SENSA

2025.01.10

平成J-POPを追求してきたNolzyが令和に見せる

平成J-POPを追求してきたNolzyが令和に見せる"再解釈"とは?影響を受けた音楽や自らの思想を細やかに語った『THE SUPREME REPLAY』インタビュー

アルバムを聴き終わって「面白い!」と唸った。同時に「この人、いくつなのだろう?」と、クエスチョンマークも浮かんだ。ソングライティングからは90年代のR&Bやヒップホップ、その影響を受けたウェルメイドなJ-POPからのリファレンスを強く感じさせつつ、それと同時に2020年代然としたポップミュージックとしてのアレンジの機微や音像を絶妙なバランスで同居させている。そして、最後は記号としての「邦ロック節」全開の楽曲で幕を閉じる。これが1stアルバムということにも、驚く。ぜひ、アルバムを通して聴いてほしい。そして、このインタビューがNolzyの『THE SUPREME REPLAY』のガイドとなれば幸いである。

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3歳くらいのときから、オリジナルのメロディを口ずさむような子どもだった

─アルバム、めちゃくちゃ興味深く聴かせてもらいました。ソングライティングとアレンジのリファレンスを鑑みて、この人、年齢いくつなんだろう?と思って(笑)。


そうですよね(笑)。1996年生まれの28歳です。

─じゃあ、生まれた瞬間に世の中に鳴っていた歌や音を現代的なサウンドプロダクションや音像でアウトプットしてるという感じだ。


そうですね。僕は物心ついたとき──3歳くらいのときから、両親も知らないオリジナルのメロディを口ずさむような子どもだったんですよ。それで親が「それ、なんの曲?」って訊いたら「今作った曲」みたいなことを言ってたらしいんですよ(笑)。

─ヤバい。天才じゃないですか(笑)。


もちろん、まだ楽器も弾けないし、本当にただのアカペラで。でも、看板とかに書いてある文字にメロディをつけて歌うことを遊び感覚でずっとやっていて。食事するとかトイレに行くとかお風呂に入ることと同じような感覚でメロディを作るみたいな時間があって。そのメロディを反復して忘れないようにするとか、テープレコーダーに吹き込むことが3歳くらいからずっと日常になっていたんです。

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─親御さんは音楽をやっていたんですか?


いえ、全然です。楽器もウチにはひとつもなかったし、本当にミスチルとかドリカムとか当時ヒットしていたJ-POPど真ん中のCDが家に置いてあるみたいな。

─なるほどね。それもまたこのアルバムの内容を鑑みると、めちゃくちゃ合点がいきますね。たとえばミスチルだったら『Atomic Heart』とか?


まさに!です。家にある『Atomic Heart』もめっちゃ聴いてましたね。普通はミュージシャンになりたいと思ってから作曲をはじめると思うんですけど、自分の場合は曲を作ることが先にあって、テレビで歌ってる人を見て漠然と「こういう人になりたい」と思う感じでした。みんな小さいころから自分が思いついた曲を歌ってるものだと思ってたから、あんまりミュージシャンになろうという意識もなくて。そもそもミュージシャンというものをあまり理解してなかった(笑)。でも、それこそ『Atomic Heart』の1曲目のインスト「Printing」のカメラシャッター音みたいなSEから2曲目の「Dance Dance Dance」のギターリフに入るところに衝撃を受けて。「アルバムのオープニングってこんなにカッコいいんだ!」と思ったんですよね。こういうふうに自分でちゃんと曲を作って歌いたいと明確に思ったきっかけが『Atomic Heart』でした。それが小3くらいのときですね。そこから誕生日やクリスマスプレゼントでミスチルの『深海』とか『DISCOVERY』とか『Q』とか『シフクノオト』とかを買ってもらって。ミスチルもオルタナティブな音楽に影響を受けた時期があったりするじゃないですか、RADIOHEADとか。

─『DISCOVERY』だったら『OKコンピューター』からの影響を昇華してる、みたいなね。


そうそう。

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─地元は海老名なんですよね。想像するに、親御さんがカーステで聴いてた音楽をナチュラルに吸収していたのかなと。


