SENSA

2025.07.30

Laura day romanceが

Laura day romanceが"型にはまらない"タイムレスな楽曲たちを生み出せる理由とは?新曲「ライター」メンバー個別インタビュー:井上花月編

Laura day romanceが、現在制作中のアルバムから先行シングル「ライター」が届いた。今年2月にリリースしたアルバム『合歓る - walls』が前後編からなる作品の前編にあたることを公言していた彼らにとって、その後編を示唆する楽曲となる。アレンジやサウンド面においてより冒険的なアプローチを試み、進化を続けるLaura day romanceを象徴する「ライター」を深掘りするべく、今回はメンバーそれぞれにインタビュー。井上花月(Vo)にはアートワークやクリエイティブ廻りと歌について、鈴木迅(G・Cho)には楽曲制作について、礒本雄太(Dr)には楽曲や自分のパートについて話を聞いた。

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いろんな視点が集まった集合体の中心として自分の歌が位置してないとダメだなって

─自分がインタビューさせていただくのは2年ぶりとなりますが、その際サードアルバムについても少しお話を伺えて。2年越しにそれがまさか前編後編の大作になっているとは、驚きでした。今回の新曲「ライター」は後編にあたるアルバムからの楽曲とのことなのですが、こうした活動や作品についての構想ってどのくらい前から練っているんですか?綿密に計画されたものを遂行する形なのか、その場のひらめきに応じてフレキシブルに進んでいく形なのか。


結構先のことまで予測しながらやっているタイプだと思うので、前者ですかね。その辺りは迅くん(鈴木)の中に「次の作品はこういうものが作りたい」「その次はこんな作品にしたい」というイメージがあって、それを共有してくれる時に「おお、なるほど」だったりそこで私からのアイデアがあれば意見したりするんですけど、確かセカンドアルバムの時期の2022年の時点で、すでにサードアルバムにおける迅くんの構想を聞いていたような気がしているので、もうサード以降の活動や作品についても迅くんはずっと考えていると思います。今回のアルバム前後編はLaura day romanceが今できることの最大限というか、精巧に作り込んだ楽曲たちが並ぶアルバムになると思うので、その次はカウンター的にバンドサウンドで、たとえば同期音もない"せーの!ジャーン!"みたいなepだったりアルバムにしたいよねなんて話も結構前からしてます。もちろんその場のひらめきで多少変わっていくこともあるんですけど大枠の構想から大きく外れることもないとは思うので、前者寄りの形ですね。

─ボーカリストとしてそんな世界の語り部を担う井上さんに鈴木さんから具体的な楽曲のイメージなどが明かされるのはどのくらいのタイミングなんですか?


いちばん最初に楽曲のデモをもらうのは私なんですよね。「ライター」は今年の2月から3月くらいには制作を始めていて、4月か5月にはほぼ完成の形となった楽曲をメンバーと事務所のみんなで会議室で聴いて、話し合って、みたいな流れでした。だいたいそんなタイム感ですかね。

─なるほど、そうなるとバンドのほぼ全曲の作詞作曲者である鈴木さんはLaura day romanceの中心としてのスイッチが常に入っている状態だと思うんですが、井上さんはLaura day romanceという世界の語り部としてのスイッチをどのタイミングで入れることが多いですか?


本当にいちばん最初に楽曲を歌った瞬間がすごく大事で。最初からすごくしっくりくる曲はその歌の感覚のまますんなりとレコーディングまで持っていけるんですけど、逆に最初はしっくりこない曲もあって、その場合は迅くんの描く世界を自分に浸透させていくために歌詞を読み込んだり練習したりすることで徐々にスイッチを入れていくみたいな感じですね。レコーディングのギリギリで歌詞が変わったりする時もあるから大変なんですけど(笑)。でも今まで観たり聴いたりした作品たちや好きなものはそんなに迅くんと離れてないと思うし、彼も普段からいいと思ったものを共有してくれるタイプなので、彼の楽曲と歌詞を自分の中に落とし込んで解釈して、というLaura day romanceへのスイッチについては特に苦労もなくできています。ただ今回はアルバム前後編合わせての長編として作られているんですけど、その細かい部分が実はこうなってて、ああなってて...みたいなすり合わせは行わず大枠を掴みにいく感覚で制作やレコーディングに臨んでいたので、そこは結構難しかったですね。

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─自分はLaura day romanceのことを構築美のバンドだと思っていて。以前のインタビュー時には季節をテーマとした4連作のepの話だったり前後編となった今回のアルバムもそうなんですけど、音楽を主軸としながらも巧妙なストーリーテリングの妙だったり、先の展開をすごく丁寧に考えながら作品を届けてくれる姿勢であったり、それでありながらその物語性には原作も存在せず、現時点ではそれが小説だったり音楽以外の形になることもなく、音楽という制約の中で音楽以上のものを作り続けていてくれるバンド、壮大な叙事詩、抒情詩を音楽で表現しているバンドというか。


