SENSA

2024.03.06

「Forever feat. たなか」に潜む、生と死のファジー ──am8+たなか。曲づくりに込めた思いとは?

「Forever feat. たなか」に潜む、生と死のファジー ──am8+たなか。曲づくりに込めた思いとは?

 am8(エーエム・エイト)は、2020年に活動を開始し、Hana Hopeをフィーチャーした「Hatsukoi」や高浪慶太郎が歌う「シティポップ ララバイ」、それらを含むアルバム『iDoM』などをリリースしてきたユニットだ。メンバーは、広告界で活躍するクリエイティブ・ディレクターの手島領、音楽ディレクター冨田恭通の2人。最新曲「Forever」では、ぼくのりりっくのぼうよみの名でデビューし、近年はバンドDiosのボーカリストとして活動する"たなか"をフィーチャーしている。同曲は、シンセサウンドが鮮烈なエレクトロハウス。今回は、am8+たなかの3人にインタビューし、楽曲制作を振り返っていただく。レコーディングが行われた冨田のマジコンスタジオを訪れ、話を聞いてみよう。

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"あいまいな感覚"を美的に表現できる声

─"いきなり世界が終わったって"という歌い出しに近年の世相を感じます。


手島:「Forever」は3年以上も前に作りはじめた曲なんです。『iDoM』を作っていた頃でしたが、アルバムのカラーに合わなかったので、いったん寝かせることにして。それから1~2年たって、あらためて手をつけたときに、ちょうどウクライナで戦争が起こりました。2023年にはイスラエルでも戦争が始まったし、世の中的に不安な状況のもとで作り上げた曲です。詞については、"明日すべてがなくなるかもしれない"みたいな思いを今の年齢ではなく、若いときの気持ちで切り取ったらどうなるだろう?という視点で書きました。近年、偉大な人たちが次々とお亡くなりになるのを見ていて、生きているうちに本当にやりたいことをやっておかなくちゃなと。だからこそ、何が起こっても生きていかなければならない。そういう考えをもって詞を書いたように思います。

─たなかさんに歌ってもらおうと思った理由は?


手島:冨田君から、たなかさんの名前が出てきて。歌声を聴いたときに、ジェンダーがあいまいな感じとか、ヒューマンなのかマシナリーなのか判然としない感じとかが、とても良いと思ったんです。と言うのも、詞の中では"何が起きても生きていく"といった気持ちが歌われますが、それは裏を返せば、どこかで死への感覚を抱えていることにもなり得るなと。いつ死ぬか分からないけど僕らこのまま生きるよね、みたいなスタンスというか。冷めているとも熱いとも取れるような感覚です。それとたなかさんの声が、ばっちり符合していました。

─冨田さんは以前から、たなかさんと関わりがあったのですか?


冨田:ぼくりりの頃にマジコンスタジオを使ってもらっていました。ただ、当時はたなかさんに対して、自分の音楽観みたいなものを深く話さないようにしていたんです。たなかさんはまだ10代だったし、僕が尊敬する音楽プロデューサーの山口一樹さんがついていらしたので、あまり話しすぎると余計な影響を与えてしまう気がして。当時の僕は、あくまでスタジオのいちスタッフでよかったわけです。でも、たなかさんと再会した日にそのことを話したら、かねてから僕の思いに気づいてくださっていたようでした。

たなか:冨田さんとの再会は2023年のことで、3~4年ぶりにお目にかかりました。当日に「Forever」のお話をいただいて、とても良い雰囲気でコミュニケーションが取れたので"これは参加したほうが良さそうだ"と直感して。決断したのも、楽曲のデモが届く前だったと思います。

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この詞を心底、信じて歌わない理由

─たなかさんは、手島さんの歌詞をどのように解釈して歌録りに臨んだのですか?


