2022.12.21
*同じくバンドメンバーの黒瀬莉世(B)は体調不良により急遽欠席。
L→R:高清水完太(Dr) 、土器大洋(G)、アツキタケトモ、狩野龍太郎(Key)
補助輪をつけながらちょっとずつライヴへの気持ちを戻していった
―アツキさんは、アツキタケトモ名義としては今回が初めてのライヴなんですね。
アツキタケトモ:そうですね。なんか、パフォーマンスすることへの恐怖心とか抵抗感みたいなものがあって...コロナ禍があってあまり外に出なくなって、友達のライヴを観る機会も減ったり。ネット上だけで人と出会ったり話したりするだけの期間が続いていく中で、当たり前にあったものからすごい距離が生まれて。ライヴだけじゃなくて人が集まる空間とか、そういうもの自体に対する距離感が出てきたんです。でも、自分の制作に外部の人に入ってもらうようになったりとか、人とコミュニケーションをしながら音楽をやる楽しさを取り戻しつつ、補助輪をつけながらちょっとずつライヴへの気持ちを戻していったんです。
―はい。
アツキ:今回のメンバーは基本的に僕からオファーを出したんです。自分の繋がりで、友達の友達とか、そういうふうに自分で集めたメンバーで。このメンバーでやれたから、僕の中でバンドとか、そういうものに対しての固い緊張感みたいなものがほぐれて。結果的には超やってよかったなぁっていう感じになりました。
―なるほど。
アツキ:音楽の肉体性というか...パソコンでずっと打ち込んでいく神経質な感じから、もっとラフに、生音を鳴らすって気持ちいいじゃん、っていうフィーリングが戻ってくるような、そういう感覚でしたね。
―今回のライヴストリーミング配信のための収録でお客さんはいないにしろ、基本的にやり直しのきかないライヴという形で、久々に声を出してみていかがでしたか? 自分の思ったようにやれました?
アツキ:そうですね......ライヴに抵抗感があった時期は、そういう修正がきかないところに関して抵抗感があったんです。すごい凝り性なんで、ちょっとでもピッチがずれたら気になっちゃうとか、当日の自分のコンディションがよくなかったらどうしようとか、そういう懸念事項ばっかり考えていて、やりたくなかった。でも今回はこのメンバーだったのでリハーサルの段階からリラックスできたことで、意外と本番も楽しめました。細かいことを気にせずに、とにかく自分の歌を届けるぞ、みたいな、そういうマインドでいけた。後で映像を見たら、ピッチが気になるところとか、もっとここはうまく歌えたなとか、そういう部分がないわけじゃないけど、それも含めてその場の空気感とかドライヴ感みたいなものがよかった。音源には絶対出せないパッションというか、熱量があったから。あぁ、ライヴってこういうことなのかもなって思って。抵抗感とか、そういうものがなくなったっていう実感ですね。
―映像を拝見して、もうちょっと緊張されてるのかなって思ってたんですけど、緊張よりは楽し気な感じがすごく伝わってきて。それはよかったと思いました。
アツキ:そうですね(笑)。そういう感じです。結局、緊張しても集中力が上がるわけではない。どちらかっていうとリラックスして立ち向かうことの方が重要だなと。当日はそれを意識してやっていたような気がしますね。レコーディングにしてもそうなんですけど、ちょっと前まではプロとしてこうあらねばならない、みたいな...そういうものがあった気がしたんですけど...今はそういうのは下らないと思う。アマチュアだろうがプロだろうが、なにが世の中に届くかわからないし。すごい売れた曲でも全然プロ意識を感じない作り込みの曲とかも今は普通にある。スマホで手軽に音楽が作れる時代で何かに固執するよりも、いかにその人の感情が豊かに表現されているかっていうことの方が重要。このインスタントな時代、情報があふれている時代には。
―わかります。
アツキ:10年前くらいまではプロとしていい歌を歌わなきゃ!みたいな緊張感と闘いながらレコーディングとかライヴをやっていたんですけど。ここ最近はカラオケでわーって楽しんでるような、その場所の楽しさ、テンションの上がり方みたいなものの方が価値があるんじゃないかな、っていう考え方になっているかもしれないですね。
今回はかなりロック・バンドの方に寄せているアレンジ
―今回ご自分の個人的なつながりでメンバーを集めたとお話ししていましたけど、具体的にはどういう形で?