嬉しいですね。

─なので楽曲面の構築というかセッションもすごく密にやられていらっしゃると思うんですけど。井上さんにはそうではない作詞作曲者の鈴木さんと語り部、あるいは象徴としての井上さん間での心のセッションがどんな感じで行われているのかをぜひ聞いてみたくて。鈴木さんの世界を表現する部分と、ひとりのボーカリストとしての表現の部分や、特に「ライター」は譜割りもメロディラインも独特で、Aメロ語尾の揺れ方なんかはどのように表現を?


自分の色が出すぎても良くないし、出なさすぎても良くないし、いろんな視点が集まった集合体の中心として自分の歌が位置してないとダメだなって思っていて。歌詞をみんなに伝える語り部としての自分、個人としての自分、歌詞の主人公として歌っている自分、そういったいろんな視点が混ぜ混ぜになった状態なので、それが歌詞の一行一行、どこにどの自分がどんな割合で出てくるか、といった感じだと思うんですけど、この曲はそういった部分だったり、あとは全体のテンション感を定めるのとかも結構難しかったですね。

─主観と客観のバランス感覚ですよね。歌詞を読むとパーソナルな心情が描かれているように思えるんですけど、歌はどこか他人事のようなテンション感にも聴こえますし。


そうですね。自分が自分が、というか"これが井上花月です!"みたいな歌い方をしちゃうと歌詞のパーソナルな心情がすごく強く聴こえると思うんですけど、このバンドはいまのところそのやり方ではないと思っているし、自分が好きなミュージシャンがそういった客観性というか"淡白さ"みたいなものを大事にした歌い方をする人たちが多くて、そこは捨てたくないんですよね。いつか自分がソロとして作った曲や歌詞を"これが私です!"みたいに表現したくなる時が来たらそっちの部分を全面に出すような歌を歌うかも知れないんですけど、今はバンドのこういう感じが好きだなって思いながら、私はやってます。



Aメロ語尾の揺れるメロディラインは、実はBTS「Butter」からの影響

─表現力にも磨きがかかる一方ですもんね。メロディラインについてはいかがですか?語尾の溜息吐息的な表現であったり、その声を音節でビシッと止めるのではなく徐々に抜けていく息がトラックのシンセと溶け合っていくような感覚がすごい気持ちよくて。


人の物真似というか声真似、歌真似をすることが結構好きで。Aメロ語尾の揺れるメロディラインなんですけど、実はBTS「Butter」からの影響なんです。「ライター」の歌詞でいうと"未来"ってところの揺れて下がるメロディラインと似たところが「Butter」にもあって。普段から遊びでいろんな人の曲を真似しながら歌ったりすることが多いんですけどそれこそ「Butter」は一時期めっちゃ楽しく歌ってた曲で。「ライター」との共通点を見つけたので、そのまま活かしました(笑)。

─そのエピソードは驚きですね。まさか「ライター」にBTSが入っていたとは(笑)。


まだ誰にもいったことないし、迅くんも知らない話ですね(笑)。この揺れて下がるメロディラインは迅くんからこういう風にして欲しいって話が元からあったんですが、ニュアンスなんかはもう完全にBTSから拝借する感じで歌ってます(笑)。

─テクニカルな秘話ですね。普段からそう言う歌い方やテクニックについて研究している方なんですか?


いや、してない方だと思います。テクニックは全然だと自分では思っているし......。でも普段の物真似とか、あとは昔合唱をやっていたのでそこから身体的に身についた部分はあると思います。あとはプロデューサーの岩本岳士さんと「そこはもう少し(歌の)温度を低く」「そこはもうちょっと冷たい感じだけど、でも決して諦めてはない感じで」みたいな絶対的な正解のない、感覚でしかないやり取りをずっとしてるので、そこで得た要素もかなり大きいと思います。岩本さんとのやり取りはそんな感覚的な要望もちゃんと伝わるし、私も受け取れるし、やってみて岩本さんからOKが出るとこっちも嬉しくなるし。歌入れの時は本当にそんな感じです。

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─単なるボーカルディレクションというよりは先程の話の通り、楽曲という物語の語り部としてどう構築するか、どう表現するか、みたいなセッションなんですね。


