SENSA

2023.03.13

文字通り「コレクティブ」となったバンドの、記念すべきファーストフルアルバム──YAJICO GIRL『Indoor Newtown Collective』全曲解説【後編】

文字通り「コレクティブ」となったバンドの、記念すべきファーストフルアルバム──YAJICO GIRL『Indoor Newtown Collective』全曲解説【後編】

YAJICO GIRLのファーストフルアルバム『Indoor Newtown Collective』はこれまでの集大成であり、いつだって帰ることのできる場所であり、同時にこれから先の未来をも照らし出す作品だ。フロントマンの四方颯人がリードして音楽的に大きく舵を切った『インドア』、その方向性をもう一度「バンド」として捉え直した『アウトドア』、そこからの発展形として生まれた『Retrospective EP』と『幽霊』。これらの作品を作りながら、5人は個々がそれぞれミュージシャンとしての力量を発揮する文字通りの「コレクティブ」へと進化を果たし、そこにアレンジャーやエンジニアをはじめとしたチームも加わり、最終的には聴き手である「あなた」を見つけ出す。そんなストーリーが18曲の流れから感じられることも、非常に感動的だ。四方による全曲解説で、このアルバムの魅力をより深く知ってもらいたい。

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10.Airride



―「Airride」からアルバムの後半、3ブロック目がスタートですね。


四方:この曲は自信作で、アルバム的にもここからもう一度始まるイメージです。何となく自分の中には二本の柱があって、ひとつはブラックミュージック、もうひとつが電子音楽なんですけど、この曲はブラックミュージックという部分に関して、YAJICO GIRLができる理想のサウンドを作れた曲だと思っていて。歌詞にしても、「ノスタルジー」は自分の大きなモチーフの一つですし、いろいろな曲を書いてきた中で、この曲は特に達成感があるというか、ちゃんと書きたいことが書けた。ライブでの人気も高いので、より大事にしていきたい曲ですね。

11.Better



―「Better」もライブで最後に演奏されることが多い、アンセム的な一曲ですよね。


四方:チャンス・ザ・ラッパーとかが好きだったので、ゴスペルっぽい曲はやってみたくて、「熱が醒めるまで」で最初にトライしてみたけど、この曲はもうちょっとグルーヴィーで、スケール感があって、ちゃんとアレンジに個性があるものが作れたんじゃないかと思います。「Airride」から「Better」への流れもすごく好きですね。

―当時のインタビューでは、「歌詞は散文的なイメージで、まだ自分でも正確には捉えられていない」ということを話してくれたと思うんですけど、あれから少し時間が経って、歌詞に対する目線に変化はありますか?


四方:全く変わってないですね(笑)。基本的に、僕の歌詞は全部散文っぽいとは思うんです。でもこの曲にはいいフレーズ、いいワードが多いなっていうのは、客観的に見ても思います。〈会ってやっとわかる君の髪の美しさのよう〉とか、ほんまに俺が書いたんかなって。

―「Airride」にしても「Better」にしても、やっぱり最後の大サビでグッとくるんですよね。


四方:それで言うと、僕の強みはCメロや大サビにあると思うんです。「流浪」にしても〈楽しいのかな 苦しいのかな それすらもわからなくなっても〉以降が俺っていうか、自分ができることだなって。「忘れさせて」も最後の〈桜舞うピンクに佇む君ひとり〉からは自分でメロディーも作ってるんです。逆に言うと、日本的なサビっぽいメロディーはどっちかっていうと苦手で、僕が作るメロディーは基本的に裏から入ったりするから、それがいいタイミングでハマるのって、曲の後半だったりして。そこで書きたいことが書けるし、歌いたいメロディーが歌えるっていう感覚は結構強いかもしれないですね。

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12.city



―「city」は吉見くんの作曲によるインタールードですね。


四方:「Better」と「だりぃ」の間にインタールードを挟みたいっていう話をして、作ってもらいました。「Better」のゴスペルっぽい多幸感を持続させつつ、「だりぃ」のチャーミングさやコミカルな感じを少しずつ演出していくようなインタールードがあればいいなって。

―タイトルはなんで「city」なんですか?


四方:「だりぃ」のテーマが恋愛のドキドキ感とかそわそわした気持ちなんですけど、「city」では小っちゃい子が「Can I trust you?」って言ってて、その頭文字を合わせると「city」になるっていう。ちょっと意味深でもあるし、「どうぶつの森」の住民がしゃべってるような音も重ねてて、「街の暮らし」みたいなイメージもあるから、ちょうどいい曲名だなって。

13.だりぃ



―「だりぃ」はダンサブルな曲調が今のYAJICO GIRLらしいし、アレンジは遊び心が詰まっていて、楽しんでレコーディングをしたことが伝わってくるのもいいなと思いました。


四方:これめちゃくちゃいい曲ですよね(笑)。一歩間違えれば邦ロックっぽいダンスロックになっちゃいそうなところも上手くずらせてて、それは今まで培ってきたスキルのおかげだと思うし、わかりやすい曲ではあるんだけど、ルイス・コールとかのエッセンスを引っ張ってくることで、ちゃんと今っぽく聴こえるし、尚且つポップスとしても開かれている。そういう難しいラインをちゃんとクリアできてて、これは今YAJICO GIRLにしか作れないんじゃないかと思いました。

