INTERVIEW

2026.03.04

優河が見つけた

優河が見つけた"歌うことの目的"とは?単身渡米しレコーディングに臨んだ『All the words you said』インタビュー

シンガーソングライターの優河が24年9月にリリースした4thアルバム『Love Deluxe』は、それ以前のフォーキー~アメリカーナな作風から一転、ダンス・ミュージックにアプローチした意欲作だった。それから1年3か月、彼女がリリースした最新EP『All the words you said』はその『Love Deluxe』とはまたベクトルがまったく異なる、再びチャレンジングな作品となった。
単身渡米した彼女がLA在住のミュージシャン、Yohei Shikanoの協力の元、LAで行ったレコーディングには、Tortoiseのメンバーでもあるギタリスト・Jeff Parkerと、Elton Johnをはじめ、多くの有名ミュージシャンと共演経験があるドラマー・Jay Belleroseが参加。聴く者の心を揺さぶる優河の歌声はもちろん、繊細な音作りとスタジオの空気までとらえた音像という聴きどころも加えられた『All the words you said』。アメリカーナな作風という意味では原点回帰と言えるかもしれない。
しかし、以下のインタビューを読んでいただければ、単なる原点回帰にとどまらない、いかにチャレンジングな作品になったかがわかってもらえるだろう。今回のEPの制作をきっかけに彼女が迎えたターニングポイントをぜひ追体験していただきたい。


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飛行機のチケットと宿だけ取って、さあ、どうしようって

─セルフラブをテーマに作った前作の『Love Deluxe』に続いて、またチャレンジングな作品になりましたね。


そうですね。ある意味ではチャレンジングだったのかな。毎回のことなんですけど、作品をリリースしたあとって、いったん気持ちが塞いじゃうんです。

─塞いじゃう?


ええ。いろいろな人の反応を気にしてしまうというか、具体的な数字でも出てくるし、自分ではこうできたと思っても、その通りに受け取られないこともあるし。もちろん、そういうことがあってもいいと頭では理解しているんですけど、そこのギャップを毎回埋めるのに苦労するというか、気持ちがすごくナーバスになって、要らない情報も全部受け取ってしまって。それで、いつもそこから、自分の価値って何なんだろう? 本当の自分って何なんだろう? 歌うということに対して、自分は何を求めていて、何が求められているんだろうかと考えるのですが、今回は自分ひとりになったときに何ができるんだろう、ひとりきりで何かやってみないとなという気持ちになりました。Yoheiさんのご縁でJeffさんとJayさんと繋がって、そういう意味ではまったくのひとりきりではないのですが、何の情報もない状態で、自分の声がその部屋に置かれた時に何が生まれるのか、ちょっと生意気な言い方になってしまうかもしれないですが、それを体感してみたかったんです。

─Yoheiさんとは2回しか会ったことがなかったそうですね。いつ頃、どんなきっかけで出会ったんですか?


コロナ禍の前だったから、たぶん2018年か2019年だったと思うのですが、ドラマーの神谷洵平さんとYoheiさんが仲良くて、神谷さんから「YoheiさんがLAから来るんだけど、彼はLA の音楽シーンでいろいろな活動をしてる人だからみんなで飲もうよ」と誘っていただいて、15人ぐらいで飲みにいったんです。その時は挨拶しただけで、そんなに話せなかったのですが、その1年後ぐらいに神谷さんのアルバム(『Jumpei Kamiya with...』)のリリースイベントでYoheiさんと共演させてもらった時にやっと少し話せて、「LAに行ってみたいんですよね」と言ったら、Yoheiさんはすごくきさくな人だから、「いつでも来なよ」って言ってくれて。

─それが今回のLAレコーディングに繋がった、と。


そこから時間はすごく空きましたけどね。2年ぐらい前だったかな。Yoheiさんが自分のリリースのタイミングで日本に来た時にライブを観にいって話してたらまた「いつでもおいでよ」と言ってもらえて。たぶん、社交辞令というか、そういう軽い会話だったと思うんですけど、『Love Deluxe』をリリースしたあと、頭の中でまたぐるぐる考えてしまって......でも、なんとかこの状況から抜け出さなきゃと考えたとき、Yoheiさんの言葉を思い出して、本当にLAに行ってみようって勢いで連絡したんです。「何も決まってないんですけど、とにかくLAでレコーディングしたいから、行っていいですか」って。そしたら、「もちろん。ぜひ」と言ってもらえたので、飛行機のチケットと宿だけ取って、さあ、どうしようって。それがレコーディングの2か月前でした。

─えっ、まだ曲もないのに!?


