SENSA

2024.10.04

この国で歌謡曲からJ-POPまで受け継がれる

この国で歌謡曲からJ-POPまで受け継がれる"感傷的な歌心"を昇華するGuibaのルーツとは?2ndアルバム『こわれもの』インタビュー

なんて繊細で、なんて感傷的な歌なんだろう。心に染み入るこのメロウネス! 人を思う心と、その向こうにある悲しみ、せつなさ、儚さ。Guiba(ギバ)の2作目のアルバム『こわれもの』では、このバンドの魅力がいっそうセンシティヴに、そしてポップに表現されている。
South Penguinのアカツカ(Vo/G)を中心に、Helsinki Lambda Club、Group2の熊谷太起(G)、odolのシェイク ソフィアン(B)、やはりSouth Penguin のサポートなどの活動で知られる礒部拓見(Dr) の4人から成るGuiba。歌もののポップスを演奏することを主軸に始まったこのバンドは、一昨年の結成から初めてのアルバムを出した昨年、そして今年はこの2ndアルバムと、急激に前へ突き進んでいる。
このGuibaの世界では、South Penguinを語る際に引き合いに出されてきたインディーロック云々という枕詞は、ほぼ必要がない。それもあって今回のインタビューでは、主に日本のポップ・アーティストやその名曲たちと、いくらかの洋楽ロックの話が混じるような流れになった。ぜひ多くの音楽ファンに楽しんでほしいテキストだ。
そして取材の席で何度か「恥ずかしい」「照れ」という言い方をしたアカツカには今後、うんと振り切ったポップセンスを発揮していってほしいと思う。


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それぞれの楽曲で主人公がひとりいるようなストーリー集みたいになった

─この2作目、とても好きで、めちゃめちゃハマってるんですよ。


アカツカ:ほんとですか? ありがとうございます。恐縮でございます。

─ご自身は、今作の手応えはいかがですか?


アカツカ:歌ものはバンドのコンセプトとしてずっとありまして、今回も「全曲キャッチーで」という気持ちで作ったので、そこは崩さずにできたかなと。それからバンドとして月日を多少は重ねたことで、今回はホーン隊が加わったりと、進化はできたかなとも思ってます。で、これは『こわれもの』というタイトルにもあるように、歌詞に関しては繊細な、ちょっともろい......センチメンタルだったりセンシティヴだったりする感情を歌いたいというのはあったんですね。より物語チックに、それぞれの楽曲で主人公がひとりいるようなストーリー集みたいになったかもしれないです。

─そうですね。あなたはこのアルバムについてコメントを出されていますね。


アカツカ:ああ、そのコメントは読み飛ばしていただいていいんですけど(笑)。

─(笑)そんなことないですよ。


2nd Album『こわれもの』について

先日、ユーモア教室の同期の家にスパイダーソリティアをしに行った時の話です。
玄関先に「こわれもの」と書いてある箱が置いてあったので、中身は何か尋ねると「お前には教えない」とのことでした。
殴ろうと思ったのですが、ふと「こわれものじゃないものなんて無いのかもな...」と思い、私は振り上げた拳を下ろしたのです。

─このコメントの最後のほうの"「こわれものじゃないものなんて無いのかもな...」と思い"というところは、とても大事だと思います。


アカツカ:ああ、そこだけですね。そこは本当に思ってるところかもしれないです。

─で、僕は『こわれもの』と聞いて、イエスのアルバムを思い出したんですよ。ん、プログレなのか?と。


アカツカ:それは完全に元ネタというか、イエスの『こわれもの』が大好きで、そこから取っています。



アカツカ:もともとSouth Penguinのほうはプログレだったりニューウェイヴだったり、難解な音楽が好きなことから始めたバンドで、そこからの反動がこのGuibaなんです。そのエッセンスが出てきちゃいましたね。

─今回はそのSouth Penguinとの違いが、いっそうはっきりした作品にもなっていますね。


アカツカ:最近のSouth PenguinとGuibaはけっこう遠いところにまで来れたかなと思っています。


アカツカ:もちろん同じ声で歌ってるので、同じバンドに聴こえちゃうって人もいるんですけどね。Guibaはもっとキャッチーになっていきたいし、South Penguinは今やっている音楽を突き詰めたいなと思っています。

