SENSA

2023.10.25

キャリアを重ねた4人が、今フレッシュに鳴らす「歌ものポップス」──Guiba『ギバ』の多面体な魅力を掘り下げるメンバー個別インタビュー

キャリアを重ねた4人が、今フレッシュに鳴らす「歌ものポップス」──Guiba『ギバ』の多面体な魅力を掘り下げるメンバー個別インタビュー

South Penguin、Helsinki Lambda Club、Group2、odol、Tocagoとそれぞれのバンドで活動するメンバーが集まり、それらのどのバンドとも異なる歌もののポップスを鳴らす4人組・Guibaがファーストアルバム『ギバ』を完成させた。昨年夏にアカツカの「歌もののポップスをやりたい」という呼びかけに応える形で集まったこのバンドは、サザンやユーミンといった日本のポップス~歌謡曲をモチーフにしつつ、2010年代を通じて日本のインディシーンで活動をしてきた感覚でそれをフレッシュに鳴らしている。South Penguinのサイケでエクスペリメンタルな音像やアンサンブルからでも確かに感じられたアカツカのポップセンスが、MIDIベースの構築的なアレンジによって、その魅力を最大限に発揮しているのは非常に現代的であるとも言えよう。SENSAでは2度目となる今回の取材は、前回の自己紹介的な全員インタビューに続き、メンバー個々に話を聞くことによって、バンドの実像をより明らかにするとともに、『ギバ』というアルバムの多面的な魅力を掘り下げた。

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「バンドを組んだときから、ノートの一番最後に『12月31日、紅白』って書いてあったんですよ」礒部拓見(Dr/South Penguinサポート、Tocago)

─礒部くんはSouth Penguinのサポートもやっているわけですが、アカツカくんとはもともとどうやって知り合ったのでしょうか?


礒部:僕早稲田のサークル出身なんですけど、アカツカさんもSouth Penguinを始めたきっかけが早稲田のサークルで。僕とは別のサークルだったので、当初はお互い知らなかったんですけど、パーカッションを変えるタイミングで、僕のサークルの先輩が入ったんですね。宮坂遼太郎っていう、折坂(悠太)さんとかでも叩かれてる方なんですけど、そのタイミングでドラムとギターを変えたいっていう話があって、僕と今South Penguinでギターを弾いてる宮田泰輔も同じサークル出身で、そのときに宮坂さん経由で入った感じです。で、アカツカさんとはよく飲みに行ったり、バンドでもプライベートでも仲良くしてもらってたので、それもあって、今回誘ってもらったところもあるかもしれないです。

─「歌もののポップスをやる」ということに関してはどう感じていましたか?


礒部:今でこそGuibaもTocagoもやってますけど、前はSouth Penguinのドラムしかやってなかったので、「歌ものちょっと心配だな」みたいなところはあったんです。ただ僕は一番のルーツがaikoさんなので、そういう意味では意外と向いてたりするかなと思いながら、前向きに始めました。こういう話はアカツカさんともずっとしてて、僕が本当に「聴いた」と言い張れるのはaikoさんとボブ・マーリーの2人しかいないっていう(笑)。さっき言った大学のサークルも、ジャマイカの音楽をやってるサークル(中南米研究会)だったりして。ちなみに、今aikoさんのドラムをやられてる神谷洵平さんのアシスタントをたまたまご縁あってやらせていただいてて、本当に嬉しいです(笑)。

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─礒部くん個人のドラマーとしてのルーツについて、もう少し教えてもらえますか?


礒部:aikoさんは音楽体験としてのルーツなんですけど、ドラムに関してはジャマイカの音楽をやり始めてからアプローチとかを研究し始めたので、ボブ・マーリーのザ・ウェイラーズでドラムを叩いてたカールトン・バレットのプレイ動画とかめちゃくちゃ見ましたし、あとはスティーヴ・ガッドとか、実直だけど熱量があるみたいなドラマーに昔から憧れてるところはありました。大学時代はドラムだけじゃなくパーカッションをやったりもしてたので、リズムのかみ合いとかの考え方はそういうルーツがあったから、South Penguinには生かしてるし、Guibaでもそういうところが生きてくるだろうなと思ってますね。

─とはいえ歌もののポップスのバンドをちゃんとやるのは初めてだと思うんですけど、実際やってみてどうでしたか?


