2022.12.07
Keishi Tanaka、5thアルバム『Chase After』リリース記念!楽曲に参加した関口シンゴ(Ovall)との"同級生"対談
今回SENSAでは、「Let Me Feel It」にギターで参加した関口シンゴ(Ovall)との対談を実施。制作の過程やお互いの印象などを語ってもらった。
セッキーくんに興味を引かれたきっかけは、Ovallがカバーしたボビー・コールドウェル
―おふたりは年齢的にいうと同級生になるんですよね。
Keishi Tanaka:そうなんですよ。貴重な同級生です。
―接点も多いと思うのですが。
関口シンゴ:でも意外と、一緒に何かをやるのは今回が初なんです。これまでもKeishiくんの名前は僕がOvallでフェスやイベントに出るときによく見かけるなと思ってたし、共通の知り合いもめちゃくちゃいるんだけど。
Keishi:ずっとニアミスだったというか。
関口:そうそう。それで2年ほど前に、僕と同じorigami PRODUCTIONSにいるKanちゃん(Kan Sano)がKeishiくんとコラボして。それがかなりKan Sano色全開のダンサブルな曲で、Keishiくんはもうちょいロック/ポップ寄りのイメージだったから、こういうのもやるんだって印象に残ってた。
Keishi:そう、あのときは初めて人に曲を書いてもらったんだけど、書いてもらうならちゃんと任せないと意味ないなと思ってたんだよね。でも任せるのって相当勇気がいるから、Kanちゃんとのコラボはそれができる人にやっと出会えたと思って。
―「The Smoke Is You (feat. Kan Sano)」は、Keishiさんの中でも新機軸の楽曲でしたね。
Keishi:そうですね。ソロになって最初の頃は自分の中で完結したい思いが強くて、もちろん最終的にはサポートミュージシャンに頼むけど、結構ギリギリまで自分でアレンジをやってました。それから徐々に誰かと一緒にやってみたいと思うようになって、そのころ頭の中にメモってたひとりがセッキーくん(関口)でした。興味を引かれたきっかけは、Ovallがカバーしたボビー・コールドウェル。
関口:「Open Your Eyes」だね。Ovallが活動再開した5年くらい前。
Keishi:うん、そのころからずっと興味があって、タイミングがあえば何かやりたいなと思ってた。あとインスタライブの影響も大きかったな。セッキーくんがやってたインスタライブをこっそり見てたんです。
関口:インスタライブね(笑)。コロナの時、やることもなかったんでインスタライブを始めたら毎日やる癖がついて、60日以上続けたんですよ。絶対誰も見てないだろうと思ってたけど(笑)、見てくれたミュージシャンが割といて、Keishiくんも見てくれてた。
Keishi:そうそう、そのしゃべり方とかを見て、セッキーくんという人にめっちゃ興味を持った。なんかおもしろそうだな、絡んでみたいなって。
関口:それはうれしいな(笑)。
Keishi:今回セッキーくんに参加してもらった「Let Me Feel It」は、久々にダンスをテーマに作りたくなったんです。このところコロナの影響もあって、弾き語りやストリングスを入れてのビルボードとか、静かなライブをするモードだったんだけど、もうそろそろダンス曲を作りたいなと思って。それで5枚目のアルバムだから「5th dance」という仮タイトルで作り始め、これはギターでグルーヴを作る曲にしようと思ったときにセッキーくんが頭に浮かんで「ここだ!」と。
関口:そっか、なるほど(笑)。
Keishi:自分が最近よく聴いてたコナー・アルバートとか、もう少し前でいうとトム・ミッシュとかもそうだと思うんだけど、ギターが前面にいて楽曲を引っ張っていくイメージで始まっていて。それができるのはセッキーくんだろう、ここでセッキーくんのギターほしいなって。
関口:うれしいなあ。
Keishi:それでもうギターは任せるつもりで、他のパートと仮のギター・カッティングが入った音源を送りました。
関口:そうそう、「カッティングも入れ直してもらいたいんだけど、それ以外にリードっぽい、テーマになるようなフレーズを入れてほしい」という依頼をもらいました。それでKeishiくんのデモを聴いたら、あ、こういう感じのやりたいんだなってすぐにイメージをキャッチできた。これは自分が入っていい感じになりそうだなって思えました。
Keishi:よかったよかった(笑)。
関口:それで「こういうことだよね」みたいな感じで音を入れて渡して、それを気に入ってもらえて。やり取りがスムーズで早かったよね。
Keishi:めちゃめちゃやりやすかった。テンポ感も合うし。
関口:もしかしたらそれって年齢が関係あるのかなってちょっと思った。僕とKeishiくんはジャンルでいうと結構違うところにいたんです。でも通じ合う部分がすごく多い。たとえば、ちょっと細かい話なんですけど、自宅で録るときってアンプじゃなくてライン録りをするんですね。今の若い世代はそれを普通の感覚でやってるけど、僕らより上の世代だと、ライン録りの音源はアンプで録り直すでしょっていう感覚が当たり前だと思うんです。
Keishi:確かに「ラインで本チャンなんて」っていう感覚は昔はあったかもね。
関口:そうそう、それはダメでしょっていう。で、うちらの世代は、ちょうどその狭間にいるんですよ。どっちもありで、アンプはアンプの空気感のよさがあり、ラインはラインで扱いやすくて、ちょっと今っぽい感じにもなる。そのへんすごく感覚的な話なんだけど、Keishiくんとは「イントロのフレーズはラインのをそのまま使おう。でもカッティングはアンプで録り直したいよね」みたいなアイディアがすんなり共有できる。そこで通じ合えるのはたぶん、同じ世代を生きてるからなのかなって思うんですよね。
Keishi:実際アンプで録って良くなる部分と悪くなる部分があって、ラインで欲しい音の感じができてるんなら使った方がいいんだよね。あと今回スタジオに入ったのは、単純に一緒に作業したかったっていうのもあって。
関口:そうそう、実際スタジオで一緒に録ったところはデモとはちょっと違う感じにしたよね。そのへんをわかりあえる感じがすごくあった。今までお互いにいろいろやってきて、同じ思いをしてきたんだろうなって思ったな。
―スタジオ作業まではずっとリモートでのやりとりだったんですか?