そうですね。やっぱりそこからは絶対に外れてはいけないというか、外れないようにしてます。でも今回のアルバムの別の曲なんかでは想定してた歌い方じゃないけどこれはこれでハマるなぁなんて瞬間も結構多くあって。今まではそんな瞬間が訪れた経験はあんまりなくって、迅くんや岩本さんから歌い方の要望の提示があって、自分もその歌い方がいいと思ってて、という中で高得点を出すみたいなことはあったんですけど、今回はそこの枠からめっちゃ外れたところで歌ってみちゃった結果、その自由さが逆にいいみたいな感じで採用されてる曲とかもあって。自由が効いてきてるというか、自分の中で自由にやってもそれをOKのところまで持っていけるようになってきているんですよね。そんな段階の歌を今回の作品では入れることができました。

─それはもう、めちゃくちゃ気持ちいい瞬間ですよね。


そうですね。自分でも思ったより枠から外れることができたし、それがOKになるのは、やってて楽しい瞬間ですね。

─心のセッションの賜物ですね。


言われてみれば確かにそうなのかもしれないですね。

─"歌に何を込めるのか"というセッションですよね。よくある歌入れはピッチ(音程)の調整だったりどこでブレスを切るのかみたいなところが主だと思うんですけど。


逆にそのあたりは全然指摘されないですね。もちろんまったくないわけではないですけど。でもそれよりも歌に込める感情の微細なやり取りの方がずっと多いです。

─楽しい作業ですか?それともキツいこともある?


この話がその質問に繋がってるかは分からないんですけど、本、中でも小説を読むことがずっと好きで。その感覚と似てるかなって思ってます。いろいろな感情を味わってます。

─先程いろんな視点が混ぜ混ぜになってっていう話が出たので伺いたいのですが、具体的に歌詞のこの部分ではこの視点の割合が強かったな、なんてこともお教えいただけますか?曲を聴き込む上でリスナーにとっては非常にいいヒントになるかと思うので。


単純に2サビまでは"僕"視点で歌われる曲なので、主人公として歌ってます。"僕"と"あなた"が歌詞中にも頻繁に出てくるので。なのでここまでは神視点というか第三者的というか、語り部としての感じでは歌ってないですね。でも完全に主人公視点のみではなく、2割くらいは語り部視点での感情も混ざっています。朗読的な意味も込めて歌っている雰囲気で。〈二人はどこにも行けない〉からは曲のエンディングなので、その後のふたりの様子を語り部が俯瞰している視点もありつつ"僕"も歌詞中の出来事を客観的に見ている雰囲気も出しつつ、ってことは無意識に思っていたかも知れないです。こんなに言語化して考えてはないんですけどね、歌っている時には。でもこの曲って基本"僕"視点で歌われているのにサビで"8月の夜をただ照らし出したライター"なんてすごく客観的な視点が差し込まれたりするから、"僕"視点のみでストレートにいく感じの歌詞にはなってないんですよね。だからそれを私がどう歌おうが客観的な視点も入ってきてしまうので、そことのバランスが難しかったんですけど。全体的に"僕"が主人公でその感情で歌ってますけど、客観的な視点も常に忘れてないですね。曲ラストの〈二人はどこにも行けない〉からその客観性が大きくなるイメージですかね。

─ラストの感情表現は本当に見事だなと自分も思います。メロディラインの起伏も激しくない曲かと思うので、感情の入れ方、抜き方もかなり、それこそ先程おっしゃられた微細な表現が要求されますよね。


そうですね。「ライター」はどちらかといえば内にこもっている系の曲だと思うんですけど、演奏は外にバーッて広がっていく感じなんですよ。今までの曲よりずっと。迅くんが初めてDTMで作った曲でもあるので、その楽しさやワクワク感がめっちゃ出ている曲だなと思っていて。でもそれに反して歌はあくまでも内省的というか、自分の中に灯っている火を静かに燃やしている感じはセカンドの頃の曲調から変わってないなとも思ってます。

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個人的には海風が吹き荒ぶ中をずんずんと歩いていくイメージが浮かびました

─直近の「heart」や前編のアルバムが温かみのあるバンドサウンドだったので、打ち込みが中心の「ライター」には驚かされました。冒頭にはボイスサンプルも入ってますね。


あれは迅くんに突然「なんかいって」っていわれて、それで適当に「あ」とか言い続けたのが使われてます。まさか採用になるとは思ってなかったんですが、私のとぼけた声がそのまま音楽になってしまいました(笑)。

─誰の声なのか聞こうと思っていたのですが、まさかでした(笑)。ラストのフェイクはフリーだったんですか?それとも予め作り込んであったんですか?