─その声ですけど、アカツカさんって声の響きがめちゃめちゃいいですよね。


アカツカ:そうですか? うれしいです(笑)。

─ええ。Guibaでのメロディアスだったりリリカルな感覚は、あなたの声質が活かされて生まれていると思います。


アカツカ:ありがとうございます。でも僕、自分の声はコンプレックスというか......まあ良くも悪くもなんですけど、僕の歌にはあまり力みがなくて。圧倒的な個性がなくて、吹けば飛んでいってしまいそうみたいな、か細さがあるなぁとは思ってて(笑)。僕自身はエレカシのミヤジさん(宮本浩次)みたいな男らしい歌声がすごく好きなので。ただ、ちょっと中性的に、わりとハイトーンで歌うことが多いんで、そこで自分のコアなところをもっと出していけたらなというのはあります。今回「蛙」という曲だけシングル(トーン)で通して歌ってるんですけど、それはエンジニアの方から「もうちょっと気持ちを入れたほうが曲に合うかもね」みたいなアイディアが出たからで、僕の中では今まででいちばんエモーショナルに歌った感じではあるんです。自分の声のうまい使い方はもっと考えていけたらと思ってますね。

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─それとこのアルバムはシティポップの香りがやや強めになった印象があって、それがあなたの声の良さとさらにマッチしていると思うんです。


アカツカ:ありがとうございます。今回のアルバムは楽曲のアレンジをリファレンスとして、日本の良き歌謡曲みたいなところをより強めに持ってきたり、今までやってなかった転調をしてみたり、キメをガチガチに入れてみたり、ホーンを入れてみたり、というところがあると思いますね。

─はい。ただ、シティポップとひと口で言うのは違っていて、グッとパーソナルな歌もあるし、内輪ウケのような曲もあるし......(笑)。


アカツカ:あはははは。僕は基本的に内輪で作ってるので。外に伝わりづらい歌詞だったりもけっこう多いと思います。

─その気取らない感じ、音楽にナチュラルに向かってるところも、このバンドの面白いところだと思います。で、アルバムに先駆けて曲がたくさん出ていて、MVも発表されてるんですが、あなたはそのたびに几帳面にコメントをされていて。ここからはそのコメントも入れつつ、各曲に触れていこうと思います。


アカツカ:はい。わかりました。

僕の本当の礎はユーミンですし、あとサザン(オールスターズ)もこのバンドをやるにあたって参考にしました

─まず1曲目は「栃木」。この曲へのコメントが"僕の座右の銘は栃木です"......座右の銘ですか(笑)。


アカツカ:はい、僕には座右の銘がたくさんありまして(笑)、栃木もそのひとつです。個人的に栃木という場所がすごく好きで、その栃木を題材に曲を作りたいなっていうのがポッと思い浮かんで。そこで僕のパーソナルな思い出だけ歌ってもしょうがないので、ストーリー仕立てにしたいなと思って書きました。思いを寄せる人に、自分の大好きな栃木に一緒についてきてほしいけど......みたいな。ちょっと甘酸っぱい心情を歌った歌に仕立て上げた感じです。


─この歌こそメロディアスで、またセンチメンタルな歌の傾向がよく出ていますね。しかしタイトル、もっとロマンチックなものにしても良かったのではと思いますけど。


アカツカ:そこはちょっと恥ずかしさみたいなものがあったし、トチギっていう語感が好きだから「栃木」っていうタイトルをつけたかったんですね。「東京」という曲はよくあるじゃないですか? でも「栃木」って曲は、Spotifyで検索したら出てこなかったんですよ。だから初めて「栃木」というタイトルの曲になった可能性もあります(笑)。

─わかりました。2曲目は「スキマ」。これもすごくいい曲で、ご自身では"去年リリースした「涙」という曲の続編です"とコメントされています。僕ね、この曲のトロピカルな、ちょっと浮遊する感じに、カルチャー・クラブの曲を思い出したんですよ。