そうです。『Love Deluxe』をリリースしたばかりだったし曲は全然なかったです。

─それ、すごいですね。それから2か月後にLAに行くにあたって、まず曲を作り始めたんですか?


そうですね。5曲作って、そこに14、5年ぐらい前に書いた「Oyasumi」という曲を加えて、6曲用意しました。

─その間にYoheiさんはLAでミュージシャンを探していた、と。


最初に何曲か曲を送った段階で、「絶対、優河ちゃんに合うドラマーがいる」と言ってくれたのがJayさんで。洵平さんも大好きだと言ってたから、もうぜひやりたいと思いました。それでYoheiさんがJayさんに他にどういう人が合うかなと聞いたら、Jeffさんが合うんじゃないかと、アイディアを出してくれて。確かYoheiさんも元々Jeffさんと知り合いだったのかな。そんなふうにJayさんとJeffさんが決まりました。

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─飛行機に乗る時は、どんな気持ちでしたか? もちろん、わくわくしていたとは思うのですが、曲は準備したとはいえ、LAで待っているのは初対面のミュージシャンなわけじゃないですか。それなりに不安もあったのではないでしょうか?


でも、考えたところで何もできないですからね。JayさんやJeffさんのようなキャリアもあるすごいミュージシャンが、日本から来る無名のシンガーソングライターと一緒にやってくれるって、どういうことなんだろうとも思いましたけど、(笑)でもやると言ってくれているのだからその言葉を信じようと思って。もう大きい船に乗るつもりで。私はちょっとドキドキしていた記憶があるのですが、Yoheiさんは相変わらずゆるく、「絶対大丈夫だよ、まあやってみよう」って感じで(笑)。

─Yoheiさんがそう言うなら。


大丈夫かなと思いました。私も特に今回はこんな作品を作りたい!という絶対の方向性もそんなになかったから、物事が転ぶ方がきっと導かれる場所なんだろうと思って。こういうふうに物事がうまく進む時って私の手の中にあるものってそもそもそんなにないのだから、与えられたものをただ受け取りたいという気持ちでした。

─Yoheiさんからは前もって、こういうやり方でレコーディングしますみたいな話はあったのですか?


いえ、特には。「ふたりはもう最高だから、来れば大丈夫だから」って。

─なるほど。


記事にならない話ばかりでごめんなさい(笑)。

─いえ、そんなことはないです。逆に、すごいなと思って。


確かに、これまでの経験上、レコーディングの前にもうちょっと話を詰めると思うんですけど、そもそも1日で録るという話で、プリプロががっつりあるわけじゃなかったから、そこはもう考えずに。

─えっ、ちょっと待ってください。1日で録る? 全6曲を!?


はい。

─全6曲を1日で録ったんですか?


そうです。

─そうだったんですか。


はい、そうだったんです(笑)。

─びっくりです。


すごく素敵なスタジオを1日押さえてもらって、やれることをやろう。こぼれたら、Yoheiさんの家の庭でも録れるからと思ってました。

─細かいことを聞いちゃいますけど、LAに着いて、その足でYoheiさんのところに?


Yoheiさんが迎えに来てくれて。

─さすがにその日はレコーディングしてないですよね?


してないです。でも、2025年2月に公開された『ファーストキス 1ST KISS』という映画のエンディングテーマ(「next to you」)の作詞と歌の依頼がLAに向かう5日ぐらい前に来て、「LAに行くのでスケジュール的に難しいです」と伝えたら「じゃあLAで録ることはできますか?」と言われて(笑)。そのデモが上がってきたのが飛行機に乗るほんとに数時間前で。だから、飛行機に乗ってる14時間、歌詞を書き続けて、着いた日は歌詞の微調整、次の日はその映画の歌録りになったので、自分のレコーディングの直前までバタバタで、不安になる時間がそもそもなかったですね。

踏み込みすぎない、とても心地いい距離感がお互いにあった

─レコーディングはどんなふうに進めていったんですか?


レコーディングの前の日にYoheiさんの家の庭で曲の構成を決めたり、譜面を作ったりして、大枠だけ決めて。当日は、「ハロー、はじめまして」と挨拶してから、JayさんとJeffさんに曲を弾き語りで聴いてもらって、ひと通り曲を掴んだところで、「じゃあ、やってみようか」って。

─ほぼぶっつけ本番で、感じるままに演奏して、それをレコーディングしたんですね。


そうですね。最初に1曲目の「All the words you said」を録ったのですが、軽く歌ってみて、「好きなところで入ってきてもらえますか」ってJayさんとJeffさんに入ってきてもらった感じでしたね。

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─なぜ、「All the words you said」を1曲目にレコーディングしようということになったのですか?


