SENSA

2023.11.10

「シーンと呼べるものがないところを目指している」2バンドの多幸感ある共闘──FILTER×THE LOCAL PINTSスプリットEP『JAM!』座談会

「シーンと呼べるものがないところを目指している」2バンドの多幸感ある共闘──FILTER×THE LOCAL PINTSスプリットEP『JAM!』座談会

日本のインディ・ロック・シーンに新たなムーブメントが胎動しはじめた。
その嚆矢となるのがFILTERとTHE LOCAL PINTSによるスプリットEP『JAM!』だ。

片やエモをルーツに世界各国のトラッド音楽のエッセンスを吸収しながら、メンバー全員によるシンガロングと躍動するダンス・ビートで高揚感を作り上げる柏の5人組、FILTER。
片や日本橋室町にあるクラフトビール醸造所併設のパブ「CRAFTROCK BREWING」のハウスバンドとして、「クラフトビールと音楽の架け橋」をモットーに掲げ、アメリカのR&B、カントリー、フォークを消化したポップスを奏でる東京の3人組、THE LOCAL PINTS。

男女混成という編成、野外ステージが似合うサウンド、ライブの多幸感、フェスの主催、ライブハウスだけに限定しないコミュニティ重視の活動など、共通点の多い2バンドだから意気投合は必然だったようだ。そんな彼らが出会ってから1年経たないうちにリリースするのが今回の『JAM!』なのだが、それぞれの新曲に加え、共作のみならず、2バンドのメンバー全員でレコーディングまでしたコラボ楽曲が2曲も収録されているのだから、相性の良さもさることながら、2バンドの出会いが新たな可能性に繋がったことが窺える。

FILTERとTHE LOCAL PINTSそれぞれの魅力を改めてアピールしながら、2バンドの個性が絶妙に溶け合うという意味で、素晴らしいスプリットEPが完成した。しかし、2バンドの出会いがスプリットEPと、11月17日から始まるそのリリース・ツアー「JAM! TOUR 2023」だけで終わらなかったところにこそ大きな意味があると思う。FILTERから豊方亮太(G/Vo)とあべス(Key/Vo)、THE LOCAL PINTSからKanako(Vo/G)とMakoto(G/Cho)が参加した座談会を読んでいただければ、新たな可能性をさらに大きなものにしていこうと考えている2バンドの活動に音楽を愛する人なら期待せずにいられないはずだ。


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コミュニティの中で自分たちの居場所を作って、それが結果的に広まっていくべき

─まずはFILTERとTHE LOCAL PINTSの出会いから教えていただけますか?


豊方亮太:サブスクでたまたまTHE LOCAL PINTSの「Cheers!」という曲を聴いて、度肝を抜かれちゃったんです。日本国内でこういうインディ・ロックをちゃんとロックにやっているバンドってそんなにいなかったというか、僕たちもそこを目指していたんですけど、「Cheers!」を聴いたとき、「こういう曲をやりたかった!」と思うくらい感銘を受けたんです。それで、どんなバンドなんだろうって調べたら、共通の知り合いが多いことや、どうやら同じようなシーンのバンドっぽいということがわかってきて、「あぁ、出会うのはもう時間の問題だな」と勝手に思って(笑)、人伝にMakotoくんの連絡先を聞いて、僕らのイベントに呼んだんです。

Makoto:初対面が初対バンだったんですよ。

─それが......。


Kanako:去年の12月です。

豊方:だから、速攻でいろいろ決まっていったんですよ。

Makoto:まだ出会ってから1年経ってないんです。

Kanako:急接近だったね(笑)。

─おふたりは声を掛けられて、どんなふうに思いましたか?


