SENSA

2023.08.16

結成10年で築いた極彩色のテーマパーク――Helsinki Lambda Club×池田洋(エンジニア)『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』インタビュー

結成10年で築いた極彩色のテーマパーク――Helsinki Lambda Club×池田洋(エンジニア)『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』インタビュー

今年結成10周年を迎えたHelsinki Lambda Clubがニューアルバム『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』を完成させた。タイトルやジャケットが示す通り、「ヘルシンキラムダクラブ」という極彩色のテーマパークに足を踏み入れると、ガレージ、サイケ、ファンクと曲ごとに色合いの異なる、強烈な個性を持った11のアトラクションが並び、そこから「Helsinki Lambda Club」というバンドの実像が立体的に浮かび上がるような、非常に濃厚な仕上がりとなっている。

結成当初は「ロックンロール/ガレージリバイバル以降」という印象もあった彼らがなぜこの境地にたどり着いたのか?それを紐解くべく、メンバー3人に加えて、プレデビュー作『ヘルシンキラムダクラブのお通し』から、一時期を除いてほとんどの作品に関わっているエンジニアの池田洋(hmc studio)を迎え、4人での取材を敢行。この10年の歩みをじっくり語り合ってもらった。


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ずっと寄りかかれないまま10年来た(橋本)

─まずはバンドと池田さんの出会いについて話していただけますか?


橋本薫(Vo/G):UK.PROJECTの担当の人が候補として池田さんの名前を挙げてくれて、僕らそもそも踊ってばかりの国とかVeni Vidi Viciousとか大好きだったので(どちらのバンドもエンジニアとして池田が関わっている)、「デビュー前にそんな人にレコーディングしてもらえるんだ」みたいな感覚だった記憶がめっちゃありますね。「いきなりそんな人にやってもらっていいの?」みたいな感じで、緊張しながらスタジオに行った記憶があります。

─池田さんのヘルシンキに対する最初の印象はいかがでしたか?


池田:さっき薫くんも言った通り、踊ってとかヴェニとか、ロックンロールリバイバル以降のイギリスが好きなバンド っていうのが最初のイメージですね。まあ、時代が時代だったから......まだそういうバンドたちが元気な頃だよね?

橋本:もう盛り上がりは落ち着いてきてる頃ですかね。僕らがデビューした頃って、ちょうどシーンがない、空白の3年ぐらいがあって、そこからYogee New Wavesとかがシティポップ的な枠組みと絡みながら新しいシーンができていったような感じがありました。僕らがデビューするちょっと前にandymoriが解散したり、あの頃のバンドの盛り上がりが終焉に向かいつつある、ぐらいな時代ですかね。

─そういう意味では狭間のタイミングでデビューをしていて、シーン的なものの後押しは受けなかったのかもしれないけど、それがよかったのか悪かったのかは判断が難しいところではありますよね。


橋本:多分乗っかれるものがあったら僕すぐ油断すると思うんです(笑)。もっと楽しようとして、逆に潰れちゃってた可能性はありますね。ずっと寄りかかれないまま10年来たって感じはします。

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─そんな中で池田さんとは一時期を除いてほぼほぼ歩みを共にしてきたわけですが、池田さんはバンドにとってどんな存在だと言えますか?


稲葉航大(B):「この曲を録る」ってなったら曲についていろいろ話し合って、方向性を決めて......だから、結構喋ります。レコーディングの大半喋ってる説ありますね。

橋本:そうだね。そこから生まれるアイデアが結局良かったり。

熊谷太起(G):そういう意味ではほぼプロデューサーと言っても過言ではないぐらい、音に関しては関わってもらっていて。今までいろんなエンジニアさんと仕事をしましたけど、いちばんプロデューサー的な役割を果たしてくれる人だと思います。

僕は「音源よりライブの方がいい」にしたい(池田)

─この10年、池田さんとたくさんの曲をレコーディングしてきた中で、バンドにとってのターニングポイントと言えるような曲や作品を挙げてもらえますか?


