SENSA

2023.12.01

少年少女が身に覚えのないノスタルジアに襲われる瞬間を描く「BOND LOST ACT」-Highlighter Vol.188-

少年少女が身に覚えのないノスタルジアに襲われる瞬間を描く「BOND LOST ACT」-Highlighter Vol.188-

音楽だけでなく、どのカルチャーも共通点やつながりがあるということをコンセプトにしているSENSA。INTERVIEWシリーズ「Highlighter」では、アーティストはもちろん、音楽に関わるクリエイターにどのような音楽・カルチャーに触れて現在までに至ったか、その人の人となりを探っていく。Vol.188は多摩美術大学の同窓生ふたりで結成されたBOND LOST ACTを取り上げる。
変遷を経てニュー・ウェイヴ的なアプローチに帰着した彼ら。新作EP『祝祭日の前日譚』に収録された3曲は、全て"日常に潜む怪異"がモチーフになっている。MVやアートワークにもこだわりが詰まった表現に、ぜひ触れてみてほしい。


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活動を始めたきっかけ
龍磨(Vo/Syn) :ふたりは多摩美術大学の芸術学を学ぶ学科で、僕は映画論を、楠は民俗学を専攻していました。在学時は一言二言しか話しませんでしたが。僕の方が年上なので先に卒業するんですが、進路を決める際、フジファブリックじゃないですけど、英雄気取った路地裏の僕がぼんやり見えてしまったので、何かアウトプットしたいと考えた結果、自分がいちばん好きだからこそ今まで手を出さなかった"バンド"という表現形態を選んでいました。メンバーを探したところ、どうやら同じ学科の楠はドラマーらしいと聞き、吉祥寺のガスト、仙川の銭湯で口説き落としBOND LOST ACTを結成しました。

結成当時はメンバーが何人かいたので、みんなの育った音楽ジャンルの真ん中を加味してハードコアミクスチャーバンドとして活動していましたが、音楽をずっと続けるためには、コンポーザーの僕の原体験からしか生み出し続けられないと考え、今のニュー・ウェイヴ的なアプローチに帰着しました。

影響を受けたアーティスト
龍磨 :転校が多かった幼・小・中学時代を過ごしたのですが、存在を過大に表現することが人間関係のアプローチだと見誤り、少なからず寂しい思いをしていました。
トライアンドエラーだ!!と高校時代は性分に似合わずコミュニティに迎合することが処世術だとさらに見誤り、"ここにいるのにどこにもいない"居心地の悪い不恰好な自分に常に嫌悪感を抱いていました(ある種の呪いは大学卒業以降までしばらく続きましたが)。

そんな高校時代に出会ったのがRADIOHEADです。村上春樹が好きだった僕は後ろポケットにいつも単行本を忍ばせていました。すると当時仲が良かった友達が「『海辺のカフカ』に『キッド A』って曲が出てくるだろ?めちゃくちゃかっこいいぜ」と、僕のMP3プレーヤーにアルバムを入れてくれました。

今でも鮮明に思い出せます。西武池袋線の誰もいない練馬駅。その季節にしては少し早めの雪がちらつくなか、再生ボタンを押すと全ての音が止まり、得体の知れない幸福感に満たされました。いつかの夏の途方もない風景や、現状を取り巻く抗えない悲しみなんかが全て結びついた感覚は、今でも筆舌に尽くしがたいですが、音楽の可能性を叩きつけられた瞬間でした。それ以降僕は貪るように音楽を聴き続け、結果翌年の大学受験は大惨敗に終わりました。




楠蓮(Dr) :影響を受けたドラマーはLevon Helm(The Band)とGlenn Kotche(Wilco)ですね。

Levon Helmは彼自身ボーカリストだというのもあるが、歌うようなドラムのプレイは、いつでも僕のお手本です。曲、歌詞に対する愛情の深さを感じる演奏、おおらかかつ、非常にタイトなビートを初めて聴いた時のインパクトは今でも鮮明に覚えています。


Glenn Kotche はドラムのパターンやフィルを考える際に、最も影響を受けているドラマーです。彼の演奏するドラムパターンや音色はいつもユニークで、楽曲にフックやアクセントを加えている。Instagramで自身が過去に演奏したドラムパターンなどをプレイ映像、譜面付きで投稿していて、僕はそれをスクショしては、日々の練習メニューにしています。