アカツカ:それは僕は全然、思ってもみなかったですね。


─そうですか。まあ、そこまで意識してるかはわからないなと思ってはいたんですが。


アカツカ:まったく。でもそういういろんなほかのエッセンスを感じ取ってもらえるのはすごくうれしいですね。にじみ出てきたものがあるということですから。これはトロピカルな曲を作りたいってのがまずあって。さっきの「涙」という曲はこのGuibaでいちばん最初に書いた曲なんですけど、ストーリー仕立ての曲をたくさん作るようになったのも、その「涙」がきっかけだったんです。



アカツカ:「涙」のストーリー性は僕にとって思い入れがあるので、それをより拡張したいなって気持ちがあって。それでこの「スキマ」っていう曲に取り掛かりました。井上陽水さんにはこういうトロピカルなアレンジの曲がいくつかあって。それにインスピレーションを受けて作りました。僕、井上陽水さんが好きで、アレンジとかにはすごく影響受けていますね。

─そうなんですね。アカツカさん的に井上陽水のアルバムでは、どのくらいの時期の作品が好きですか?


アカツカ:僕は『ハンサムボーイ』(1990年)ぐらいの時期ですね。細野(晴臣)さんがアレンジに関わってる「Pi Po Pa」という曲が入ってて、それがアフロというか、トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』のような複雑なアレンジなんですよ。かと思えば「少年時代」も入ってたりして、すごくハイブリッドな、面白いアルバムなんです。あのぐらいの時期の陽水さんは好きですね。





─たしかに井上陽水は歌もので、ポップな側面がありながら、音楽的に鋭い部分もかなりありますからね。


アカツカ:そうなんですよね。それに存在としても影響を受けてるというか......僕もサングラスかけてますし。僕は鈴木雅之さん、井上陽水さん、タモリさんの影響でサングラスをかけてます(笑)。

─(笑)次の曲は「写真集」です。この曲は歌始まりですね。



アカツカ:歌始まりには、王道のポップス感があるなと思っていて。この曲は自分がすごく好きなネオJ-POPの時代......古き良き歌謡曲というより、80年代から2000年代にかけてぐらいの感じを出したかったですね。今井美樹さんだったり、EPOさんとかもそうかな。荒井由実までさかのぼらない時代のJ-POP感です。だからシンセは入ってるけど、プリセットっぽい音というか、シンセがまだ楽曲に多用されるようになった黎明期の匂いを出したかった。





アカツカ:だからJ-POPの中での懐かしさを感じる音を意識して作りました。ホーン隊もそうだし、あと展開ですね。Aメロ、Bメロ、サビ、ちょっと落ちサビもあって、最後に転調して、とか。フォーマットに乗っ取ろうという気持ちがありました。

─さっきの陽水さんもですけど、この時代の日本のポップスはあなたの中にかなり大きいものとしてあるわけですか?


アカツカ:そうですね。僕の本当の礎はユーミンですし、あとサザン(オールスターズ)もこのバンドをやるにあたって参考にしましたし。ただ、こういう曲はマッキー(槇原敬之)とか、さっき言ったEPOとかを参考にしている感じですね。よりJ-POPぽいというか。だからこういう曲では、ギターをかき鳴らすようなバンドでやってる意識は少ないですね。


─ポップス然としたものということですね。そのへんの音楽がアカツカさんの原風景としてあると。


アカツカ:ありますね。90年代はまだ小さかったので、その時代の音楽をリアルに聴けたわけじゃないんですけど、僕が初めて買ったCDがポルノグラフィティの「愛が呼ぶほうへ」という曲なんです。そのぐらいから音楽に興味を持ち始めて、親がカーステで流してる曲とかに耳を傾けるようになりましたね。


アカツカ:親の車で流れてたのが、懐メロのオムニバスの5枚組ぐらいのCDなんですよ。通販番組でCMしてる、名曲がたくさん入ってるようなね。それにWANDSとかFIELD OF VIEW、ZARDみたいなビーイング系も入ってましたね。思い出の中に、「あ、これ、お母さん流してたな」みたいな(笑)。