橋本:パッと思いつくのは「PIZZASHAKE」(2018年)ですかね。そのときがまたひさびさに池田さんに戻ってきたタイミングだったんですけど、最初池田さんにやっていただいたときは右も左もわかってない状況で、レコーディングというものがどういうものなのかを教えてもらうぐらいの段階だったんです。あと20代半ばぐらいまでは、僕の中で時代に逆行する音を良しとするようなマインドがあって、90年代っぽい音作りを試すことも多かったんです。でも「ただ逆行することにどれだけの意味があるだろう?」みたいな疑問が徐々に出てきたときに、その先で自分たちがやろうとしたことと、池田さんが試そうとしてたことが被ったというか、「お互いいろんなことをやりながら、今はここに至ってるんだな」みたいなのが合致したときのことはすごく覚えてます。

池田:『olutta』(2015年)の頃はバンドがどういうことをやりたいかっていうヒアリングとか言葉のキャッチボールがそんなにあったわけではなくて。それでも結果いいものになったとは思うんですけど、ちゃんと言葉で説明しろって言われたら、若干難しいよね、あの作品。

橋本:あのときすごく印象的なのは、「ユアンと踊れ」みたいなガレージっぽい曲を今やる意味っていう部分でリファレンスに出してくれたのがジャック・ペニャーテだったんです。ガレージっぽさもあるんだけど、コンプ感っていうんですかね、プリッとまとまってる感じの今っぽさをエッセンスで加えると、ちゃんと時代性を持った曲になるんだなっていう、それはそのときすごく勉強になった記憶があります。

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─改めてヘルシンキと仕事をするようになったときは、池田さんにはどんな思いがありましたか?


池田:僕らの世代だとNORTHERN BRIGHTの新井(仁)さんがよく「下北半径何キロ以内の英雄」なんて言われ方をしてたじゃないですか。「自分たちがやりたいことをやる」っていうことが身内感に繋がってたんだと思うんですけど、当時はヘルシンキも「下北界隈では名が通ってるけど」みたいなイメージが少しあったんですよね。自分でミュージックビデオもプロデュースしてて、それは全然センスで乗り越えてるんですけど、やっぱりちょっと身内感が出てたし、音に関してもインディーズ寄りな、結構ギュッとした感じのもので、このまま「何とか界隈」で終わるのかなって、ちょっと寂しく感じてたんです。そうしたら、また一緒にやりたいって言ってくれて、しかも太起くんが入ったことによって、もっと外を向けるようなバンドになってたから、音に関しても自分たちのキャパに合った方向性の音になっていけばいいなと思って、そこから少しわかりやすい音にしたりもして。

─一昨年のSTUDIO COASTであり、去年のフジロックであり、実際に音像の広がりとともにキャパも大きくなっていって、そこは二人三脚でやってきたからこそでしょうね。


稲葉:そうですね。ここ最近の作品に関してはマジで池田さんじゃなかったらできなかったっていうのをすごく感じてます。「NEW HEAVEN」(2023年1月)とかまさにそうで、ちゃんとコミュニケーションが取れるからこそできたなっていう。

熊谷:池田さんが曲のポテンシャルを引き出してくれることがわかってからはわりと投げちゃうようなことも多いし、「曲がミックスで化ける」という感覚を教えてくれたのも池田さんで、最初にそう思ったのが「Jokebox」(2018年)。スタジオでやってるときは正直「わりと普通の曲だな」って思ってたんですけど、「ミックスでこんなに変わるんだ」っていう初めての感覚がありました。

池田:「Jokebox」は実際『olutta』とかの延長線上にあるわけじゃないですか。ロックンロールリバイバル以降の。ただ『olutta』の頃はいわゆるガレージ臭がある中でやってたけど、その後の音の変化として、例えばVANTとか、UKなのかUSなのかわからないようなところに入っていって、音がバーンと出てくるようなわかりやすさが今来てる、みたいなイメージがあったから、それをより体現したイメージでしたね。

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─「Jokebox」はタイトルからしてThe Strokesに対するオマージュなわけで、ガレージリバイバル的な側面がありつつ、それをいかに今の時代に更新して鳴らすかが重要だったと。


