2021.09.23

ユアネス、9ヵ月ぶりのワンマンライブ「LATENT」の新たな試みが最大化したバンドの魅力

ユアネス、9ヵ月ぶりのワンマンライブ「LATENT」の新たな試みが最大化したバンドの魅力

ユアネスが約9ヵ月ぶりに開催したワンマンライブに掲げた「LATENT」というタイトルには、直訳すると、潜在するもの、隠れているものという意味がある。このタイトルについて、ステージ上で黒川侑司(Vo/Gt)は、「僕たちはもっと知ってもらってもいいなと思うんですよ。たくさんいい曲があるから」と、少しだけ悔しさを滲ませた口調で語りかけた。

本当にそのとおりだ。ユアネスは、もっともっと多くの人に届くべきバンドだと思う。

そういう意味で、この日、スクリーン映像の演出を初めて取り入れたユアネスのライブは、バンドのオールタイムなディスコグラフィーから厳選されたセットリストで構成され、バンドに「潜在する」多面的な魅力が強く浮き彫りになる、真新しいユアネスのライブだった。

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Photo by 佐藤 広理


以下では、東京・大阪の2会場でおこなわれた「LATENT」ツアーから、東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREの1部のステージから、彼らの魅力を掘り下げてみる。 

ライブの幕開けは、2018年に発表された初の全国流通盤『Ctrl+Z』のオープニングを飾る、語りのSE「雨の通り道」だった。ドラマ性のある映像が流れ、小野貴寛(Dr)と田中雄大(Ba)によるリズム隊のイントロをきっかけに、変拍子のバンドサウンドを聴かせる「虹の形」から演奏がはじまった。続く、「あの子が横に座る」や「cinema」では、抽象度の高い混沌とした映像やミラーボールを使った美しい光の演出のなかで、ギミックをふんだんに盛り込んだ緻密なバンドアンサンブルを届けていく。

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Photo by ナカムラキサ


このコントラストだ。たとえば、「凩」のように歌詞にリンクしたスクリーン映像を駆使した楽曲では、センチメンタルで抒情的なユアネスの歌世界への没入感をぐっと高め、一方、映像の情報量を削ぎ落した楽曲では、培われてきたロックバンドとしての強靭さが必然的に伝わってくる。ユアネスのメインコンポーザーである古閑翔平(Gt / Programming)は、もともと00年代のボカロ音楽に強い影響を受けていたこともあり、その楽曲の構成は非常に複雑だ。それを手数の多いテクニカルな演奏で体現するステージはとてもスリリングで見応えがある。なかでも、真っ赤な照明がステージを染めた「少年少女をやめてから」の、鋭利でしなやかな疾走感は、バンドの確かな地力に裏打ちされた1曲だった。

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Photo by ナカムラキサ


もうひとつ、スクリーン映像の導入が画期的だったのは、ユアネスの楽曲が持つ物語性がよりわかりやすく伝えられたことだ。この日、1stミニアルバム『Ctrl+Z』の冒頭「雨の通り道」からはじまったライブは、SE「変化に気づかない」から滑らかにつないだ「凩」を起点にした『Shift』や、様々な花の映像が神秘的だった「紫苑」を軸とする『ES』、さらに黒川が圧巻のボーカルを聴かせたバラードナンバー「ヘリオトロープ」を含む『BE ALL LIE』へと、1枚の作品から数曲ずつ、リリース順に披露されていった。これまで、すべての作品をコンセプチュアルな連続性のなかで発表してきたユアネスだからこそ、そのバラバラだった作品をつなぎ、1本の大きな物語が描くように組み上げられたセットリストには、生のライブでありながら、「作品」とも呼びたくなるような深い奥行きが生まれていた。

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Photo by ナカムラキサ

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Photo by 佐藤 広理


過去への感傷、変わってゆく気持ち、人間の記憶、嘘をつく感情と死生観。これまでにリリースしてきたミニアルバムやEPで掲げてきたテーマの変遷を辿りながらライブは進んだ。本編に、ほとんどMCはない。その最終盤に届けた「色の見えない少女」は本当に素晴らしかった。ユアネスが初めてミュージックビデオを制作したこの曲は、これまでバンドのアートワークに深く関わってきたイラストレーター"しらこ"の作品に感銘を受けて制作された楽曲だ。目の見えない少女の世界が、「君」の存在をきっかけに色づいてゆく。スクリーンにはその物語が映し出され、話の展開に呼応して、ステージの照明がパッと色づく演出は、小説でも、映画でもなく、音楽だからこそ見せられる景色と感動があった。

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Photo by ナカムラキサ

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Photo by 佐藤 広理


アンコールでは「今日は拍手のタイミングが難しかったと思うんですけど、みんなが表情で訴えかけてきたので、気持ちが伝わってきました」と、田中。さらに古閑が、「マジで泣きそうになるから、(MCは)短く切りあげます。アンコール、いい曲をやります」と言うと、12月にリリースされる初のフルアルバムから新曲「私の最後の日」が披露された。"原稿なんていらない" "台本だっていらない"。そんな歌い出しが印象的で、新たなバンドの代表曲になりそうな予感のするバラードだ。実は過去のツアーでピアノの伴奏だけ披露されていたが、バンドのアレンジになったことで、よりドラマチックに生まれ変わっていた。ラストは「籠の中に鳥」だった。あなたへの感情を隠そうとする心境を綴った、まさに「LATENT」というテーマにも肉薄するバラードで幕を閉じた約90分。そのすべての楽曲に貫かれていたのは、黒川の優しくも力強い歌のよさだった。豊かな表現力をもって、人間の心に「潜在する」感情がつまびらかに描かれていく歌こそユアネスの肝である。それが「LATENT」のもうひとつの意味だとも思う。

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Photo by 佐藤 広理

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Photo by ナカムラキサ


音楽の聴き方の好みは大きくわけてふたつのタイプがあると思っている。歌の世界観を掘り下げて考察するタイプと、バックの演奏や雰囲気を重視するタイプ。もちろん、これは大雑把な括りだし、どちらか一方と言うよりも、両方が絡み合って「好きな音楽」になるのだと思うが、ユアネスは、その両方の需要に応えることのできるロックバンドだ。物語性と音楽性。結成当時から、その両方を突き詰めてきたユアネスのライブの在り方は、ここにきて最適解に辿り着いたのではないだろうか。

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Photo by ナカムラキサ


撮影:佐藤 広理、ナカムラキサ


RELEASE INFORMATION

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ユアネス「6 case」
2021年12月1日(水)
Format:CD/Digital
Label:HIP LAND MUSIC
CD:¥3,300 (tax in)


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