─そうして子どもの頃に聴いた曲が、心の中にずっと残っていて。


アカツカ:そうですね、その歌心みたいのが自分の中にずっとあったんです。その後、難しい音楽とかも聴くようになったんですけど、そのポップスへの思いは全然捨てきれないまま残っていて。それでバンドをもうひとつ発足させた、みたいなとこはありました。

─しかし「写真集」ですけど、この歌詞もまた情緒的というか......何というか(笑)。


アカツカ:ああ(笑)。やっぱり歌詞はJ-POPに寄せきれないというか。ほんとは開けっ広げなラブソングを歌うのがいいと思うんですけど、この曲はひとりの男性が写真集にすがり続けるという、ガチ恋おじさん的な(笑)......その悲哀も含めた感じなので。ここでは、はっちゃけきれなかったですね。

─はっちゃけないほうがいい曲だという気はします。


アカツカ:(笑)そうですね。どうしてもこういう自分のアクみたいなところが出ちゃうんですよ。行ききれない......愛だ恋だみたいな曲も歌うことは歌うんですけど、キスをしようよ、みたいなことは歌えないというか。恥ずかしくなっちゃうんですよね、どうしても。

─さっき話に出たWANDSには「愛を語るより口づけをかわそう」という曲がありましたね。


アカツカ:あ、そういうのはできないですね(笑)。そういうのができるのが本当のポップマエストロたちなんだなと思います。やっぱりマッキーとかすごいですもんね。

壊れないものってロマンがないというか、ずっと続く永遠って、つまんない気はする

─4曲目の「ナイスガイ」はすごく好きなんですよ。メロウで、サックスもいい感じで。


アカツカ:ありがとうございます。演歌みたいな曲ですよね(笑)。ギターソロは長いし。これは、とにかくメロウな曲を作りたいなと思って、家でギターをポロポロ、手癖で弾いてて、なんとなく雰囲気いい感じでできたかなと。で、すごい暗い歌詞にしたいなと思って、ちょっと自殺をテーマにした曲にしようと思いまして......ここでナイスガイとしてるのが長年連れ添った夫で、後追い自殺をする歌なんです。だけどそれをあまりにも直に出してしまうとかなりドロドロしたものになってしまうので、その影は潜めつつも、ストーリーを聞いたら合点が行く、みたいな感じにしようと思って。

─聴き応えがずっしりと残ります。この歌詞もですけど、1stの頃から女性目線の歌が多いですよね。


アカツカ:うん。基本、女性目線のストーリーですね。それもやっぱり照れ隠しかもしれないです。さっきの「写真集」は唯一男性目線なんですけど、そういう歌詞だと聴いてる側が「歌ってるお前のこと?」みたいになって、途端にキモくなりすぎるところもあるので(笑)。そのキモみを少しでも軽減させるために女性の姿を借りています。

─自分のリアリティからちょっと離すと、書きやすいところがあるわけですか。


アカツカ:それはめちゃくちゃありますね。自分のことだという前提で書くと気負っちゃって、「ほんとはこんなこと思ってないよな」とか、いろいろ書き直ししちゃうんです。だから完全に架空のものとして書いたほうが気が楽だというのはありますね。

─わかりました。5曲目は「童心」。これは"サポートパーカッション、石崎くんのことを歌ってます"とコメントされてましてですね。ほんとに内輪ウケのような歌で。


アカツカ:もう内輪も内輪で、ひどいですね(笑)。これはSouth Penguinでパーカッションもやってくれてる石崎(元弥)くんのことです。彼は一緒に台湾ツアーに向かってた時に、機内食で出たパンナコッタを持って、プルプル揺らし出したそうなんです。で、隣に座ってたのがGuibaのドラムの礒部で、石崎くんはそのプルプルを見せながら「童心に返らない?」って言ってきたそうで。礒部くんはそれで戦慄して、「大丈夫か? これはこの旅、長くなるぞ」みたいに思ったらしくて。で、その礒部くんが税関を通すためのカードの書き方を教えてもらおうと思って石崎くんを見たら、その字がめちゃくちゃ汚くて......(以下、石崎くんに関する内輪話が延々と続くので、省略)。とにかく、その時に聞いたエピソードをそのまま曲にしました。だから「童心」と言っても、小さい頃の風景を思い浮かべてるような曲では、まったくないです(笑)。

