2025.03.07

もうやれること全部やろうっていうのがテーマではありました
─まず「日蝕」にびっくりしました。どこまで行くんだこの人たちは、って。
ほんとですよね(笑)。これ、今日のリハで初めてちゃんと合わせて。イケそうでしたね。ちゃんとライブでもやれるなって。
─次のフェーズに行く、みたいなテーマは今回ありました?
うん......どこから話すかなぁ。なんとなく、制作始めます、来年3月に発売するから頑張ろうぜっていう段階で「もしかしたら、これ最後のアルバムかもしれない」ってメンバーと話をしたんですよ。今すぐ辞めたいっていう意味ではなくて。単純に前から5年かかってる。仮に次が8年かかるとして、僕もう55歳になっちゃうんですよね。年上のメンバーもいるので、実質、物理的にやれるのかわからない。アルバム作る時間はもしかしたらもうないのかもしれないなって。そういう話をしてたから、もうやれること全部やろうっていうのがテーマではありました。

─このメンバーで、downyでやれることを全部。
ただ、これは結果的に、なんですけど、SUNNOVAくん(Synth/Sampler)が途中ドクターストップで離脱しちゃったんで、zezecoのメンバーのManukan(Manipulator)と、あと若命優仁(G)が入るんです。彼らとはDhalっていうユニットを昔やっていたことがあったし、もともと個人的に好きで。
─作業は楽しいものでしたか。それとも大変でした?
僕はレコーディングが好きで音楽をやってるようなところがあるから、苦しさも含めて作業はずっと楽しいんですよ。ただ、優仁さんとManukanさんは地獄だったと思います。慣れてないから。「こんなに大変なんだ」「ほんとにここまでやるんだ」って言ってましたね。
─メンバーの意見、たとえば秋山タカヒコさん(Dr)は?
秋山くんはもうずっと大変なことは理解してくれてはいますが、ドラムが録音の最初なので一番大変ですし、肝ですよね。よくトライしてくれてると思います。今日はリハで「日蝕」がハマったので最高でした。

伝わるかわかんないですけど、今回は僕、けっこうポップだなと思ってて
─「日蝕」のワケのわからなさは本作のキモでもあります。プレスリリースには「拍子、拍という概念すら壊していきたい」という発言もあって。
はい。この曲、全員、取ってる拍が違うんです。
─それって具体的にどう作っていくんだろうって......考えに考えたけどわからなかったです(笑)。
なんかね、打ち込みで全部作っちゃえばほんとに無限にやれますけど、やっぱり実際に叩けない、弾けない、僕も歌えないとか、辛いじゃないですか。それは避けたいから、downyはメンバーが演奏する――レコーディングして、その後ライブをする前提がもちろんあるんです。で、演奏ってどこかきっかけがないと始まらないですよね。拍子であれ何であれ。「日蝕」はそれを一回全部無視するところから始まってますね。
─複数のリズムを同時に作っていくんでしょうか。まさかメロディから作るとは想像しにくいですけど。
僕は基本ドラムから曲を作るパターンが多いですけど、ただ、この曲はドラムとギターと歌の組み合わせが最初からバーンとあって。3年くらい前からモチーフはできてたんです。で、当時デモを聴かせた時は、メンバーもみんな実際の作業の耳で聴いてないから「いいじゃん、カッコいい」って言ってたんですよ。ただ、いざレコーディングになると「こんなの合うわけない」「これは誰がアタマのきっかけになるんだ?」みたいになって。マジで取っ掛かりがなさすぎて意味わかんない曲でしたね。

