SENSA

2021.01.13

気楽に生きるニューミュージック「Saboten Neon House」

気楽に生きるニューミュージック「Saboten Neon House」

今回のレコメンドは、「Saboten Neon House」です。

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Saboten Neon House
2018年1月、伊佐郷平を中心に青山哲哉、中村功大で結成。2020年1月に田村連を迎え入れ、東京で活動する4人組バンド。1970年代のフォークロックや、ルーツミュージックをベースに、現代の生活の中に響くどこか懐かしいニューサウンドを追求する。ライブハウスに限らず古民家や温泉、表参道communeでのイベントなどで幅広く活動中。
2020年5月にフォークシーンで活躍するアーティストが参加する、NEVER SLEEPコンピレーションカセット「FALL ASLEEP」に参加。

「Saboten Neon Blues(2020)」





雨が降ったら、濡れて帰る。かばんが汚れたら、荷物はいらない。Saboten Neon Houseが、バンドのテーマソングとして掲げる「Saboten Neon Blues」で歌うのは、そんなシンプルな事柄。彼らが鳴らすのは、70~80年代のニューミュージックをルーツとする、どこか懐かしい匂いのするバンドサウンド。メロディにのせる言葉数は厳選され、それでいて強く心に残る明快な言い回しが多いのも、その時代からの影響を色濃く感じます。もともと「Saboten Neon Blues」は、2018年にリリースされた1stシングル『SABOTEN NEON HOUSE I』に収録されていた楽曲ですが、"新型コロナウィルス感染拡大の影響で、変化が必要になるこれからの活動に一歩を踏み出せるように"という想いを込めて今年8月に再録し、Music Videoとあわせて公開されました。当初の弾き語りを主軸にしたアレンジからアップデートされ、ふくよかに、立体的になった「Saboten Neon Blues(2020)」は、より日常になじむ音に生まれ変わったように思います。ビルの谷間で色づく街路樹の紅葉にも気づけないほど、せわしない日々を送る私たちに、"もう少し肩のちからを抜こうよ"と、優しく包み込むような温かいメッセージ。この、わずか2分半の歌には、そんな大きな包容力を感じました。

「ぷあん」





"肩のちからを抜く"というのは、Saboten Neon Houseの音楽を語るうえで、ひとつのキーワードではないでしょうか。彼らの楽曲は、心地好いミドルテンポが多く、晴れた野外のフェス会場でビール片手に揺れながら聴いたら絶対に気持ちがいい、そんな想像が膨らむ曲ばかり。なかでも、Music Videoが公開されている「ぷあん」の脱力感は、シャキッと背筋を正して聴くほうが難しい。この曲が収録されている1st EP『Puan』という作品は、1曲目の「チャイナタウン」に中華風のアプローチを取り入れていたりと、異国情緒が漂う3曲入りですが、「ぷあん」で聴かせるのはインドっぽいオリエンタルな雰囲気。タイトルの"ぷあん(Puan)"とは、タイ語で"友だち"という意味。歌詞には"まいぺんらい ぷあん"とひらがなで表記されるフレーズも出てきますが、これは"気にしないで"という慣用句だそうです。英語で言うなら、ドンマイみたいなものでしょうか。歌詞に掲げた「境界」を越えていくというテーマは、カースト制度が残るインドの政治的背景を考えると、意味深にも捉えられますが、"細かいことは気にしないで、ラクに生きよう"という陽気に放つメッセージは、Saboten Neon Houseの音楽の根底にある普遍的な想いではないでしょうか。



というわけで、今回は独自の思想で言葉を紡ぐバンド、Saboten Neon Houseについて紹介しました。最後に、前述した『Puan』に収録されている「銭湯がない」という曲が個人的に好きなので、触れさせてください。俳人である松井亜衣を作詞に迎えた、これもまた2分半に満たないフォークソングですが、あらゆるものが充足しているはずの現代人が失ったものについて、どこかわびしげに歌っています。もちろん「昔はよかった」と手放しに主張する懐古主義が必ずしも正しいとは思いません。でも、たまには過去の忘れものを取りに帰ってもいい。それは、音楽だからこそ強引に押し付けず、さりげない温度で伝えることのできるメッセージでもあると思うのです。

Saboten Neon Houseに関するライブやリリース情報の詳細は、オフィシャルサイトやSNSをチェックしてみてください。


LINK
オフィシャルサイト
@SabotenNeon
@sabotenneonhouse

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