礒部:僕は結構いびつな音楽遍歴というか、シンガーの人のサポートみたいなことをやってきたわけじゃなくて、その時やってるバンドの色に対してどういう風にプレイしていくかを考えながらやってきたから、結局Guibaに関してもしっかりとポップスをやれてるかっていうのはちょっと不安になるときはあります。いわゆるJ-POPみたいなプレイはできてないかもしれないですけど、他のメンバーもいろいろ個性があって、それが結果いい色になってるんじゃないかなと、ポジティブに考えてます。最初は「サザンになりたい」って言って始まったんですけど、サザンにはなれなかったですね(笑)。

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─最初の頃に作った曲のドラムは打ち込みだそうですが、その後レコーディングのスタイルはどう変化しましたか?


礒部:最初に出した4曲は全部打ち込みでやってたんですけど、それ以降の曲に関しては神谷さんのご自宅でドラムだけ録らせていただいて、一曲ごとにスネアを変えたり、シンバルを変えたり、そういう録り方をしました。Tocagoだとみんなでいっせーのせで録ってるんですけど、Guibaはドラムだけ録って、みんなに送って、そこに重ねていく作り方でした。

─他のバンドでの活動もある中で、「Guibaだからこそこういうアプローチができた」という曲をアルバムから具体的に挙げてもらえますか?


礒部:一番は「ほつれ」ですかね。僕これまでドラムを叩くときに、音色として生々しさをそんなに出さないようにしてたんですよ。South Penguinはちょっとエレクトロ、ダンスみたいな要素があるので、ちょっとミュート強めでやってたんですけど、今回は楽器の鳴りを意識して、アコースティックに近いような音色なんです。あとは隙間で歌にかみ合っていくとか、歌に近いようなアプローチですかね。South Penguinはサポートですけど、Guibaはメンバーなので、ちゃんと自分のバンドだと思ってもらいたいのもあって、かなり目立つフレーズを入れてる曲です。個人的な話だと、Tocagoを始めたのは僕の中で大きくて、South Penguinはバンドに対して歌が不自然に乗っかってるみたいな感じでやってるんですけど、歌に寄り添ってドラムを叩くっていう意識はTocagoを始めてから芽生えた意識だったんです。それを上手くGuibaにも使えたかなと思ってますね。

─自分のプレイ抜きで、アルバムの中で単純に好きな曲を挙げてもらえますか?


礒部:1曲目の「灰」ですかね。これは結構短い曲なんですけど、すごく爽やかな、アカツカさんがシーブリージーな曲とか言いそうな(笑)、これは自分がやってても楽しいですし、人が聴いてても楽しいような曲だから、かなり気に入ってますね。

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─ちなみに、aikoさんが好きなのは何かポイントありますか?


礒部:一番はライブを見たときの「楽しい!」っていう、純粋にそこですかね。今Guibaはライブよりもレコーディングをいっぱいやってる状況ですけど、せっかくポップスを、いろんな人に聴いてもらいたいっていうモチベーションでやってるので、ライブで楽しいと思ってもらえるようなところは真似したいなと思います。なのでGuibaのライブではレコーディングとかリハーサルでやってないことを1個ぐらいやりたいと思っていて。バンドメンバーが「あ、何かやってきたな。じゃあ自分も。」みたいになると、ライブっていう意識がグッと上がる気がして、そういうスパイス的な要素を入れようと心がけてますね。

─最後に、Guibaとして成し遂げたいことを教えてください。


礒部:紅白です(笑)。バンドを組んだときから、ノートの一番最後に「12月31日、紅白」って書いてあったんですよ。ちょっと絵空事かもしれないですけど、みんなそれぐらいはやってやるぞという気概でやってると思いますね。

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「今『ギターソロはいらない』とか言われてる中でやるのはいい気分ですけどね」熊谷太起(G/Helsinki Lambda Club、Group2)

─熊谷くんはHelsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)やGroup2でも活動しているわけですけど、バンドをもう一個増やすことに対して迷いはありませんでしたか?


熊谷:最初Group2だけやってて、ヘルシンキに入るときは結構悩んだんですけど、今回は全く、何も迷わなかったです。本当に軽い気持ちで、「楽しそうだし、やっちゃおう」みたいな感じ。最初はこんなにちゃんと活動するとも思ってなくて、本当に遊びの延長でやるぐらいかなと思ってたら、意外としっかり活動するようになって、そこは嬉しい誤算ではありますね(笑)。今年Guibaのアルバムとヘルシンキのアルバムを作ってるときが結構重なってて、そのときとかちょっと忙しかったですけど、Guibaが一番いわゆる歌もの的な曲が多くて、そういう意味ではすごく新鮮で、自分のギターを考えさせられる機会にもなってるなと思いますね。

─もともとアカツカくんとは知り合いだったというのがありつつ、「歌もののポップス」をやってみたいという気持ちもあったんですか?