─曲自体はとてもメロウで、スローな感じもいいんですけど。


アカツカ:ありがとうございます。これはオフコースとかチューリップみたいなフォークを落とし込みたいなと思いました。やっぱり歌謡曲やるんだったらフォークが1曲ないとダメだろ、と。

─素晴らしいです。6曲目は「待っていて」。


アカツカ:これは次の「待たせすぎ!」とつながってる曲なんです。ただ、「待たせすぎ!」は告白された側の曲で、この「待っていて」は告白の返事を待たせてる側の曲なんですけど、ミスってどっちも女子目線で書いちゃって、あっ!と。まあ最近、多様化も進んでるからいいか、ということにしたんですけど(笑)。

─「待たせすぎ!」のほうのコメントには"タイトルは「待たせすぎ!」と「即レスキボンヌ」でギリギリまで悩みました"とありました。


アカツカ:ああ、そのコメントはもう無視していただいて全然構わないです(笑)。


アカツカ:普通に「返事早くよこしなさいよ」っていう、ちょっと強気な女の子の心情を歌ってるので。あみんの「待つわ」の令和版というか。ただ、令和の女の子はもっとせっかちだろうと。そんなけなげに《いつまでも待つわ》なんて言ってらんない!みたいな。



─そうしてみるとタイトルのビックリマーク(!)がちょっと怖いですね。


アカツカ:(笑)そうですね。これはお茶目な感じも出したいなと思ったので、「待たせすぎ!」にすれば圧があるかなと思って。いつまで待たせんだ!っていう、借金取りの気持ちで歌わせていただきました。

─そして8曲目は「恋の二段階挫折」。以前に「愛の二段階右折」という曲がありましたよね。



アカツカ:この2曲は、歌詞のほうではとくにリンクはしてないんですけど、タイトルを......セルフオマージュ?というんですかね。ギターの熊谷さんに「"二段階何とか"っていうのをもう1曲作ってみてもいいんじゃない?」と指示されて。それで、わかったよ!って作ったのがこの「恋の二段階挫折」です。愛と恋、右折と挫折も似てますし、完全にタイトル先行で書きました。

─あ、これもタイトルが先なんですね。


アカツカ:全部、タイトル先ですね。「こういうことを歌いたいな」ということがほぼなくて、日常で思いついたタイトルになりそうな言葉を書き留めていて。そこから歌詞を書いています。

─たまたまかもしれないけど、陽水さんもタイトルから作ることがあるみたいなんですよ。


アカツカ:そうなんですか? それは全然意識してなかったです。

─陽水さんがジュリー(沢田研二)に全曲を書き下ろした『MIS CAST』というアルバムがあるんですね。その10曲は全部タイトルを先に決めて、それから1曲ずつの物語を考えながら作っていったそうなんです。


アカツカ:へえー! じゃあ近い形の作り方かもしれないですね。



─そういう曲はほかにもあったんじゃないかと思います。陽水さんって、歌詞でもかなり言葉遊びをするじゃないですか。


アカツカ:そうですね、造語とかも多いですしね。「少年時代」の歌詞の《風あざみ》も造語ですもんね。あとは《金属のメタル》とか(注/井上陽水「リバーサイドホテル」の一節)。



─そして9曲目はアルバムタイトル曲の「こわれもの」。これはアカツカさんの弾き語りですね。


アカツカ:はい。バンドアレンジが難しそうだなと思ったのと、弾き語りが1曲あってもヘンじゃないなと思ったんですね。これはストーリーというよりは、いちばん僕に近い歌だとは思います。アルバムの総括にしたいなと思って......全編通してナイーヴな物語ではあるので、そのナイーヴさを表せる曲にしたいなと。