Makoto:連絡をもらったとき、僕らの曲をちゃんと聴いてくれたことがわかったし、なおかつ共感してくれたんですよね。自分も連絡をもらってからFILTERを聴いて、目指しているところは結構近いのかなと思いました。だから、打ち解けるまでに時間は掛らなかったですね。年齢も近かったんですよ。

豊方:多少のプラスマイナスはあるけど、みんな、同世代なんです。

Makoto:見てきたアニメも一緒で(笑)。

豊方:そうそう、同じカルチャーを浴びながら生きてきたみたいなね。

─あぁ、音楽以外のところも。


Makoto:しかも、みんな、いい大人じゃないですか(笑)。そこもいいなと思いました。僕はTHE LOCAL PINTSが2個目のバンドなんです。前のバンドが解散しているから、新しいスタートでもありつつ、ちょっと2周目っぽい気持ちもあって。FILTERも同じように2個目のバンドっていうメンバーが多くて、そういうところでも話が合うんですよ。

豊方:だから、一緒にいても居心地がいい。大人同士だから、「そこは話さなくてもわかるでしょ」みたいなところは、今回、一緒にプロジェクトを進める上でも助かったかもしれないです。

Makoto:恐らく20代前半でこういうことをやろうとしたら、お互いに尖がって、ぶつかるところがあったかもしれない。

豊方:確かに。もうちょっととっちらかってたかもしれないね。

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─目指すところが似ているとおっしゃっていましたが、そこをもう少し具体的な言葉にするとしたら?


豊方:Makotoくんが言ったのは音像的なところだと思うんですけど。

Makoto:お互い野外ステージが似合うような音というか。

豊方:そうだね。ロケーションを意識した音楽をやってるよね。

Makoto:実際、お互いにフェスも主催していることも含め、音楽の作り方や音を飛ばしたい方角が似ていると思うんですよ。

豊方:確かに確かに。あとは客席の全世代感っていうのかな。FILTERは「CAMPASS」ってフェスを主催しているんですけど、動員を含めた数字を無理に追いかけていないというか、もちろん、そこも大事だとは思うんですけど、きちんとしたコミュニティの中で、しっかりと自分たちの居場所を作って、それが結果的に広まっていくべきだし、広まっていくと思っているんです。そういう空気感というか、音楽至上主義というか。

Makoto:うん。

豊方:音楽ありきだよなってところは似ているんじゃないかな。THE LOCAL PINTSを聴いていると、この人たち、ここは絶対に譲らないんじゃないかなってところがあると思うんですよ。でも、そこは話し合ったわけじゃないから、今、言いながらちょっと冷や冷やしているんですけど(笑)。

Makoto:いや、間違ってないと思います。

Kanako:FILTERの音源を聴いたとき、私は客席というか、聴いている人の巻き込み方が同じなんじゃないかなって感じました。「おまえら、もっと来いよ!」って煽るバンドもいるし、コール&レスポンスで一緒に盛り上げていくバンドもいるし、クールにキメるバンドもいるしって中で、FILTERはオーディエンスと一緒に場を作りたい人たちなんだって思うんですよ。

あべス:そうかもしれないですね。

Kanako:さっき亮太くんがコミュニティって言葉を使ってたけど、THE LOCAL PINTSには「CRAFTROCK FESTIVAL」というフェスがあって、「CRAFTROCK BREWING」というお店がある。同じようにFILTERにも「CAMPASS」ってフェスがあって、そこに集まる人たちを特に大事にしている。そういうところにシンパシーを感じました。

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─野外ステージが似合う音、コミュニティを大事にしていることに加え、もうひとつ根っこにパンクがあるという共通点もあると思うのですが。


Makoto:ありがとうございます(笑)。亮太くんも元々パンク・バンドやってたよね?

豊方:やってました。Makotoくんもね?

Makoto:そうだね。

豊方:だから、今回のレコーディングでもNOFXだとか、ランシドだとか、脱線すると、大体、パンクの話をしてたっていう。

Makoto:そうそう(笑)。 

豊方:やっぱりルーツが一緒だと、そういう心地よさはあるよね。

Makoto:亮太くんがさっき言ってた、絶対に譲らないところが確かに自分にもあって、それもパンクが根っこにあるからこそなのかな。基本的に誰も置いてけぼりにしないってことと、自分たちがかっこいいと思っているものをやっていきたいってところは絶対ブレないし、曲のアレンジの部分でもがっつり通ってきた音楽ジャンルではあるから、出てしまうというか、アプローチのどこか根底にパンクの影響はあると思います。

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─Kanakoさんもパンクは通っているんですか?