熊谷:いや、単純にアカツカとはよく遊んでたので、その流れで、バンドできたら楽しいなっていうのだけでしたね。歌ものがっていうのは特に、わりと何でも良かった。ただSouth Penguinとアカツカ自体の人柄って結構ギャップがあると思うので、それを知った上で、歌ものをアカツカがやるっていうのはいいなと思いましたね。

─どうギャップがあるんですか?


熊谷:South Penguinだけ見てると結構シュッとした、おしゃれな人物像を思い描くと思うんですけど、それとは全く逆というか(笑)。全然シュッとしてないし、めちゃお喋りですし、ポルノグラフィティのものまねとかをよくやるんですけど、そんなことするようには見えないじゃないですか。そういう意味でも一緒にポップスをやるのは面白いと思いました。

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─熊谷くん個人のギタリストとしてのルーツを教えてください。


熊谷:ジミヘンがすごい好きなんですけど、今のスタイルに関して言うと、やっぱり坂本慎太郎さんが音色とかそういう意味でも一番影響を受けてますし、一番好きです。

─ヘルシンキとかGroup2のイメージでいうと、2000年代後半から2010年代前半ぐらいの海外のインディロックみたいなイメージもあったりして、もちろんそういうのも聴いてはいただろうけど、ルーツとなると坂本さんが大きいと。


熊谷:もちろんそういう音楽自体はめっちゃ好きですし、影響も受けてますけど、ギタリストって言われると、あんまりその辺の年代でぱっと浮かぶ人がいなくて。

─坂本さんもゆらゆら帝国から今のキャリアに至るまでいろいろ変遷がありますけど、特にいつ頃、みたいなのはありますか?


熊谷:その変化も込みで、みたいなところなのかもしれないです。でもゆら帝の後期から今にかけてが特に好きというか、影響を受けてると思います。

─バリバリのサイケなロックンロールというよりは、その要素も残しつつ、もうちょっとミニマルなアプローチというか。


熊谷:それぐらいのバランスがすごく好きですね。

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─Guibaのような歌もののポップスをちゃんとやるのは初めてだと思うんですけど、実際やってみてどうですか?


熊谷:一番難しいですね。現状でも曲を作っていく上で一番悩みます。インディ的なアプローチでやる方が自分の個性を出しやすい気がするんですけど、それを歌ものにする、ポップスにするっていう、その塩梅は今も試行錯誤しつつっていう感じですね。その分すごくやりがいはあるんですけど。個人的にはやっぱり歌を一番出したいので、歌が入ってるところの抜き差しは気をつけてるというか、歌を聴かせるアレンジは意識してますね。歌メロをなぞりつつ派生していくフレーズとかは、他のバンドよりやってる気がします。あとGuibaはリフをキャッチーなものにしてるかもしれないです。「愛の二段階右折」とか「養殖」とか。

─他に「Guibaだからこそこのアプローチができた」という曲を挙げてもらえますか?


熊谷:「ほつれ」のギターは自分的にはすごく新しくて、逆に客観的に見ると一番ノーマルというか、それこそ60年代のポップス、ロックみたいな流れなんですけど。でも僕自身がそういうアプローチをやったことがなかったので、すごく新鮮で、難しくもあったんですけど、そもそも今まではそういうことをやろうとしてなかったし、この曲をやって一番開けた感じはしましたね。ただいわゆる60年代、70年代だけな感じではない、今っぽいビート感とか浮遊感もあるので、「ほつれ」はいいバランスでできたかなと思ってます。

─楽器の録音は個々に行ったそうですが、ギターはどうやって録ってるんですか?


熊谷:僕のギターは基本的にはマスタリングをやってくれてる風間萌さんのスタジオにアンプを持っていって、そこで録らせてもらってます。

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─「ほつれ」も含めて、こんなにちゃんと曲ごとにギターソロを弾くこともこれまでなかったと思うんですけど、そこは意図的な部分だったんですか?