アツキ:土器(大洋)さんは、僕の長い友達の「Ghost like girlfriend」っていうソロプロジェクトをやってる岡林(健勝)さん経由で知り合ったんです。ずっとゴーストの作品を聴いていて、(そこで弾いている)土器さんのギターがすごい好きで。僕はもともとギターを弾いてたんですけど、そもそも楽器を弾くのはあまり好きじゃない。だからデモにはほとんどギターは入ってないんですけど、でも土器さんは無理に足した感が全くなく、もともと必要なパーツとしてあったくらいの形でギターアレンジをやってくださる。音色も含めてすごい多彩なアレンジをされる方なので、今後の制作でも重要な役割を担っていただきたいなと僕は思っています。さっそく新曲の「Microwave Love」でアウトロのギターソロを弾いてもらったし、ライヴで一緒にセッションしてすごくいい手応えだった。その感覚を今後も音源制作に取り入れる感じになりそうです。
―土器さんは彼から誘われてどうでした?
土器大洋(G):嬉しかったです。彼の音楽はすごいかっこいいって思っていたので。ただ音源でギターがない曲もいっぱいあるので、どういう理由で自分がギタリストとして選ばれたんだろうとか、自分はこの曲に対してどうアプローチすべきかは考えました。でもキャンバスが白いというか、自由な感じだったので、楽しみだなと思いましたね。
―まずは土器さんがギターとアレンジ全体を担う役割として一緒にやることになった。そこからどういうふうにメンバーは広がっていったんですか?
土器:ベースの黒瀬(莉世)さんはMO MOMAのメンバーで。アツキくんの音源って、生ベースもですけどシンセベースが必要な場面も結構あって。(黒瀬は)どっちも経験があったし、いつも一緒にやっているからやり取りがスムーズだと思って誘いました。
アツキ:ドラムの高清水(完太)さんとキーボードの狩野(龍太郎)さんは同じNOMAD POPっていうバンドのメンバーなんですよ。5年ぐらい前から繋がりがあるんですけど、NOMAD POPの「45のセカイ」っていう曲のPVを見て、ヤバイ、僕がやりたいこと、僕が当時のバンドでやりたかったことをやられちゃった、みたいな感覚があった。バンドを解散したのはNOMAD POPのせいっていうか(笑)。
高清水完太(Dr):そうなの?(笑)。
アツキ:っていうぐらい、自分はただのファンで。いつか一緒にNOMAD POPと一緒に何かやりたいなとは思っていて。このタイミングで、ふたりに一緒にやってくれってお願いしました。あと、今日はいないんですけどマニピュレーターの白石経さんがかなり重要な位置を担っていて。
高清水:半分バンマスみたいな感じ。
アツキ:そう。アレンジ、マニピ、エンジニア。結局、当日の録音もしてくれて、マニピもしてくれて。裏方というよりはプロデューサーに近い。アレンジに関しても経さんのアイデアが活かされたりする場面が結構あって。そんな感じでみんなのスケジュールを合わせるのがけっこう大変で、月に2、3回くらいのペースで4ヶ月リハーサルをやりました。
―それだけの回数が必要だった。
アツキ:そもそも生ドラムの曲が僕は一曲もないし。
高清水:そう!(笑)。
アツキ:ギターが入っている曲も1、2曲しかない。そもそもない曲のアレンジをする、差し替えていくっていうよりかは、どうやって生演奏のアレンジとして成立させるか...8曲全部リアレンジしたようなもので。
土器:初期段階にいちばん時間がかかったよね。それまでのアツキくんの曲は、ステージでやるのが浮かびづらいというか、よくも悪くも。ライヴを前提としていないところがあったから。だからこそ今回のやり取りは難しかった。どれをどう置き換えるかとか。みんなでせーので弾くまでには結構、時間がかかりました。どれくらい音源のイメージを優先するのか、あえてバンドっぽく見せるのか。曲ごとにどっちで行くのか話し合って。
―ご本人としてはどういうお考えだったのでしょうか?
アツキ:僕はもう、曲作りの段階で自分の曲に飽きているので(笑)。リリースする頃には自分の曲はあまり聴いていないんですよ。だからできるだけ(ライヴでは)変えたい。でも初めてのライヴなのに、いきなり、"10年経って定番曲になってマンネリ化したからアレンジしました"っていう感じになるのもまた違う気がして。だから「Untitled」とかはバンド・ヴァージョンみたいな感じで振り切ってリアレンジしましたけど、「Period」とかは原曲に近く、とか曲ごとに決めていきました。特にシングルは元のイメージそのまま。EPの曲をデモとしてバンドアレンジするならどうするだろう、みたいなテンションで作ったイメージです。
―狩野さん、高清水さんとしては、彼が打ち込みで作り込んできた曲を生演奏でやることに戸惑いはなかったですか?
