2025.06.25

音楽と文学を深く掘り進めながら未来へ風穴を開ける「黄鶯睍睆(uguisu-naku)」-Highlighter Vol.240-
音楽だけでなく、どのカルチャーも共通点やつながりがあるということをコンセプトにしているSENSA。INTERVIEWシリーズ「Highlighter」では、アーティストはもちろん、音楽に関わるクリエイターにどのような音楽・カルチャーに触れて現在までに至ったか、その人の人となりを探っていく。Vol.240は、「音と言葉の研究と実験」をコンセプトに掲げる黄鶯睍睆(uguisu-naku)を取り上げる。
バンド名は七十二候「黄鶯睍睆(うぐいす鳴く)」に由来し、日本の美意識と言語への深い敬意を示している。様々な音楽や文学に造詣が深く、最新作『ヒト科の研究』のリファレンスについても今回のインタビューでは綴られているので、ぜひ参考にしてみてほしい。
日本のバンドではムーンライダーズ。あとはカーネーションやユニコーン。雑食的な音楽性を持つバンドに憧れます。
今回のアルバム『ヒト科の研究』では、「Don Cherry、Vashti Bunyan、The Beach Boys、Jon Spencer Blues Explosion、Nine Inch Nails、Aphex Twin、Eric Dolphy、土取利行、Cluster、Frank Zappa、Lizzy Mercier Descloux、ゆらゆら帝国、井上陽水、CAN、Joy Division、浅井健一、Melody's Echo Chamber、Dinosaur Jr.、Big Star、Carlo Gesualdo、Miles Davis、裸のラリーズ、Djo、Cardinal、Divino Niño、ART-SCHOOL、THE NOVEMBERS、THE 2、『けいおん!』、David Bowie、Boards of Canada、OGRE YOU ASSHOLE、Ben LaMar Gay」などをリファレンスのプレイリストに入れています。
最近買ったいちばん素晴らしいレコードはNala Sinephroの『Endlessness』です。これは今後、語り継がれるべきアルバムだと思います。
また、ギターソロの部分にはヘリや機関銃、爆弾の音をサンプリングして組み込んでいます。歌詞と併せて聴くとその意図は読み取れると思います。わたしたちなりの生命讃歌だと思っていただければ。ちなみにアルバムは全曲宅録なので、そこも聴きどころです!
もう一曲もアルバムからで「静かな街、裸の骨」です。これはオリジナル・チューニングのワン・コードを最初から最後までずっとギターがドローン音として鳴らし続けていて、ギターリフもひたすら反復、コード感を決定しているのは実はベースだけ。という非常にミニマルな構造の楽曲です。
また、「Eric Dolphyみたいなやつ!」という無茶振りに応えてくれたメンバー西川くんのギター。真舟とわというアーティストのバックでも演奏する彼のギタープレイは他にも聴きどころ満載。まだ世に見つかってない天才プレイヤーなんですが、これは本当に素晴らしいプレイだと思います。
あとはレコードですね。レコードをリリースしたいです。
それと、正規メンバーにドラムがいないんですが、もし見つかれば本当はどんどんライブをやっていきたいです。ドラムレスでもライブはできるんですが、どうしてもプレイできる楽曲は限られてしまうので。募集してます。
いちばん好きな詩人は田村隆一で、とにかく言葉がかっこいい。『腐敗性物質』という詩集には衝撃を受けました。いちばんすごい詩は山本陽子の「遥るかする、するするながらIII」。日本語でこれ以上のものはないんじゃないでしょうか。他には富永太郎、西脇順三郎、吉増剛造、帷子耀、吉岡実、瀧口修造、朝吹亮二、吉田一穂の詩集をぱらぱら眺めたりします。あとはやっぱりランボーが好きです。海外の詩人ならボードレール、ロートレアモン、エミリー・ディキンソン、ジョン・キーツ、オーデンを読みます。