Kanako:学生時代は聴いてました。だから、通ってはいますけど、音楽的なルーツはR&Bですね。でもハートはめちゃくちゃパンクです(笑)。

豊方:確かに。Kanakoさんってちゃんと芯があるというか、いい意味で我を通す人だっていうのは、今回、曲を作りながら思いました。

気づいたら、曲を作ることが決まっていて、話が一気に進んでいった

─そんなFILTERとTHE LOCAL PINTSがスプリットEPを作ることになったのは、どんなきっかけからだったんですか?


Makoto:対バンして、仲良くなり、その後すぐ我々がライブを企画して、今年の1月にFILTERを誘ったんです。「CRAFTROCK BREWING」の店内のライブだったんですけど、FILTERと2マンライブをしたときに「何かやろうよ」って。

豊方:うん。

Makoto:誰が言い出したのかも、どんな会話だったのかも、今となっては憶えてないんですけど(笑)、いろいろ思いついた中でいちばん実現できそうだったのがスプリットの制作であり、楽曲を一緒に作ることだったんです。

豊方:一緒に楽曲を作ろうっていうのが最初だったかな。そこから、だったら作品にしようよって。

あべス:その日の打ち上げでToruさん(THE LOCAL PINTS、B/Cho)が「一緒にやるんだったら、こういう曲がいいよね」っていろいろ聴かせてくれたんじゃなかったっけ。

豊方:気づいたら、曲を作ることが決まっていて、次の日にはLINEグループもでき、話が一気に進んでいったんです。

Makoto:そこからずっとギアは入りっぱなしでしたね。

豊方:どちらかが正式にオファーしたってわけではないんですよ。

Kanako:いつの間にかつきあってるカップルみたい(笑)。

豊方:どっちがコクったっけみたいな。いやいや、おまえでしょ。

Kanako:いやいや、そっちでしょみたいな(笑)。

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─意気投合して、一緒にツアーしようとか、スプリットを出そうとかって話には、まぁ、なるとは思うんですけど、一緒に曲を作ろうっていうのは、なかなか珍しくないですか?


Makoto:そうですね。

豊方:THE LOCAL PINTSもFILTERもどっちもそういうことに免疫があるんですよ。「CRAFTROCK BEWING」のライブはアコースティックだったんですけど、アコースティックでライブやることも含め、結構柔軟なんです。「この曲、パーカッションが欲しいね」「じゃあ、誰かゲストに呼ぼうか」みたいなことはFILTERはよくあるし、外から誰かを迎えたり、フィーチャリングしたりってことが、そんなに頭でっかちに考えることなくできちゃう。THE LOCAL PINTSもそうでしょ?

Makoto:そうそう。

豊方:だから、曲を共作しようってなったときも、「それってどうやるの?」って誰も思ってなかった。

─なるほど。実際の楽曲制作はどんなふうに進んでいったんですか?


Makoto:デモのお披露目会がまずあったんだよね。

豊方:3、4曲ずつくらいFILTERとTHE LOCAL PINTSで持ってきて、聴かせ合ったんですけど、そこでルールがいろいろ決まったんです。今回、合作は「Everything」と「Happy-Go-Lucky」の2曲なんですけど、作曲はFILTERとTHE LOCAL PINTSで1曲ずつやろうって。

Makoto:1曲目の「Everything」はFILTER作曲、THE LOCAL PINTS編曲で、4曲目の「Happy-Go-Lucky」はTHE LOCAL PINTS作曲で、FILTER編曲なんです。

豊方:作詞はどちらもKanakoさんがやってくれて。

Kanako:グルーブとキーと全体の曲の感じがわかるデモを、それぞれ持ってきて、みんながピンと来たものを選んで、「じゃあ、これにメロディを付けようか」って、その場でメロディを付けて、まずメロディを決めてというふうに作っていきましたね。


─「Everything」の作曲はFILTERですが、どんな曲を作ろうと考えたんですか?