─最初のアルバムについてのコメントの話で出ましたけど、"こわれものじゃないものなんて無いのかもな..."と、つまりすべてのものは壊れてしまう、なくなってしまう悲しみが、あらかじめあるということですよね。


アカツカ:そのせつなさ、儚さみたいのは......このアルバムに限ったことじゃないんですけど、僕はずーっと思っていて。大切な人が、たとえば家族が死んだりして、みんながどんなにその人のことが好きでも、いつかその時の悲しみは忘れちゃうわけじゃないですか。まあ「ナイスガイ」は忘れられなかったから後追い自殺をする、そこまで行っちゃうこともあるよな、と思って書いたんですけど。ただ僕は、忘れることは人間に備わったひとつの素晴らしい機能だと思ってて。

─なるほど。そういう背景から書いたんですね。


アカツカ:だから「こわれもの」の歌詞も、ひとりの人と......その恋人と別れて次の恋に踏み出すみたいな感じにはしてるんですけど、どんなに悲しくても忘れちゃうんだよな、っていうのはあって。だけどそこにポジティヴな部分もあるし、決して悪いことじゃないというか。それに壊れないものってロマンがないというか、ずっと続く永遠って、つまんない気はするんです。人は老いていくし、朽ちていくし、その儚さの美しさみたいなところもずっと思ってることなので。それをよりプリミティヴなアレンジである弾き語りでやるのもいいのかもな、と。後付けだけど、そう思いました。

─その意味では、アカツカさんの人生観や人間観が出てる歌ですね。


アカツカ:そうですね。いちばん出てるのはこれかもしれないですね。今言ってて思いました。うん。

Guibaを作ったのは、自分が元々持ってたものを出す場所が欲しかったから

─そして最後が「蛙」。これは鍵盤やホーンの音色もいいですね。


アカツカ:ありがとうございます。これは1回ボツになってた曲なんですけど、熊谷さんに再アレンジしろと言われて。元々は「蛙」という名前じゃなくて「蛙化」だったんですよ。蛙化現象ってあるじゃないですか? すごく好きだった人が振り向いてくれたのに、その時には気持ちが終わってる、逆に気持ち悪くなっちゃう、みたいなのは面白い現象だなと思って。それはたしかに僕も経験があるし。

─おっ、ありますか。


アカツカ:友達関係とかで普通にありますね。一気に仲良くなった人ほど、急に引いたりしてね。「あの時期めっちゃ一緒に遊んでたけど最近はもう遊んでないな」みたいなことがけっこうあったりして。で、それを指す蛙化現象って難しい言葉だな、タイトルにしたらかっこいいなと思って、「蛙化」って曲にしたんですけど。そしたら蛙化現象は2年前ぐらいに女子高生とかがよく言ってた言葉で、それが流行ってることを知らなくて(笑)。それで恥ずかしくなってカモフラージュしたっていう。

─そうして「蛙」になったと。そうやって気持ちが変わっていくのも、壊れていくということのひとつでしょうからね。


アカツカ:ああ、それもたしかに......そう考えると『こわれもの』という言葉で全部つながってる感じがありますね。

─お話を聞いてると、このアルバムのセンチメンタリズムやメロウネスは、元よりあなたの心の中にずっとあるものだということですよね。


アカツカ:そうですね。このGuibaを作ったのは、自分が元々持ってたものを出す場所が欲しかったからなので、その音楽は自分の根幹にあるものなんですよ。だから歌詞のセンチメンタルな部分やナイーヴさは、まさに僕がそういう人間だからなんです。

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─僕はこうしてアカツカさんとお話するのは初めてですけど、インディーロックを鳴らしてきたSouth Penguinの方がこんなにコテコテなことが好きなんだ?と思ったんです。Guibaのバンド名の由来である柳葉敏郎という存在もそうだし、J-POPとかニューミュージック、フォークのベタなところが反映されている音楽になっているし。


