SENSA

2025.04.30

カネコアヤノからバンド名義「kanekoayano」へ。大きな転換点を刻んだ『石の糸』メンバー全員インタビュー

カネコアヤノからバンド名義「kanekoayano」へ。大きな転換点を刻んだ『石の糸』メンバー全員インタビュー

前作『タオルケットは穏やかな』からは約2年ぶり、昨年8⽉にバンド名義「kanekoayano」となってからは初めてのアルバム『⽯の⽷』が4⽉25⽇にサプライズリリースされた。「kanekoayano」のメンバーであるカネコアヤノ(Vo/G)、林宏敏(G)、takuyaiizuka(B)に、新たなサポートメンバーとして、宮坂遼太郎(Per)とSEI NAGAHATA(Dr)が迎えられ、お馴染みとなった伊豆スタジオでエンジニアの濱野泰政とともにレコーディングを敢行。いくつかの⼤きな選択を経て、これまで以上にカネコの音楽的な趣向性とパーソナリティがメンバー全員で共有された、彼⼥のキャリアの中で⼤きな転換点となる作品になった。

このインタビューは4月24日の「YouTube Live Performance 2025」の後に「YouTube Premium」で視聴することができたドキュメンタリー用に収録されたメンバーの個別取材を再編集したもの。前編ではカネコのインタビューに加え、メンバーの中でカネコのサポート歴が最も長い林と、2023年からサポートに加わったtakuyaiizukaをフィーチャーしてお届けする。


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自分でどうにかしないと......終わるなって思いました(カネコ)

―前作からの2年、いろんなことがありましたよね。


カネコ:そうですね......いや本当に、そうなんですよ。いろいろありましたね。

―最大の変化はやはりバンドになったことだと思いますが、それはカネコさんの提案だったわけですよね?


カネコ:そうですね。自分がバンドで作品を作るときって、自分の力だけではできない部分が大きすぎて。私は1人で宅録で作っているわけでもないし、弾き語りをスタジオに持って行って、みんなで音を出して作ることをずっとやってきて、「これは自分の力だけではないな」って、明確に思って。それで「ちゃんとみんなの音楽にしたいです」っていう提案をしました。林くんとは特にずっと一緒にやってるし、もうサポートとか、そういう関係性ではないのかなって。

―以前のSENSAでのインタビューも林くんや本村(琢磨)くんと一緒にやっていたし、もともとバンド感はあったと思うけど、それをより明確にしたと。


カネコアヤノ:みんなが自分のものとして演奏してもらえたらいいなと思ったし、自分のものとしてステージに立ってもらえたらいいなと思ってたので。あと個人的には、やってる曲は一緒だけど、バンドと弾き語りを明確に分けることですごく気持ちが楽になりました。

―もともとバンドに対する憧れがあった?


カネコ:ありますあります、ずっとある。濃密に固定メンバーでやることで、「うちらってバンドだよね」って口で言うことはできるし、それでいいと思ってたんですけど、そうじゃないような気がしました。

―最近だとクロマニヨンズともくるりともNOT WONKとも対バンしていたり、そういう中で刺激を受ける部分も大きかったでしょうね。


カネコ:やっぱりうらやましく思いますね。近い世代でバンドをやってる人も、ずっと長くやってる人も、どっちもうらやましく思ってました。好きだったのがやっぱりバンドが多かったから......これまで組む機会がなかったわけではないんだろうけど。

―バンド経験がないわけではないんですよね。


カネコ:高校生のときに一瞬だけ。でもライブとかもしてないし。

―じゃあ、ほぼほぼ初めてのバンドですね。


カネコ:やっぱり口約束ではバンドにはなれないなって思いましたね。過去のインタビューでは「バンド名がないだけ」って言ってて......それも本当にそうなんだけど、でももっと明確にしたほうがいいような気がしました。

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―ちなみに、「kanekoayano」以外のバンド名は考えなかった?


カネコ:考えなかったですね。カタカナのカネコアヤノでやってた曲も絶対今後やるから、だとしたら、そんなに全部を0にする必要もない気がしました。だから「カネコアヤノだけどカネコアヤノじゃない」みたいな、kanekoayanoでいいかなって。

―サポートメンバーの交代がある中で、喪失感みたいなものもあったとは思うけど、だからこそより音楽に集中したり、ある種の反動も力になったのかなと。


カネコ:自分でどうにかしないともう止まるなって思ったのは大きかったですね。今の自分からそのときまでの自分を振り返ると、寄りかかっていることがすごく多かったから。それに改めて気づいて、自分でどうにかしないと......終わるなって思いました。でも、どうにかなりました。

―曲作りの面でもより引っ張ったり、そういう意識も強くなった?