熊谷:いや、それで言うと僕は全然やりたくない......っていうと語弊がありますけど(笑)、たまにでいいです。アカツカが構成にギターソロを入れたがるので、僕がどうしても弾きたいとかではないです。やっぱりソロって結構悩むので、そんなに毎回なくてもいいと個人的には思うんですけど、でも昔の曲は基本ソロがあったりするし、今「ギターソロはいらない」とか言われてる中でやるのはいい気分ですけどね。普段そんなにやらないからこそ、すごく勉強にもなります。

─自分のプレイは抜きにして、単純に好きな曲を挙げてもらえますか?


熊谷:今の気分で言うと......やっぱり「ほつれ」は好きかなあ。でも2ヶ月前に初ライブをして、そのとき「養殖」がすごく気持ちよくて、一番アガる感じがあったので、そういう風にこのアルバムの曲も今後印象が変わっていくのかなと思ったりもします。僕らまだ全然ライブをやってないので、そこはすごく楽しみですね。アルバムを出したら、ライブもそれなりに誘ってもらったりとか、やる機会も増えると思うので。

─最後に、Guibaとして成し遂げたいことを教えてください。


熊谷:すごく大きい目標として、紅白的なのはあるかもしれない。アカツカがそう言ってるので。他のバンドももちろん活動を広げていきたい気持ちはあるんですけど、その中でも特に、より一般層に行きたいっていうのがあって、たとえば、ドラマの主題歌とかもすごく合いそうな気がするので、テレビとかでも広がっていけるようなことをしていきたいですね。

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「Guiba最強なんじゃないかなって感じたのが『らぶちぇん』だったんです」シェイク・ソフィアン(B/odol)

─前回のSENSAのインタビューで、「ちょうど友達のバンドの解散ライブを観たタイミングでアカツカさんの投稿を見た」という話をしていたと思うんですけど、その話をもう少し詳しく教えてもらえますか?


シェイク:Seven Billion Dotsっていうバンドがいて、もともと高校時代にドラムとギターと対バンしたことがあって、その繋がりで何回かライブをサポートさせてもらってて。そのバンドが解散するってなって、古くからの友人ではありますから、彼らがそういう決断をするということで、バンドとは何なのか、音楽活動をするっていうことはそもそも何なんだみたいなのを考えながらそのライブを観に行って、その途中でアカツカさんの投稿を見て。僕はもともとSouth Penguinのファンだったし、何かもっとやってみたいなっていう思いが高まって、メッセージを送った経緯がありますね。

─odolの活動の一方で、他にもできることがあるんじゃないかっていうのは前から考えていたわけですか?


シェイク:そうですね。odolはメンバーが3人になって、集まって制作をする機会も増えてきて、バンドの中での自分のベースの役割がだいぶつかめてきたんですけど、逆に言うと、それと真逆のことはできなくなってしまうかなっていう思いが若干あり、自分の今までやってこなかったベースのアプローチに挑戦してみたい気持ちがありました。そのタイミングでちょっとセッションに行ったりとか、個人活動の範疇でいろいろ挑戦をしてたんです。なので、Guibaではodolとはだいぶ違うアプローチで演奏してます。

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─シェイク個人のベーシストとしてのルーツについて教えてください。


シェイク:僕のルーツはレッチリなんですよね。フリーが好きで、ベースはバキバキ弾いてなんぼ、いかにファンキーに弾くのかっていうのがベースを始めた直後の原点だったんですけど、でもそれとは真逆というか、odolに入って、オルタナティブなロックバンドとしてのアプローチだったり、シンセベースを使ったり、あまり動かずにどっしり構えて、むしろサウンド作りに重点を置くスタイルをやるようになって、逆に今はそれがメインのスタイルになった感じがします。

─Guibaのような歌もののポップスをやってみたい気持ちはあったんですか?


シェイク:もともとやりたかった音楽ジャンルかというと、正直想像もしてなかったジャンルですね。Guibaが歌謡系であることも結成後に知ったので、一から勉強を始めた感じです。最初Guibaは昔の歌謡曲っぽくなりすぎちゃって、逆にダサいみたいなフェーズがあったんですけど、僕的には最初これがダサいのかどうかもわからなくて(笑)。とりあえずそれまで吸収していいと思ったものをやったら、「これじゃない」ってなったので、そこから自分のルーツとか好きだった音楽をもう1回エッセンスとして取り入れてみるフェーズが始まりました。

─歌もののポップスをやるにあたって、どんな人を参照しましたか?