アカツカ:うん、めちゃくちゃそうです。ベタ中のベタだと思いますね。

─そのベタでコテコテなものを、このバンドでは表現してるんだなと思いました。


アカツカ:はい。今はまだ100パーではないですけど、このバンドでどんどんやりやすくなってはきていますね。僕が昔聴いてた歌謡曲なんてほんとにプロフェッショナルな方たちが演奏から何から豪華に固めて作ってたわけで、そういうところに並べるようなアレンジも演奏もまだできてないと思います。でもそこをカバーできるのはオリジナリティとか自分たちの色だと思うんで、そうした音楽といろんなバンド経験を経た自分たちが鳴らすものとをうまくハイブリッドしてやっていけたらなとは思っています。

─着実に進化しているし、洗練に向かっていると思います。で、今日はあなたに対して、僕から要望を伝えたいんですよ。


アカツカ:えっ? な、何ですか?

─次からは曲ごとにテーマ性を絞り込んで、もっともっとコンセプト的に作ってみるのはどうだろう?と思うんです。それも、たとえば化粧品のタイアップに向きそうな曲とか、トレンディドラマのテーマソングを想定した歌とか。そういうものに当てて曲作りをしてみたら面白いんじゃないかな、と。仮想タイアップソング的なものをね。


アカツカ:はいはい......いや、僕はそっちのほうが作りやすいですね。テーマがないと曲が作れないほうですから。前に熊谷さんに「人の名前で曲を作れば?」って言われたんですよ。「『加藤』って曲があったら加藤さんは聴くかもしれないよ」と言うんですけど、そこで「お前はそんなくだらないことで音楽やってんのか?」と叱ってやったんです(笑)。

─あ、でもユニコーンには『服部』というアルバムがありましたね。


アカツカ:ああ、たしかに! 『服部』、あれは名盤だなぁ......(笑)。



アカツカ:それとか、歌詞に固有名詞を入れるのは、ユーミンが得意ですよね。

─そうですね。「中央フリーウェイ」とか。




アカツカ:そう、まさに「中央フリーウェイ」の歌詞の《ビール工場》なんてそうですし。《山手のドルフィン》(「海を見ていた午後」)とか、ユーミンは実在するものを出すことをすごく上手にやられていますよね。それで情緒ある景色がよりはっきり浮かぶという。



アカツカ:だから、たとえばさっきの化粧品の歌を作ってみるとか、女性目線で歌詞を作るのは、ピンポイントでそこに向ければいいので、書きやすくなると思うんですよね。だからそれはいいかもしれないです。となると、次は......でも3rdアルバムの曲がもう全部できちゃってるんですよね。

─えっ、そうなんですか? それは早いですね。


アカツカ:そういうものを作るとしたら、4枚目のアルバムからですね。だから4枚目はすごくコンセプチャルなものになるかもしれないです(笑)。

─わかりました。では、まだ2枚目のアルバムが出たばかりですが......。


アカツカ:はい。4枚目を出す時に、ちょっと答え合わせをしましょう(笑)。

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取材・文:青木優
撮影:シェイク ソフィアン

RELEASE INFORMATION

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Guiba「こわれもの」
2024年9月18日(金)
Format:Digital
Label:Guiba

Track:
1.栃木
2.スキマ
3.写真集
4.ナイスガイ
5.童心
6.待っていて
7.待たせすぎ!
8.恋の二段階挫折
9.こわれもの
10.蛙

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LIVE INFORMATION

イベントフライヤー_guiba_1500_20240918.jpg
Guiba 2nd full album『こわれもの』Release Party 東京編
2024年11月18日(月)
場所:渋谷WWW X
開場開演:18:30/19:30
ゲスト:ラッキーオールドサン
料金:ADV ¥3,500/U23 ¥3,000
Guiba 2nd full album『こわれもの』Release Party 大阪編
2024年11月29日(金)
場所:Music Club JANUS
開場開演:18:30/19:00
ゲスト:眞名子 新(Band Set)
DJ:DAWA(FLAKE RECORDS)
料金:ADV ¥3,500/U23 ¥3,000

チケット発売中!
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