狩野龍太郎(Key):戸惑い......もう戸惑いしかなかったです(笑)。作り込みがすごくて、なんかもうパズルみたいにできている音楽だと思っていて。例えば「このフレーズ弾かなかったらどうなんだろうな」みたいなことをずっと考えていて。どのフレーズをピックアップしよう、でも手は2本しかないしなぁ、みたいな。そういうことをずっと考えていましたね。
高清水:そもそも楽曲が生ドラムじゃないので、どのくらい生ドラムに差し替えるのか、けっこうメンバーで詰めたんですよ。スネアの音色1個とっても、この曲は電子一本で、とか、原曲の音を使おうってなったり、でも最後のラスサビだけは生のスネアに置き換えていきましょうみたいな、そういうのを決めるのにかなりの時間を要しました。脚は生でスネアは電子、脚は電子、手は生、みたいな。いろんなパターンを何パターンもやりましたね。本当に、腕が足りないなっていうのはありました。
―ドラマーじゃない人が打ち込みをやると人間では叩けないようなフレーズが出てくるってよく言いますよね。
高清水:あぁ、もう、ありありでした(笑)。ライヴだからけっこう抜いちゃっても大丈夫じゃないか、この方がむしろ演出としてトータルでまとまるんじゃないか、みたいな。トラックの抜きさしは結構しましたね。
アツキ:僕の曲をライブアレンジする時には、どっちにも行けるんですよ。バンドっぽく行く方法か、クラブ・ミュージックっぽい方向でパフォーマンスするか。今回はかなりロック・バンドの方に寄せているアレンジですね。
ようやく自分の中の音楽を取り戻せたみたいな感覚があります
―同じライヴをやるにしても、バンドでやろうと決意したのは大きな分岐点ですよね。
アツキ:そうですね。
―ジェイムス・ブレイクみたいに、ひとりでもできたけど。
アツキ:そうですね。ジェイムス・ブレイクみたいにリズムマシンを使ってとか、そういうアプローチも考えなくはなかったですけど、でもライヴやるならバンドでやりたいっていうのは思ってました。ライヴはそっちの感覚を大事にしたい。僕がずっとキーワードにしている肉体性みたいなものをより感じてもらうためには、クラブ・ミュージック寄りでもいいんですけど、ロック・スピリットみたいなものに対しての思いがあるから。
―あるんですか?
アツキ:あります。そもそも僕は最初に聴いた洋楽ってオアシスだったりするから。スタジアム・バンドへの憧れが強いんです。そのあとレディオヘッドとかに出会ってだんだん打ち込みに寄っていくんですけど、そもそもロックが入り口にある。邦楽で言ったらミスチルだし、やっぱり。そういうスタジアム・ロックの熱さに対する憧れはもともとやっぱりある。
―この場合のスタジアム・ロックって、大勢の人たちに共有されてる、ぐらいの感じ。
アツキ:そうです。それをライヴで突き詰めていきたいって思うし、音源では寸分狂わない美学っていうか、そういうものを突き詰めていくし。両方とも僕は捨てきれない。
―なるほど。
アツキ:このエレクトロ・ビートのカッコよさを聴かせたいけど、これだけキャッチーなメロディにしちゃうとそれがちょっと邪魔になるみたいな場面も自分の楽曲の中にはいっぱいあると思うけど、でもその両方を捨てきれないし、そこを"捨てきれない"ことが自分のオリジナリティに繋がるって思っている部分もあるから。
―ああ、なるほど。
アツキ:だからライヴではバンド寄りにしていきたい。音源を作っている時はトラックメイカーのTAARさんと一緒にクラブ寄りのアレンジをしているけど、ライヴにおいてはロック・バンド寄りのアレンジにした方が体を動かしやすいし。だからバンド感みたいなものはアレンジしていく中で意識したかもしれないですね。
―パソコンをにらみながらやる感じになるのかなって思っていたけど、ハンドマイク持って踊りながら歌ってたし。
アツキ:楽しさが伝わればいいかなと(笑)。
―でもヴォーカリストって自意識を捨てないとかっこ悪くなっちゃうから、そのへんは覚悟を決めて。
アツキ:そうですね。僕は本当にライヴ嫌いだったので。10代の時にレコード会社の人に、鏡の前で何時間も自分の立ち姿を見て「俺かっこいい」って思えないとフロントマンにはなれない、みたいなことを言われて。俺、絶対無理だわって思って(笑)。
土器:だいぶ極論だね(笑)。
―昔の人が言いそうな(笑)。