小説は、小学校の頃から、父親の本棚にあった椎名誠や畑正憲、北杜夫、司馬遼太郎、あとは黒岩重吾の『さらば星座』なんかを読んで、そこから背伸びして太宰や芥川、漱石、谷崎、荷風、鏡花、夢野久作などを読むようになったと思うのですが、高校のときに母親から借りた中島らもの『今夜、すべてのバーで』と、たまたま本屋でタイトルが気になって買った村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』。これがよくなかった(笑)。
ふたりの著書に出てくる作家を手当たり次第読みまくり、マンディアルグ、アルトー、ヘンリー・ミラー、ジュネ、バタイユ、トリスタン・ツァラ、アンドレ・ブルトン、バロウズ、ランボー、ボードレール、ロートレアモン、稲垣足穂、内田百閒。あるいはドストエフスキー、フィッツジェラルド、カーヴァー、チャンドラー、カフカ、カポーティ、ヴォネガット、ブローディガン、サリンジャー、etc......。その作家たちが読んでいた本をまた読むことで、書物の宇宙は際限なく今日まで膨張を続けています。
難しい本は、自分の友だちが書いたと思って読んでみます。これは音楽も一緒ですが、自分の友だちの作品だったら、みんなどんな難解なものでも頑張って読み取ろうとするんですよね。音楽も詩も小説も、本当はそうやって能動的に自分から読み込んでいくものだと思ってます。その能動的な力を、人間はいまどんどん奪われてる。どうやってそれを回復していくのか、について、答えは出ませんがいつも考えています。

スピノザについて考えることが、自分のなかでの東洋と西洋を結びつけることにつながる予感がしてるんですよね。それで、國分功一郎という人が書いた『スピノザ――読む人の肖像』という本を読んだのですが、自分の予感は間違ってなかった、と思いました。
「真理を公共的に共有することはできない。真理を公共的に示すこともできない。真理とは、自分でそれを獲得した時に、自分自身によってそれが真理であることを告げられる、そのようなものでしかありえない」
「至福は徳の報酬ではなくて徳それ自身である」
これらはすべてのクリエイターに響く言葉だと思います。また、「神とは絶対に無限なる実有」「奇跡からは神の存在は理解できない」という、一見矛盾するような言葉について、今後長い時間をかけて深く考える必要があります。


黄鶯睍睆(uguisu-naku)「ヒト科の研究」
2025年6月25日(水)
試聴はこちら

※後日CDリリース予定

黄鶯睍睆(uguisu-naku)
「音と言葉の研究と実験」をコンセプトに掲げ、日本のインディーシーンで活動するロックバンド。
バンド名は七十二候「黄鶯睍睆(うぐいす鳴く)」に由来し、日本の美意識と言語への深い敬意を示す。
音楽性はオルタナティブ/ロック/ポップスを基盤に、サイケデリック、ポストパンク、ノイズ、ドローン、ミニマル、エレクトロニカといった極めて多様な要素を貪欲に取り込み、実験精神に富んだサウンドを構築。
日本語の響きや機微を重視したコンセプチュアルな歌詞も持ち味とする。
兵庫県神戸市の自宅スタジオ「studio UGUISU」を拠点に、レコーディングからアートワークまで一貫してセルフプロデュース。
これまでにEP『不滅ep.』(2022)、『HIMEI ep.』(2023)、長尺曲「VISION(創造の五段階)」(2024)などをリリースし、2025年6月には初のフルアルバム『ヒト科の研究』をリリース。
FRIENDSHIP.を通じて作品を配信し、独自のポジションを築いている。
@uguisu_naku
@uguisu-naku5724
FRIENDSHIP.
バンド名は七十二候「黄鶯睍睆(うぐいす鳴く)」に由来し、日本の美意識と言語への深い敬意を示している。様々な音楽や文学に造詣が深く、最新作『ヒト科の研究』のリファレンスについても今回のインタビューでは綴られているので、ぜひ参考にしてみてほしい。