カネコ:引っ張るというか、「わがままを言ってみる」みたいな感じ。「ラッキー」と「さびしくない」ぐらいから、いろいろ言うことは増えました。もちろん以前から言ってはいたんですけど、それを周りが解釈してアウトプットしてくれる、みたいな状況だったのに対して、今回は自分で自分の音楽の選択をちゃんと自分でしました。当たり前のことなんですけどね、普通に考えて。

―「ラッキー」と「さびしくない」を作れたことは、カネコさんにとって大きかった?


カネコ:すごく大きかったですね。「できるんだ」と思ったし、「なんだ、私普通にやってきてるわ」って思いました。与えてくれたものがただ通り過ぎていってるわけではなくて、自分の中にちゃんとあるんだなっていうことに気づけたのも、すごく嬉しかったですね。

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―林くんはバンドになったことをどう受け止めていますか?


:カネコさんが「バンドにしたい」って提案してくれたのはすごく嬉しかったです。まあ、もともとサポートみたいな意識ではやってなかったというか、ほぼバンドみたいな動き方をずっとしてたんですけど、でもちゃんと「バンドです」って、自信を持って言えるようになったのはでかいかなと思います。

―本村くんがバンドから離れて、ライブの感じもどんどん変わって、よりバンド的になっていった印象もありますが、どう感じていましたか?


:もっちゃんに関しては、一番音楽の話をしてたのが彼とだったので、大きな存在であったのは間違いないですけど、でもライブも決まってたし、「やるしかねえ」みたいな感じでやっていったら自然と今の形になっていったというか、あんまり難しく考えたことはないかもしれないです。

―新たにサポートでベースを担当したtakuさんの存在も大きかったですか?現在はバンドメンバーになったわけですけど。


:そうですね。takuくんは......超いいやつ(笑)。もともとベースは最高だし、ちゃんと言ったことも吸収してくれる。「こういう感じで演奏してみてほしいんだよね」とかも、すぐに「わかった」って柔軟にやってくれるのはすごく助かってますね。もともとはハードコアとかメタルとか、そういうのが好きなタイプなんですけど。

―だからこそライブがどんどん激しくなっていった部分もあったわけですよね。


:そこを引き立ててくれたのもでかいですし、でもこっちのやりたいグルーヴ感にもちゃんと寄り添ってくれるっていうか、takuくんにしかできないようなことをやってくれてるなと思います。

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―バンドになったことによる制作の変化はどう感じていますか?


:いろいろダイレクトに言いやすくなったんじゃないかなと思います。今までちょっと遠慮してたようなことも、レコーディング中にいろいろやり取りがあったりして、別に喧嘩まではいってないですけど、伝えるべきことはちゃんと伝えてくれたりして。俺は言葉があんまり出てこないタイプなので、それでレコーディング中にコミュニケーション的なところで、ちょっとうまくいかないところがあったりもしたんですけど、そういうときに「ちゃんと言わなきゃダメだよ」みたいな感じで言ってくれたり(笑)。

―曲の作り方自体はそこまで変わってないですか?


:前はエンジニアのヤスさん(濱野泰政)含めて5人でプリプロをよくしてたんですけど、今回のアルバムからはメンバーだけで一から曲をアレンジしたので、そこは結構変わったかなと思いますね。録る段階ではもちろんヤスさんも相談に乗ってくれるんですけど、基本的なアレンジに関してはメンバーだけでやってる感じです。

―バンドになる前に「ラッキー」と「さびしくない」を作ったわけですが、あの2曲も大きかった?


:そうですね。「さびしくない」を伊豆で録って、そのときにカネコさんにも伝えたんですけど、「メンバーチェンジとかいろいろあったけど、この曲がこうやって一緒に録れて、素晴らしい形になって、ちゃんと残せてよかった。いろいろあったけど、このためにあったのかも。だから大丈夫だね、俺たち」みたいなことは終わった後に話しました。ちゃんと自分たちのやりたい音楽ができたし、そういう意味でも良かったねって。

自分の中でパッと思い浮かぶのは、「この人猫だな」っていう(笑)(iizuka)

―2023年からtakuさんがサポートとして参加して、今ではバンドメンバーになっているわけですが、takuさんの存在をどう感じていますか?


