SENSA

2023.07.12

季節や心情の絶妙な色合いを、熱く細やかに描く「エスキベル」-Highlighter Vol.176-

季節や心情の絶妙な色合いを、熱く細やかに描く「エスキベル」-Highlighter Vol.176-

音楽だけでなく、どのカルチャーも共通点やつながりがあるということをコンセプトにしているSENSA。INTERVIEWシリーズ「Highlighter」では、アーティストはもちろん、音楽に関わるクリエイターにどのような音楽・カルチャーに触れて現在までに至ったか、その人の人となりを探っていく。 Vol.176は、都内出身の4人組バンド・エスキベルを取り上げる。
ギターによる空間演出と季節を軸にした歌詞の世界観がエスキベルの持ち味。しかし、リリースされたばかりの2nd EP『Childhood(発達)』では、"季節の変わり目"を舞台とし、グッと表現力を広げている。


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活動を始めたきっかけ
石井悠翔(G/Vo):2017年の3月に都内高校のアコースティックギター部で結成しましたね。厳密には、最初は僕と成嶋(Dr)と有志(B)の3人で組んでいました。そこに部長だったのにバンドを組んでいなかった秦一(G)がいて、その時から結構仲が良かったので一緒にやろうかと、5月くらいに本格的に活動し始めました。
3人でやっていた時は僕の技量が足りなくて、曲作りとかもちょっと行き詰まりそうな感じだったんですが、秦一くんが入ってから、バンドをぐんぐん引っ張ってもらって良い感じに進んで行ったという流れです。

影響を受けたアーティスト
石井:正直なところ、数えきれないぐらいあるので絞るのは難しいです。結構、「音楽」という括りであれば自分の中でグッときたものを聴く傾向があるので!

強いて絞るのであれば、エスキベルを始めてから長い期間好きで影響を受けているのはRadioheadMy bloody valentineRideAlvvays細野晴臣坂本龍一はっぴいえんどCornelius中村一義斉藤和義NUMBER GIRL...。
比較的最近だと、DIIVPhoebe BridgersThe Japanese HouseWolf AliceDayglowFor Tracy Hyde...。
限りなく挙げられます。絞れないですね。もっともっといます。
この方々は、かなり個人的に影響を受けているという感じでバンドの像には直結していない部分の影響もあります。
自分の中の影響の解釈は、意識して聴いた音楽を指しています。

これも個人的にですが、作詞作曲している身としては、バンドのあり方を含めたマスターピースとしては、Radiohead、Alvvays、スーパーカーが結構色濃く影響を受けているのかなと感じます。

僕個人のルーツはRCサクセションが軸の日本のロックンロールで、それまで結構それが全てくらいの気持ちでいたんですけど、エスキベルに秦一くんが加入してからすぐに全て覆されましたね。
高2の春あたりの昼休みに一緒にお弁当を食べてたら、Radioheadの『The Bends』を貸してくれて、それ聴いてもうなんというか、そりゃまあ衝撃で。
その時が自分の好きな軸が「日本のロックンロール」から「音楽」に変わった瞬間かもしれないです。



バンドでは、NUMBER GIRLの「透明少女」「日常に生きる少女」「OMOIDE IN MY HEAD」、The Birthdayの「涙がこぼれそう」「さよなら最終兵器」「青空」、スーパーカーの「u」とかをコピーしてました。
ルーツは全員違うんですけど、この辺は僕の好きな曲とかでやらせてもらっていました。曲名を見るだけで懐かしいです。
その点、NUMBER GIRLは僕の高校時代を振り返ると絶対に外せない要素になります。珍トラックも含めて何度聴いたかという感じです。

当時、僕を『The Bends』と同じくらい音楽と、さらにライブでの表現に引き込んでくれた作品がSonic Youthの「Silver Rocket」です。


今もですが、当時は特にサーストン・ムーアに惚れていましたね。
これもギターの秦一くんが教えてくれました。

注目してほしい、自分の関わった作品
石井:そんなにカタログは多くないので今の所、全部注目してほしい作品ですね。

1st EPの『飽和』は高校時代の楽曲を5曲、グッとまとめたものになっていて、最初のエスキベルというバンドが何をしたかったのかとか、何に影響を受けていたか結構わかりやすいものなんじゃないかなと思っています。
最初のエスキベルは、今よりみんなバラバラの方を向いていて、個々がかっこいいと思える表現をしたものの共鳴が『飽和』なのかなと感じています。