歌詞が英語だったということに加え、アカペラの曲だから、いろいろなことが伝わりやすかったというか、歌詞も多くないし、メロディーも複雑ではないし、今回の6曲の中で一番、私の声以外、他の要素がない曲だったので、3人のバイブスというか、心持ちを、チューニングみたいに合わせるなら、これがいいんじゃないかと考えたんだと思います。

─演奏してみていかがでしたか? 最初から、これ、これ、これだとなったのですか?


もう、すごかったですね。曲がそこにあって、それをただ見ている、みたいな感じでした。でも、これでいいんだと思いました。私も声を出すまでは、すごく緊張していた気がするのですが、その緊張を越えたところで、その瞬間を信じ切ろう!と思って。曲と声だけあれば、意思とか気持ちとか感情とかは要らない。そこに道があって、そこをただただ歩くだけでいいんだという気持ちでした。道を歩いているとき、景色を変えようなんて思わないじゃないですか。でも、どこかには辿りつく。すごく自然だったんです。踏み込みすぎない、とても心地いい距離感がお互いにあったんですよ。私にとって、すごく神聖なことなんだということを理解してくれてたのかな。JayさんとJeffさんがどういうふうに考えていたのかわからないですけど、耳をそばだてて、私の世界観を一緒に見ようとしてくれてるんだと感じましたね。「この子は何を言いたいんだろうか」「何をやりたいんだろうか」というところを、距離感を保ちつつ見てくれているという気がしました。

─なるほど。古い伝承歌、民謡、スピリチュアルにも聴こえる「All the words you said」のアトモスフェリックな演奏は、そんなふうに生まれたものだったんですね。2曲目の「Faded Tree」はメランコリックなスローバラードですが、17歳の時のオーストラリア留学で知り合ったブラジル人の友人が手紙と一緒に送ってくれた木の絵が曲のモチーフになっていることを、レコーディングの前にJayさんとJeffさんにその絵を見せながら語ったそうですね。他にも曲の背景をふたりに話してからレコーディングした曲はあったんですか?


いえ、「Faded Tree」だけでした。

─じゃあ、それ以外の曲は優河さんの歌を聴きながら、JayさんとJeffさんがそこにあるものを汲み取って、音を奏でていった、と。


そうですね。日本語の歌詞に関しては、どんな歌なのか 大まかに話しはしましたが、この言葉はこういう意味でという細かい説明はしていないので、ふたりは日本語の歌詞も音として聴いていたと思います。

─今回、「All the words you said」「Faded Tree」「Touch of rain」の3曲が英語の歌詞ですが、以前に英語の歌詞の曲ってありましたっけ?


自分の曲ではないです。藤原さくらちゃんとやっているJane Jadeというユニットで、1曲、「moonlight」という曲がありますけど、それ以降は初めてですね。

─なぜ、今回、3曲、英語の歌詞を書いたんですか?


LAに行くことになって、拙いなりに英語で書こうというスイッチが入ってたのかなとは思うのですが、これは日本語で、これは英語で書こうとか、日本語と英語半々に書こうとか考えていたわけではなくて、その3曲に関しては自然に出てきた言葉が英語だったというだけなんですよ。

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─全6曲のレコーディングは何時間ぐらいかかったんですか?


たぶん午前10時ぐらいにスタジオに入って、11時ぐらいにみんなが来て、音作りとサウンドチェックをして、17時か18時にはスタジオを出なければいけなかったから、5時間とか6時間とかぐらいだったと思います。

─アメリカ人ってランチ休憩をしっかりと取るイメージがありますけど(笑)。


サウンドチェックしたあと、みんなでお弁当を食べましたよ(笑)。

─アレンジに悩んだりとか、演奏をやり直したりとか、全然なかったわけですね?