カネコ:takuくんは......優しいし、楽しんで音楽を作ってくれるし、探究心もあるし、一緒になって爆笑してくれるっていう感じ。それは林くんもそうだし、ヤスさんもそうだし、そういうことを一緒にしてくれる人が新しく入ってくれたから、すごく自然に今もできてるなって。演奏する上で人見知りする人がいると結構しんどくて、それが音にも乗るような気がしてるんですけど、takuくんはそういうのが最初からなかったから、すごくやりやすいですね。あといい意味でめっちゃドライだし、客観的にいろんなことを見てくれてるイメージがあります。私がスピードタイプっていうか、思ったらすぐ言っちゃう、やっちゃう感じだから、そこに関しては林くんもtakuくんも「いいじゃん」って言ってくれるときと、ちゃんと止めてくれるときと両方ある。冷静でいてくれて、すごく助かってます。

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―takuさんは音楽的にはハードコアが背景にあって、だからこそ近年のライブはアグレッシブな側面が強くなったのかなとも思うのですが、そのあたりはどう感じていますか?


カネコ:どうなんだろう。でもたぶん入ってきてくれたタイミングで、自分の出したい音とかやりたいことが変わってきてたタイミングだったから、すごく自然だったのかなと思います。takuくんがいるからこうしようとかっていうわけではなかったので、出会うタイミングがすごく良かったのかなって思う。

―takuさんは2023年からカネコさんのサポートをやっているわけですが、もともとは前ドラマーのHikari(Sakashita)さん繋がりですよね?


iizuka:そうですね。もともとHikariと長くバンドをやってて、Hikariが先に参加した流れで、「やってみない?」っていう話をもらった感じです。

―以前までやっていたバンドはハードコア色が強くて、いわゆるシンガーソングライター的なバンドはあまりやってなかったですか?


iizuka:大学のときからBOMBORIっていうバンドと、あともう一個ハグレヤギっていうバンドをやってて、そっちは結構歌ものだったので、そういうアプローチも自分の中にちゃんとあったというか、違和感なくできたかなとは思います。

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―カネコさんの音楽に対する印象はいかがですか?


iizuka:歌が力強いっていうのももちろんなんですけど、景色が見える音楽だなっていうのをすごく感じて。それは自分がやりたいことともリンクしてるので、すごくやりがいを感じてます。新曲のアレンジをしてるときとかも、「こういう公園があって、そこに電車が走り込んでくるみたいな音なんです」っていうようなやりとりがあって、「じゃあ、この音かな?」みたいに話し合う感じ。

―そういう感覚的なやり取りは人によっては難しさを感じたりするかもしれないけど、takuさんにとってはそれが楽しい?


iizuka:そうですね。僕も音に景色を感じて生きてきてたので、そのやり方がすごく合ってたんだなと思います。

―去年バンドになったことはどう捉えていますか?


iizuka:「バンドにしよう」って言ってくれたことにはすごく喜びを感じてます。でも「だからもっと本気になる」とかではなくて、最初から本気でやるつもりだったので、心持ちの面ではそんなに変化はないです。ただ、アレンジのときとか、レコーディングのときとか、意識してないところでの遠慮みたいなのがもしかしたらあって、それがバンドっていう形になって、今回のレコーディングではそういうのがなく、素直に言葉が出てくるようになった気はしますね。

―ちなみに、カネコさんのパーソナリティに関してはどんな印象ですか?


iizuka:常に素だなって思うんですけど......自分の中でパッと思い浮かぶのは、「この人猫だな」っていう(笑)。自分は実家でずっと猫を飼ってたので、猫の感じがすごいわかるんですけど、そんな感じじゃないかなって、たまに思います。

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―バンドになってからの制作の変化をどう感じていますか?


カネコ:みんなにすごくお願いしやすくなりました。自分の中では結構ストレスが減りましたね。前までは、「自分が何もできなくてすみません、お願いしちゃって申し訳ない」みたいな気持ちが何年経ってもずっと奥底にあって、それがストッパーになってた感じがするけど、バンドになったら、「みんなにとっても自分の音楽だし、やってくださいよ」みたいなことを言いやすくなって、それはすごく楽ですね。

―さっき林くんに聞いたんだけど、今回からバンドだけでプリプロをするようになったそうで、そこも結構大きな変化なのかなって。


カネコ:今回からは自分たちで作り切っていきましたね。私の中でヤスさんと本村くんが音楽をやってくれる絶対的な存在すぎて、だから今回から頼るのはもうやめようって感じでした。自分でどうにかしないとどうにかならないし、止まっちゃうから。自然とそういう感じになりました。

―曲に対するイメージも前より明確になった?


