SENSA

2024.09.19

20th Centuryのサポートから新バンド・DOGADOGAに向かうまで、この数年間の江沼郁弥に何があったのか?現在地を掘り下げる徹底インタビュー

20th Centuryのサポートから新バンド・DOGADOGAに向かうまで、この数年間の江沼郁弥に何があったのか?現在地を掘り下げる徹底インタビュー

江沼郁弥(Vo/G、元plenty)を中心に2023年から活動を開始したバンド・DOGADOGA(ドガ)がファーストアルバム『CHAOS Z.P.G.』(カオス・ジパング)を発表した。20th Centuryのサポートを通じて声をかけた藤原寛(B、元andymori)、古市健太(Dr)、渡邊恭一(Sax/Cl/Fl)とともに鳴らすのは、ポストパンク/ノーウェイヴを軸に、ラテンやアフロ、ダブなどの要素を内包しつつ、歌謡曲的なエッセンスも散りばめた多彩な楽曲たち。特に渡邊がリード楽器を担うことが大きな特徴となり、まさにカオティックで土着的な日本の音楽を提示している。

今回SENSAでは江沼郁弥のソロインタビューを実施。2017年のplenty解散以降はDTMをベースとしたソロ作を発表してきたが、コロナ禍を経て、江沼が「パンクバンドをやろう」と持ち掛けたことが、そもそものDOGADOGAの始まりだったという。また、plenty時代から江沼を追いかけてきたファンからすると、「江沼がトニセンのサポートでバンマスをやる」というのは、すぐにはイメージが湧かなかったかもしれないが、そこにこそ現在の江沼の音楽との向き合い方が明確に表れている。DOGADOGAについて、アルバムについてはもちろん、ここ数年の心境の変化について、じっくりと語ってもらった。


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ライブに井ノ原(快彦)さんがお客さんとして来てくれた

─plentyの解散以降はソロ活動が続いていましたが、コロナ禍になって音楽との向き合い方がどうなったのか、当時を振り返ってもらえますか?


江沼:何を考えてたんでしょうね......コロナのときはもうどうしようかなって感じでしたけどね。中止とか延期をするライブの発表だけ抱えてて、何も決まらないみたいな感じだったから、精神的にもわりと参ってて、さてどうするかみたいな、ミュージシャンみんなそうだったと思うんですけど。配信がはまったアーティストは良かったけど、個人的にははまらなくて、それはそれで発見でした。ワーッてコミュニケーションをとりながらライブをするタイプではなかったので、別に配信でもいいのかなと思ってやってみたら全然面白くなかったから、「お客さん必要なんだ、そういうタイプだったんだ」っていう発見がありつつ、でも他にやることがないから、制作に向かった感じでしたね。

─2022年にリリースしたEP『極楽』はそれ以前の作品に比べるとレイドバックした作品になっていて、やはりコロナのムードを反映しているのかなと感じました。


江沼:閉ざしてるのが嫌だなっていうふうにはなりましたね。もっと気楽で、ちょっと無責任というか......DOGADOGAもそうだと思うんですけど、あんまりカチッとはしたくないなって。多分もともとはカチッとした性格なんでしょうけど、そこを手放したくなりましたね。世界観が出来上がってる感じではなくて、今までに使ったことがない言葉を使ったり、書き方をしたり、そういうのに手を出し始めたかもしれないです。

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─『極楽』はアートワークが銭湯で、「源泉垂れ流しブルース」や「大衆欲情」など、曲名からしてもplentyやそれまでのソロのイメージとは明らかに違うものになっていました。


江沼:コロナによって、銭湯に行くとか、人と会ってご飯を食べるみたいな、普通のことができなくなったので、それを表現するのがちょっと皮肉っぽいというか、そういう感じではありましたけどね。今お風呂のことを歌ったら、これまでとはちょっと意味合いが違う感じがして、それが面白いんじゃないかなって。ただ皮肉と言っても暗くなっちゃうような表現はあんまりしたくないなと思ってました。

─最初に話してくれた「閉じない」感じが、音楽のアウトプットではなく、活動という意味で表れたのがトニセンのサポートを始めたことでもあるのかなと思いますが、そもそもはどういう繋がりだったんですか?