3曲目の「Soba ni ite」は今回、一番日本っぽい曲だと思っているのですが、その曲だけJeffさんがソロを入れるとき、ちょっとだけ考えてましたね。でも、Jeffさんが弾いたソロをブースの外で聴いたとき、Yoheiさんとふたりでひっくり返りそうになったんですよ。「ええっ、そんなすごいフレーズが出てくるんだ」ってすごく衝撃的で。それ以外はアレンジが云々というのはなかったですね。演奏もどの曲も1回か2回しかやってないと思います。

─改めて、すごいと思います。「Soba ni ite」のBメロのサビのスネアだと思うんですけど、確か4拍目だけにリバーブが掛かっているじゃないですか。ミックスなのか、プレイなのかわからないですけど、限られた時間の中で、そういう繊細な音作りをしているところも聴きどころだと思いました。


あそこはきっとマレットの響かせ方ですね。全体的にかなり小さな音で演奏しているんですけど、そこだけ特に重さを感じますよね。

─そうだったんですね。Jayさんのドラム、すごいですよね。「Faded Tree」のイントロのシンバルは時を刻んでいるように聴こえるし、「All the words you said」のドラムも雷を表現しているように思えるし。それを言ったら、「All the words you said」のJeffさんのギターも雨の音に聴こえるし、そういうニュアンスの表現のしかたがすごいですよね。


何を想像しながら演奏しているんだろうと思いますよね。

─「Touch of rain」は最初の30秒、インプロビゼーションっぽいドラムソロだけというところにびっくりしたんですけど、なんでも、あのドラムはサウンドチェックの音が印象的だったとか。


そうなんですよ。Jayさんは曲ごとにドラムの音をいろいろ調整してくれたのですが、「Touch of rain」でもサウンドチェックでいろいろ叩いていたんですよ。それを聴いていたときに、なんていい音なんだろうと思って、「そのまま録らせてもらっていいですか」とお願いして録らせてもらいました。このドラムの音が曲の頭にあったら、素敵だろうなと思ったんです。Jayさんのドラムの音が身体に存分に染み渡ったなあというところでJeffさんと息を合わせてそのまま歌い始めました。

─その「Touch of rain」のバッキングのアコースティックギターは優河さんですよね?


そうです。

─アコギの音がそんなに前に出てこないミックスがおもしろいと思いました。


出てこないんじゃなくて、出せなかったんです(笑)。Jeffさんの後ろで弾くのも恐れ多くて。

─いや、そんなことはないですよ。アコギのコードストロークのグルーブがちょっと不思議で。


私にとっては自然なんですけど、試しにYoheiさんに弾いてもらったら、リズムのノリがちょっと違ったので、「これは優河ちゃんが弾いたほうがいい」ということになって、私が弾きました。

─バラード的な曲の、ちょっと奥のほうでグルーブのあるアコギが鳴っているところもこの曲の聴きどころではないかと思います。


ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。

─5曲目の「Konomama」のアコギはYoheiさんですね。弦の響きがすごく力強くて、何か特別なギターを使っているんですか?


不思議なアコギでした。サーカスの馬が描かれているアコギで、すごく可愛いんですよ。おもちゃみたいなギターなのにすごい音が鳴るんです。Jeffさんが帰ったあと、Yoheiさんがそのアコギで入ってきてくれたのですが、それまでとはエネルギーがまたガラッと変わって、それがすごいフックになりましたね。それまでとは違う照明がついたような感じがして、すごくおもしろかったし、Yoheiさんのギターも本当に素晴らしかったですね。そこにJeffさんが後日、ソロを加えてくれました。

─この曲のセルフライナーノーツで、Jayさんのドラムを聴いて、アメリカの大陸を感じたと優河さんは書かれていたじゃないですか。僕もこの曲を聴きながら、Yoheiさんのアコギの音色とウッドブロックの音からちょっとウエスタンっぽいものを感じたんですけど、そしたらJayさんは「俺は黒澤明の映画の中にいた」と言っていたと書いてあったのがおもしろくて。


そうなんですよ。とてもアメリカの大陸を感じたので、すごくよかったと伝えたら、Jayさんはそんなふうに言うから、感覚ってこんなに違うものなんだって面白かったですね。

─長野の小諸でお友達がやっている畑で書いた曲だそうですね。


去年の11月の、渡米の1、2週間ぐらい前に、もう1曲くらいあったほうがいいと思ったんですけど、なかなかできなくて、そうだ、場所を書こうと思って、小諸で友達が土を掘ったり、落ち葉を集めたりしているところを見ながら書きました。友達の畑は山の麓にあるのですが、きれいな山並みを見ながら、いつからこの景色は変わってないんだろう、大自然を前にしたら、人間にできることなんて大してないんだから、自分の力でどうにかこうにかしようというのは違うんだなと感じたことを曲にしました。

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─曲作りをする上で、普段から歌詞を書き留めたり、メロディーを録音したりしているんですか?


