SENSA

2023.03.10

文字通り「コレクティブ」となったバンドの、記念すべきファーストフルアルバム──YAJICO GIRL『Indoor Newtown Collective』全曲解説【前編】

文字通り「コレクティブ」となったバンドの、記念すべきファーストフルアルバム──YAJICO GIRL『Indoor Newtown Collective』全曲解説【前編】

YAJICO GIRLのファーストフルアルバム『Indoor Newtown Collective』はこれまでの集大成であり、いつだって帰ることのできる場所であり、同時にこれから先の未来をも照らし出す作品だ。フロントマンの四方颯人がリードして音楽的に大きく舵を切った『インドア』、その方向性をもう一度「バンド」として捉え直した『アウトドア』、そこからの発展形として生まれた『Retrospective EP』と『幽霊』。これらの作品を作りながら、5人は個々がそれぞれミュージシャンとしての力量を発揮する文字通りの「コレクティブ」へと進化を果たし、そこにアレンジャーやエンジニアをはじめとしたチームも加わり、最終的には聴き手である「あなた」を見つけ出す。そんなストーリーが18曲の流れから感じられることも、非常に感動的だ。四方による全曲解説で、このアルバムの魅力をより深く知ってもらいたい。

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1.流浪



―1曲目の「流浪」は最初から「アルバムのリード曲」をイメージして作られているのでしょうか?


四方颯人(Vo):「リード候補を何曲か作ってみよう」というタイミングで3~4曲作って、チームの中で「これが一番いい」ってなったのが「流浪」で。「規模感をもっと広げていきたい」という想いがあったので、アレンジは今までよりオーバーグラウンドな響き方をするように心掛けました。

―この曲では初めて辻村有記さんがアレンジャーとして関わられていますね。


四方:辻村さんからはビートの提案があったんです。今まではドラムがシンプルで、その分ベースが動くっていうバランスが多かったけど、この曲はドラムが結構手数の多いビートになっていて。そのおかげでうわものとかベースラインも今までよりスケールの大きいサウンドにできたと思います。辻村さんはもともとロックから出てきた人なので、YAJICO GIRLがずっと封印していたロックっぽいモチーフが、一周回ってもう一回出せたので、めっちゃ相性がよかったんだなと思いました。完全にお任せするんじゃなくて、最初にビートの提案をもらってから、お互いアレンジを提案し合って、共同アレンジャーとして参加してもらえたのもすごくよかったです。

―「流浪」というタイトルや歌詞の内容にもYAJICO GIRLらしさが詰まっているなと。


四方:デモの段階で自分の口が〈るろう るろう るろう〉って言っちゃってたので、「じゃあ、この〈るろう〉にどんな意味を持たせればいいのか」っていう考え方でした。今回のアルバムはこれまでの集大成であり、これからの名刺代わりになる作品にもしたかったので、リード曲も「これがYAJICO GIRLです」と言える曲にしたくて、今までのYAJICO GIRLの活動と、2023年にリリースする楽曲としてのテーマと、両方を考えて書きました。

―CDの初回生産限定盤に入っているアートブック内のインタビューでも「流浪」について少し話していて、今の時代に対して、「エモーショナルになりすぎるのは危険」だと感じていて、「当てがないことを肯定したい」という話をしてくれましたよね。


四方:自分の感覚として一番強いのは「単純じゃないんだ」っていうことで。明確な強いメッセージを発信するよりも、世界は複雑で、簡単に割り切れるものじゃないんだっていうことを、僕自身がアートやカルチャーからすごく学んできたので、自分が歌詞を書くときもその感覚が強くあって、これまでもそれをいろんな言葉で歌ってきた気がします。

―「何事も単純ではない」という現実に対する認識があって、目が回るような現代社会について歌いながら、それでも〈何を導にして生きるのか 答えはまだ見つかりはしないけど 「うたう!」〉と強く宣言していることが印象的でした。


四方:ホントに先が見えない、わからないことが多い時代だと思うんですけど、それでも自分で決めて、自分でアクションを起こしていくことが何より大切で、それが僕にとっては「うたう」っていうことで。かぎかっこをつけることで、「自分にできることは何だろうか」っていうのを意識してほしい気持ちもありました。

―四方くんはもともと曲を作ることが好きなタイプだと思うんですけど、「歌う人」としてのアイデンティティも『インドア』以降の4年間で強くなったと言えますか?