豊方:僕は元々、FILTERが拡大して、人数が増えたときの夢があったんですよ。FILTERは今、5人ですけど、10人だったらこういうことができるとか、8人だったらこういうことができるとか、それが今回やっとできるぞっていうのと、やっぱりTHE LOCAL PINTSにはKanakoさんという素晴らしいシンガーがいるので、その歌声を生かすにはこうだよねとか、FILTERの高野(優裕、G/Cho)とMakotoくんにはギター・ソロの掛け合いをしてもらいたいとか、やりたい夢をどんどん入れていきました。1バンドじゃできないことを詰め込んだという意味では結構アイデアとしてはシンプルだったと思います。

─「Everything」はFILTERらしい楽曲にR&Bの要素やアメリカのメインストリームのポップスのエッセンスが加わった印象があります。それはTHE LOCAL PINTSの持ち味ですよね。


豊方:みんなで集まったとき、「こんな感じの曲なんです」と僕がアコギを弾いてたら、Kanakoさんが歌い始めて、そのメロディが僕には絶対出てこないものだったので、即採用したんですよ。

あべス:そのとき、「亮太くん、ラップやったらいいじゃないですか」って提案もしてくれて。

豊方:FILTERだけでやってたら絶対やってなかったことができたのでめちゃめちゃお気にです(笑)。

Kanako:「お気に」!(笑)

─演奏は両バンドのメンバー全員でやっているんですか?


豊方:そうです。だから、ツアーで「Everything」と「Happy-Go-Lucky」を演奏するときは、全員がステージに上がります。

Kanako:うちのToruさんはベースをアコギに持ち替えて、亮太くんと私はハンドマイクで歌います。

─もう1曲の「Happy-Go-Lucky」は、THE LOCAL PINTSらしいポップ・ソングです。


Makoto:そうですね。ゴスペルっぽい雰囲気や跳ねたリズムも入れて、パーティー感を出してみました。全員でやるなら、こういう音楽がいいなというコンセプトで作ったんです。自分がコード進行と、ざっくりとした構成とメロディを持ってきて、アレンジはFILTERのギターの高野くんと一緒にビールを飲みながら作りました。ボーカルのアンサンブルは、Kanakoに作ってもらいました。

Kanako:ゴスペルって話が出ましたけど、私、高校の合唱部を舞台にした『glee/グリー』ってアメリカのドラマに影響を受けていて。うちら(日本)でいう『ハモネプ』的なやつだと思うんですけど(笑)、『glee/グリー』を見たとき、男女混成で掛け合いながら歌うってすっごい楽しそうに見えるんだなって思ったんです。野外でもそういう光景を作れたらいいと思って、亮太さんとあべスさんと私の3人で完成させる曲にしたいと考えながら主旋律は書いて、どこでハーモニーを入れていったらいいか含め、掛け合いや輪唱を大事にしながら作りました。

Makoto:あと、あべスちゃんのピアノが光る曲になったと思います。THE LOCAL PINTSにはいないけど、FILTERにはせっかくキーボードがいるんだからってことで、ピアノの音色に押し出しました。

Kanako:レファレンスは大好きなマイケル・ブーブレの「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」なんですけど、サビだけは本当にシンプルにして。だって、サビのメロディはドラミファソラシドですからね(笑)。

Makoto:キャッチーだよね。

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─冒頭のシンガロングはゴスペルや『glee/グリー』の影響もありつつ、FILTERならではのものでもあるし。


Kanako:それらが混ざったものです。日本じゃ、あんまりないですよね、こういうグルーブは。最近、テンポが速くて、言葉数が多くて、TikTokとか、(Instagram の)Reelsとかでも15秒にぎゅっと詰まっている曲が好まれてると思うんですけど、「Happy-Go-Lucky」は逆に引き算した曲なので、フル尺で聴いても楽しめるんだって感じてほしいです。

Makoto:賑やかな曲だから、耳持ちがいいというか、つるっと聴けると思います。

─「Everything」「Happy-Go-Lucky」ともに、それぞれのバンドの良さがうまい具合に混ざり合っていると思います。聴きながら、こんなに混ざり合うことはなかなか珍しいんじゃないかと思いました。


豊方:ほんとそう思います。

Kanako:聴いた人にもそう思ってほしいですね。

(「Sun Goes Down」は)東南アジアの寺院が見えるような曲にしたかった

─そんな2曲に加え、それぞれの新曲が1曲ずつ入っていますが、FILTERの「Sun Goes Down」、THE LOCAL PINTSの「Aftertaste」、対照的な2曲になりましたね。


豊方:それもめっちゃおもしろかったです。

─前もって「曲調はどうする?」という話し合いはしたんですか?