アツキ:弾き語りでとにかくいいメロディを書くっていうだけことに専業していた時期だったから。踊りたいとか、そういうことを意識していたというよりかは、メッセージ、何を伝えるか、みたいなフォークソングっぽい考え方だったから。でも今はたとえば「Outsider」の音源が完成した時とか、家で酒飲みながら、できたての「Outsider」を聴いてひとりでグラス片手に踊っているんですよ。もちろん歌詞で何を伝えるかっていうのもありつつ、どういうふうに踊れるかとか、そういうところに対してのフィジカルな気持ちよさみたいなものを今は追究できているから。
―わかります。
アツキ:だからライヴでもチマチマ作っている時の自分じゃなくて、お酒飲んで解放されている時の自分が出せた方が楽しめるし、お客さんにも楽しんでもらえる。音源を作る時って必ずしも楽しませるっていうだけじゃないと思うんですけど、ライヴはやっぱり変に凝り固まるよりも自分が楽しんでいることを伝えて楽しんでもらう、そういう感情のやり取りみたいなものをもっと重要視したほうがいいから。そこで作り込んだものをやりすぎると、心を開いていない感じに見えちゃう。それもひとつの表現手段ではあると思いつつ、今は音源だけじゃない自分の魅力を伝えるべきだなって。
―そう思うようになったきっかけは、『Outsider - EP』で、いろんなミュージシャンの助けを借りたことですね。改めて、どういう心境だったんでしょうか。
アツキ:自分ひとりではこれ以上のものは作れないって思ったからではないでしょうか。『幸せですか?』っていうアルバムを2021年に出しているんですけど、そのアルバムを作った段階では、もう自分で出せる振り幅とか、アレンジはやり尽くしてこれ以上は無理っていう気持ちになっていて。ある種マンネリ感とかルーティンワークになっちゃってる部分もあったので。そこをほぐすために外からの刺激が欲しかったんです。そうすることで自分の新しいやり口っていうか、新しいアレンジも引き出される感覚があったんで。外に何かを求めてそれを吸収することで自分の引き出しが増えて、アプローチの方法も増えてくる。外から何かを吸収するインプットがないと結局、アウトプットの質も上がらないから。
―そうですね。
アツキ:インプットの質を上げるにはやっぱりいろんな人と関わるっていうのがいちばん効果的な手段だとも思ったし。その流れで今回のライヴがあって。まだまだ自分にこんな引き出しがあるんだ、次に向けての展望がまだあったんだっていうのを、今回のバンドメンバーに見せてもらって。2021年くらいから、俺本当に音楽好きなのかなみたいな感じになったりとか...結構スランプというか。曲自体は作れるけどなんか、自分であまり興奮しないなっていう時期が続いていたんですけど。ようやく自分の中の音楽を取り戻せたみたいな感覚があります。「Microwave Love」の次のシングルもこのメンバーでアレンジしてみたいなとか。どんどん人を巻き込もうという感覚が強まっていますね。
―メンバーの方々はアツキさんとやっていく中で彼のこういうところが変わったとか、何か実感したことはありますか?
狩野:このメンバーの中で僕がいちばんスタジオに一緒に入ってる期間が長かったんですけど、最初に会った時より、心を解放しているという感じはあります。最初は「久しぶりに歌うんですよ、どうすればいいんだろうなぁ」みたいなことを言っていたんですけど、その感じはなくなって、どんどん自由になっていった感じはしますね。
アツキ:シンプルな自己肯定感は上がった気がしますね。
高清水:確かにね。どんどん元気になっていくんですよ。
土器:シンプルに「バンド最高!」みたいな感じがこっちに返ってくるから、テンションが上がった(笑)。初めてバンドをやる人みたいな感じ。
アツキ:この5年間くらいの中で、このメンバーでライヴに向けて動いてる時がいちばん青春だった気がしますね(笑)。
取材・文:小野島大
撮影:林直幸
LIVE INFORMATION
STREAMING LIVE「Who are you?」
12月21日(水)22:00~
LINE LIVE スペシャ公式chにて配信(※アーカイブはございません)
URL:
https://live.line.me/channels/52/upcoming/21895310
RELEASE INFORMATION
アツキタケトモ「Microwave Love」
2022年12月7日(水)
Format: Digital
Label: ZEN MUSIC / HIP LAND MUSIC
Track:
1. Microwave Love
試聴はこちら
LINK
オフィシャルサイト@atsukitaketomo