カネコ:まず弾き語りでメロディーとコードと歌と同時進行で作って、一回コードをみんなにさらってもらって、テンポもいろいろやってみて、その中でアレンジを組んでいくやり方が多いので、「結果的にこうなった」みたいな方が多いですね。「ここにみんなでコーラスを入れたい」とかはあるんですけど、楽器の抜き差しとか音色とか、そういうのは本当にやりながら、パズルみたいに出来上がっていく感じ。ひとまず足して、そこから引くみたいなやり方が多いんですけど、最初からイメージが明確にあるっていうのはなかなかないですね。1曲目の「noise」は最初から私が弾き語りで歌うイメージだったし、2曲目の「太陽を目指してる」もあのリフが弾き語りの時点であって、ある程度印象が決まってたから、ああいうのはみんなでワーッてやって、「これでいいね」ってなるんですけど、「僕と夕陽」とかはアレンジに丸一日かかりました。1月半ばぐらいに弾き語りで作って、1月末ぐらいに伊豆でプリプロ、アレンジっていう感じだったんですけど、みんなでスタジオに缶詰になって作りましたね。

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―なんで時間がかかったんですか?


カネコ:何が大変だったんだっけ......私本当に記憶がないんですよね。毎作そうなんですけど、できちゃうと、作ってたときのこととか......いい時間だったなあとかは覚えてるんですけど、どうやって作って、何に悩んでたのか、みたいなことはすぐ忘れちゃう。

永遠に全体がループしていて、終わりがないようにしたかった(カネコ)

―(ここから林と濱野も同席)「僕と夕陽」のアレンジに時間がかかったっていう話をしてたんですけど、林くんはそのときのことを覚えてますか?


:ベースとドラムじゃない?

カネコ:そうだ。ベースとドラムを組むのにすごい時間かかったんだ。

:わりとベースをね、いろいろ細かいフレーズだとか、結構突っ込んでやってた。

カネコ:ベースのフレーズを私とtakuくんがずっと考えてたら、日が暮れてました。私ベースの抜き差しとか、そういうのを考えるのが結構好きで、それは本村くんがいたことの影響は結構大きいのかも。ベースも歌えるぐらいの感じで聴きながら歌ってたから、それは大きいなって思いました。

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―歌う人としての意識の変化はありましたか?


カネコ:あんまり"歌重視"にはならないようにしよう、みたいな話はしてました。歌がめちゃめちゃ前にある感じじゃなくて、でも小さすぎず、楽器と同じように正しい位置で鳴ってる、そういうのをちゃんとやりたいって。シンガーソングライターのバンドアレンジみたいなのがすごく嫌で、それは昔からずっとそうなんだけど、バンドになって、よりそういうのが素直に意識できるようになったのはあるかも。

―最後にSEI NAGAHTAさんと宮坂遼太郎くんが参加して、レコーディング自体は約2週間だったそうですね。


カネコ:すでにアレンジが完成しているものがある中で、まずそれを投げて、その中で変えたいところは自由にやってもらって、っていう感じだったんですけど、さっきも言った「僕と夕陽」だけはセイセイと作りました。

―一緒に作るのが初めてだったからこそ、時間がかかった部分もあった?


カネコ:どうなのかな。でもあの曲に関しては、誰がどうやっても時間がかかってた気がする。最初マジでどうしようって感じだったよね。

:最初は「ブラジルっぽくしよう」とか言ってたんだけど、それがどんどん変わっていって、最後だけちょっとボサノバっぽい。

カネコ:そうそう、あそこだけ突然出てくる。で、サビはないっていうか、みんながどこをサビだと思ってるかわかんないけど、サビらしいところで広がらないようにしようみたいな話もしてた。「ベースの弾き語りやん」ぐらいの感じにしたいって話も最初してて、それありきで考えてたから、特にベースを考えるのに時間かかっちゃって。

濱野:いろんな竿を試したしね。

カネコ:結局何を使ったんだっけ?