豊方:いや、敢えて話し合わなかったんですよ。

Makoto:うん、特に話さなかったね。

豊方:「単独曲は自由にやるってことでいいんじゃない?」ってやった結果、振り幅がすごかったんで、笑っちゃいました。

Makoto:通しで聴くと、よけいにおもしろい。

豊方:すごいスプリットになったと思います。

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─「Sun Goes Down」は、FILTERとしてはどんなことをやろうとした曲なんですか?


豊方:自由にやろうよと言いつつ、意識はしてたんですよ。「THE LOCAL PINTS、どういう曲で来るかな」と考えたときにカウンターしたかったわけじゃないですけど、FILTERとTHE LOCAL PINTSがいて、FILTERにしかできないことって何だろうって今一度考え直して、そこってやっぱりFILTERなりのドレミというか、音階の移動の使い方とか、シンガロングとかだろうって。その上で、若干、せつない感じや、より壮大なことをやってもOKだろうって客観的に思ったので、それをふんだんにやりました。実は難産だったんです(笑)。もうちょっと明るめの曲が候補としてあったんですけど、FILTERならではの良さはあまりないと思っていたときに「Sun Goes Down」が突然降ってきて、完成させたら、これぞFILTERっていう曲になりました。背伸びせずに、これがFILTERだよねって感覚で作れたので、これもお気にです。

Kanako:「お気に」! 2回目!(笑)。

あべス:実は、私は直前までもうひとつの曲が良かったんですよ(笑)。

豊方:そうなの!? 知らなかった(笑)。

Kanako:そっちの曲もいつか聴いてみたい。

あべス:でも、亮太さんは自信がすごくあったみたいで、「絶対こっちで行く」という意気込みに、そこまで言うなら信じましょうって。

豊方:あ、鼻息荒かった?(笑)

あべス:でも、今は私もお気にです(笑)。

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─聴きどころは、どんなところだと考えていますか?


豊方:スケール感ですかね。今まで使ってなかったスケール感の出し方というか、言葉で説明するのは難しいんですけど、このアプローチって実はなかったというのがやれていると思っていて。たとえば、途中でシンセだけになるところとか。

あべス:ああ、確かに。

豊方:あそこを強気にがっと行くっていうのは、新しかったと思います。

あべス:打ち込みを前提で作ることもなかったからね。

豊方:そういう意味では、結構チャレンジングな曲になりましたね。

Kanako:結構スピリチュアルな曲ですよね。

豊方:あぁ、東洋の音階を、実はFILTERはずっと意識しているので、聴いたときの多国籍感というか。

Kanako:オリエンタルでスピリチュアルというのをすごく感じた。

豊方:「オリエンタル感が欲しい」ってメンバーにもずっと言っていて。ギターのフレーズにしても、それだと歌謡曲の音階になっちゃうから、音階を抜こうってことをずっとやってきてるんです。ほんとは理論的にやったほうがいいんだけど、いつも感覚的にやっちゃうから、それをぎゅっと詰め込んだって感じかな、今回は。

Kanako:聴き手としては、教えを乞うみたいな曲だなって思って、「ほぉ、こういうアプローチがあるんだ。かっこいい。亮太さま!」ってなりました(笑)。

豊方:東南アジアの寺院が見えるような曲にしたかったんですよ。FILTERには元々あったものなんですけど、THE LOCAL PINTSにないエッセンスだと思ったので、今でしょって選んだって感じですね。

あべス:キー調整も何個か試して、このキーがいちばんオリエンタルに聴こえるんじゃないかって上げたり下げたりして、今までの中でいちばん、キーが低い曲になったんじゃないかな。