たなか:僕も詞を書くので、自分の中で明文化しているしていないに関わらず、こういうルールでやっているというのがあるんです。その視点からすると「Forever」の詞には"そうくるのか"と思える部分があるため、楽しみながら歌いました。詞として結構、跳躍するんですよ。例えば"これは雷なんだろうな"と思って聴いていたら、雷光が急に天使になる。

─"迫りくるゴロゴロ鳴った 光が今 ミカエルとなった"のくだりのことですね。


たなか:はい。まず、冒頭の詞が"いきなり世界が終わったって"なので、大きなスケール感で展開する話だろうという読み方ができます。だから、雷光がいきなり天使になっても納得はできるんですが、自分だとなかなか出てこない言葉の組み合わせだと思うんです。あと"ミカエル"が、歌う上での指標のようになりました。この詞に登場する"僕ら"というのは、どういう人たちなのかが詳しく説明されていません。なので歌い手としては、不明瞭な"僕ら"になりきるよりもミカエルになってしまおう、という気持ちです。"僕ら"は、ミカエルが観測している"僕"と"キミ"の2人というイメージです。

─詳細が明かされていない"僕ら"になろうとするくらいなら、大天使ミカエルに乗り移るほうがスッキリとした歌唱表現ができそうですね。


たなか:この詞には、言葉自体として結構、ストレートなパンチラインが多いんです。ただ、僕が心底それらを信じて歌うのは、あまり面白くないと思っています。だって"いきなり世界が終わったって 僕らは今を生きるんだろう"をガチで言っている人がいたら怖くないですか?(笑)。

手島:確かに、そうですね(笑)。

たなか:それに、作詞者である手島さんが心底そう思って、血眼で書いているようにも思えません。でも"これしか言いようがない"みたいなニュアンスも感じる。だからミカエルになって、ちょっと諦めているというか、距離を置いている感じで歌ってみようと思ったんです。

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何台ものカメラでMVの素材を撮影

─歌詞とは裏腹に、音は疾走感あふれるダンスミュージックに仕上がっています。


冨田:さっき話した通り、この曲は数年前からあって、練りに練って今の形にたどり着いたんです。am8はアート作品としての楽曲の成り立ちを大切にしていますが、サブスクでほかの曲と並んだときに冒頭から聴き手をつかむグリップ感というか、きた!って感じさせるような印象の強さは、全体を作る上で意識しました。

─ミックスは、国内屈指のエンジニア渡辺省二郎氏によるものです。


手島:省二郎さんにミックスしてもらって、リバーブ感や空間の作りがデモから大幅に進化しました。広がりが出た印象ですね。そして、キックの入り方が"いぶりがっこ"のよう。

─いぶりがっこは燻製大根の漬物ですが、どういうことでしょう?


手島:例えば、宴会で乾杯してビールを飲んで、枝豆や豆腐をつまんだ後、急に"いぶりがっこです!"って出てくると、ものすごい存在感がありますよね。それに、いぶりがっこってドライな食べ物じゃないですか? そういうドライなものが突如、勢い良く出てくる感じと似ている。低音がドスっと入ってくるときの存在感が、いぶりがっこみたいなんです。省二郎さんに、そう言ったら"うれしい"とおっしゃっていました。あと、曲のドラマ性が強くなった気もします。

冨田:省二郎さんは、ご自身で音像の意味合いを解釈してからミックスしているのだと思います。例えば、ボーカルの音作りは僕のイメージを超えていました。もっとドライな感じに仕上がってくると思っていましたが、リバーブを生かした大きな音像になっている。そのボーカルに続いて、キックがガツンと出てくるんです。こういうインパクトの流れは、省二郎さんのストーリー作りだと思います。

─ミックスやマスタリングを終えた後、MVの撮影に移ったのでしょうか?


たなか:はい。部屋全体にカメラを設置したスタジオに入って。いろんな角度から僕の写真を撮って、最終的には3Dモデリングされたようなデータになったんですよね?

手島:そうです。例えば、歌っているシーンは"あ"とか"い"とかっていう、母音の発音シーンを撮った写真から構成されています。リファレンスとなったのは歌唱シーンを捉えた映像で、それを参考に、写真に動きが付けられているんです。

─アートワーク(ジャケット画像)は、MVの映像を元に制作したのですか?