シェイク:やっぱりユーミンとか、細野(晴臣)さんが弾いてる曲は結構重点的に聴きました。音の長さでグルーヴを出すみたいなことも、これまでは音の長さをどれだけ音符にバチバチに合わせるかみたいな観点だったんですけど、細野さんのフレーズは音の消え方とかでノリができてたり、そういう発見があったのはGuibaを始めてからなんです。

─odolも歌もののポップスの範疇には入るけど、グルーヴの作り方という意味ではだいぶ違いますよね。


シェイク:そうなんですよね。Guibaの活動をやって一番気づきがあったのは、グルーヴで曲の表情が全く変わっちゃうっていうところ。それがすごく楽しくて、曲をまとめ上げる段階になってから僕は家で作業をしてるんですけど、本当にミリ単位の音の長さを調整して、どこが気持ちいいのかをひたすら探してました。アルバムに収録されてる曲はほとんどそうやってMIDIで作ったんですけど、「らぶちぇん」だけはベースで思うがままに弾いたトラックをいろいろ重ねて、練って作った曲なので、そういう意味で今回のアルバムにおける自分の中の集大成な曲になってます。一番早い段階からあった曲なんですけど、どういうアプローチがいいんだろうってずっと悩んでた曲で、それまでボツになったMIDIのデータがたくさんあったんですけど、1回そこを取っ払うことで、新しい気づきに至れたところはありますね。

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─他に「このアプローチはGuibaだからこそできた」という曲を具体的に挙げてもらえますか?


シェイク:「おめかし」ですね。この曲はピック弾きで、フレーズを効かせた感じで弾いています。もともとGuibaのベースは歌謡曲のバックで弾いてる職人気質なベースを意識してたんです。でも「おめかし」は軽やかな8ビートの曲だったので、ちょっと面白い感じで挑戦してもいいなと思ったんですよね。それでミュートしながらピッキングするスタイルで曲に当ててみたら、曲の雰囲気にも合ったので、ここはベースとして下を支えに行くというよりは、面白いフレーズを弾く立ち位置でやってみようかなと思ったら、結構はまりました。面白いのがこの曲をやった後ちょうどodolでも落ち着いた感じの軽やかな曲を作るタイミングがあって、これに近いアプローチを持ち込めてます。相互作用があったというか、odolとGuibaがここで繋がったっていうのはあります。

─自分のプレイを抜きにして、単純に好きな曲を挙げてもらえますか?


シェイク:やっぱり「らぶちぇん」ですね。ベーシストとしての集大成っていうのもあったんですけど、この曲で特に熊谷さんかっこいいなと思いました。僕がベースを乗せた後に熊谷さんがギターを乗せたテイクを聴いて、すごいなと、Guiba最強なんじゃないかなって感じたのが「らぶちぇん」だったんです。実際レコーディングも立ち会ったんですけど、ギターソロが良すぎて、「ソロ重ねようよ」って強引に提案してしまったりとか、ベーシストとしての視点を超えて、曲を作る人の目線になるくらいテンション上がっちゃいました。あの裏で鳴ってる泣きのギターソロは僕が熊谷さんに頼み込んで弾いてもらったんです。

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─Guibaのライブについてはどう感じていますか?


シェイク:odolのときはメトロノームを聴いてるんですよね。それはガイドレベルで、あんまり参照しすぎないないようにしてるんですけど、曲展開の盛り上がりをそこでコントロールしていて。曲自体のダイナミクスを最重視して、あんまり自分を燃えさせないで、落ち着かせながら、心のダイナミクスはちょっと抑えてやるようにしてるんですけど、Guibaはライブの盛り上がり方がまた全く違くて。それを強く感じるのはやっぱりノリがつかめたときの気持ちよさ。なのでGuibaはそのときのノリに一番気持ちいい弾き方を当てたいと思っていて。音源でやったフレーズとライブでやったフレーズが違うことが多々あるんですけど、それはライブを楽しんでる証拠というか。

─最後に、Guibaとして成し遂げたいことを教えてください。


シェイク:ライブで47都道府県に行きたいです。odolも日本人全員に届いてほしいようなポピュラリティがもちろんあるんですけど、でもGuibaは少し違うニュアンスで、わかりやすく広く届いて欲しいと思っています。Guibaで47都道府県全部でライブができたら最高だろうなと思いますね。日本最奥の村の人も喜んで聴いてくれるような、そういう届け方をしたいと思ってます。

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「30歳でバンドをやるのって、黒歴史を刻み続けてるということでもあると思うんですけど、もうちょっと灰色に、グレーくらいにはしたい」アカツカ(Vo/G/South Penguin)

─「歌もののポップスをやりたい」という投稿をしたのが去年の6月なわけですけど、その3ヶ月前にSouth Penguinの『R』が出てるから、その反響もあった上で、アカツカくんの中で思うところがあったのかなと思うんですけど、いかがでしょうか?