龍磨 :楠の日々の練習についての余談ですが、ある元旦に、僕がバイト終わりにトレーニングに向かう途中、練習スタジオの前で佇む楠を見つけ「お前元旦に何やってるんだ?」と尋ねたところ、「練習だよ」と当たり前に答えたことがありまして。その時に、ああ、長い付き合いになりそうだと確信しましたね。

他にも皆さんに聴いてほしいアーティストは沢山いるのですが、最後にひとつだけ。
Qujilaというバンドです。鯨を使ったバンド名は数多くありますが元祖じゃないかな。僕らが生まれる前に結成された日本のバンドですが、現在も活動しているのでライブに行ったりもします。僕が再度ニュー・ウェイヴに注目した起因となる方々です。

何か記憶の根源に触れるような音像。ミニマルなサウンドは鋭く脳内に突き刺さり、郷愁に手を添えてくれます。だけどアート寄りの楽曲なのかというとそうじゃない。しっかりとポップスになるようメロディーや構成に趣向が凝らされており、リスナーを誰ひとり置いていかない姿勢を僕は感じました。これって本当に難しいんです。自分が見えてる世界を表現しつつ誰かのことを考えられる懐を持ちたい。しかしながら、根はロックなので帯刀した刃は研ぎ澄ませていきたい。アンビバレントな感情を併せ持ったロックバンドだと思います。





注目してほしい、自分の関わった作品
龍磨 :勿論、今回リリースするEP『祝祭日の前日譚』に収録された3曲ですね。今作のEPは全て日常に潜む怪異をモチーフにしています。「瓜と皿」ではいつまで経っても約束を果たさない人間に警鐘を鳴らす河童、「ああ、蜃気楼のようだねぇ。」ではトラウマとなって取り憑く幼少期の友達、そして推し曲の「祝祭日の前日譚」では満を持して、自己憐憫の化け物と化した自らと対峙します。

今回の3曲には全てMVがあり、自分たちで制作してるのもBOND LOST ACTの強みですね。楽曲を補強するように異なるレイヤーを被せているのでいろんな解釈ができると思います。光の当て方で見えるものが違ってくるのは彫刻みたいで面白いですよね。






龍磨 :MVは全て自分たちで制作してるので、ひとつのサーガとして見てもらえたら嬉しいです。全作品を通して繋がってる仕組みになっています。「ああ、蜃気楼のようだねぇ。」で出演いただいた俳優の菊地敦子さんは「ダンス・ダンス・ダンス」でも演じています。僕らと同じ学科の友達なんです。



龍磨 :学生時代に映画監督の青山真治さんに「『Helpless』を撮った時に『EUREKA』『サッド ヴァケイション』までの北九州サーガは計画してたんですか?」ってアホ丸出しの質問をしたことがあって。案の定「そんなわけないじゃん。結果的にそうなったんだよ。何も考えてなかった」と微笑まれた経験があります。僕らの作品も、これから縦横無尽に走り回ってもらって、結果的に大きな意味を成し得てほしいと思ってます。そのためには一生音楽を続けなければいけませんね。



龍磨 :ジャケットにも注目してほしいんですが、僕らはアルバムなどの要所に同じ大学のよしみでイラストレーターのLAMさん、雷雷公社のカトウさんに制作していただいています。僕らがやりたいのはどこまで行ってもポップスなのですが、どうしても思想が流れ出して固くなってしまう。そんな時LAMさんのイラストが、ある種代弁にも似た役割を担って昇華してくれています。Gorillazみたいなアイコンになってくれたら嬉しいです。

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「fog1」

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「マニックピクシードリームガール」

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「祝祭日の前日譚」



龍磨 :真夏の情景描写や懐古的な表現が多くある歌詞世界観なので、結構保守的なのかな?って捉えられちゃうかも知れませんが、実はそんなことはなく「ここまではこうだったよね。じゃあ君の時間を郷愁で止めるから考えてほしい。そこから何がしたい?」と問うような、リベラルな考えで動いてるんです。ノイズが走る世界だからこそ、いったんニュートラルな状況にするから、そこから世界を見てみようよ、何が見える?と問いかけられるようなバンドであり続けたいです。