―インパクトと発語の快感が両立してる歌詞もいいですよね。


四方:別れの曲はこれまでも書いてきたんですけど、恋してるときのドキドキ感とかそわそわした感じ、かわいらしい部分を初めてちゃんとキャプチャーできた気がして、それは嬉しかったです。あと固有名詞を入れるのが好きなので、サビも書いてて楽しかったですね。固有名詞はバンドミュージックだとどうしても浮いちゃうので、自然に入れる努力はしてます。基本J-POPはフィクション性が高いのに対して、ヒップホップはリアリティがあるので、固有名詞として認識されてもそんなに違和感がないんですけど、メロディーがしっかりしてる曲にパッと固有名詞が出てくると、世界観を壊しかねないし、気持ちがそれちゃったりする。なので、ただ固有名詞を入れたいだけの人にならないように、そこは気を付けてます。

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14.VIDEO BOY



―「VIDEO BOY」のノスタルジックなムードもやはりYAJICO GIRLらしさを象徴しているなと思います。


四方:この曲はこのアルバムの中でも一番小さいころの記憶が入ってる曲なんじゃないかなって。幼稚園とか小学校低学年の頃に初めて映画の『ピンポン』を観て、それが、自分がかっこいいと思うものの原体験になっていて、いつまでたっても色あせない。大人になってもそういう小っちゃい頃の感覚は残り続けるし、これからもそれを忘れたくないなっていう曲ですね。

―『ピンポン』の影響は大きいんですね。


四方:めちゃくちゃ大きいです。松本大洋(原作)、宮藤官九郎(脚本)、スーパーカー(主題歌)って、DNAレベルで影響を受けていて、抗えないです。クドカンの地方都市の描き方は、僕のニュータウンのイメージとリンクしていて、「Airride」の〈家の近所のファミレスで ドリンク片手ひたすら話し込んで 追加で来るポテト〉とか、クドカンっぽいなと思います。

15.indoor



―「indoor」は『インドア』でインタールード的な役割を果たしていた曲ですね。


四方:このアルバムにどの作品から何曲収録するかっていうのは、ある程度バランスを考えていて、『インドア』からも3曲入ってるんですけど、インタールードは場面転換に使えるし、『Indoor Newtown Collective』っていうタイトルだから、「indoor」はこれぞっていう曲でもあるので、入れたいなと思いました。

16.IMMORTAL



―前に「『インドア』は自分にとってのソウルミュージック」という話をしてくれたと思うんですけど、「IMMORTAL」という曲自体が四方くんにとってのソウルミュージックのような印象も受けます。


四方:大阪にいた頃の自分の感覚を一番しっかり出せた曲だと思います。あとは、『インドア』がすごく(フランク・オーシャンの)『Blonde』に影響を受けて作ったアルバムだったので、客観的に聴いても、この曲は『Blonde』っぽい匂いがしますね。言葉にするのは難しいですけど、『Blonde』以降の数年間で俺が感じてた雰囲気や感覚が一番詰まった曲だと思います。

―〈わからないままの世界 わからないままでもいい〉とか、やっぱり「流浪」ともリンクする世界観だなって。


四方:その後の〈胸にまだ残る光 照らして今日も生きよう〉は〈何を導にして生きるのか 答えはまだ見つかりはしないけど 「うたう!」〉とほぼ同義ですもんね。

17.わかったよ / PARASITE



―「わかったよ / PARASITE」は当時のインタビューで「歌詞を含めて発明みたいな曲だと思う」って、思い入れの強さを話してくれたのを覚えています。


四方:もちろんすごく好きな曲なんですけど、時間が経つとだんだん平坦になっていくもので、今「どの曲が一番好きですか?」って聞かれたら、新しい曲が一番好きです(笑)。でも構成の妙が完璧だなっていうのは今でも思いますね。あとはやっぱりロックバンドなので、こういうシンプルなロックサウンドの曲も入れたくて。今回のアルバムには、YAJICO GIRLのこれまでを全部パッケージしたいっていう想いがありました。

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18.休暇



―「流浪」はリード曲を目指して作ったように、「休暇」はアルバムの最後を締めくくる曲をイメージして書いた曲ですか?


四方:そうですね。僕はつかみどころのない曲が好きなので、最初はそういうちょっとミステリアスな曲を書こうと思ったんですけど、ここまで17曲を聴いてくれた人が満足してくれるような曲じゃなかったというか。ここまで聴いてくれた人をはぐらかすような曲を最後にするのは、ちょっと失礼なんじゃないかと思ったんです。なので、最後に「このアルバムを聴いてよかった」と思える、そういう読後感を感じてもらえる曲にしたいと思って作りました。自分の親切心とか感謝の気持ちが前に出たからこそ書けた曲だと思います。