江沼:繋がりはなかったんですよ。『極楽』のリリースライブをコットンクラブでやったときに、井ノ原(快彦)さんがお客さんとして来てくれたんです。だから最初は「あらま、有名人だ」みたいな感じだったんですけど、V6を解散して、トニセンで活動しようと思ってて、アレンジと、バンドの仕切りをやってくれないかっていう話をもらって......どうなるかはわからないけど、やりたいと言って手を挙げてやらせてもらえるようなことでもないから、やってみようかなって。

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─そこからサポートのメンバーを集めて、結果的にそれがDOGADOGAに繋がっていったわけですよね。


江沼:そうですね。最初はベースが藤原寛、ドラムが岡山健二(classicus/元andymori)、キーボードにオヤイヅカナル(木(KI))で、ギターが古市コータロー(ザ・コレクターズ)さん。ブラス隊はファンファン(Tp、元くるり)が集めてくれて、あと渡邊恭一とNAPPI(Tb)と。で、場所によってはSyrup16gの中畑(大樹、Dr)さんとキタダ(マキ、B)さんを呼んで、結構ありえないメンツでやってて、それはそれで話題になったというか。

─『ミュージックステーション』に出演したときはフジファブリックの山内総一郎さんもいて、すごいメンツだなと思いました。その後に岡山くんに代わって、コータローさんの息子さんである古市健太くんも参加するようになり、彼はDOGADOGAにも参加しているわけですが、コータローさんはもともと繋がりがあったんですか?


江沼:いや、メンバー集めは僕と庄司(信也、クリエイティブディレクター)さんのふたりでやって、コータローさんに声をかけたのは庄司さんで。僕はトニセンの現場ではじめましてだったんですけど、そこから打ち解けて、今では仲良くしてもらってます。

─で、最初はどうなるのかという感じだったけど、実際にやってみたら面白味を感じたと。


江沼:めちゃくちゃ大変でしたけどね。アレンジもしながらだったので、最初はずっと「これでいいのかな?」と思いながらやってました。どこまで音楽的なところが必要なのかな?みたいな感じだったんですけど、でも結構メンバーさんが音楽的だったんですよ。アイドルだから、ロック畑だからとかって、あんまり関係ないんだなって。アウトプットのちょっとしたところが違うだけなんだなっていうのは思いましたね。

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もうむしゃくしゃするから、パンクバンドやろうぜ、叫ぼうぜ、みたいな感じでした

─DOGADOGAに関しては、もともと江沼くんと岡山くんのふたりが「パンクバンドやろうぜ」っていう話をしたのがスタートになっているそうですね。


江沼:コロナの中でやることないから「何かやろうぜ」「いいよ」って感じで、でもそのまま話が進まないで、結果トニセンに収集される、みたいな。

─あ、トニセンで一緒にやる前から話してたんですね。


江沼:そうなんです。トニセンの話がある前から、「健二くん、最近何してんの?」「何もしとらん」「パンクバンドやろうぜ」「いいね」って言ってたけど、メンバーを探してるうちにトニセンで一緒にやることになって、「このメンバーでいいんじゃない?」みたいな。

─最初に江沼くんが声をかけたときはどういうテンション感だったんですか。


江沼:音楽的なビジョンとかそういうのはなくて、もうむしゃくしゃするから、パンクバンドやろうぜ、叫ぼうぜ、みたいな感じでした。「ブランディングとかそういうつまらないことを考えずにやりたいことやろうよ」みたいな。ソロでも良かったけど......人とやりたかったんでしょうね。コロナになる前はバンドをやりたいとは全然思ってなかったんですけど。

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─活動が本格的になったのは、『やついフェス』への出演がきっかけなんですよね。


江沼:そうですね。ただそうなったときに、健二くんはソロの活動も動き出してたから、スケジュールがなかなか合わなくて、いよいよ音源作ろうってなってきたときに、「俺はソロやりたいから抜ける」みたいな感じだったんです。

─パンクバンドと言っても、DOGADOGAはビートパンクみたいな感じではなくて、ポストパンクに近い印象ですが、それは最初からイメージとしてあったんですか?