アカツカ:もう1個やってるバンドのことはあんまり意識してなかったですね。このバンドを始めようと思ったのはホントに突発的で、あんまり計画的なものでもないですし......何かあるとしたら、South Penguinっていうバンドは、このままじゃ日本で売れないかもなって思ったのはちょっとあったかもしれないです。ミュージシャンズミュージシャン的な評価をいただくことが多いんですけど、マスに届いてる感じはあんまり感じなかったので、それがポップスをやりたい気持ちが自分の中で生まれてきた要因かもしれない。相乗効果になればいいなと思ってる部分はあって、GuibaからSouth Penguinを知ってくれる人がいてもいいし、逆があってもいいと思うし、それぞれのメンバーもいるので、みんながハッピーな形になるようにとは思ってます。

─曲作りはアカツカくんの弾き語りのデモを基にしつつ、アレンジはスタジオベースではなく、個々でデータをやりとりして作っているそうですが、そのスタイルにしたのは何か理由がありますか?


アカツカ:South Penguinのときはスタジオでセッションしていく中でデモから結構変わったりするんですけど、Guibaの場合は一回MIDIで打ち込んだものをそれぞれが持ち帰って、個人で試行錯誤して、もうちょっと丁寧に編曲するっていうことの方が多くて。このやり方がこのバンドにとっていいと思って僕が舵を取って始めたというよりは、他のメンバーの意見でそうやってるんですけど。このやり方だと僕は弾き語りのギターと歌ができてしまえば、その後にやることがないんですよ。あとは勝手にMIDIで打ち込んでくれて、勝手にベースやギターを考えてくれて、スタジオで合わせたら曲の形になってるので、僕からしたらホント楽させてもらってありがたいなっていう感じです(笑)。

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─歌そのものを大事にしてるからこそのアプローチでもあるのかなって。


アカツカ:丁寧にできるのはこっちなのかなって思ってます。South Penguinの場合、バンド演奏のダイナミクスみたいなアプローチが結構多くて。Guibaの場合はライブを前提にしてることがそんなになくて、今後はそこも考えていかなきゃと思うんですけど、それよりも音源として心地の良いものを作りたいなと今のところは思ってるので。

─3月に「愛の二段階右折」が最初のリリースとして出て、その後もコンスタントに単曲でのリリースが続いたわけですけど、制作はある程度まとまった時期に行ってるんですか?それとも、断続的に作り続けてきた?


アカツカ:結成は去年の夏なんですけど、それからずっと地下に潜って制作だけしてた期間があって、このアルバムに入ってる曲は3月の時点でほぼありました。だから半年とかの期間でギュッと作った曲たちで、うち4曲はこのバンドを結成したその日に作ったので、相当ハイペースで作りましたね。South Penguinのときはギターもベースも自分で考えなきゃいけないし、コード進行もあんまりベタなことはしたくないとか、自分の中でいつの間にかいろいろ制約を設けるようになってたんですけど、Guibaはその反動でわかりやすい王道のコード進行でも、他の部分で自分たちなりのアプローチができればなと思ってました。だから出てきたものをワーッとデモにしちゃって、メンバーに一夜にして4曲送りつけたり、めちゃくちゃ溢れ出ちゃった感じはしますね。

─最初に「愛の二段階右折」をリリースしたのは何か理由がありましたか?


アカツカ:レコーディングをする前にみんなで改めてそのときあった曲を並べて吟味したとき、必ずしも「愛の二段階右折」が一番いい曲だと思ったわけではないし、一番最初に作った曲とかでもなくて、わりとこの中だと後ろの方にできた曲でもあるんですけど。AメロBメロサビがある曲っていうのを意識して作ったんですよね。バンドの名刺代わりになる歌ものの曲をって考えたときに、一番合ってるかなっていうのはありました。バラードでもよかったんですけど、派手さも欲しくて。分かりやすいリフがあったりとか、我々の曲の中だと派手な部類なので、そういう全部の要素がちょっとずつ詰まってるような感じだからですかね。

─全部の曲がそうではないですけど、ABサビだったり、ギターソロがあったり、わかりやすい構成は意識的だったわけですか?