昔は詞先だったんです。だから、よく書き留めてたし、ずっとノートを持ってたのですが、それが最近あんまりなくって。何か思いついたら携帯にメモすることもあるのですが、ある時から詞先じゃなくなって、そこからちょっとパーソナリティーが変わった気がします。人格が以前とはちょっと違うんですよ、詞先で作ってた時の自分と。

─今は曲先、あるいは曲と一緒に言葉が一緒に出るみたいな?


そうですね。詞だけあってというのは、今はだいぶ少なくなりましたね。

─今回の歌詞はとても簡潔で、なおかつ抽象的というか、象徴的というか。いわゆるストーリーテリングではないんですけど、そういう歌詞にもかかわらず、曲の向こうに物語が見えるというか、聴きとれるようなところがすごくいいなと思いました。


それは英語の歌詞ですか、日本語の歌詞ですか、それともどちらもですか?

─どちらもです。


うれしいです。ありがとうございます。

─特に、そういうふうに書こうと意識しているわけではないんですよね?


そうですね。具体的なことを書くのがすごく苦手で。ただただ苦手だというのもあるのですが、普段から私たちはすごく情報が多い世の中で生きているから、具体的な情報をわざわざ歌にする必要があるのかと思ってしまう節があって。

─ところで、最後の「Oyasumi」はスタジオでレコーディングした優河さんの弾き語りにJeffさんが後日、ギターを重ねていますが、なぜスタジオでは弾き語りでということになったんですか?


「アコギと歌が一つになる感じをこのスタジオの空気の中残したほうがいい」とYoheiさんが言ってくれて、それならやっぱり弾き語りだろうということになりました。

─テイクは何回か重ねたんですか?


いえ、もうあと10分でスタジオを出なきゃいけなかったので1テイクで。

─なんと。その1回って、どういう気持ちで歌うんですか?


やり遂げるぞ、やり直しもないぞと腹をもう一段階括って、失敗なんてものは存在しないと自分に言い聞かせて歌いました。でも、逆に良かったと思います。時間があったら、欲が出てしまってたと思うんですよ。

─この「Oyasumi」も最後に余韻が20秒ぐらいあって、それを味わえるのも贅沢だなと思いました。


そうですね。このまま聴いた人みんなに眠りに落ちてほしいです。

自分に自信をつけていくって、こういうことなんだなと思いました

─今回、バラードや、バラードに近いスローな曲ばかりの作品になりましたが、それはそういう曲でまとめようということだったんですか、それともたまたま今回作ったのがそういう曲だったということだったんですか?


たぶん私の中から自然に出てくるbpmはこれくらいなんだと思います。(笑)。

─以前のアルバムには、めちゃめちゃ速い曲はないですけど、アップテンポといえる曲もありましたよね。


そうですね。バンドでやる時は、テンポのある曲をもっと歌いたいなと思うし、そういう気持ちもあるし、今後もそういう曲を増やしていきたいなとは思うのですが、何も考えずに作ると、こういうテンポの曲とか、こういうフィーリングの曲しか出てこない。そういう人間なんだと思います。

─それがさっきおっしゃっていた自分は何なんだろうという自問の答えの1つかもしれないですね。


そうですね。バンドでやると、やっぱり影響を受け合うし、それが楽しい。プロデュースしてくれてる岡田(拓郎)君も、もっといろいろできるよねということを思わせてくれるし。それはそれですごく自然なことで、自分の中で違和感は全くないのですが、弾き語りのライブだと、一歩も動かないで歌い続けちゃう。弾き語りとバンドと、役割が違う感じがするんです。

─そんなところも含め、今回は原点に戻りつつ、新しいことも試した作品になったんじゃないかと思いましたが。


そうですね。原点に近いかもしれないですね。自分に自信をつけていくって、こういうことなんだなと思いました。

─じゃあ、今回はこれまでのように塞ぎ込むことはない?