今後挑戦してみたいこと
龍磨 :今現在はライブ活動をストップして制作に励んでいます。来年ど頭に大きなお知らせができたらいいなと考えているのですが。引き続きライブはやってきます。もっと沢山の人に聴いてもらいたいですね。ざっくり言っていいなら、海外でのライブ、フェスに出たいです。オファー待ってます。求められるように頑張ります。

カルチャーについて

触れてきたカルチャー
龍磨 :正直いちばん難しい質問ですね。沢山みんなと共有したいカルチャーはあるし、一晩じゃ語り尽くせないですよね。んん。じゃあ原体験として前述した村上春樹を挙げさせていただきたい。

学生時代、あの太宰にも似た自己憐憫を垂れ流しながらクールに振る舞う主人公に、僕は熱狂しました。どの表現形態でもそうですけど「あ、これは僕のことを書いてる作品だ」と錯覚させる、代表的な作家だと思います(苦しいほど好きです)。それだけではなく、いったん全部しっちゃかめっちゃかにして、はい、世界の終わりを迎えましたが今何を考えますか?みたいなスタンスが好きで、僕らの歌詞世界観にも大きく影響を及ぼしていると思います。




龍磨 :あとはMVの世界観に影響を及ぼしている映画監督の北野武さんに触れたいです。僕は受け手の脳内をいったん綺麗にし、世界観を見せたあとほんの少しだけ残された余白で省みることができる作品がニュー・ウェイヴなんじゃないかなぁと考えているのですが、彼の作品にはそれを感じます。僕らのMVでは恐縮ながらオマージュしてる箇所もあるので、ぜひ探して見てください。
おすすめは『あの夏、いちばん静かな海。』と『ソナチネ』です。



今注目しているカルチャー
龍磨 :パンデミックで誰ともコネクトできない時期にふと聞いたポッドキャストがあって、『THE SIGN PODCAST』って言うんですけど。そこでの会話は様々なポップカルチャーに触れながら過去現在を考察して未来を展開できる構成になっているのですが、本当に誰も傷つけない。パンデミック時に弱っている自分には有り難かった。そして今でも、高校時代の「これヤベェから聴いてみろよ!」感が最高なのでトレーニングの時に聴いてます。運営をマーチを購入したドネーションで行っているのもバンドっぽくて最高。これきっかけで日本の60年代任侠映画を見始めました。いろんなポップカルチャーに触れたい方は是非。



龍磨 :MVも撮りますが、写真も撮ります。LAMさん以外のジャケットは僕が撮った写真です。第二の故郷の広島の風景を少しだけ。

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龍磨 :あとは言うまでもなく銭湯ですね。僕と楠は無類の銭湯好きなんです。暇さえあれば行きます。多い時でふたりで週五で銭湯に通ってました。大晦日はリハーサルから銭湯に行って今年の反省、来年の目標を話すのが恒例行事です。ライブのリハーサルから顔合わせまでの時間が一時間空けば行ってます。だからライブハウスのある街の銭湯やサウナはあらかた把握してますので聞いていただけたら案内します。銭湯の話でこのインタビューは終わるんですね。全然大丈夫です。みなさん銭湯に行きましょう。その帰りにBOND LOST ACTを聴いてください。

RELEASE INFORMATION

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BOND LOST ACT『祝祭日の前日譚』
2023年11月29日(水)

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PROFILE

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BOND LOST ACT
多摩美術大学の同窓生である龍磨と楠蓮で、在学中に前身のバンドを結成。東京出身。
BOND LOST ACTは一貫して街を歩く少年少女が、彼らが体験し得ない、身に覚えのない郷愁、ノスタルジアに襲われ胸が詰まる瞬間を描いている。
街に突如として現れる"凪いだ" 時間。
ハードシンセサイザーで彩られるミニマルなサウンドに短編小説的なリリックを乗せる彼らのライブは、聴き手をいつの間にか『裏返った世界』へ誘う。
アートスクール出身を生かし、楽曲、MV、その他全てアートワークを彼等のチームで制作。
2022年9月よりライブを開始し、東京都内近郊で精力的に活動中。

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