四方:強くなったと思います。たしかに、元々は曲を作るのが一番好きだったんですけど、年々メンバーであったり、いろんな人と一緒に作り上げている気持ちが強くなっていて、他の人に任せられる部分も多くなって。最近は自分があんまり口を出さなくても、すごくいい曲になっているので、力の分配が変わったというか。前は「作曲」に特に力を注いでたのに対して、今は僕がひとりで担う部分は「言葉を書いて、それを歌う」っていうことなので、そっちのアイデンティティが強くなってきてるっていうのはありますね。

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2.幽霊



―「幽霊」は最近の曲なので、それこそ他のメンバーにアレンジをゆだねる部分も多くなった曲ですよね。


四方:『幽霊』EPはわりかしそうだったかな。メンバー各々のアプローチの種類も増えてて、例えば、この曲はAメロがシンセベースですけど、ちょっと前やと「シンセベースはあんまり弾きたくない」とか、弾き手としてのこだわりも強かったと思うんです。でも今は「この曲が一番よくなるには、どういう要素が必要か」っていう考え方が、僕も含めて全員出来るようになったのが大きいんじゃないかなって。

―1月に渋谷クアトロで開催された「YAJICOLABO」を観て、すでに「幽霊」がライブでのキラーチューンになっているのを感じました。


四方:『インドア』はミドルテンポの曲が多くて、そういうのが好きな人はめちゃくちゃのってくれるんですけど、普段ロックフェスに行くような人にとっても取っ掛かりになる曲がもうちょい必要だなっていうのが、バンドの課題としてあったので、そういう曲を作りたいタイミングだったんです。ライブで映えそうな曲っていうのと、自分がダンスミュージックを好きになって、やってみたいと思うタイミングが上手く合わさって、『アウトドア』後の2枚のEPができたっていう感覚です。

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3.雑談



―「雑談」は今言ってくれた「ライブ映えするダンスミュージック路線」の始まりのような一曲で、アレンジはハイパーポップの影響もありますよね。


四方:もともと「ハイパーポップとアフロを組み合わせよう」っていうテーマでした。メロディーがすごくキャッチ―なので、トラックメイキングの面白さもちゃんと出せたら、すごくいい曲になるだろうなって、最初から方向性は見えてましたね。

―ちなみに、冒頭の3曲のタイトルが漢字2文字なのは狙ったんですか?


四方:そう思われるのが嫌だったから、僕は最初「流浪」は平仮名で「るろう」にしたかったんです。〈るろう るろう るろう〉っていう文字面の目が回る感じ、ゲシュタルト崩壊な感じが曲のテーマにも合ってると思ったんですけど、でも漢字派の方が多くて。まあ、漢字の方がサウンドの硬さとはイメージ的に近いから、結果的にこれでよかったと思います。

4.街の中で



―上京してすぐにコロナ禍が始まってしまった中で、「街の中で」の再生回数がサブスクでかなり伸びたのはバンドにとって大きな支えになったんじゃないかと思います。


四方:リリースタイミングは上京してすぐだったんですけど、この曲は大阪時代に作った一番最後の曲です。『インドア』を作り終えて、「これをもっとマスに届けるにはどうしたらいいか」を考えるタイミングでもあったので、『インドア』の空気感や雰囲気を残したまま、もっとポップスとして響くように、ABサビの構成を意識した一番最初の曲でもあります。

―〈ただ風に身をまかせるだけ〉という歌詞は「流浪感」ありますよね。


四方:ポリコレとかもそうですけど、当時は社会問題にすごく敏感だった時期で、自分がこの街の中で生きたり、たまにふと昔の友達や恋人を思い出したり、夜中に散歩をしたりするのって、自分では「風に身をまかせるだけ」と思ってても、本当にその風は自然発生なのか、誰かに作られてる可能性もあるんじゃないかっていうことを匂わせたくて。風に身をまかせて生きることを肯定してると思う人もいれば、自分の行動が誰かに支配されてるかもしれないっていうところまで考える人もいる、その余白の部分を上手く書けたんじゃないかと思います。特に最後の一行、〈その風を作り出すのは誰?〉が肝ですね。「その風を作るのは俺だ」とも捉えられるし、「その風を作り出しているのは他の誰かなのかもしれない」とも捉えられるかなって。

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5.alone



―「alone」はインタールード的な弾き語りの短い曲で、これは次の「FIVE」に繋げるイメージ?