活動を始めたきっかけ
藁科佑輝:コロナの渦中で、以前組んでいたバンドが成り立たなくなり解散、あてもなく自宅に閉じこもって、誰に聴かせるでもない音楽を作り続けていたときに連絡をくれた友人たちと制作をはじめたのがきっかけです。影響を受けたアーティスト
藁科:J-POPから民族音楽、路上の雑音までなんでも聴きますが、バンドを立ち上げた当初はThe Velvet Undergroundのマインド、The Beatlesのコーラス、The Rolling Stonesのアンサンブルの三本柱でやっていこうと考えていました。日本のバンドではムーンライダーズ。あとはカーネーションやユニコーン。雑食的な音楽性を持つバンドに憧れます。
今回のアルバム『ヒト科の研究』では、「Don Cherry、Vashti Bunyan、The Beach Boys、Jon Spencer Blues Explosion、Nine Inch Nails、Aphex Twin、Eric Dolphy、土取利行、Cluster、Frank Zappa、Lizzy Mercier Descloux、ゆらゆら帝国、井上陽水、CAN、Joy Division、浅井健一、Melody's Echo Chamber、Dinosaur Jr.、Big Star、Carlo Gesualdo、Miles Davis、裸のラリーズ、Djo、Cardinal、Divino Niño、ART-SCHOOL、THE NOVEMBERS、THE 2、『けいおん!』、David Bowie、Boards of Canada、OGRE YOU ASSHOLE、Ben LaMar Gay」などをリファレンスのプレイリストに入れています。
最近買ったいちばん素晴らしいレコードはNala Sinephroの『Endlessness』です。これは今後、語り継がれるべきアルバムだと思います。
注目してほしい、自分の関わった作品
藁科:今回のアルバムのタイトル・トラックにもなっている「ヒト科の研究」ですね。メンバーの宇和川くんのクレイジーな発想から生まれた"声リフ"、さらに彼のリリカルでジャジーなピアノのフレーズに、これまた彼が打ち込んだ極めてコンテンポラリーなドラムビートは、ささやかかもしれませんが、ロックの一部分を刷新したとけっこう本気で思ってます。また、ギターソロの部分にはヘリや機関銃、爆弾の音をサンプリングして組み込んでいます。歌詞と併せて聴くとその意図は読み取れると思います。わたしたちなりの生命讃歌だと思っていただければ。ちなみにアルバムは全曲宅録なので、そこも聴きどころです!
もう一曲もアルバムからで「静かな街、裸の骨」です。これはオリジナル・チューニングのワン・コードを最初から最後までずっとギターがドローン音として鳴らし続けていて、ギターリフもひたすら反復、コード感を決定しているのは実はベースだけ。という非常にミニマルな構造の楽曲です。
また、「Eric Dolphyみたいなやつ!」という無茶振りに応えてくれたメンバー西川くんのギター。真舟とわというアーティストのバックでも演奏する彼のギタープレイは他にも聴きどころ満載。まだ世に見つかってない天才プレイヤーなんですが、これは本当に素晴らしいプレイだと思います。
今後挑戦してみたいこと
藁科:時代に逆行して、二枚のアルバムを同時リリースしてみたいです。歌物サイドと実験サイドに分けて。まだ何百曲も録音できてない曲があったりするので。他には、12分超の「VISION」という即興演奏を一度リリースしたのですが、即興演奏だけを収録したアルバム作りやライブもやってみたいです。あとはレコードですね。レコードをリリースしたいです。
それと、正規メンバーにドラムがいないんですが、もし見つかれば本当はどんどんライブをやっていきたいです。ドラムレスでもライブはできるんですが、どうしてもプレイできる楽曲は限られてしまうので。募集してます。
カルチャーについて
触れてきたカルチャー
藁科:本が好きで、わりとなんでも読みます。詩や小説は自分でも書いていて、詩に関しては、ありがたいことに日本現代詩人会の〈詩投稿作品〉第26期で佳作、第28期では入選をいただきました。いちばん好きな詩人は田村隆一で、とにかく言葉がかっこいい。『腐敗性物質』という詩集には衝撃を受けました。いちばんすごい詩は山本陽子の「遥るかする、するするながらIII」。日本語でこれ以上のものはないんじゃないでしょうか。他には富永太郎、西脇順三郎、吉増剛造、帷子耀、吉岡実、瀧口修造、朝吹亮二、吉田一穂の詩集をぱらぱら眺めたりします。あとはやっぱりランボーが好きです。海外の詩人ならボードレール、ロートレアモン、エミリー・ディキンソン、ジョン・キーツ、オーデンを読みます。