─それって「できるかどうかわからない、でも全員が違う拍でやってみると面白いかも」みたいな実験精神がスタートなんですか?
いや? 曲として、僕の中では最初から成り立ってます。ここのスネアと僕のギターは絡まって、このベースと僕の歌は絡まっていて、その点と点が線になって、みたいな。よくAメロとかサビとか言いますけど、僕らは曲の構成を「ギア」で言うんですよ。「一回2ギアに戻ります、そこから5ギアに行きましょう」って感じ。で、「3ギアは実際にこうは出来ない」「じゃあこう変えましょう」みたいな、そういう打ち合わせをしていく作業ですね。
─......想像するだけで大変。
最初からずっとこの感じでやってます(笑)。ただ、言って伝わるかわかんないですけど、今回は僕、けっこうポップだなと思ってて。
─あはは!
前回、7枚目のアルバムはほんとプログレッシヴなものを作ろうと思ってましたけど。それが終わって、またそこから徐々に新曲を作っていくじゃないですか。最初の火種としては、ちょっとジャジーなアルバムになると思っていて。だから「断層ジャズ」とか「spectrum」もそういうニュアンスでしたね。ただ、SUNNOVAくんがいるからサンプラーが主役の曲も欲しくなって。サンブラーってどこからどこまでをやっているのか伝わりにくい楽器ですよね。だから彼があからさまにドラムとユニゾンしてる曲を作ろうと思って「枯渇」ができて。そのあたりからジャズの話は自分の中で一回流れていって、ポップなアルバムになったんじゃないかと思うんですけど......どうでしょう?
─ロビンさんが思うポップの定義を知りたくなります。
あぁ。僕はドラムのフレーズも歌えたりするのが好きなんですよ。ギターでもベースでもいいですけど。
─リフ自体を口ずさみたくなる曲。
そうです。もともとdownyは全員リフっていうテーマなので。それがわりと、今回はボップなのかな。とっつきやすいというか、歌える。

─あぁ。その解釈なら確かに「断層ジャズ」も「枯渇」もポップなリフ、鮮烈なリズムがあります。まどろっこしさとか、高尚なアートでござい、みたいな要素は全然なくて。
うん、そうならないように、意識的にも無意識的にもやってるんだと思う。昔みたいに尖ってる感じだけを出そうっていう年齢でもなくて。だから今まで以上にメンバーとよく喋りましたね。今まではDTMでバーッと作って「やっといて」みたいな......まぁその一言で終わらせるほど無責任じゃないけど、そのままレコーディングに突入することが多くて。でも今回はレコーディング前にしっかりコンセプトとか流れを確認したし、極端に言うと喧嘩もしたり。
─珍しいですね。
普段全然しないんですけど、今回はしっかり喧嘩しましたね。テーマ、進めていくスケジュールの話も含めて。それで一回真意を説明したら「わかった、理解できた」と。自分の頭の中にあるものって、メンバーに全部そのままは渡せないんですよ。今まで断片的に伝えていたものも、もうちょっとシナリオとして全員に伝えられるようになったのかな。
─説明が必要なことってストレスにもなりますよね。ひとりDTMで作る方って意思疎通とか意見の相違が面倒だって言うタイプが多くて。
あ、そうですよね。僕も本当なら出来上がるまでずーっと触ってたいタイプなんで。何ミリ単位のズレとか、ずっと寝ないで何日でもいじってられる。
─もしかすると、バンドじゃなくてもよかったと思いますか。
......もしかしたら。でもバンドを知ってしまったので。
今の形になる能力を自分ひとりでできてたなら、そうしてたかもしれない。ただ、今日のリハで特に思いましたね。個々が個人練習したうえで初めて「日蝕」を合わせたんですけど、僕はそれまでトラックに合わせて練習するじゃないですか。でもみんなでやると、最初のスネアの一発目の音から全然違う。やっぱり生だと「うおっ、早くライブでやりたいね!」って思うから。それはバンドのパワーですよ。この爆発力はバンドだから出せる。

─生身のメンバーが必要な理由。
うん。楽しいし、今のメンバー好きですし。もちろん面倒なところは多々ありますよ。演奏するとなると「このままやりたいけど、この運指じゃないと弾けない」「ライブを考えると半音下げのチューニングじゃないほうがいい」とか、話し合いがいっぱいありますし。ただ、突き詰めていった先にいいものができるんで。あとは、絶対作った通りに弾いてくれっていうより、自分が作ったものを超えてほしいんで。必ず超えるアイディアが出てくるっていう意味でも、ウチのメンバーのことは信頼してますね。
「Night Crawlin'」は初めて人に書いた。成人して家を出ていく息子に
─今さら聞きますけど、25年前、何をやろうとしてdownyを始めました?
人がやったことのない音楽を作りたいな、っていうだけでしたね。自分も聴いたことがないやつを作ってみたい。100%のオリジナルなんてもうない、みたいな見解もあるじゃないですか。もちろんギターとベースとドラムと歌で構成してる時点で誰かのパクリではあるし。でも、やっぱりまだあるんじゃないかなっていうのがずっとあります。今も。