四方:そうです。やっぱり「FIVE」はアルバムの中でも大事な曲になると思ったので、「FIVE」をできるだけいい形で、いいタイミングで響かせたいと思ったときに、序盤はアップテンポな曲が続いて、代表曲とも言われる「街の中で」があって、一回ムードを落ち着かせる意味でも、ここにインタールードを挟むのがいいかなと思いました。自分的にこのアルバムは4ブロックあって、1ブロック目と2ブロック目を繋ぐトラックです。

―メンバー5人のことを歌った「FIVE」との対比で、ひとりについて歌おうと思った?


四方:そうですね。「FIVE」をより染みさせるために、悲しみや孤独とか、自分の深い部分を一回表現した方がいいと思ったし、アルバム全体で見ても、コアな部分をさらけ出す箇所がもう少しあってもいいのかなと思って、それで作った曲でした。

6.FIVE



―「FIVE」はシティポップとの関連で語られることも多い曲ですよね。


四方:最初のリファレンスはポスト・マローンの「Circles」で、現代的な音像やサウンドメイクを意識しつつ、あの曲はギターも2~3本重ねてるので、バンドにも流用できると思ったんです。それがフルコーラスできたときに、コーラスで80年代のシティポップっぽい雰囲気にしてもいいんじゃないかと思って、その要素は後から付け足した感じでした。シティポップっぽいと言われるバンドがたくさんいた中で、古臭くなく、今っぽく鳴らせてるバンドはそんなにいないと思っていたので。それができたのは自信になりました。

7.忘れさせて



―「忘れさせて」は武志(綜真・B)くんと吉見(和起・G)くんによる作曲で、YAJICO GIRLにとってはひとつエポックメイキングな曲ですよね。


四方:武志は『ひとり街』とか『沈百景』の頃から一緒にコードを考えたり、手伝ってもらってたし、自分でも曲を作りたいって言ってて、実際ガレージバンドで作ったりしてるのも知ってたから、吉見も含めて、「YAJICO GIRLで曲作ったら?」っていうのは、自分からも言ってて。そうしたら「2人で作ろう」って、いつの間にかなってたみたいですね。やっぱり、自分で曲が作れたら幅が広がるじゃないですか? YAJICO GIRLは全員が一ミュージシャンとしても活躍して、「あの人もこの人もいるバンドなんだ」みたいになれたらかっこいいなと思っていて。

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―それこそ、コレクティブ的な感じですよね。「忘れさせて」の最初のデモを聴いたときはどんな印象でしたか?


四方:本人たちは「四方がやらなそうなことをやった」って言ってましたけど、最初からちゃんと今までYAJICO GIRLがやってきたようなブラックミュージックのエッセンスがあったし、そこによりわかりやすい「サビ」って感じのメロディーを乗せるっていうバランスについても言葉にして伝えてくれていたので、ビジョンの共有はすごくしやすかったし、ドラマチックな構成にしたいんだろうなっていうのも理解していました。でも最初に作った曲でこういうポップスとしての強度がちゃんと出せるのは、やっぱりすごいなと思いました。僕の作曲じゃない曲が途中に入ることで、アルバム全体としてもいいアクセントになって、流れがめっちゃよくなったと思います。

―歌詞についてはいかがですか?


四方:イメージしてる季節感とか、映像の雰囲気も伝えてくれてたので、それに合わせて書いていきました。でも自分で作った曲にこの歌詞は当てられないので、新しい可能性を引き出してもらった気もします。こういう直接的なラブソングは自分で書きたいと思って書くタイプじゃないから。ハコを与えられたからこそ書けたと思いますね。

8.NIGHTS



―「NIGHTS」は『インドア』の収録曲で、四方くんの色が特に強い曲だし、時期的にも一番古い曲ではあるけど、アルバムの中に入っても違和感なく聴けました。


四方:何曲かはリマスタリングをしてるので、それでスムーズに聴けるようになったんだと思います。『インドア』の曲は特殊なバランスで成り立っているので、通して聴くとすごくいいアルバムなんですけど、他の曲と混ぜると音像がどうしても浮いちゃってたんです。ローの処理がすごく特殊で。まだ無知だったのもあって、そのときやりたかった低音の感じを過度に突き詰めていて。それによってあのアルバムは近くて狭い、本当にインドアっていう感じのパーソナルな作品になったので、結果的には良かったと思うんですけど、あれ以降はもうちょっとカジュアルに聴いてもらえる曲が増えたので、やっぱり合わなくて。そこは懸念してたんですけど、リマスタリングを丁寧にやって解決しました。