豊方:だから、ちょっと歌いづらい(笑)。でも、最近、キーを下げていく傾向にはありますね。長時間ライブしたいから、単純に(笑)。

─会心の1曲になった、と。


豊方:そこはもう、ほんとに会心の1曲だと思ってます。

Kanako:私のトップ1、2に来てます。

豊方:ホメてくれるなぁ(笑)。

Makoto:送られてきたときは、結構うわってなりましたよ。

Kanako:やられたって。

豊方:よかった。

Makoto:いい意味で、ライバルとしてもリスペクトがあるから、その相手から会心の一撃が来て、我々もがんばらなきゃってなりました。

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「Aftertaste」は歌詞を書く上で「心の引き出し」をすごく大事にしている

─そのタイミングでTHE LOCAL PINTSは「Aftertaste」は作り始めていたんですか?


Makoto:実は持ち曲としてすでにあったもので、音源として世にタイミングを探っていたんですよ。

Kanako:結成してすぐに作って、唯一レコーディングしてなかった曲なんです。大事な曲なんですけど、これまでTHE LOCAL PINTSはずっとシングルをストリーミングで出していたので、1曲を立たせるということと、明るくて、爽やかで、ビールが楽しいうまいの曲を優先してきたんです。ビールを含め、お酒がおいしいときって楽しいときと何かを思い出したエモいときだと思うんですよね。心の引き出しを開けると私はよく言うんですけど、心の引き出しを開ける系もエモうまいと考えたとき、「Saison」って過去に出した曲は1曲で立たせることができるグルーブがあったんですけど、「Aftertaste」はそれだけで出してしまうと、THE LOCAL PINTSがお客さんから言ってもらってる多幸感からちょっとずれると思って。だから、大事にしてたし、ライブではやってたけど、出さなかったんです。でも、今回、スプリットを出すことになったときに書き下ろしもしていたんですけど、結局戻ってきて、そこはFILTERと同じですよね。THE LOCAL PINTSにしかできないことを考えると、バラードとか、自分が持っている歌唱の表現力とかを生かしたほうが、うちらのルーツになっているテイラー・スウィフトとか、ジョン・メイヤーとかが感じられるような曲になるんじゃないかってところで「Aftertaste」を選びました。

Makoto:作品の中で機能する曲だと思っていて。これまで出すタイミングを探っていたときも、「シングルのB面としても効果的だよね」って話も出ていたんですけど、今回、単独曲も用意するというときにコラボ2曲と「Sun Goes Down」の並びに「Aftertaste」を差したら、作品としても良いし、我々の新しい魅力を表現するには持ってこいだと思ったんです。

─そんな「Aftertaste」のアレンジのポイントは?


Makoto:ギタリストとして言うと、今まで弾いたことがないくらい切ないギターをフィーチャーしています。ギタリストとして大好きなジョン・メイヤーに対する僕の愛を詰めこんだギター・アレンジは、ぜひ聴いてほしいです。

Kanako:私ひとりでこの曲を書いたら、ものすごいバラードになっていたと思うんですけど、Makotoさんがいて、Toruさんがいると、こんなにエモい曲もシンコペ(-ション)感が出るんだって思いました。聴いていても16ビートを感じるんですよ。

Makoto:そうだね。バラードって結構アレンジが難しくて、どうかするとベタすぎるというか、ちょっとダサくなるところもあって。だから、バラードなんだけど、洒落た感じにしたいというのはありましたね。

Kanako:バラードなんですけど、軽快さはちゃんとあるんですよ。

Makoto:ストリングスも入れて、さらっと聴けるけど、もう1回聴きたくなるようなちょっと洒落た感じのロック・バラードになったと思います。

─ギター・ソロが思いの外、エモーショナルと言うか、バラードの割にちょっと激し目で。


Makoto:結構ロックですよね。自分としても、これまではここまでして来なかったアプローチを試すには、いい機会になりました。

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─すでにライブでやっている曲ではあるけれど、音源としては新たな一面見せることができる曲になった、と。