実際それはあると思います。特に母親が当時のJ-POPが好きで、チャゲアスとか槇原敬之さんのファンクラブに入ってたような感じで。あと、大江千里さんとか。

─最高のセンスですね。


そう、いいセンスしてるなと思います(笑)。

─みんなあきらかに天才だし、チャゲアスとかマッキーとか大江千里のすごさって音楽を知れば知るほどわかるじゃないですか。


そうなんですよ。あとKANさんや崎谷健次郎さんという素晴らしいシンガーソングライターも母は好きで。母は今もKing Gnuのファンクラブに入ってたり、BREIMENとかもめっちゃ好きで。時代が変わってもずっとメロディメイカーが大好きな人ですね。僕はダイレクトにその影響を受けてると思います。能動的にミュージシャンになりたいという意志を持ってからは、いろんな音楽を聴くようになりました。オルタナティブなものにも影響を受けたし、洋楽もどんどん好きになっていったんですけど。ディスクユニオンでアルバイトしていた時期があって。

─最高の環境じゃないですか。


ユニオンでバイトしながらいろんな音楽を聴くようになって、趣味が広がったんです。でも、メロディに対するこだわりはずっとあって。

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─ある種、先天的に、病的なまでにいいメロディを求めるという。


そうですね(笑)。

─治さないほうがいい病気ですね、完全に。


はい(笑)。あとは、小学生くらいのころは図書館で借りたCDの影響も大きくて。エレカシとか椎名林檎さんとかを借りていたんですけど、海老名はセンスが渋くて。エレカシだったら1枚は「今宵の月のように」が入ってる『明日に向かって走れ-月夜の歌-』なんだけど、もう1枚は『good morning』で。

─ああ、1曲目は「ガストロンジャー」だ!(笑)。


そう! それで僕が最初に聴いたエレカシのアルバムが『good morning』で、それも運命だったなと思っていて。宮本浩次さんが打ち込みでめちゃくちゃ攻めた曲作りをしているあのアルバムを小5くらいのときに聴いて。同時期にミスチルの『DISCOVERY』も聴いてたので、そのオルタナティブな感じも自分のルーツになったんです。で、さらに言えば、椎名林檎さんも図書館で借りようと思ったときに海老名の図書館にあったのが──。

─その流れだと『加爾基 精液 栗ノ花』ですか?(笑)。


そうなんですよ!(笑)。『無罪モラトリアム』でも『勝訴ストリップ』でもなく、『加爾基〜』だったところに海老名の英才教育を受けたなと思っていて(笑)。そこから小5、小6で洋楽を聴くようになり、中1になって自分でブックオフの中古コーナーでCDを買うようになって。これもけっこう運命だなと思うんですけど、そこで買ったのがOasisとかJamiroquaiのアルバムだったんですよ。エレカシの『good morning』や椎名林檎さんの『加爾基〜』を聴いてたからこそ、洋楽にもスッと入ることができたし、Oasisはロックだからカッコいいとか、Jamiroquaiはアシッドジャズだからカッコいいとか、そういう視点じゃなくて、邦楽も洋楽もいい音楽として通じ合ってるような感覚で聴けたのは大きいと思います。

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─レンタル文化の終焉とYouTubeやストリーミングの幕開けを同時に体験してる世代ですよね。それも大きいんだろうな。


大きいと思います。時代の過渡期に一番いろんな音楽と出合ったので。

─Nolzyくんの世代のアーティストに感じるのは、どの音楽も差別してないんですよね。それが素晴らしいと思っていて。


はい、どの音楽ジャンルも並列な熱量で好きなものは好きですね。

多くの人に聴かれるだけじゃなくて、人々の生活のすぐ近くにあることが重要

─そこからDAWで曲を作るようになり、高校、大学とプロ意識を持ってバンド活動をし、弱冠17歳で一度はメジャーデビューもしたんですよね。ちなみにバンドではどういう曲を作って歌っていたんですか?


いわゆる邦ロックみたいな感じですね。

─今回のアルバムで言ったら、ラストナンバーにして一番異色でもある「匿名奇謀」みたいな?