9.寝たいんだ



―「寝たいんだ」も比較的最近のダンサブルな曲で、日本語の譜割りもどんどんユニークでかっこよくなってますよね。


四方:この曲は客観的に聴いてもトラックかっこいいなって思います(笑)。音楽好きな人は「この曲すごい」って、よく言ってくれますね。「もっとフックがあってもいいんじゃないか」ってTeje (MUSIC FOR MUSIC)さんに言ってもらって、それで引っ張り上げてもらった感覚もあります。

―日本語の歌詞やフロウに関して、参考にしてる人とかっていますか?


四方:たくさんいますよ。宇多田ヒカル、小沢健二、岡村靖幸......PUNPEEとかヒップホップ系の人たちも、もちろん参考にしてます。あと、ミセス(Mrs. GREEN APPLE)の譜割りはすごい。歌がめちゃくちゃ上手いから、その分自由度も高いと思うんですよ。「そこにその言葉入らへんやろ」っていうのを、スキルの力で入れていく。大森(元貴)さんのソロがより顕著かもしれないです。そういう人たちも参考にしつつ、言葉のハマり具合いとか、「口が気持ちいい」みたいなのはめちゃめちゃ意識してますね。

取材・文:金子厚武
撮影:ムラカミダイスケ


RELEASE INFORMATION

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YAJICO GIRL「Indoor Newtown Collective」
2023年3月8日(水)
Format:CD, Digital

Track:
1.流浪
2.幽霊
3.雑談
4.街の中で
5.alone
6.FIVE
7.忘れさせて
8.NIGHTS
9.寝たいんだ
10.Airride
11.Better
12.city
13.だりぃ
14.VIDEO BOY
15.indoor
16.IMMORTAL
17.わかったよ / PARASITE
18.休暇
19.いえろう (INC ver.) - bonus track - ※CDのみ収録

初回生産限定盤
CD+Art Book『Indoor Newtown Magazine』
品番:MASHAR-1010(初回生産限定盤)
価格:¥4,091(税込 ¥4,500)
●Art Book『Indoor Newtown Magazine』
メンバーソロインタビュー、撮り下ろし写真、四方颯人エッセイ、10問10答アンケート、クリエイティブコレクションなど全66P

通常盤
CD(紙ジャケ)
品番:MASHAR-1009
価格:¥3,182(税込 ¥3,500)
【購入者特典】
ポストカード
※3月30日(木)開催のスペシャルライブ参加券付き

CD特典のサイン入りポストカード またはポストカードをお持ちの方は、1st フルアルバム「Indoor Newtown Collective」リリース記念イベント『ヤジヤジしようぜ!vol.7.5 ~アルバムリリース感謝祭~』 に参加いただけます。(ご参加頂くにはお申し込みが必要となります)

CD/Digital 予約リンクはこちら


LIVE INFORMATION

スペシャルライブ「ヤジヤジしようぜ!vol.7.5 ~アルバムリリース感謝祭~」
2023年3月30日(木)
新代田FEVER
入場無料 (参加券から事前申込が必要となります)

内容:ミニライブ、トークイベント、「ヤジラジ!」公開収録などを予定
※参加にはCD購入特典のポストカードからお申込が必要となります。
※参加に伴う注意事項は後日アナウンスいたします。

ヤジコ展「コレクティブ コレクション」
2023年3月30日(木)~4月9日(日) ※時間はお店の営業時間に準じます。
新代田POOTLE(新代田FEVER内に併設)
入場無料

ドラムの古谷駿がこれまで手掛けてきたYAJICO GIRLのアートワークやMV、グッズなどをまとめた展示会を開催致します。

ヤジヤジしようぜ! vol.8

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2023年5月13日(土)
大阪・江坂MUSE
OPEN 17:30/START 18:00

2023年5月21日(日)
愛知・3STAR IMAIKE
OPEN 17:30/START 18:00

2023年5月28日(日)
東京・代官山UNIT
OPEN 17:15/START 18:00

<TICKET>
前売り ¥3,800
(税込・ドリンク代別途必要)


LINK
オフィシャルサイト
@YAJICOGIRL
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ポッドキャスト「ヤジラジ!」(毎月5のつく日に更新)
@YAJICORADIO

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