濱野:後半はフレットレス。

カネコ:そうそう、前半は5弦で、途中のパートからフレットレスにしたんだよね。

:ベースのことをいろいろ考えて、「ベースがこうするから、じゃあドラムはこうして」みたいな、その細かいやり取りがずっと続いた中で、どんどん曲が作られていった感じ。だから、リズム隊のコンビネーションがさらに合致したんじゃないかな。

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―去年の後半からドラマーがSEI NAGAHATAさんになったわけですけど、その変化をどう感じていますか?


iizuka:より自分の演奏と、ドラマーが鳴らしてるリズムを見直すきっかけにはなりました。Hikariとはもう15年くらいの付き合いで、ずっと長く一緒にやってきたので、自然体でやりすぎてたくらいだったと思うんですけど、そこが意識的に変わったところはあるかもしれないです。ただSEIちゃんは、最初のスタジオで合わせた瞬間からバンド全体での違和感が全然なくて、だからこそリズム隊としてやることもより明確に見えたし、SEIちゃんのドラムは自分にはすごく合ってるなって感じました。

―レコーディングで特に思い出深い曲を挙げてもらえますか?


iizuka:「難しい」は最初"青い炎"みたいなイメージで、あんまりガシガシ行かないようにしようって言ってアレンジをしてたんですけど、自分の中で「これはいったれ」みたいなスイッチが突然入って、最後みんなで録るときにこの曲だけストラップを全部長くしたんですよ。それがOKテイクになって、なんでそうしたのか自分でもわからないぐらいなんですけど(笑)、それはすごい記憶に残ってますね。

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―アルバムには10曲が収録されていますが、曲順についてはどう考えましたか?


カネコ:最後の「水の中」が終わって、また「noise」が聴けるようにしたいっていうのがありました。永遠に全体がループしていて、終わりがないようにしたかった。なので、1曲目と10曲目は最初から決めてました。で、この2曲はみんなでアレンジをする前から、バンドっぽくなくていいというか、シンプルにしたいって。

:アレンジをめちゃくちゃやってっていうよりは。

カネコ:「水の中」は弾き語りをベースに、ここからコーラスしてくださいってことと、ベースとマンドリンと、宮坂くんのパーカッションをちょっと。「noise」は林くんが途中でギターをジャーンってやって...あとうちの猫がいつも一緒に来るんですけど。

濱野:オルガンの音作りをしてたときに...。

カネコ:モニターからやばい音が鳴って。そしたらうちの猫が鍵盤に座ってて。

濱野:でもそれが曲のキーと合ってて、「これ録らなきゃ!」とか言って録ってたら、途中から不協和音を入れ始めて(笑)。

カネコ:すごいよね、巨匠。本当に真顔だった。

濱野:「途中から何入れようか?」みたいな話をしてて、オルガンを試そうとしたら、あいつが弾き始めて。邪念のない音が。

カネコ:いろいろ試そうとしてたんだけど、もうそれで完成。

濱野:あれが今回一番盛り上がったね。

カネコ:やばかったよね。本当に気が狂うかと思ったんですよ。モニターに流れた音がすごすぎて。でもそんなのばっかりっていうか。

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―そういうのを面白がりながら生かしていくっていうのはこれまでもずっとやってきてますよね。


カネコ:今回は特に多かった気がする。

石のように硬い、ブレない糸が1本通ってたらいいなって(カネコ)

―歌詞に関して今回意識したことはありますか?


カネコ:歌詞の書き方は前と何も変わってないっていうか、本当に日記でしかないなって。ただ自分が体験してないことというか、想像のこととかも、思いついたときに書くようにはなりました。実際起こってることばっかりじゃなくて、こういうことがあったらいいなっていうことも書いてる。

―1曲目が弾き語りで始まる「noise」で、〈すべての始まりは /熱く燃えてる魂と不安があるから〉〈何も無くていい本当は/だけどノイズが私を包み込む〉という印象的な言葉が並んでいます。これまでの曲にも不安や孤独感はリアルに描かれていたように思いますが、やはりこの曲はこの2年の中で抱えてきた先行きの見えない不安と、それでも進んでいきたいという願いが表れているように感じましたが、いかがですか?


カネコ:「noise」はこのアルバムの中では一番最初にあったかも。「さびしくない」とか「ラッキー」よりも前からあった気がします。だからまあ、『タオルケットは穏やかな』が出た後にすぐ作った曲だったのかな。

:そうじゃない?