─結成の2000年って、ポストロックが少しずつ増えてきた時期ですよね。
ポストロックって言葉はまだなかったかな? どっちかって言うと、テクノ、クラブ界隈と、ヒップホップと、バンドがわりと一緒くたな時代だったんですよ。僕らはTHA BLUE HARBとツアー回ったり。だから、ヒップホップの人にもカッコいいって言わせたい、クラブでDJやってる奴にもカッコいいって言わせたい、もちろんバンドマンにもカッコいいって言わせたい、みたいなことを考えてる人が多かった時代だった気がします。
─downyをバンド形態でやることは重要でしたか。
重要ですね。生で演奏して、体現できるもの。そこにはとてつもない努力も必要ですけど、その先には感動があって。僕らでさえ今日リハで感動してるわけですよ? もちろんやれる人たちだと思ってるから一緒にバンドやってますけど、一回目でツルッと行けたら、この人たちすげぇ、このバンドすげぇな!って自分でも思いますし。これは見る人も感動してくれるんじゃないかって、そこは今も信じてます。
─そうやって、わかちあえる仲間がいる嬉しさ、喜び、みたいなものを音にしようとは思わないですか。
......いやっ、そんなつもりもあるんですけど(笑)。
─あります? とにかく一貫して孤独な音を追求している印象があって。
個人として馴染めない息苦しさ、みたいなものはずっとありますけど。ただ、嬉しさ、楽しさも出てると思う。珍しい例で言うと「Night Crawlin'」って曲は初めて人に書いたもので。息子。成人して家を出ていく息子に対して、お父さんミュージシャンだから、音楽の一曲くらいプレゼントしてもいいんじゃないかなって。
─あぁ、このメランコリーは息子さんに対して、なんですね。
そうです。downyで息子への曲を演奏するなんて思ってなかったですけど。でも「珍しく叙情的ないい曲、メランコリックな曲ができた」ってメンバーに送ってみたら「めっちゃいい。やろうよ」ってことになったんですね。そう決まったはいいけど、僕としては小っ恥ずかしさもあるんで、じゃあここからどうやってひねくれさせていこうか、と。そういう感じでしたね。子どもたちを見てると、自分の、18歳から24歳ぐらいまでの時期を重ねてしまうことも最近は多いし。楽しそうだな、大変そうだな、そんないいことばっかりじゃないんだけどな、みたいなことも含めて考えるし。そういう曲を作れたらいいっていう話はずっとメンバーと共有してたから。そういう意味で今は、わかちあえる人たちと曲を書けるし、恥ずかしくない方向に持っていける。
─いい話です。ただ、そのメランコリーにしっぽり浸るわけじゃない。もっと苛烈な方向に振り切るのがdownyでもあって。
もともと僕はフガジがすごく好きで、フガジ自体ハードコアのラインからはみ出てるじゃないですか。びっくりさせる音、人が聴いてまずビクッとする音にしたいっていうのがまずあって。ロックって言葉で片付けていいのかわかんないですけど、それは強さですよね。最初に聴いた瞬間に打ちのめされる音。一音目からびっくりするというか。そういう曲が僕は好きだから、そこが今も顕著に出てるんだと思います。

─今「ロック」って言葉が出てきたの、ちょっと感動しました。昔のロビンさんだったら回避した言葉じゃないですか?
あぁ、そうですね。ロックとは違う、と思ってたと思いますね。今もロックンロールではないなと思ってますけど。
─でも、ロック魂はちゃんとある。
そう。ロックですよね。なんか落ち着いた曲を作ろうとは、今のところまだならないです。曲を最初に聴かせる時点で、まずメンバーにびっくりしてほしいって思いますし。テンポを落としたくなる年頃なんでしょうけど、落とさずに攻めていたい。さっきも言ったように、「枯渇」はSUNNOVAくんのサンプラーがガツガツに主役になる曲を作りたいってところから始まってますし。けっこうびっくりするんじゃないかな、こんな世界観があるのかって。
─びっくりしたし、正直「狂ってらぁ」と思いました(笑)。
そうですよね。ただ、なんていうか、イカれてるんだけどイカれてるだけじゃない。
─うん、美しさは一貫しているアルバムだと思います。
そうです、まさにそれ。綺麗というか。もともと僕はドローン系の音楽が得意というか、コード進行でも何でも暗く濁っていくようなところがあって。でも今回は、なんとかしてキラキラした部分を足したかった。制作で僕以外のギターを入れることも最初から決めてたし、ツインギターで、それこそコードの奥行きというか、周波数の一個、キラーンとした音ひとつでもいいんですけど、レイヤーの最後に足せたっていうのはありましたね。
今後、最後の電池みたいなものが僕らに残っているかは約束できない