井上:最初の段階から存在したメロディラインだったかと思うんですが、ごめんなさい、ここはあまり覚えてないかもです。〈days i was trying〉は迅くんが歌ってます。最近迅くんがコーラスで曲に入ってくれることが多くなってきてて。

─新たなスパイスですよね。効いてんなと思ってました。


私も新鮮に感じてます。こんなこと言うのもあれかもしれないんですが凄くコーラス向きの声だなと思ってて。裏声がすごくいい感じなので是非歌ってくださいなんてタイミングが徐々に増えて、それがめっちゃ楽曲に幅を持たせてくれてると思うし、いいなって思ってます。

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─そこに被さる井上さんのフェイクが夜のしじまで消えそうに揺らめくライターの灯に聴こえてて、その感情は悲しみなのか、或いはもしこの曲が終わった出来事についての歌詞だとすれば、その出来事への鎮魂みたいにも聴こえてきますし。


なるほど。

─最後の最後に英語の歌唱が入ってきて、それはそれまでは登場することのない男性の声で、そしてそこまでは物語の主人公であり語り部であった女性の声が歌詞、言葉を離れたメロディを歌っていて、この物語が言葉や感情ではないところまで昇華されていってまた繰り返されるみたいな循環的な感覚が1番刺さったポイントでした。


めっちゃ考えてくれてますね。そう聴いてくれるの、嬉しいです(笑)。

─妄想するのが好きなんです(笑)。歌詞という物語が終わったあとにもうひとつ展開があるところは非常にグッときました。


そういえばアウトロ褒められがちなバンドなんですよね。イントロが大事な時代と言われているにも関わらず(笑)。でも確かに、この最後の展開があるからこそ次の物語へ続いていく感覚はありますよね。この物語のなかだけで終わってないっていうか、広がっていく感じが凄くあるので、そう考えてみると私のフェイクも歌詞はないけどそこには意味がちゃんとあるんだなって思いますね。個人的には海風が吹き荒ぶ中をずんずんと歩いていくイメージが浮かびました。

─バンドのクリエイティブ面を担当される機会も増えてますよね。


今回はジャケを作りました。私と、友人の渋谷って苗字呼びしてる、いつも一緒にやってくれている女の子と2人で考えたイメージを、別の作家さんにCGで起こしていただいたっていう流れで。

─写真ではなく、CGなんですね!


すごいですよね。信じられない(笑)。

─さっきの小説が好きなんて話に戻るんですが、文字やメロディから映像が浮かぶことが多いタイプですか?


そうかも知れないです。MVを作ろうってなった時にわりとパッとイメージが思い浮かびますね。

─そういう視点が強いってのもめちゃくちゃいいですよね。音楽でありながら、叙事詩、抒情詩を表現するバンドとしては。


確かに、迅くんの作る曲をもらって自分の頭の中に出てくる映像がその曲のイメージになっていくことが多いですね。

─「ライター」はライブではどういった役割を担いそうですか?サビの開放感が超気持ちいいので、ライブでも体験したいなと。


今までのLaura day romanceにはあまりなかったドラムのパッド(SPD-SX)でガンガン音出す感じの曲なので、多分めっちゃライブ映えする曲になると思うんですよ。なのでセットリストの最後の方になるんじゃないですかね。壮大な感覚を味わってもらえると思うから、ファンの方も気に入ってくれるんじゃないかな。

─ライティングや演出面も作り込んでやってくれたらさらにカッコ良くなりそうですよね。


ライブではいつも素晴らしい照明さんがやってくれているんですけど、その方も喜んでくれるのではと思います。この曲で照明やるの、楽しいと思うので(笑)。

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取材:庄村聡泰
写真提供:PADDOCK

RELEASE INFORMATION

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Laura day romance「ライター」
2025年7月30日(水)
Format:Digital

Track:
1. ライター

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LIVE INFORMATION

Laura day romance fanclub member only live a perfect review lforl us
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2025年9月13日(土)
東京・渋谷WWW
開場:17:15/開演:18:00
チケット代:スタンディング 5,500円(税込/ドリンク代別)

Laura day romance tour 2025 a perfect review
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<チケット情報>
・全⾃由 スタンディング ⼀般︓5,500円(税込)
・全⾃由 スタンディング U-22割︓4,500円(税込)
※2003年4⽉2⽇ 以後に⽣まれた⽅対象
・全⾃由 スタンディング U-12割︓3,000円(税込)(保護者同伴必須)
※保護者の⽅もチケット必要 ※2013年4⽉2⽇ 以後に⽣まれた⽅対象

※U-22/U-12の⽅は年齢確認のできる写真付き⾝分証明書1点、写真がない場合は2点(学⽣証・健康保険証など)を⼊場時にご提⽰ください。
※U-12 チケットはU-22、通常チケットのいずれかと必ずセットでの購⼊をお願いします。U-12チケットのみでの⼊場、購⼊はお断り致します。
※各公演ドリンク代別途必要
※3歳未満⼊場不可

公演・チケット情報は公式ホームページをご覧ください。
https://lauradayromance.com/

LINK
オフィシャルサイト
@lauradayromance
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