カネコ:そうだよね。林くんとふたりで(2023年に)ビルボードでやってて、その前からあったってことだから。まあ言葉を書くときのマインドはやっぱりそんなに変わってないですね。こういう曲はやっぱり日記みたいな感じで、「太陽を目指してる」とかは絵を描くみたいな感じ。作った当時の気持ちは正直あんまり覚えてなくて、でも今言っていただいたみたいに過去のことを掘り下げてもらうと、「確かに、そうかもしれない」と思ったりもします。とはいえ、聴く人がそれぞれ自由な受け取り方ができたらいいなっていうのは、前からずっと言ってることなので、今回も自由に聴いてもらえたらいいな。

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―ギターサウンドの面で言うと、「太陽を目指してる」は強烈ですね。


:カネコさんのバンドではあんまり「誰々っぽくしよう」みたいなことは言わないんですけど、個人的にはセイント・ヴィンセントみたいな、ああいうぶっ飛び感を出していけたらいいなっていうのはあって。割と突拍子もないことがいきなり出てくる、今までのアルバムにはないようなびっくりさせ方ができたらなって。ジャック・ホワイトの『No Name』みたいな、ちょっとガレージ寄りな感じも目指してたので、それで攻めた感じにはなったのかな。

―あとはやはり「石と蝶」ですね。後半の盛り上がりが圧巻でした。


:「石と蝶」はそもそも曲が素晴らしいなと思ってて、どうアレンジしていこうかっていう中で、自分的にはすごく広い景色が思い浮かんだんです。僕は毎朝散歩をするんですけど、近くの川を歩いているときとか、すごい景色が開けてるから、そういうイメージが最初にあって、でもそれをただ広いだけじゃなく、最後にちょっとしぼませて、また大きくなったり。スパークルホースが大好きで、あの感じが近いのかなと思って、提案したりもしました。広いんだけど、それこそ寂しさというか、ちょっと孤独感があるというか。

―「石と蝶」はアルバム後半のクライマックスと言っていい曲かなと。


カネコ:「石と蝶」もわりとすぐできた気がする。セイセイが入ってきて、セイセイがああいうドラムを叩けるから、takuくんがそれを聴いて、「アウトロはバーンってやって、それがフェードアウトして終わっていくのがやりたい」みたいなことを言ってたかな。で、みんなも「ええやん!それにしよう!」みたいな。

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―〈愛想がないのはもともと〉と繰り返されているのがとても印象的で。


濱野:最高の歌詞ですよ。

カネコ:ヤスさんはずっとそう言ってくれてる。過去にアルバイトをやってる中で、お客さんに言われて今も覚えてる言葉があって。喫茶店で接客業をしてたんですけど、「もっと笑いなよ」って言われたんですよ。それがすごいつらくて、あの言葉は今でも1年に一回ぐらい思い出すから、そういうのから来てるかもしれない。私ライブでも基本的にめっちゃ真顔だから、「今日カネコアヤノ怒ってた」みたいに言われることもあって。怒ってないし、楽しかったのに、なんでステージに上がったら笑顔じゃないといけないのかとか、めっちゃ考えちゃった時期もあって。集中してるだけだし、音楽がやりたいだけだし、別に笑ってステージに立って、そこを評価されたいわけではないから。でも見に来てる人からしたら、笑ってる方が気分いいのかなとか、そういうことをすごく考えてた時期がありました。

―つまり〈愛想がないのはもともと〉を繰り返すことは、周りの目線を気にするのではなく、自分が自分らしくいることへの意志や願いの表れのようにも受け取れます。


カネコ:歌詞を書くときに、あんまり人のことを考えるのはやめようと思いました。救いがあるように書くとか、そういうのも大事だし、そういうのを書きたいときは書くけど、そういうモードじゃないときに、無理に生み出そうとするのはやめようって。こういうことを言っちゃったら、誰かが傷つくんじゃないかなとか、もちろん考えはします。でも『印税生活』っていう最初のアルバムを作ったときとかは、そんなことを考えて歌詞を書いてなかったし、これからも音楽をやっていきたいから、そういうことは考えないで書こうと思いました。せめて自分の作品の中では、人に気を使うのはやめようって。怖いですけどね。最初から〈嫌い〉とか言ってるし。

濱野:大丈夫。この曲でたくさんの人が救われるよ。「私は私でいいんだ」ってちゃんと思えるし、「君は君のままでいいんだよ」っていう言葉にも聴こえるし。

カネコ:だったら嬉しいな。今回のアルバムはすごく伸び伸びと制作ができて、全部好きなようにできたから、いっぱい聴いてもらえたらいいな。

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―最後に、『石の糸』というアルバムタイトルについて教えてください。