─あとはジャケットにも驚きました。抽象じゃなくて人間がドンといる。
人間にしようっていうのは決まってました。1stアルバムが人だったんで。あれは僕が描いたんですけど、今回は『攻殻機動隊』のキャラクターデザインやってるイリヤ(・クブシノブ)さん、僕すっごい好きなんですけど、思い切ってオファーして。すっごい色彩でしたね。さっき話したキラキラしたレイヤーのところとかも、汲み取ってもらえたのかな。おそらくアナログにしたら相当いいだろうなと思います。
─音楽と、あとは1stからのストーリーにバチッとハマりますね。
活動再開する時に、漠然と4枚はアルバム作ろうと思ってたんです。休止する前に4枚作ったから、このあと4枚は作るイメージが自分の中にあって。その4枚目に、時間はかかったけど、ようやく到達したというか。別にゴールじゃないんですけどね。でも今までのアルバムって、完成した、という感覚はなくて。もちろん作り終えて完成してるんだけど、僕がdownyでやりたいことって意味ではずっと続いてて。ただ今回わりと、着地したな、っていう感覚はあります。そこも含めて、もっかいアルバム作れって言われたら「いやー、どうなんだろう? これよりできることあるのかな?」みたいになる(笑)。
─極端な言葉を使えば、これが最後になっても悔いがない。
うん。仮に僕が病気になって音楽ができなくなったとしても、もうやりきった、と思うでしょうね。「あー、もうちょっとアレとコレやっときゃよかったかなぁ」みたいなものはないと思ってます。......わかんない、半年くらいツアー回ったらまた作りたいと思い始めるかもしれないけど(笑)。ただ、ほんとにネガティヴじゃない意味で、今後、最後の電池みたいなものが僕らに残っているかは約束できない。そういう言い方ですね。

取材・文:石井恵梨子
撮影:朝岡英輔
RELEASE INFORMATION

downy「第八作品集『無題』」
2025年3月5日(水)
CD:¥3,300 (Tax in) / 品番: RHEN-0002
Track:
1. 日蝕
2. 剥離の窓
3. foundyou
4. 朔
5. Night Crawlin'
6. 断層ジャズ
7. 枯渇
8. spectrum
9. 錯覚。それは眩しい
10. Edge_Swing
11. 叢雨
12. 喘鳴 (フィジカルのみ収録)
13. 紙の朝 (フィジカルのみ収録)
試聴はこちら
downy × Teenage Brewing コラボビール

2025年2月16日(日)
・Nisshoku - DDH DIPA - ABV 7.5%
販売場所:Teenage BrewingのECサイト / 全国の酒販店 / ビアバー
2025年2月16日(日)
4種類ビールセット
・Nisshoku - DDH DIPA - ABV 7.5%
・foundyou - West Coast IPA W/ Jalapeno, Lime - ABV 7.0%
・Night Crawlin' - Sour IPA W/ Blackberry / Pomegranate / Oregano / Pink Pepper - ABV 6.5%
・Mudai 8 - DDH IPA - 6.5%
販売場所:Teenage BrewingのECサイト(20:00より予約受付開始)
LIVE INFORMATION
New Album Release Tour 2025『夜の背骨』

2025年5月30日(金)
名古屋 新栄シャングリラ
OPEN 19:00 START 19:30
2025年6月1日(日)
大阪 梅田シャングリラ
OPEN 18:00 START 18:30
2025年6月6日(金)
札幌 cube garden
OPEN 19:00 START 19:30
2025年6月15日(日)
広島 4.14
OPEN 18:00 START 18:30
2025年7月10日(木)
渋谷 CLUB QUATTRO
OPEN 18:30 START 19:30
チケット:前売 ¥5,500(Drink代別)
発売日: 2025年2月8日(土)10:00~
INFO:https://smash-jpn.com/live/?id=4372
LINK
オフィシャルサイト@downy_official
@downy_official_