細々は言いませんが、ジャンルとして当時そこまで近辺の高校生に浸透していなかった90年代のオルタナティブロックに、僕はすごく魅力を感じていました。秦一くんの影響が大きいですね。
そんな僕自身のムードを、思いっきり歌詞にも作曲にも演奏にも反映していました。『飽和』の内容については、以前、僕自身のnoteに書いたので、そちらを見ていただければ大まかに理解していただけるかなという感じです。



『飽和』は、高校の軽音部にいた当時、どのバンドも流行りの曲を真似て、みんな同じような曲をやっていたことに対して皮肉を込めてつけたタイトルでもあります。

前作の『黄色の空と空想(YELLOW)』について。
あれは、広く影響を受けた音楽をエスキベルの世界でどう表現するか、当時の等身大で表現した感じです。
僕の空想の旅を1年の時の流れに合わせて書いています。その旅の中で、僕自身の人生の中で印象に残った風景や景色を反映している感じです。

具体的な軸は、中学生の時、ある友人と部活動の片付け中に中庭から見た夕方、落ちていく日の赤と青が綺麗に混ざる黄色の空です。



作曲的な話をすると、「心の海」を除く前半4曲は、僕が軸で作っていて、後半の3曲を秦一くんが軸で作っています。「心の海」は実は、アルバムの中で最後にできた楽曲で、元ある表題についての詩を秦一くんが英訳して作曲をしたので、作詞作曲は秦一くんだけです。

アルバムの世界としては、季節ごとに生まれる感情をかなり自分視点で、思い出化された物が美しく残っている様を夏の色濃さ強めで表現しました。このアルバムを聴くと、特別な感情を抱いている一瞬の景色は、いつも繰り返し見ている景色よりも鮮明に覚えているものだなと感じます。

僕は、日本が持っている春夏秋冬の季節が好きで、そこから派生する風景や感情が特に好きです。

ここから今回のEP『Childhood(発達)』について。
今回はそんな、季節について強く触れてはいません。というのも、今回の詩的な舞台は季節の変わり目だからです。
そのため、その曖昧な時期の中でも確かに存在する人間の成長、特に子供時代からの発達に注目し『Childhood(発達)』としました。

季節の間に起きる曖昧な感情の中の、はっきりと存在感を持つことへの自己愛と他者の必要性、君との距離感、彼を待つ時間、ぼんやり続くアスファルト、そして季節の炎上。
以前より抽象的なものを、聴き手や読み手には、今まで通り綺麗な情景として感じていただけるようなものを目指しました。



作曲の軸は全曲、ギターの秦一くん。メロディと歌詞は僕がつけて、アレンジはみんなでやりました。
前作は結構、僕の描いていた景色を出力したイメージが個人的にあるんですが、今回は秦一くんが持っている音楽的世界観をみんなで淡めの色をつかって描いたような感じです。

レコーディング手法とかミックスとか、音の数や録り音の綺麗さとかめちゃめちゃに凝ったので、4人バンド以上の音が音源にはあります。
それを探りつつ楽しんでいただければなと思っています。
ライブの表現ではどうなるのかも、ぜひ会場にお越しいただきたいです。

毎回、気合を入れてリリースしていますが、今回も自信を持ってリリースしているのでよろしくお願いします!

今後挑戦してみたいこと
石井:今回のEPで結構、アコースティックサウンドやアンビエントをエスキベルにどう取り込むかを追求したので、それを続けつつエレクトロな感じも加えて行けたらいいなーと個人的には思っています。

以前の音的にガー!っとした感じもやりたいです。一度触れたらやらないという規約はないので、いろんなジャンルのものを順番にどんどん取り入れていって、エスキベルがどうなっていくのか僕自身も楽しみです。

ただ、今のムード的には結構、歌いたいなーという感じがしているので明るめの歌がある曲ができるかもしれません。

MVとかも出したいですよね、なのでアーティストとして曲とライブも磨いて、他のメディアでも深みが出せるようにしていきたいです。

カルチャーについて

触れてきたカルチャー
石井:音楽以外だと、漫画とかドラマとか映画が結構好きで影響を受けてきました。

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長く強く影響を受けているものだと映画とドラマですかね。具体的には織田裕二さん主演の『踊る大捜査線』、三谷幸喜監督の『ザ・マジックアワー』、岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』とかです。
洋画だと、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』とかですね。もっといっぱいありますけど、特に何度も観ているのはこれらかもしれません。