カネコ:これまでいろんな選択をしてきたと思うんですけど、自分の中で1本ぶれないもの、私っていうものがヒュッて、糸みたいなものが通ってたらいいなって思うんです。石のように硬い、ブレない糸が1本通ってたらいいなって。でも石の糸だったら、多分グーパンしたら簡単に砕けるじゃないですか。だからそれを砕かないために、自分で自分を折れないようにしたいなと思ったし、そんな作品になったような気がして、そういう気持ちでつけました。大事なのは自分の選択だと思うので、そうなればいいなっていうか、そういう人間でいたいなっていう感じですね。

―いろいろな選択を経験しながら、自分の中にある石の糸を強くしていった2年間を凝縮したのがこのアルバム。


カネコ:そうですね。すべてに感謝って感じです。みんなにも感謝。本当にリスペクトですね。大事な2年だったなってすごく感じますし、こういう作品が作れて、すごくうれしいです。これからも長く続けていきたいですね。よろしくお願いします。

濱野:こちらこそ。

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取材・文:金子厚武
写真提供:1994 Co.,Ltd

RELEASE INFORMATION

【Jacket】kanekoayano_石の糸_1200.jpg
kanekoayano「石の糸」
2025年4月25日(金)
Format: Digital

Track:
1. noise
2. 太陽を目指してる
3. 僕と夕陽
4. 日の出
5. ラッキー
6. さびしくない
7. 難しい
8. WALTZ
9. 石と蝶
10. 水の中

試聴はこちら

kanekoayano「石の糸」
2025年5月28日(水)
Format: CD/LP

CD ( 全国流通 )品番:NNFC-14
価格:3,850 円 ( 税込 ) / 3,500 円 ( 税抜 )

LP ( 初回生産限定:全国流通 )品番:NNFS-1012
価格:5,500 円 ( 税込 ) / 5,000 円 ( 税抜 )
仕様:12inch Black Vinyl/ A式ダブルジャケット
※音源DLコードは付属しておりません。

LIVE INFORMATION

kanekoayano Hall Tour 2025 "⽯の⽷"
6月28日(土) 岡⾕鋼機名古屋公会堂
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:お問い合わせ:JAIL HOUSE (052-936-6041)

6月29日(日) ⾦沢市⽂化ホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:FOB金沢 (076-232-2424)

7月3日(木) 広島 JMSアステールプラザ ⼤ホール
open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:YUMEBANCHI 広島 (082-249-3571)

7月4日(金) ⼤阪 オリックス劇場
open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:GREENS (06-6882-1224)

7月20日(日) 京都 KBSホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:GREENS (06-6882-1224)

7月21日(月・祝) 静岡市清⽔⽂化会館(マリナート)⼤ホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:お問い合わせ:JAIL HOUSE (052-936-6041)

8月5日(火) LINE CUBE SHIBUYA
open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:HOT STAFF PROMOTION (050-5211-6077)

8月6日(水) LINE CUBE SHIBUYA
open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:HOT STAFF PROMOTION (050-5211-6077)

8月9日(土) サンポートホール⾼松 ⼤ホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:DUKE ⾼松 (087-822-2520)

8月11日(月・祝) 福岡市⺠ホール ⼤ホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:キョードー⻄日本 (0570-09-2424)

9月3日(水) Kanadevia Hall (TOKYO DOME CITY HALL)
open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:HOT STAFF PROMOTION (050-5211-6077)

9月6日(土) トークネットホール仙台 ⼤ホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:GIP

9月19日(金) 札幌 カナモトホール
open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:WESS

9月28日(日) 沖縄 アイム・ユニバース てだこホール 大ホール
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:PM AGENCY (098-898-1331)

Ticket:
指定席 6,000円(税込)
※未就学児⼊場不可(⼩学⽣以上チケット必要)
※お1⼈様4枚まで 申し込み可能

【オフィシャル先行予約】
受付方法:抽選
受付期間:4月25日(⾦)0:00〜5月6日(⽕)23:59
受付URL:https://eplus.jp/kanekoayano/
当落発表:5月9日(⾦)13:00〜5月11日(⽇)21:00

LINK
オフィシャルサイト
@kanekoayanoinfo
@kanekoayano_info
オフィシャル通販「カネコ商店」

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