Kanako:なりました。

豊方:デモを聴かせてもらったとき、さすがだなと思いました。やっぱすげえやと思って、それと同時にこの人たちも自分たちにしかできないことをちゃんと考えてたんだなってめっちゃ感じて。だからこそ、この選曲なんだろうなってすぐわかったので、これはすごいスプリットになると思ったし、信頼感が爆上がりました。

あべス:最高の曲ですよね。

Makoto:ホメるねぇ(笑)。

あべス:完成した音源を早く聴きたくて。

Kanako:すごく迫られたもんね。「早く完成させてください」って(笑)。

あべス:ずっと聴きたくて、ストリングスまで入れたテイクを送ってもらって、聴いたときめっちゃ感動しちゃって、今、ストリングスのパート、練習してます(笑)。こうやって入れるんだって。

Makoto:単独曲のアレンジもお互いに刺激を与えていると思います。

豊方:うちらにはできないもんな。バラードであそこまで突っ込めない、今のうちらには。これはすごいと思いました。

Makoto:ありがとうございます。

Kanako:さっき「心の引き出し」と言ったんですけど、「Aftertaste」は歌詞を書く上でその心の引き出しをすごく大事にしていて、歌詞に《Monday》《Tuesday》《Wednesday》とか、《September》から始まって、《December》までとか入れているんですけど、それは曜日とか月とかが入ると、聴く人の記憶と結びついて、心の引き出しを開けやすいかなと思ったからなんです。歌詞のテーマとしては、自分の今までの恋愛のことを書いてはいるんですけど、聴いた人も一緒に心の引き出しを開けて、解放して欲しいという思いも込めました。実は『JAM!』ってスプリットのタイトルは知らない間に決まっていたんですけど(笑)、「Aftertaste」を聴いてもらって、私が心の引き出しに閉じ込めた思いとリスナーが閉じ込めた思いをごった煮したいんですよ。

豊方・あべス・Makoto:なるほど!

Kanako:『JAM!』ってタイトルを聞いたとき、普段だったら何かしら言う私が何も言わなかったのは実はかなりしっくり来てたからなんですよね。

豊方:へぇ、そうだったんだ。

Makoto:『JAM!』というタイトルは、亮太くんと自分で決めたんですよ。

豊方:最初は「Jungle Juice」って言ってたんですけどね。

Kanako:あ、それ聞いた憶えがある。

Makoto:要はFILTERとTHE LOCAL PINTSの8人が混ざっている。その混ざった状態がひとつの塊として機能しているという様子を表したくて、そのひとつのアイデアとして「Jungle Juice」があったんです。「Jungle Juice」ってファミレスのドリンクバーで、全種類をひとつのグラスに入れたやつのことをいうんですけど、「でも、見た目が気持ち悪いよね。結局、おいしくないし」ってところから、「じゃあ、JAMは?」ってアイデアが出て。

豊方:なんとかJAMとか、JAMなんとかって考えてたんですけど、「もうJAMにびっくりマークで良くない?」ってなりました。今はもう、めちゃめちゃしっくり来てます。

Makoto:8人のカラーが混ざり合って、ひとつの味になることをうまい具合に言い表していると思います。

ここに帰ってきたら、温かい場所が待ってるってお客さんにも感じてもらいたい

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─さて、リリース後は「JAM! TOUR 2023」と題して、2バンドで全国5カ所を回るわけですが、どんなツアーにしたいと考えていますか?


Kanako:それぞれのライブのゲストにコミュニティを意識した対バンを選んだんですよ。札幌と福岡は本州を離れるので、新しい出会いを求めたいと思って、地元に根付いているバンドと一緒にやって、そのお客さんたちも巻き込みながら楽しみたいと思っています。残りの3カ所は、自分たちに縁もあって、親和性もありながら、少し違うベン図を描いてくれるようなバンドを選びました。名古屋がbacho、大阪がさよならポエジーとSubway Daydream、東京がKOTORIです。KOTORIは共通の友達で、なおかつ、どちらもすごく仲良くしているバンドなので、東京は絶対、KOTORIと一緒にやりたいと思いました。さよならポエジーとSubway Daydreamは、どちらも歌もので、洋楽っぽいところもあるバンドなので、ずっと一緒にやりたかったんですけど、ちょっと違う界隈にいるから、この機会にぜひと思って声を掛けました。bachoはもうパンク魂を露わにするということで。

豊方:パンク兄貴に降臨してもらいます。

Kanako:3カ所それぞれに違うコンセプトで選んでいるんですけど、輪と輪を繋いで、繋がるんだけど、どん被りしない、同じ界隈で盛り上がっているというよりは、お互いが広げていくようなキャスティングをイメージしました。

─FILTERとTHE LOCAL PINTSの共演も、もちろんあるんですよね?