江沼:ポストパンクとかノーウェイヴとか、パンクが終わっていろんな音楽と融合しだした時期の音楽というか。

─ポストパンクで言うと、トーキング・ヘッズとか。


江沼:ポップ・グループとか。

─ノーウェイヴだとジェイムス・チャンス、あとはクラッシュとかも連想しました。で、アルバムを聴いたらテレビジョンみたいな曲もあってニヤリとしたり(笑)。


江沼:ありますね(笑)。ごちゃまぜというか、音像とかもぐちゃぐちゃなんだけど、でも不思議なまとまり方をしてるといいなっていうのは頭の中にありました。

─もともとは岡山くんがパーカッションで参加していたし、あとはやっぱり渡邊さんがメンバーで、管楽器がリードを担っているので、そこで音楽的な広がりがありますよね。


江沼:だいぶ助けられてます。デモを作ってて、管楽器が欲しいなと思ったんですよ。やっぱりバンドサウンドだけのイメージでやってると、plentyともandymoriともあんまり変わり映えがしなくて、ピアノとかシンセはソロでやってるから、それをパンクバンドとしてやる面白さもあまり感じないし、名義が変わっただけで、「やっぱり江沼だな」みたいに言われるのも癪だから、何か違うのものが欲しくて。で、ちょうどトニセンのツアーが終わったところだったので、「なべさん、バンドやらないすか?こんな感じの曲なので、これをちょっと壊してください」みたいな、そういうやり取りで曲の方向性が決まることも多かったかもしれない。

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─渡邊さんは基本的にはジャズ畑の方なんですよね。


江沼:めっちゃジャズ畑ですね。でもポップスの知識もあるので、上手に対応してくれるというか、ジャズ的になしだからなしみたいなことではなくて、とはいえポップスガチガチのプレーヤーでもないから、ちょっとカオスになってても、「いいねえ」みたいに言ってくれる。変な人なので、それがいいんですよ(笑)。

─他のメンバーのことも聞くと、健太くんはバンド最年少ですよね。


江沼:21歳ですけど、健太が一番しっかりしてますね。

─お父さんがコータローさんで、ちっちゃい頃からドラムをやってて、テクニック的にもしっかり身に付いてるわけですよね。


江沼:もう仕上がってますからね。今度真心ブラザーズのツアーでも叩くみたいで、またタイトになって帰ってくるのかなと思うと楽しみです。

─真心ブラザーズというと、YO-KINGさんが書いたトニセンの曲(「君の笑顔につられて」)の編曲を江沼くんが手掛けてますよね。


江沼:さっきのコットンクラブの話と並行して、真心ブラザーズのアルバム曲(「LOVE IS FREE」)を僕がアレンジさせてもらってたんですよ。で、YO-KINGさんがトニセンに曲を書くってなって、「江沼くんアレンジやって」「わかりました」みたいな。

─いろいろ繋がっていったんですね。寛くんに関しては、それこそandymoriとplentyの時代からお互い知ってはいるけど、一緒にバンドをやるのは初めてですよね。


江沼:そうですね。寛くんからは「郁弥って面倒くさいやつだと思ってたけど、大人になったな」みたいに言われましたけど(笑)、寛くんは変わらないかな。いい意味でカチッと真面目な人。DOGADOGAは最初ごちゃごちゃっと始まって、長くやるつもりもなかったし、だから「バンド名も何でもいいんじゃない?」みたいな感じだったんですけど、いざ動き出すってなったときに、すぐ俺のことを呼び出してきたのは寛くんで。「郁弥がちゃんとやるんだったら俺もちゃんとやる。でもふわふわした感じでやりたいなら、カチッとリリースしたりしなくてもいいと思うけど、どんな感じ?」みたいなことを言われて。トニセンのツアーが終わってすぐに『やついフェス』だったから、そのときはかなりバタバタしたけど、「楽しいから続けてもいいなとは思う」「わかった、じゃあやる」みたいな感じでした。真面目なんですよ。きちっと筋は通したい、侍みたいな感じ(笑)。

─寛くんからのそういう話もあり、江沼くん的にも「DOGADOGAをこういう感じでやっていこう」みたいなスタンスが徐々に明確になった?