映画になると、良かった!と思っている作品を繰り返し観て、細部まで知りたくなってしまう傾向があって、これらの映画ドラマは本当に何回も観ています。
『ザ・マジックアワー』と『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は結構楽曲表現の歌詞に自然と入ってしまうほど影響を受けたかもしれません。





広く「映画」が好きです!と言えるほど、精通しているわけではないのですが、昔から観るのは好きでした。きっかけは、親が観ていたのを一緒に観ていたことなので、自分がリアルタイムでテレビや映画館で観たというものは少ないかもしれません。

魅力を感じているところは、やはり芸術の集合体と自分が感じている面が強いです。写真の撮影技法や、音楽、ファッションや映像表現、演出、言葉、物語、まだまだあると思いますが、僕はこれらの要素に魅力を感じています。
これらの要素の何かが自分の中でビビッとくると、何度も観たくなってしまいます。

何度も観てているからといって流せる要素はありません。
『踊る大捜査線』の2本目の映画(『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』)の織田裕二さんのセリフ「どうして現場に血が流れるんだ!」は、何度観ても鳥肌が立ちますし、いかりや長介さんの、あの演技以上の部下を思う気持ちを、ほかの映像で感じたことはありません。



『スパイダーマン』では、ピーターがベンおじさんの死後、言葉を振り返るシーンではいまだに涙が出ます。
良いものは何度観ても、何回観てもグッとくるわけです。



今注目しているカルチャー
石井:今というか最近注目しているのは、アニメの『笑ゥせぇるすまん』ですかね。
好きになったきっかけは、もともと『ドラえもん』がすごい小さい時から好きで、作品自体は前から知っていたんです。
藤子不二雄Aさんが亡くなる1年くらい前にふと思い出して、Amazonプライムで観れる話を全部見て、ちょうどコロナウイルスの感染拡大で家に引き篭もりっぱなしだったので全話何周もしていました。

原作と違う内容のお話もあるんですが、結構アニメも好きです。理由としては、基本的に10分ぴったしでお話が終わっているんですが、その中で不自然なくキャラクターの悩み、喪黒福造の登場、破滅展開の流れが、よくこんな綺麗にハマるなとすごい感心したからです。

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内容は当時の社会問題や人間の弱い部分をブラックユーモアに乗せているんです。しかもあの大人気漫画家の漫画で、そしてアニメで実際に放映されていたと考えると、今じゃあなかなか考えにくいです。

これは、加速するデジタル化と、SNSが生活へ侵食している中、何か大切なものを失いかけている日本にいちばん必要な作品なのではないかなと、強く感じたことが注目している、好きな理由でもあります。

今の大衆文化には、単に面白いとか共感できるだけではなくて、広く社会や自分の現状を踏まえて、メディア作品にはどのような意味があるのかを考える力が必要なのかなーとか、思います。

RELEASE INFORMATION

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エスキベル『Childhood(発達)』
2023年7月5日(水)

試聴はこちら

LIVE INFORMATION

PUNCH!
2023年7月11日(火)
下北沢BASEMENTBAR

W/
Kamisado
ザ・ナウプレイングス
しろつめ備忘録

vein,bleed vol.2
0722_live_chirashi.jpg
2023年7月22日(土)
下北沢近道

W/
Laget's Jam Stack
せだい
i'm home
カルト 3

PROFILE

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エスキベル
メンバーは石井悠翔(G/Vo)、横山秦一(G)、吉田有志(B)、成嶋慶太(Dr)。
2017年3月に都内高校で結成。メンバー4人それぞれが大きく異なった音楽性を持ち、幅広いジャンルへの実験を目指す。
独自性の高いサウンドと素朴なメロディ、日本的情緒に根ざした歌詞による情景描写が、 各メンバーのルーツから体現される。
2020年1st EP『飽和(SATURATION)』をリリース
2021年「凪、止まり(Stagnation)」等、シングル4曲をデジタルリリース
2022年1st album『黄色の空と空想(YELLOW)』を全国流通でリリース
2023年「発達(childhood)」「迷う/戻る(regret)」をデジタルリリース,
同年、2023年7月5日(水)2nd EP『Childhood(発達)』をデジタルリリース

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