手島:あれは、MV用の素材をスキャンしたデータをもらって、僕のほうで作りました。眼球の中に、いろいろな光線を無数に配置しているんです。そうやって加工した、たなかさんの画(え)に背景のグラフィックを合成して、リアルなのかゲーム的な仮想世界なのか分からない感じを表現しています。タイトルの欧文フォントは、PlayStationのロゴを意識したものですね。



─am8は、音楽だけでなく、ビジュアル周りも自分たちでプロデュースしています。メジャーのレーベルでは各制作物に担当者がつくと思うのですが、アーティスト自身がすべてをプロデュースする姿勢について、たなかさんはどのように感じますか?


たなか:良いことだと思います。ビジュアルって、初めて見たときの一瞬の印象が勝負ですよね。音楽は、ある程度の尺を聴かないことには判断しづらいと思いますが、イラストや写真なら見たそばから"あ、何か良いかも"っていう気持ちになれる。それに、単色をベタ塗りにしたアートワークでも、どんなものを添えるかで音楽への印象を変えられると思うんです。例えば、深い青をベタ塗りにしただけのアートワークなら、"この曲はちょっとダークな感じ"といった印象を与えられるかもしれません。音楽を単体で楽しむことは、もちろんできるんですけど、ビジュアルが充実するとより親切になるというか。そこまでコントロールできるのが、セルフプロデュースの魅力だと思います。

─他方、メジャー方式の制作については、いかがですか?


たなか:大勢の人たちと一緒に作るのにも、それはそれで利点があります。例えば「Forever」のアートワークを誰かに依頼する場合、"詞の中に雷が出てくるんです"って伝えたとしても、こちらがイメージする雷とデザイナーの思う雷はイコールにならない。"雷"から連想されるイメージが人によって違うからですが、だからこそ依頼主、つまりアーティスト側がたどり着けない景色を具現化できると思うんです。それは"作品の拡張"ですよね。そして音楽作品そのものに真の強度があれば、いろんなものが付帯しても、かえって美しく機能するはず。

─濃密なコラボレーションとなった「Forever」ですが、たなかさんは今後、どのような活動を?


たなか:1月31日にDios「&疾走」のリアレンジバージョンを配信リリースしたばかりなのですが、それを含むCDアルバム『&疾走 Deluxe ver.』が付属するパッケージ『Dios "&疾走" Completed ver.』を2月28日に発表しました。このパッケージには『Dios Tour 2023 "&疾走"』のファイナル公演や特典映像を収録したBlu-ray、そして同ツアーのライブフォトなどを収めるブックレットも入っています。今後もDiosを頑張りつつ、曲を作るのがめちゃくちゃ速いし時間もあるので、いろいろなことにチャレンジしようかなっていう気持ちですね。

─am8のスケジュールは、いかがでしょう?


冨田:今年は積極的にライブをやっていこうと思っています。DJセットによるライブパフォーマンスをワンセッション作って、フィーチャリングシンガーの方々がいない状態でも成立するようにしたいなと。それを基本としつつ、シンガーに参加してもらうときには生歌を乗せられる形にもしておきたい。

手島:仮想空間でのライブにも興味があります。「Forever」のMVを監督してくださった土井昌徳さんと再びコラボレーションして、すべての視覚的要素を3Dグラフィックで構成するようなライブです。Apple Vision Proの国内発売時期にもよると思いますが、近い将来、メタバースライブみたいなのもできそうですよね。

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取材・文:辻太一

LIVE INFORMATION

am8 playtime #1
4月5日(金)
OPEN:18:00 / START:19:00
場所:東京 恵比寿 TimeOut Cafe & Diner ( LIQUIDROOM 2F)
入場料:¥2,500+1D
Act:am8, Hana Hope, 武田カオリ, and more...
 
LIVEの詳細およびチケット予約はこちら

RELEASE INFORMATION

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am8「orever feat. たなか -Sasuke Haraguchi after the world ends Remix-」
2024年3月6日(水)
Format: Digital
Label: Alfa Beta Records

Track:
1. Forever feat. たなか -Sasuke Haraguchi after the world ends Remix-

試聴はこちら

am8_Forever_JK_20240124.jpg
am8「Forever feat. たなか」
2024年1月24日(水)
Format:Digital
Label:Alfa Beta Records

Track:
1.Forever feat. たなか

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オフィシャルサイト
@am8__official
@am8_official2020
Official YouTube Channel
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