池田:さっきから名前の出てる僕が録ってたバンド、ヴェニとか踊ってとか、The Mirrazとかもそうですけど、当時は今で言うローファイっぽい、ゴチャッとしてる感じがかっこよかったので、ビートを強く出すミックスはそんなにやってなかったんです。でも「Jokebox」ぐらいから思い切ってやってもいいんじゃないかと思ったんですよね。それはバンドの規模感ともめちゃめちゃ関係していて、こういう前にバーンと出てくる音像は1000人キャパぐらいで聴きたい印象になると思うから、まだ数百キャパでやってるバンドだったら、ここまで強い音像にはしなくて、『olutta』とかはそうだったと思うんです。僕は「音源よりライブの方がいい」にしたいイメージなんですよ。でもそうなるには本人たちが努力して、スキルアップしていかないといけないから、そのときのバンドの規模感より少し上の音源を作って、その音源を超えるライブをしてもらう。最初からそのときのバンドの規模感よりだいぶ上の音像を作ってしまうと、音源を聴いて盛り上がった人がライブを観に来てがっかりしちゃうから、それだけはしたくなくて。

橋本:今の話はマジで腑に落ちましたね。今の話が池田さんたる所以というか......バンドの規模感に合わせた音って、他のエンジニアさんはどれくらい考えてるものなんですかね?

池田:どのエンジニアさんもそのとき自分がやってることに対して一生懸命だから......考えてないことが悪いとは思わないけど、あんまり考えてない気はする。みんなまずはいい音源を作ることを第一に考えてると思うから。

橋本:僕、池田さんにはいい意味で甘やかされなかったなとずっと思ってきたんですけど、「甘やかされなかった」っていうのがどういうことなのかをずっと考えてて、多分、今の「規模感に合わせた音作り」によって、僕はそう感じてたんだろうなって。そういう音源を作ることで、その度に自分の課題も見えてくる。そういうことかって、今めっちゃ思いました。

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「もっと売れたい」っていう気持ちもより強くなりました(橋本)

─新作の『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』に関しては、どのようなモードで制作に向かっていたのでしょうか?


橋本:今回の制作期間にはいろんなことがあって......出れる予定だったフェスに出れなくなったり、あとCMも決まりそうだったんですけど、歌詞的にちょっと強い言葉があるっていう理由でなしになったりとかもして。どれもキャンセルされた理由がバンドの持つ作品性やマインドとかは関係なく、当たり前に大事なことではあるんですけど、どうしても目先の利益や安全の優先って感じに見受けられて、これはもういよいよ外側というか既存のシステムの中に自分たちの楽しみはあまり期待できないなと思ったんですよね。まあでもここに食い込めばなんとかなるみたいな甘えがどこかにあったのかもしれなかったし、当初想定していたものよりさらにマジで良いものを作らないとなって、途中でめっちゃ思った記憶があります。あとは、これまでやりたいことをやらせてもらってきて、そのスタンスはこれからも変わらないですけど、10年という節目でもあるので、ちゃんと数字でも何かひとつ形にできるような作品にするために、自分がやれることはやりたいなっていう、そういう現実的な部分も考えてはいました。

池田:それこそシングルのときから今年予定されてたスケジュールから逆算して考えてた部分もあって、どういう規模感がいいのかをイメージしながらアレンジしたり、ミックスもしたりして......でもそのスケジュールが変更になって、点と点が線に繋がらなくなってしまう瞬間があったんですよね。なぜヘルシンキが急にこんなサイケみたいなことをやり始めたのか、いずれちゃんと納得してもらえる筋道だったんですけど、それがプツンと切れちゃってからは、一旦仕切り直しぐらいの感じではありました。

橋本:だからこそよりいいものを作ろうと思ったし、大衆に寄り添える部分があるならできる限りは寄り添って、そういう力を自分が身につけることで、そこからまたもっと楽しいこともしていけるという意味で、「もっと売れたい」っていう気持ちもより強くなりました。

─そういった紆余曲折も影響してか、アルバムには本当にいろいろなタイプの楽曲が収録されているわけですけど、「Chandler Bing」や「愛想のないブレイク(with FORD TRIO)」はある意味「NEW HEAVEN」の延長線上にあるというか、サンプリング的な、コラージュ的なプログラミングが今のバンドの色のひとつになっているなと。