―〈些細なエピソードをなんでもいいから 何度も繰り返し歌わせてよ〉とか、聴き手に対する想いが確かに感じられます。


四方:『Indoor Newtown Collective』の最後の曲なので、歌詞はこの3つのワードが感じられるものにしたくて、家で休んでたり、街の風景だったり、人との繋がりだったりを上手く一曲の中にちりばめられたらと思って書きました。2019年からなんとなく「Indoor Newtown Collective」という言葉を口にしてきましたけど、この曲が最後に来ることによって、このアルバムの意味や空気感がより明確になるんじゃないかと思います。

19.いえろう (INC ver.) - bonus track - ※CDのみ収録

―初期の代表曲をリアレンジした「いえろう(INC ver.)」は、CDのみに収録のボーナストラックです。


四方:最初は普通にアルバムの一曲として入れることも考えてたんですけど、リアレンジしてみても、やっぱり楽曲の持つ根っこの性質が違うというか、アルバムのどこかに入ることが考えられなくて、ボーナストラックという形にさせてもらいました。

―この曲ってなんで「いえろう」っていうタイトルなんですか?


四方:「黄色」っていうモチーフに3つくらいの意味を込めてて、信号と、あと自分たちの人種もあるし......あとなんやったかな? もともと感覚先行ではあったんですよね。

―信号の黄色がモチーフだったとすると、当時まだ10代のYAJICO GIRLは夢に向かって走っていくのかどうか、黄色信号で迷っていたのかもしれない。そこから時間が経って、ファーストフルアルバムが完成して、今の信号の色は何色だと思いますか?


四方:青と言いたいところですけど、そこは永遠に黄色かもしれない(笑)。心配性っていうのもあるし、俺は自分が思うままに突っ走ったらきっと痛い目に遭うっていうのがどこかにあって、立ち止まりながら、様子をうかがいながら進むタイプなんですよね。「コレクティブ」っていう言葉を掲げて、チームの人たちも増えて、みんなに助けてもらいながらやれてる感覚もあるし、もっと寄り添いたい気持ちも大きい。そういう進み方をしているからこそ、その時代に合った表現をちゃんと選択してこれたんじゃないかとも思いますね。

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取材・文:金子厚武
撮影:ムラカミダイスケ


RELEASE INFORMATION

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YAJICO GIRL「Indoor Newtown Collective」
2023年3月8日(水)
Format:CD, Digital

Track:
1.流浪
2.幽霊
3.雑談
4.街の中で
5.alone
6.FIVE
7.忘れさせて
8.NIGHTS
9.寝たいんだ
10.Airride
11.Better
12.city
13.だりぃ
14.VIDEO BOY
15.indoor
16.IMMORTAL
17.わかったよ / PARASITE
18.休暇
19.いえろう (INC ver.) - bonus track - ※CDのみ収録

初回生産限定盤
CD+Art Book『Indoor Newtown Magazine』
品番:MASHAR-1010(初回生産限定盤)
価格:¥4,091(税込 ¥4,500)
●Art Book『Indoor Newtown Magazine』
メンバーソロインタビュー、撮り下ろし写真、四方颯人エッセイ、10問10答アンケート、クリエイティブコレクションなど全66P

通常盤
CD(紙ジャケ)
品番:MASHAR-1009
価格:¥3,182(税込 ¥3,500)
【購入者特典】
ポストカード
※3月30日(木)開催のスペシャルライブ参加券付き

CD特典のサイン入りポストカード またはポストカードをお持ちの方は、1st フルアルバム「Indoor Newtown Collective」リリース記念イベント『ヤジヤジしようぜ!vol.7.5 ~アルバムリリース感謝祭~』 に参加いただけます。(ご参加頂くにはお申し込みが必要となります)

CD/Digital 予約リンクはこちら


LIVE INFORMATION

スペシャルライブ「ヤジヤジしようぜ!vol.7.5 ~アルバムリリース感謝祭~」
2023年3月30日(木)
新代田FEVER
入場無料 (参加券から事前申込が必要となります)

内容:ミニライブ、トークイベント、「ヤジラジ!」公開収録などを予定
※参加にはCD購入特典のポストカードからお申込が必要となります。
※参加に伴う注意事項は後日アナウンスいたします。

ヤジコ展「コレクティブ コレクション」
2023年3月30日(木)~4月9日(日) ※時間はお店の営業時間に準じます。
新代田POOTLE(新代田FEVER内に併設)
入場無料

ドラムの古谷駿がこれまで手掛けてきたYAJICO GIRLのアートワークやMV、グッズなどをまとめた展示会を開催致します。

ヤジヤジしようぜ! vol.8

YG_YJ8フライヤーA4_1000_20230215.jpg
2023年5月13日(土)
大阪・江坂MUSE
OPEN 17:30/START 18:00

2023年5月21日(日)
愛知・3STAR IMAIKE
OPEN 17:30/START 18:00

2023年5月28日(日)
東京・代官山UNIT
OPEN 17:15/START 18:00

<TICKET>
前売り ¥3,800
(税込・ドリンク代別途必要)


LINK
オフィシャルサイト
@YAJICOGIRL
@yajicogirl
Official YouTube Channel
LINE公式アカウント
ポッドキャスト「ヤジラジ!」(毎月5のつく日に更新)
@YAJICORADIO

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