まさにそうで。「匿名奇謀」はそれこそバンド時代に培ったことが活きていて。当時は邦ロックをいろいろ研究してたので。それこそ今回レコーディングにも参加していただいたフレデリックとかTHE ORAL CIGARETTESとか、KEYTALKとか。なので、「匿名奇謀」のレコーディングにKEYTALKの小野武正さん、フレデリックの高橋武さん、オーラルのあきらかにあきらさんに参加していただいていたのは自分のストーリーとしてもすごく繋がっていて。

─「匿名奇謀」もこのアルバムの流れで聴くと、その異質さでリスナーを驚かせる曲になってますよね。


その立て付けを狙いました。この曲は映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』のタイアップで、映画に合わせて意識的に邦ロック的な曲を作って、単曲としてすごく意味のあるものになったし、思い入れもあるんです。ただ、なんせこのアルバムのトーンにどうしてもハマらないじゃないですか。1曲だけ突然、邦ロックが最後にくるから。

─劇薬みたいな存在感ですよね。槇原敬之のアルバムが急に邦ロックで終わるみたいなさ(笑)。


そうですね、劇薬ですね(笑)。今回、自分が槇原さんなテンションだったり、90年代とかR&Bというテーマでアルバムを作ってたから、この曲をどう組み込むかってなったら、どんどん音楽的にもぶっ壊れていって、最後にバーン!と「匿名奇謀」を入れるしかないと思って。だから、普段ラップとかも全然やったことなかったけど、ラップミュージックっぽい「Virtual Drugs(fxxkin' search)」をその前に入れたり、どんどんボルテージを上げてバカになって最後に爆発しようと思って。

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─たとえば「匿名奇謀」をストリーミングやラジオで聴いた人が、このアルバムを聴いたらまた逆の意味で衝撃を受けるじゃないですか。「あれ? アーティスト名、間違ったかな?」っていう。でも、それを楽しんでほしいよね。


そうですね。アルバムを通して聴いたら「匿名奇謀」も「なるほどね!」ってなると思うので。それは今回、アルバムを作るときに意識しました。

─それは自分が歩んできた音楽人生を全部肯定することにもなるわけだし。


はい、肯定したいですね。この感じのバランスは他にないと思うし。

─1曲目の「Bittersweet」も90年代感もありつつ、今、King Gnuなどが好きなリスナーも刺そうとする角度を持ってますよね。


それもすごく意識しました。2コーラス目で普通にAメロにいかないというメロディの構成とか、シンベのバランスとか、そういう部分でモダナイズしていくというか。そうすることで90年代の音楽に慣れ親しんだ人からしたら懐かしいなって笑えるものになるし、King Gnuとか米津玄師さんを聴いてる人にとっても文脈としてしっくりくるみたいな。

─3曲目「#それな」はプリンスを通過した岡村靖幸オマージュ的な匂いも感じました。


そうですね。この曲はミネアポリスファンクを意識して。岡村ちゃんも大好きです。岡村ちゃんのいいところって、めっちゃプリンスを意識してるのも伝わってくるんだけど、結果的に全然プリンスじゃないところで。プリンスになりたいけどなれない、ならない感じが岡村ちゃんの良さだと思うんです。そういう部分も通過した今のデジタルファンクという感じですね。

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─9曲目「Closet Lovers」は初期の宇多田ヒカル感もありますよね。


それこそ物心ついてから育っていくうえで宇多田ヒカルさんの「Automatic」とかMISIAさんの「つつみ込むように...」とか平井堅さんの「楽園」とかがヒット曲として世の中にバンバン流れていたので。J-POPのひとつのピークだった90年代後半から00年代前半のJ-POPが、結果的に僕のR&Bやヒップホップの原体験になっていると思います。

─「Closet Lovers」の"closet"にはふたつの意味があると資料の楽曲解説に書いてますけど、それはセクシャルマイノリティを自認するという意味での"closet"を含んでるということですよね?