橋本:明確に「これをやりたい」っていうよりは、自然にやりたいことをフラットな気持ちでやって出てきた曲に近い感覚はあります。今の自分たちが自然にやったら、意外とこういう形なのかもしれないです。まあ、The Flaming Lipsが好きっていうのは1個あるかな。ギュッとした多幸感みたいなのが、好みとしてそもそもあるので。

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─「Chandler Bing」はまさにThe Flaming LipsからSuperorganismに至るサイケの系譜を感じさせつつ、でもそこに細野(晴臣)さん的なトロピカルな雰囲気もあって、そのミックス感が非常にヘルシンキらしいなと思いました。


池田:それはご名答なところで、僕はずっと細野さんを聴いてました。トロピカル三部作をめちゃくちゃ意識して、「これにするぞ」と念仏のように唱えて(笑)。

─具体的なリファレンスの話も結構するわけですよね?


橋本:しますね。僕いつもデモを作ってレコーディングするまでの間に、その曲のリファレンスのリストみたいなのを作って、みんなで共有するんです。それを聴いた上で池田さんが「こういうアプローチもありなんじゃない?」みたいに別のリファレンスを持ってきてくれたりもして。

池田:「Chandler Bing」を作ってるときに話してたのが、サブスクのいちばんのメリットって、海外の人に聴いてもらうのが簡単になったことだと思うんですけど、じゃあ海外にどこで勝負するのかってなったときに、ある人は英詞にしたり、相手のフィールドに入っていく意識でやると思うんですね。韓国がやってきたのはそういうことですけど、でもYMOがやったのはその逆じゃないですか。日本人といえば詰襟にカメラぶら下げてっていうビジュアルも定着させたし、ペンタトニックのヨナ抜きの音階で「東洋のバンド」みたいなイメージを作った。で、今僕らができることを考えると、やっぱり洋楽っぽさではなく、日本らしい面白さでどう勝負するかだと思うんです。今の薫くんが作る楽曲やみんなが作るアレンジにしても、そっちの意識の方が強いんだろうなって思うと、未だに世界で根強い人気がある細野さんをリファレンスにすることで、それが今に昇華されて面白く伝わればなって......めちゃくちゃすがってる感じですね。

─実際「日本らしさ」もアルバムのひとつのテーマになっている印象があって、橋本くんは楽曲解説で、「触れてみた(feat. 柴田聡子)」について「『和』に今までで一番接近した曲だと思います」と書いてたし、「バケーションに沿って」についても「アルバムを制作する中で自分のルーツとも多々向き合う機会があり、幼い頃から大好きなL'Arc〜en〜CielなどのJ-POPアーティストの要素も初めて意識的に取り込んでみました」と書いていますね。


橋本:FORD TRIOとコラボしたりもして、ここ数年はタイとかアジアに目を向けることが増えてきたんですけど、アジアのバンドで世界に進出してる人たちって、ちゃんとアジアとしてのルーツみたいなものをしっかり出して、それを売りのひとつとしてやってる感じがするんですよね。それは僕が聴いても面白いなと思うし、時代感という意味でも、もともと持ってる日本っぽさみたいなものは出していった方がいいんじゃないかと自然に思うようになってきたんです。昔は洋楽が好きで洋楽に憧れてバンドをやってたので、そういう部分を出したいと思うことはなかったけど、いろんな音楽を聴いたりやっていく中で、落としどころがようやくちょっと見え始めたかなって気がしますね。

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─「バケーションに沿って」はバンドとしてはかなりのチャレンジでもあったのかなと。


橋本:そうですね。むちゃくちゃ好きだけど、仮にラルクをそのままやろうとしたら何か違うものになっちゃうと思うから、それをどう出すかは面白いチャレンジではありました。

─ラルクは世代的に3人とも通ってるバンドなわけですか?


橋本:太起はそこまでだけど、稲葉は大好きだよね。

稲葉:僕はビジュアル系から音楽に入ったので、ここでその要素を出せたのは個人的に音楽生活のいい節目になったと思ってます。原点に立ち返ったというか。

─逆に熊谷くんは「バケーションに沿って」にどんな印象を持っていますか?