江沼:そうですね。単純に曲が出揃ってきて、「この音楽結構かっこいいんじゃない?」と思ったっていうか、遊びで終わらすにはもったいないかも、と思ったんですよ。作ってるときはあんまり何も考えずに作ってたけど、いざできた曲を振り返ってみたら、今こういうバンドあんまりいないし、楽しいなと思って。このままずっとふわふわしてるのも勿体ないから、ちゃんとリリースをして、ライブをして、DOGADOGAとしていろんな人に出会ったらいいんじゃないかっていうのがありました。

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─インディ的な方向でポストパンクやノーウェイヴをやるバンドは少なくないと思うけど、DOGADOGAはすごくポップな要素もあって、このバランスは珍しいなと。


江沼:インディに寄り過ぎても、ポップスに寄り過ぎても、多分みんな本気にならなかったと思うんですよね。その絶妙な感じが面白い。自己満足っぽくもないし、でもすごい自己満足っぽいところもあるし、下心がなくていいよねっていうのがあって。

─確かに、この音楽から変な下心は感じないですね。


江沼:「これでちょっとバズりたい」みたいな、そういう下心は全然なくて、こんなおじさんたちが集まって、割とピュアにやったから(笑)、これは2023年だけ活動して終わりはちょっと勿体ないんじゃない?みたいな感じ。去年YO-KINGさんと一緒にツアーを回らせてもらったり、いろんな人に気に入ってもらえて、それでその気になったのもあるんですけどね。YO-KINGさんにも「バランスが絶妙でいいよね」みたいに言ってもらって、それでツアーに誘ってもらって。「まだ何もリリースしてないですよ?」「それでもいいよ、やろうよ」みたいな感じで、そういう経験も大きかったですね。

土着的な感じと、明るいエネルギーの、民謡っぽいイメージが漠然とありました

─『CHAOS Z.P.G.』というタイトル通り、楽曲からは歌謡曲っぽさであり、日本的な感覚も強く感じられますが、この方向性はどのように決まったのでしょうか?


江沼:日本っぽさは多分、俺となべさんがそういうのが好きだから。「日本の民族音楽ってどこなんだろうね」みたいな話をしてて、どろっとした民謡とかも好きなんですけど、でも民謡までいくとちょっとメロディーがつけにくいから、メロディーは歌謡曲っぽくして、「なべさん、ここに自由に楽器を入れてください」とかもありましたね。あとは、じゃがたらとかもすごく好きなんですよ。

─ラテンやアフロの要素もあって、BO GUMBOSとかにも通じる部分があるかも。


江沼:そうですね。土着的な感じと、あと陽に働いてるエネルギー、明るいエネルギーのイメージがありました。それが民謡っぽいというか、民族的というか、そういうイメージが漠然とありましたね。だからシティポップとか、夜の街って感じじゃないなって。

─夜の街でも煌びやかな都会じゃなくて、スナックの雰囲気ですよね。


江沼:そうそう、スナックの感じ(笑)。赤ら顔でおっちゃんがカラオケ歌ってる、みたいなイメージの方が近いというか、そこにいたいなっていう感じはありますね。

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─「酩酊世代」とかはまさにそんなムードですよね。その一方で、「あゝフラストレーション」とか「どうあるべきだ」みたいなグルーヴ重視の曲があるのもかっこいい。


江沼:「あゝフラストレーション」は僕いちばん気に入ってますね。自分の中でモデルがあったんですよ。Lizzy Mercier Descloux(リジー・メルシエ・デクルー)って人がいて、フランス人なんだけど、めちゃくちゃ民族的な音楽をやってて、その人のアルバムが好きで、リファレンスとして送ってました。リズムは結構難しくて、「グリッド的に縦には合ってるんだけど、よく聴いたらちょっと後ろで、ここにずっといてほしい」「こんな感じ?」「いや、もうちょっと縦が合ってていいかな」みたいなことをずっとやってましたね。

─「酩酊世代」はもともとどういうイメージで作ったんですか?