アカツカ:そうですね。わかりやすくしようっていうのはあったので、恥ずかしいぐらいのキメとかもやっていこうみたいな感じで言ってたんですけど。最初は、もっとめっちゃわかりやすく昭和歌謡に寄せようとしたら、かなりダサくなっちゃったんですよね。昭和歌謡をやってる人たちはみんなめちゃくちゃ技術がある人たちで、僕ら技術がないのに、そのガワだけをやろうとしちゃったんで。最初スタジオに2〜3回入ったときは、もうこのバンド即解散だなって思うくらい、あまりにもひどい出来だったんです(笑)。ただ「愛の二段階右折」とか、2曲目に出した「養殖」ができたあたりから、このバンドの方向が定まっていった感じがあって、それも1曲目にした理由としてあるかもしれないですね。

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─アカツカくんは乃木坂46のファンであることをよく話していて、South Penguinでも乃木坂46の曲に対するオマージュを入れたりしてましたが、「愛の二段階右折」の歌詞は『乃木坂工事中』(乃木坂46のバラエティー番組)のバレンタイン企画がモチーフになってるんですよね。


アカツカ:そうなんですよ。「この子は自分にチョコをくれるだろう」と思った先輩メンバーが自ら挙手して後輩メンバーの元に行くんですけど、後輩は一人の先輩にしかチョコを渡すことが出来なくて、本当にその子は自分に対してチョコをくれるのかっていう、フィーリングカップルみたいな企画がめっちゃ面白くて。でもそれって結構悲しい話でもあるじゃないですか。

─なかなかチョコがもらえなくて(齋藤)飛鳥ちゃん号泣とかね。


アカツカ:かなりん(中田花奈)号泣もあったし。で、3回目の4期生からあげるときに初めてロビー活動が導入されたんですけど、先輩たちの優しい行いがロビー活動だったことがわかって、かっきー(賀喜遥香)が涙しちゃうっていう逆パターンが生まれて、あの回が僕はその年の『乃木中』の中で一番グッと来た回だったんですよ。それに感化されて書いた歌詞です。ラブソングみたいに捉えられることもあって、どう捉えていただいてもいいんですけど、それよりはもうちょっと、友人への愛というような感じで。最初「恋の二段階右折」の方が語呂がいいなと思ったんですけど、でも恋じゃないから愛にしたんですよね。なので、男女の恋愛のラブソングじゃないよっていうのは言っておきたいです。

─乃木坂46はポップスとしてのいい曲もたくさんあると思うんですけど、好きな曲を一曲挙げてもらうことはできますか?


アカツカ:めっちゃ影響受けてる曲があって、「ないものねだり」っていうななみん(橋本奈々未)の卒業時のソロ曲なんですけど、この曲は本当にめちゃくちゃいい歌もののポップスなんですよね。名バラードなんです。Guibaの曲にも影響あるし、South Penguinにも影響あるし、本当に好きな曲ですね。

─歌ものという観点で言うと「ほつれ」はめちゃいい曲で、このメンバー4人がこういう曲をやるという意味でも特に新鮮だったんですけど、どういう着想から作った曲ですか?


アカツカ:それこそ「ないものねだり」に一番近い曲もこれだと思うんですけど(笑)。当初このバンドを組んだときの目論見として、昭和歌謡みたいなことをやりたくて、昭和の歌謡曲で僕が好きなのがユーミンなので、そこにインスパイアされたような曲を作ろうとしました。「愛の二段階右折」とか「養殖」はインディポップみたいな感じにも捉えられる曲だと思うんですけど、それよりももうちょっとオーセンティックな歌謡曲を出したいなっていうのがこの曲でしたね。アルバム全体のバランスを見たところもあります。結構後ろの方で作った曲なので、どんな曲があればこのアルバムがまとまりやすいかを考えて、意図的に曲調も考えました。カラオケに入ってたらいいなって。

─歌詞は「愛の二段階右折」をはじめ、女性が主人公であることを想起させる内容が多い印象ですが、「灰」に関してはわりとアカツカくん自身の心情に近いものだったりもするのかなと思ったんですけど、いかがでしょうか?