熊谷:僕は本当にフラットなので、他の曲との差別化は特になかったです。僕も同じテーマを持っちゃうと、そのままになっちゃう可能性があるので。

稲葉:最終的に太起さんが太起さんらしい音を出すから、結局それがヘルシンキだなって、最近めっちゃ思います。リズムとかいろいろやってるけど、最終的に太起さんのギターがヘルシンキっぽさを出してる感じがしますね。

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─池田さんは「バケーションに沿って」をどう感じていますか?


池田:途中で言ってた「売れたい」っていう話はレコーディング中もしてて、ただ直接言われたわけじゃないですけど、エンジニアとしては「売れる音にしてください」っていうのがいちばん困るんですよね。今売れてる音楽としてファストミュージックって言葉がありますけど、ファストって安心感だと思うんですよ。失敗しないってことだと思う。みんな失敗したくないからファストフードを食べて、ファストファッションを買う。でも面白みはない。だから「売れる曲イコール安心感」なのであれば、多分適任なのは僕じゃないんです。僕はずっと刺激のあるドメスティックなものが好きで、当たり障りのない、安心感を与える音を作るのは僕には無理なので。「バケーションに沿って」も安心感のある音にはなってないと思うから、もしかしたら薫くんの意図とは違うところに落ち着いてる可能性もある(笑)。

橋本:でも僕はそもそも自分の想像してたものがそのままできてもあんまり意味ないなっていうスタンスでずっとやってきていて。自分が思い描くものもあるにはあるんですけど、メンバーにしろエンジニアさんにしろ、信頼した上で一緒にやってる人たちとろいろな会話をすることで、出来上がったものが毎回自分の斜め上でちゃんと納得するものになってるのは感じてますね。

─実際「バケーションに沿って」にしてももともとは「Rex Orange Countyみたいなポップさを日本のマインドに落とし込んだ曲」というイメージだったそうだし、やっぱりいわゆるJ-POPとは違う、非常にヘルシンキらしい仕上がりになっていると思います。


橋本:そうですね。だからこのやり取りでのこの着地感がヘルシンキなのかなという気もします。

1曲1曲の強度がむちゃくちゃ高いミックステープっていうイメージ(池田)

─完成したアルバムに対して、池田さんはどんな印象をお持ちですか?


池田:ヘルシンキをここから聴いた人はわけわからないですよね(笑)。特に若い子たちとか、そんなにいろんなジャンルを聴いてなかったり、J-POPしか知りませんって人だと、本当に意味がわからないと思う。ヘルシンキがどういうバンドなのか、1曲目から順に聴いても......やっぱりわからない(笑)。

稲葉:どんどんわからなくなっちゃう(笑)。

池田:だから、僕もこのアルバムの総括を短い言葉で説明しろと言われても全然できないんですけど......昔からヘルシンキを知ってる人たちって、2018年くらいまでの曲でめちゃくちゃ盛り上がるというか、ライブをフロアで見てて、みんながその頃の曲を期待してる感じを肌感で感じるんです。それはみんなも感じてるよね?

橋本:そうですね。だからセットリストにもその頃の曲を入れるし。

池田:ヘルシンキのイメージがそこで終わってるわけじゃないですけど、そこで一旦線を引かれてる気はして。でもそれ以降でヘルシンキがやりたいことを、それぞれのEPとかアルバムで徐々に積み重ねてきて、今のところのまとめが今回のアルバムというか。だから、音楽的に一貫性があるわけではないと思うんですけど、1曲1曲の強度はむちゃくちゃあると思うんですよ。これは今の時代だから通用するやり方で、Chance The Rapper以降というか、ミックステープ的な感じですよね。コンセプトアルバムってなかなか難しいと思ってて、1年ぐらいかけて作る中で、そのときの自分のマイブームもあるから、「ずっとこういうアルバムを作ろうと思って曲を集めました」ってわけではなかったりする。なので、このアルバムも1曲1曲の強度がむちゃくちゃ高いミックステープっていうイメージですね。

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─そういう作品に『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』というセルフタイトルにも近いタイトルをつけたということは、その曲調の幅広さ、ある種のミックステープ感が現在のヘルシンキらしさだとメンバー自身が感じたということでしょうか?