〈詩投稿作品〉第28期で入選をいただいた詩です
小説は、小学校の頃から、父親の本棚にあった椎名誠や畑正憲、北杜夫、司馬遼太郎、あとは黒岩重吾の『さらば星座』なんかを読んで、そこから背伸びして太宰や芥川、漱石、谷崎、荷風、鏡花、夢野久作などを読むようになったと思うのですが、高校のときに母親から借りた中島らもの『今夜、すべてのバーで』と、たまたま本屋でタイトルが気になって買った村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』。これがよくなかった(笑)。
ふたりの著書に出てくる作家を手当たり次第読みまくり、マンディアルグ、アルトー、ヘンリー・ミラー、ジュネ、バタイユ、トリスタン・ツァラ、アンドレ・ブルトン、バロウズ、ランボー、ボードレール、ロートレアモン、稲垣足穂、内田百閒。あるいはドストエフスキー、フィッツジェラルド、カーヴァー、チャンドラー、カフカ、カポーティ、ヴォネガット、ブローディガン、サリンジャー、etc......。その作家たちが読んでいた本をまた読むことで、書物の宇宙は際限なく今日まで膨張を続けています。
難しい本は、自分の友だちが書いたと思って読んでみます。これは音楽も一緒ですが、自分の友だちの作品だったら、みんなどんな難解なものでも頑張って読み取ろうとするんですよね。音楽も詩も小説も、本当はそうやって能動的に自分から読み込んでいくものだと思ってます。その能動的な力を、人間はいまどんどん奪われてる。どうやってそれを回復していくのか、について、答えは出ませんがいつも考えています。

自室スタジオの机の上。占い気分で適当に本を開きます
今注目しているカルチャー
藁科:ぜんぜん上手くまとめられないと思いますが、スピノザという哲学者について考えています。昔、頑張って代表作の『エチカ』を読んだんですが、最近読んだ『資本主義の次に来る世界』という本でも、「デカルト的な世界(つまり自然や肉体を機械として認識する世界)から、スピノザ的な世界(万物はすべて神の延長であるとする汎神論的世界)へ移行する必要がある」というようなことが書いてあって。それと、作家の大江健三郎が、ある年齢から五年ごと? 十年ごと? に、ひとりの人物を研究していた、というような話を読んで、それなら自分はしばらくスピノザについて考えよう、と。スピノザについて考えることが、自分のなかでの東洋と西洋を結びつけることにつながる予感がしてるんですよね。それで、國分功一郎という人が書いた『スピノザ――読む人の肖像』という本を読んだのですが、自分の予感は間違ってなかった、と思いました。
「真理を公共的に共有することはできない。真理を公共的に示すこともできない。真理とは、自分でそれを獲得した時に、自分自身によってそれが真理であることを告げられる、そのようなものでしかありえない」
「至福は徳の報酬ではなくて徳それ自身である」
これらはすべてのクリエイターに響く言葉だと思います。また、「神とは絶対に無限なる実有」「奇跡からは神の存在は理解できない」という、一見矛盾するような言葉について、今後長い時間をかけて深く考える必要があります。

國分功一郎『スピノザ──読む人の肖像』。折り目だらけです
RELEASE INFORMATION

黄鶯睍睆(uguisu-naku)「ヒト科の研究」
2025年6月25日(水)
試聴はこちら

※後日CDリリース予定
PROFILE

黄鶯睍睆(uguisu-naku)
「音と言葉の研究と実験」をコンセプトに掲げ、日本のインディーシーンで活動するロックバンド。
バンド名は七十二候「黄鶯睍睆(うぐいす鳴く)」に由来し、日本の美意識と言語への深い敬意を示す。
音楽性はオルタナティブ/ロック/ポップスを基盤に、サイケデリック、ポストパンク、ノイズ、ドローン、ミニマル、エレクトロニカといった極めて多様な要素を貪欲に取り込み、実験精神に富んだサウンドを構築。
日本語の響きや機微を重視したコンセプチュアルな歌詞も持ち味とする。
兵庫県神戸市の自宅スタジオ「studio UGUISU」を拠点に、レコーディングからアートワークまで一貫してセルフプロデュース。
これまでにEP『不滅ep.』(2022)、『HIMEI ep.』(2023)、長尺曲「VISION(創造の五段階)」(2024)などをリリースし、2025年6月には初のフルアルバム『ヒト科の研究』をリリース。
FRIENDSHIP.を通じて作品を配信し、独自のポジションを築いている。
LINK
@uguisu_official@uguisu_naku
@uguisu-naku5724
FRIENDSHIP.