いや、わからないです。またそういうタイミングが来るかもしれない。でも、レコーディングから帰ってきて、すごく変わったんですよね、自分が。いろいろなことがこの1年であって、変わるチャンスもたくさん与えられていた中で、今回のレコーディングはすごく大きな役割を占めていると思います。Jayさんにも、Jeffさんにも「君と一緒に演奏することは、ご褒美みたいなものだよ」と言ってもらったとき、そんなふうに感じてもらえてるんだと思って、とっても嬉しかった。それはウソのない言葉だと思うし、素直に受け入れるべき言葉だなと。あの神聖な場を共有した二人だからこそ、そこに偽りは感じない。そういうふうに言ってもらえたのは、それこそご褒美だなと思いました。

─思いきって、LAに行った甲斐がありましたね。


日本で、音楽で生きていくことはなんでこんなに大変なんだろうと日々思うし、日々葛藤しているのですが、それを越えたところに私は行かないといけない。私のこの体を通って出てくる声をまず信じ切らないことには前に進めない。だから、気持ちのアップダウンも含めて、これはもう避けられない道なんだと思う。生きていれば波はあるさという心境ですね、今は。以前は、いったん落ちると、このまま落ち続けると思ってましたが、今はそんなことはないとわかっているだけで気が楽なんですよ。そういう意味で、自信って「越えてきた」という事実、時間に、ついてくるものなんだなと思ってます。もちろん、この先も落ち込むことはあるかもしれないけど、素敵なことは幾らでもあるし、その度に、私はいろんな曲を書いて、それが誰かの何かになったりする。ありがたいことですね。

─今回のレコーディングは、そんなふうに思える大きなきっかけになった、と。また機会があったら、LAでレコーディングしたいですか?


もちろん、したいです。ライブもしたいです。ずっとまず日本で成果を出さないとアメリカには行けないとか、アメリカと日本の市場はリンクしないとか、思い込んでいただけというか。今は、いえ、昔もそうだったのかもしれないですが、自分の気持ち含めてもっと世界に近づいてきてる気がします。自分が思うより世界に隔たりはないんだと思います。

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─今回の経験は、これから作る音楽にも何かしらいい影響をもたらしそうですね。それも含め、2026年以降の活動について、どんなふうに考えていらっしゃるのか、最後に教えていただけないでしょうか。


やりたいことは全部やろうと思ってます。やりたいことというのは、誰も用意してくれないんですよね。そういう人もいるのかもしれないですが、私はその星の元に生まれてないということが、これまでの人生でわかったので(笑)、自分がやりたいと思ったら自分でやればいい。結局、本当のところでは自分しか自分を鼓舞する人はいないんです。もちろん、周りにサポートしてくれる人はたくさんいますけど、やっぱり自分が自分を信じられていないとポキって折れてしまうと思うんですよ。2025年は、その練習の時間だったと思います。すべてにおいて、自分の意見を100%聞くという。2025年がそのトレーニングだったとしたら、2026年はそれをもっと実行して、ライブもLAはもちろんですけど、海外でたくさんできたらいいなと思ってます。

─さらにアクティブな年にしようと考えているわけですね。


とにかく歌、歌、歌に集中したいと思ってます。歌うことに目的ができたんですよ。その目的に向かって突き進むのみという感じです。

─さっきおっしゃっていた「いろいろな曲を書いて、それを誰かの何かにする」というのが優河さんにとっての歌う目的だと思うんですけど、もうちょっと付け加えていただいてもいいでしょうか?


今までライブで歌ったあと、「涙が出ました」とか、「癒されました」とか言ってもらえることが多かったんですよ。その度に、そういうこともあるんだなと純粋に嬉しく思っていたのですが、私がやるべきことはそれだと思えたんです。だからといって、泣かせたいとか、癒したいとかと考えてるわけではないのですが、私が集中すべきことは、そこなんだと思います。私、自分でもエンターテイナーではないと思うんですよね。それがずっとプレッシャーで、ライブするたび、楽しんでもらえただろうかと気になっていたんです。でも、誰かの心がちょっとでもほぐれるような場を作ることが私の仕事だというふうに気持ちが切り替わった時にすごく楽になって、声も以前よりも良く出るようになったんです。

─そうだったんですね。


LAに行って、JayさんとJeffさんにもらった言葉、出来上がったこの作品やこれまでの作品含め、ちょっとずつ拾い集めてきた自分を信じられる要素が自分の中に溜まってきた感じがする。私が歌を歌って、誰かの心が安らかになったら嬉しいし、誰かにとって何でもない、余白みたいな時間を持ってもらえたらいいなと思ってます。

取材・文:山口智男
撮影:NATANE

RELEASE INFORMATION

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優河「All the words you said」
Digital Release: 2025年12月10日(水)
LP Release: 2026年3月18日(水)
Format: Digital / LP
Label: yuga
LP販売価格:¥4,400(税込)
12月10日(水)から、各レコード店、ECサイトで予約受付を開始

Track:
1.All the words you said
2.Faded tree
3.Soba ni ite
4.Touch of rain
5.Konomama
6.Oyasumi

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オフィシャルサイト
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