江沼:なべさんは「浪曲っぽい」って言ってて、その感じもわかるし、俺はドリフターズだと思って作ったんですよ。志村けんがいないときのあの映像が浮かぶんですよね。今ここをやろうとしてる人はあんまりいないから、空席なんじゃないかなとも思って。

─そういう年代に目がいったのって、コータローさんとかYO-KINGさんとか、近年上の世代との交流が深まったことも関係してるんですかね?


江沼:それもありますし、でももともと好きでした。フォーク出身なところもあるので、そういうのがもともと好きで、なおかつ時代的に今これって面白いんじゃないの?っていう自分のモードがありますね。ちょっと前に流行ったことをやるのは恥ずかしいけど、この辺りの感じを今やったら面白いのかなっていう距離感。

─それこそ今からシティポップをやるのはちょっと恥ずかしいけど。


江沼:それよりも昭和の歌謡の感じとか、スパイダースみたいな感じとか、そういうのもありなんじゃないかっていうのがあって、それを今風にちょっと角度をつけてやったら面白そうだなっていう探求心ですかね。

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─1曲目の「PYG」も沢田研二とショーケンのPYGが関係ある?


江沼:関係ありますね(笑)。そういう時代のものをみんなで持ち寄って、これ今やったら面白いかもね、みたいな感じ。その時代のものって、すごくごちゃまぜなんですよ。「歌謡ポップスっぽいのに、ここだけハードロックなんだ」みたいな感じとか、そういうのに生き生きしたエネルギーを感じるんです。よそのものを取り入れて、自分たち流にするのって、本来日本人が得意じゃないですか。DOGADOGAはその感じが出たらいいなって。しかも、綺麗に吸収しちゃうんじゃなくて、ちょっと荒い感じで、作り込みすぎないように、みたいなのはありますね。ライブも練習しすぎちゃうと多分つまらない。みんなプロだし、ちゃんとやったら上手なんですけど、クリックをちゃんと聴いてやったらつまらなくなるから、少しくらいずれてもいいや、みたいな。そもそもお仕事の感覚がないから、「ちゃんとやるけどちゃんとやらないでね」っていう、その感覚はこれからもみんなに持っててほしいなと思います。

「江沼は次に何を歌うのか?」みたいな感じのところには行きたくない

─『CHAOS Z.P.G.』というタイトルからは、コロナ禍以降のカオスな日本という受け取り方もできるし、「酩酊世代」とかも世代意識について書いているようにも受け取れますが、実際はいかがですか?


江沼:そういうのもあるとは思いますけど、でも洒落だと思って書きたいなっていうのはあります。前まで「江沼は次に何を歌うのか?」みたいな感じのところでずっと生きてたので、そこには行きたくないなっていうのはあるんですよね。ずっとそういうところにいると、楽しくなくなっちゃう。DOGADOGAは楽しみたいだけなんですよ。

─最初に配信されて、アルバムでも1曲目の「PYG」の冒頭が《俺はもう終わりだ 俺はまた始めるさ》なのはある種の宣言のようにも受け取れるけど、これも洒落として書いてる感覚の方が強い?