そうですね。日本のブラックミュージックを表現しているアーティストって、岡村靖幸さんもそうだし、スガシカオさんもそうだし、ある種、性的なだらしなさや隠したい部分を表現するのが上手いじゃないですか。そこにめっちゃ普遍性もあるし、ジャンルとの親和性もある。僕はそういう部分に影響を受けてるし、リスペクトもしてるし、その時代にリリースされたポップとしての必然性があるから、全面支持もしてるんですけど。でも、僕がそこに影響を受けて今の時代にそのままやっちゃうと男女性が強く出てしまうんですよね。令和のポップとしては違うと思う。令和になる前はセクシャルマイノリティってポップのなかに存在していなかったと思うんですね。

─"男女の物語"しかなかった。


はい。それを時代観としても、音楽的にもアップデートしたかったんです。だから、僕がこの曲の歌詞で一番こだわったのは〈僕を抱いて〉というフレーズで。〈君を抱いて〉は昔からずっとある表現だと思うんですよ。でも、〈僕を抱いて〉という表現はひと昔前のJ-POPになかった表現だと思うので。ただ、そもそもセクシャルマイノリティに限らず、男性が女性に抱かれるということだって全然あると思うし、それをポップにしてもいい時代だと思うので。そういう視点はすごく意識しました。

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─様々な側面において、1stアルバムとして最初のミッションをかなりクリアできた充足感もあると思います。


ありますね。

─最後に、ここからどういう景色を見たいと思ってますか?


最初に観たライブがミスチルの日産スタジアム公演だったことも含めて、やっぱりあの規模感になること、ヒット曲を作りたいという気持ちはずっとあって。僕がメジャーデビューした17歳のときに受けたインタビューで言ってたのは、「教科書に載る曲を作りたい」だったんですよね。でも、この10年間で音楽の聴かれ方もすごく変わって、レコードからCDに移行したときよりも、CDからサブスクに移行した今のほうが変化はデカいと思うんですよ。そういうなかで僕も忘れちゃってたことがあるなって。年齢を重ねると結果が出ない焦りも強くなるし、TikTokで聴かれる曲を研究したりもしたけど、そういう時間を過ごしてムダじゃなかったと思うし、今後もそういう視野がゼロになるわけではない。でも、最初に思った教科書に載る曲を作りたいという夢を、もっと大事にしたいなと思って。消費されずにずっと残っていくヒット曲を作りたい。そのヒット曲というのも、ただ多くの人に聴かれるだけじゃなくて、人々の生活のすぐ近くにあることが重要だと思っていて。たとえばバイトの同僚のクルマに乗ったときに流れてる曲に感動するとか。そうやって生活に入り込んで、誰かに影響を与えることにすごくロマンを感じるし、僕が目指したいと思ってることです。

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取材・文:三宅正一
撮影:林直幸

RELEASE INFORMATION

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Nolzy「THE SUPREME REPLAY」
2024年11月27日(水)
Format:Digital

Track:
1.Bittersweet
2.Throwback (slowjam)
3.#それな(MBSドラマイズム「佐原先生と土岐くん」エンディング主題歌)
4.キスミー(テレビ大阪系ドラマ「買われた男」エンディング主題歌)
5.Outsider
6.<広告> ※5秒後に報酬を獲得
7.luv U
8.Scar
9.Closet Lovers
10.自演奴
11.Virtual Drugs (fxxkin' search)
12.匿名奇謀(映画「BLOODY ESCAPE -地獄の迷走劇-」主題歌)

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LIVE INFORMATION

Nolzy pre. FAV SPACE_
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2025年2月2日(日)
東京・渋谷WWW 
OPEN:16:30 / START:17:00
出演:Nolzy / ODD Foot Works / 紫 今

チケットはこちら

料金 :早割 ¥3,800(税込/ドリンク代別) / U-22¥3,300(税込/ドリンク代別)
※小学生以上チケット必要 
※U-22割は、2002年4月2日以後に生まれた方対象
※U-22割の方は年齢確認のできる写真付き身分証明書1点、
写真がない場合は2点(学生証・健康保険証など)を入場時にご提示ください。

LINK
オフィシャルサイト
@nolzy_tweet
@nolzy_nostalgram

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