Makoto:はい。それがいちばんの目玉かもしれないです。もちろん、全カ所でやります。

─今回のスプリットをきっかけに新しいムーブメントを作りたいとも考えているそうですね?


豊方:はい。ツアーは12月9日に終わるんですけど、「それで終わりにしたくないよね。せっかくこのグルーブができあがったんだから」ってことで、他のバンドも巻き込みながら、今後もTHE LOCAL PINTSとFILTERが集まると、楽しいことが起きるという感じでイベントを開催することも含め、いろいろやっていきたいと考えているんですよ。

Makoto:定期的なのか、不定期なのかそこはやってみてってところがあるんですけど、この輪を絶やさないようにやりたいと思っています。

Kanako:コミュニティが共通項としてあるんだから、やっぱり帰ってくる場があったほうがいいと思うし、ここに帰ってきたら、温かい場所が待ってるってお客さんにも感じてもらいたいので、それにはやっぱり続けていくことだと思うんですよ。

豊方:ある意味もう1個のホームを手に入れた感覚もあるんです。親和性のある仲間を見つけて、「CAMPASS」以外の活動の基盤ができたと思っていて、今度はそれを、友達を招ける場所にしていきたいんです。それが今度のツアーでもあるし、今後もそれを続けていきたいです。みんな、しっかりと考えながら、しっかりと素晴らしい曲を書いていることがもっと認められていったらいいなっていうのはありますね。

─巻き込みたいバンドはもう考えているんですか?


Makoto:the band apartとは仲良くなりたいです。僕は大ファンなので(笑)。

Kanako:私もです(笑)。

─FILTERは誰かいますか?


豊方:そうですね。今回、ジャケットを描いてくれたのが、KONCOSってバンドの(古川)太一さんで、アー写を撮影してくれたのがBearwearってバンドをやってるKazmaって奴なんですけど、そういうクリエイターも実はバンドをやっていて、僕たちも仕事をしていて、いろいろなスキルを持っていて、それが混ざって混ざって、ひとつの作品を作り上げているところがあるので、個人的にはそういう人たちがバンドマンとして一堂に会せる場所を1回作りたいです。

Kanako:私もラブコールしていいですか? 私はR&Bとヒップホップの出自がある中で、ムーブメントを起こしているバンドとしてリスペクトしているのが韻シストなんです。中学生のときに超度肝を抜かれて、そこから生バンド・ヒップホップってかっこいいと思うようになってから、「CRAFTROCK FESTIVAL」で超絶かっこいいと思ったのがOvallなんです。その2バンドは自分のルーツ的にはドンピシャなので、いつか呼びたいと思ってます。

豊方:やりたいことがいっぱいありますね。

Makoto:自分たち単体で誘ってもいいんですけど、2バンドでやることに意味があるんで。

豊方:みんなも乗っかりやすいんじゃないかな。まずはこのツアーで存在感を示せたらなっていうのは思ってます。

Makoto:自分のカラーを持っているバンドと交わりたいですね。そして、それを吸収したい。何せ、シーンと呼べるものがないところを目指しているので、ぐっと一段上に上がるようなことをしたいですね!

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取材・文:山口智男
撮影:RYO SATO

RELEASE INFORMATION

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FILTER,THE LOCAL PINTS「JAM!」
2023年11月8日(水)
Format:Digital
Label:CHEERS MOUNTAIN RECORDS

Track:
1.Everything
2.Sun Goes Down
3.Aftertaste
4.Happy-Go-Lucky

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LIVE INFORMATION

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