江沼:まあそうですね。書いてるときは特に考えてなかったんですけど、最初に出すのはこの曲かなと思って、でもこれ絶対自分のことだと思われるなあ、嫌だなあみたいに思いつつ、最初に出してみて、やっぱり言われて、「出た、詞に注目する人たち。全然そんなつもりないです」みたいな感じ。まあ、それを喜んでくれてるならそれはそれでいいんだけど、「それでこそ江沼」みたいな、その期待には応えられない。

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─あえて言わせてもらうとしたら、ラストの「日没」の〈まともなフリして ぶっ飛んでいたいだけ 童話の中の人のように ただ身を任せて 軋んで〉というのは、現在のいろんな活動に対してフラットに向き合いつつ、その中で自分が面白いと思うものを作り続けたいという、現在の江沼くんのモードが表れているようにも感じました。


江沼:トニセンでちゃんとお仕事の現場を経験したことで、棲み分けができたんです。今まではずっと自分の作品を作ってきて、それは好きでやってるんだけど、でもお客さんのことを考えたりとか、遊びと仕事がごっちゃになってて、ずっとそのチャンネル1個しかない状態だったから、それがしんどかったんですよね。健二くんに電話してパンクバンドをやろうって言ったのもそういうことで、1個のチャンネルしかできないことの苦しさがあったんです。本当はいろんな自分がいるけど、「これを表現したところで伝わらない」みたいなことをどうしても考えちゃうじゃないですか。でもそれを気にしなくていいやとやっと思えて、もっといろんなことをやっていいんじゃないかと思ったんです。別に声優や俳優をやってもいいわけで。それに対して、「プロじゃない」みたいなことを言う人もいるけど、いくつもチャンネルがあっていいじゃんみたいな、それは今すごいあるんですよね。だからソロの自分とアイドルのバックバンドをやる自分みたいな振り幅もあっていいし、DOGADOGAではちょっとふざけたり、楽曲提供もやったり、そうやってチャンネルをいっぱい増やしてる感じで、今はそれが楽しいんです。

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─plentyというバンドがそれだけ強い世界観を持っていたからこそ、江沼くんにはある一定のイメージがついていて、本人もそれを感じる部分が少なからずあったかもしれない。でもここ数年のいろんな出会いや活動によってそこから解放されて、そのひとつがトニセンだっただろうし、DOGADOGAも間違いなくその一助になっていると。


江沼:もう人の目を気にするのはやめようかなって。「これをやっても誰も喜ばないんじゃないだろうか」みたいな、そういう感覚に救われる部分もあるんですけど、それを気にしすぎて何もできないのは疲れるなと思ったんですよね。

─それこそ、今後もソロはソロで続けていくわけですもんね。


江沼:今はソロの曲を作ってて......めっちゃ暗いの作りたいんですよね。言葉として暗い言葉を言うかはわからないですけど、どん底をさまよいたいなって。気分がどん底じゃなくて、そういうところに行く曲も作りたいなっていうのはありますね。

─人間には当然明るい面と暗い面と両方あって、DOGADOGAで明るい面を解放したからこそ、今度は暗い面を解放したソロが聴けるのかもしれないと。


江沼:そうやって振り幅広く作るのが楽しいというか、こういう生き方もいいんじゃないかなっていう感じですね。音楽を作ることは自分の特技なんだっていう自覚をちゃんと持とうと思いました。「これは自分っぽくない」じゃなくて、音楽を作ることは自分の特技なんだから、その能力をちゃんと使っていきたいなって。それはこだわりを捨てたとも言えるかもしれないけど、自分としては逆にそこに対して強いこだわりを持ってる。今はそういう感覚なんですよね。

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取材・文:金子厚武
撮影:林直幸

RELEASE INFORMATION

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DOGADOGA「CHAOS Z.P.G.」
2024年9月11日(水)
Format: Digital
Label: DOGADOGA RECORDS

Track:
1.PYG
2.ドガのテーマ
3.粋通り
4.たくらんでる
5.あゝフラストレーション
6.どうあるべきだ
7.ノー・ヴァージン・スーサイド
8.夏の支度
9.潮騒
10.イデア
11.酩酊世代
12.日没

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LIVE INFORMATION

DOGADOGA 1st Album Release GIG"CHAOS Z.P.G."
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2024年9月25日(水)
新代田 FEVER
OPEN 19:00 / START 19:30
前売り:¥4,500(+1D) / 当日:¥5,000(+1D)

LINK
@DOGA_BAND
@dogadoga_official

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