橋本:開き直りじゃないですけど、このまとまらなさが自分たちなんだなってもう受け入れるしかないし、僕自身はヘルシンキで曲を作りながらファッションショーをしてる気持ちというか、クローゼットがあって、いろんな服があって、「これとこれを組み合わせたらどうなるんだろう?」みたいなことを10年間ずっとやってきて、「これとこれの組み合わせよかったよね」みたいな確信を今回のアルバムでやってる感じなんです。だから全体はごちゃごちゃしてるかもしれないけど、自分の中では今までより芯ができてきた感じがする。それはやっぱり池田さんとかと会話をしながら作り上げてきたもので、ごちゃごちゃなりに筋が自分の中にあって、それがさっき言ってくれた「強度」ってことなのかなって。

熊谷:やりたいことをやる力がついてきたことを一番実感できたアルバムだと思うんです。そういう意味でも、強度がすごい上がってるなって。

稲葉:結局いろんな音楽が好きで、「ロックしか聴きません」みたいなのは全然ないから、そういう意味でも自分らしさが出せたと思うし、みんなもいろんな音楽が好きだし、それがヘルシンキなんだなっていうのをすごく感じる作品になったと思います。

橋本:自然体でいたいっていうのが大きいですかね。イメージの枠組みを作るって、もちろん物を売ることに関して言えば正解だと思うんですけど、その枠組みを作ってしまうことに10年経っても違和感があるんですよ。

─そう考えると、特定のシーンに所属することなく、狭間の時期に出てきたこともバンドのアイデンティティ形成に大きく関与しているかもしれないですね。


橋本:そうかもしれない。僕ディズニーランド好きなんですけど、よく言われる「一生完成しない」みたいな、そのマインドもめちゃくちゃわかるし、完成しないんだけど、筋が見えた段階で「ようこそ」って言っちゃいたい気持ちもあって。なので、どんなバンドかはわかりにくいアルバムかもしれないけど、僕の中ではこれが名刺代わりの作品になったなってすごく思うんですよね。

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取材・文:金子厚武
撮影:ムラカミダイスケ

RELEASE INFORMATION

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Helsinki Lambda Club「ヘルシンキラムダクラブへようこそ」
2023年8月9日(水)
Format:CD,Digital,LP
仕様:LP(2枚組+CD付き) / 配信
価格:【レコード】6,050円(税込) / 【ダウンロード】2,444円(税込)/品番:HAMZ-021
Label:Hamsterdam Records / UK.PROJECT

Track:
1. 台湾の煙草
2. Chandler Bing
3. バケーションに沿って
4. Horse Candy
5. 愛想のないブレイク (with FORD TRIO)
6. 収穫(りゃくだつ)のシーズン
7. Golden Morning
8. 触れてみた (feat. 柴田聡子)
9. Be My Words
10. ベニエ
11. See The Light

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LIVE INFORMATION

Helsinki Lambda Club 10th Anniversary Tour「ヘルシンキラムダクラブへようこそ」
2023年
8月26日(土)稲毛K'S DREAM
開場 18:00 / 開演 18:30

8月27日(日)横浜BUZZFRONT
開場 18:00 / 開演 18:30

9月1日(金)高松TOONICE
開場 18:30 / 開演 19:00

9月2日(土)岡山CRAZY MAMA 2nd Room
開場 18:00 / 開演 18:30

9月3日(日)福岡The VooDoo Lounge
開場 18:00 / 開演 18:30

9月9日(土)岐阜Yanagase ANTS
開場 18:00 / 開演 18:30

9月15日(金)札幌SPiCE
開場 18:30 / 開演 19:00

9月16日(土)仙台MACANA
開場 18:00 / 開演 18:30

9月17日(日)新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
開場 18:00 / 開演 18:30

9月18日(月)金沢AZ
開場 18:00 / 開演 18:30

9月22日(金)名古屋CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00

9月23日(土)京都磔磔
開場 18:00 / 開演 18:30

9月24日(日)梅田CLUB QUATTRO
開場 17:00 / 開演 18:00

9月26日(火)渋谷Spotify O-EAST
開場 18:00 / 開演 19:00

料金:前売り 4,500円(ドリンク代別途必要)

チケット一般発売中!
https://lit.link/helsinkilambdaclubticket


LINK
オフィシャルサイト
@helsinkilambda
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