アカツカ:どういう気持ちで作ったのか全然覚えてないんですけど......そんなにポジティブなことは歌ってないと思う(笑)。僕今年30歳なんですけど、30歳でバンドをやって、みんなの前で自分が作った曲ですって熱唱するのって、黒歴史を刻み続けてるということでもあると思うんです。だから、売れなきゃいけないってずっと思ってるんですよね。今まで自分が続けてきたことが報われるためには......報われる形は「売れる」だけじゃなくて、自分が好きだったミュージシャンが自分のバンドをいいって言ってくれたりもして、それはもうひとつ報われてることでもあるんですけど、ただそれにしたって黒歴史なので。もうちょっと灰色に、グレーぐらいにしたいっていう気持ちがあって、それで「灰」っていうワードが出てきたんです(笑)。まあ、それだけじゃないんですけどね。

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─ちょっと堅苦しい言い方になるけど、音楽を作る情熱を燃やして、それが灰になるみたいなニュアンスもある気がするし、音楽が好きな気持ちと売れたい気持ちの両方があって、その摩擦で灰になるとか、そんな受け取り方もできるなって。


アカツカ:「ハアト」も結構似たような歌詞なんですけど、このバンドをやるにあたっての決意みたいな感じは結構ありますね。「灰」は1曲目にしたのもそうですし、意図的に速い曲を作ろうと思って作ったんですけど、焦燥感がすごい出た感じもします。早く売れなきゃっていう焦りが半端ない(笑)。『Led Zeppelin Ⅲ』で一番最初に「移民の歌」が入ってて、その後だれるような曲ばっかりみたいな、1曲目サギな感じで、このアルバムもその後はスローな曲ばっかりになっちゃいますけど、乗り越えてほしいなと思います(笑)。

─でも1曲目に配信した「愛の二段階右折」と同じくらい、「灰」でこのアルバムが始まるのはちゃんとバンドに対する想いも含めての自己紹介になってるなと思います。


アカツカ:そうですね。本当にいいバランスのアルバムができたと思っています。曲調も結構幅を持たせることができたし、すごい1枚目っぽい感じのアルバムになったなって。1枚目ってそれまでの活動のベストじゃないですか。バンドのコンセプトはあったけど、どういう1枚目を作ろうとかは考えてなくて。ただ歌ものっていうだけで作ってきましたけど、いろんな形の歌ものがコンパイルできたので、すごく良いバランスのアルバムになったなって今は思います。特に「灰」ができてそう思いましたね。

─最後に、Guibaとして成し遂げたいことを教えてください。


アカツカ:成し遂げたいことは......やっぱり紅白歌合戦。年末の合戦に備えて我々はずっとこのバンドを育んできていて。このバンドは今年から本格的に活動を開始したので、まず今年の頭に「大晦日あけとけ」って全員に言っておいたんです。そこまで行けたら、「自分バンドやってるんですよ」って言って、「なんてバンドやってるんですか?」って聞かれたときに、「知らない」っていうことも減ってくると思うので。そういう状況が嫌なんですよ。今はまだうちの親とかが「自分の息子はバンドをやってる」って言って、バンド名を他の人に言ったときに、「知らない」ってなっちゃう。それが親にとっても黒歴史だと思うので(笑)。

─紅白に出るっていうことは黒から灰色、さらには白組になるっていう、素晴らしい流れですよね(笑)。


アカツカ:アルバムのジャケ真っ黒なんですけどね(笑)。このバンドでは黒歴史ではなくて、ちゃんと歴史を作りたいと思います。

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取材・文:金子厚武
撮影:マスダレンゾ


RELEASE INFORMATION

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Guiba「ギバ」
2023年10月25日(水)
Format:Digital
Label:Guiba

Track:
1.灰
2.ほつれ
3.らぶちぇん
4.涙
5.おめかし
6.養殖
7.ハアト
8.グラヴィティ
9.愛の二段階右折

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LIVE INFORMATION
Guiba 1st full album『ギバ』Release Party
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2024年1月10 日(水)
渋谷 WWW
OPEN 18:30 / START 19:30
出演:Guiba / Khaki

チケット:
前売:¥3,000 / 当日:¥3,500(税込 / オールスタンディング / ドリンク代別)
一般発売:2023 年 10 月 25 日(水) 19:00
e+:https://eplus.jp/guiba/
問合せ:WWW 03-5458-7685
詳細はこちら

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