関口:そうです。だからリアルに会ったのは、スタジオの日が初めて。で、今日のこの対談が2回目(笑)。
―えーっ、信じられない。すごくなじんだ雰囲気ですけど。
Keishi:ね、2回目の感じが全然しない(笑)。たぶん音楽的にも近すぎず遠すぎず、ちょうどいい距離なんだと思います。あんまり遠いとうまくこの関係になれないかもしれないし、お客さんにも楽しんでもらえないかもしれない。逆に近すぎると新鮮さやおもしろみがない。今回のアルバムは挑戦するという考えが自分の中にあったから、初めての人を誘いたくて、そのちょうどいい距離感にいたのがセッキーくんでした。
Keishiくんはヴォーカリストとして声1本で表現する人だから、ストレートに響く
―先ほどライン録りかアンプ録りかという話がありましたが、今回のアルバムは生音か打ち込みかというバランスもすごく大事だと感じました。それぞれの曲で生音/打ち込みを選んだ意味がすごく伝わるので。
Keishi:ありがとうございます。今回のアルバムは今までやってきたことも入れたいし、さっき言ったように挑戦する部分も入れたくて。最近制作やライブのやり方もちょっと変えていて、そこで感じている楽しさがアルバムにも出てると思います。
―具体的に何が変わったんですか。
Keishi:パソコンを使って音楽で遊ぶことがすごく増えたんですよ。これまでは、それこそ全パートをアンプで録り直したりしたけど、今はパソコン上のシンセでいい音が作れるし、それがいいと思えばなるべく使う。あるいはサポートミュージシャンと相談しながら、打ち込みに聴こえるような音をあえて生楽器でやったりもする。だから今回は生音なのかシンセなのかわからない曲もあると思うんです。僕も洋楽を聴いて、これはどっちだろうと思うことがたくさんあるし。今はそういうアプローチに惹かれるので、それをやったのが前半5曲、レコードでいうとA面ですね。
―なるほど。曲順も重要ですね。
Keishi:作品やライブの曲順や流れを考えるのがすごく好きなんですよね。アルバムを作るときはいつも1曲目を最後に作るんですけど、今回は「Let Me Feel It」をリード曲にしたいと思ってたから、1曲目の「Will」はそこに行きやすいキーや転調の方法を考えて作りました。
―「Let Me Feel It」はかなり重要なポジションの楽曲ですね。
関口:いやあ、リード曲と思ってなかったからびっくりです。先に聞かなくてよかった、プレッシャーに弱いから(笑)。でも今の話を聞いて、俯瞰の視点で作ってる感じがすごいなと思います。それってプロデューサーの目線じゃないですか。Keishiくんのようにシンガーソングライターでそういう感覚をもってる人ってめずらしいんじゃないかな。
―関口さんもプロデューサーとしての感覚をお持ちで、そこにやりにくさはなかったですか。
関口:全然なくて、それはたぶん、ふたりのプロデュースの方向性が合ってたからなんですよね。たとえばギターのフレーズを出していくうえで、いまひとつハマらないのを弾いたときって弾く側としては「あ、これはないかな」っていうのが秒でわかっちゃったりするんです。それでも場合によっては最後まで弾いてプレイバックして...という時間が必要なんだけど、今回はKeishiくんが同じタイミングで「あ、これは違うかな」っていう顔をしていて(笑)。「じゃあこれはもうやらなくていいね」「さっきので決まりだね」みたいにジャッジが早いんですよね。
Keishi:ほんとに全然悩むことがなかった。レコーディング現場でもちょろっと喋ってすぐ作業して、ダラダラすることもなく(笑)。僕のレコーディングはメンバーが入れ替わり立ち替わりだから、それも結構大事なことで。
関口:やっぱりこう、いろんな現場で40近くまでやってきてるから、なんとなくわかるんですよね。ここはサクッとやって後でメールのやり取りでもいいなとか、ここはちょっとコミュニケーションの時間を取ったほうがいいなとか。それはたぶん僕がプロデュースする立場もやってるから、お互いにわかるのかもしれない。
―関口さんが「Let Me Feel It」に参加したとき、アルバム全体像はどれくらい見えていたんですか。
関口:全然見えてなくて、最近アルバム音源を送っていただいて初めて通して聴きました。まず自分の参加曲がリード曲なんだっていう驚きと(笑)、ダンサブルな楽曲だけじゃなくてバラエティに富んだ曲調がそろっていて、おおーと思いました。
―全体を聴かれていかがですか。
関口:やっぱり僕が通ってきていない音楽のエッセンスをいっぱい感じました。「Let Me Feel It」はふたりの領域が重なった曲なんだけど、あとは僕が通ってきた文脈とはまた違う音楽の魅力がたくさんある。「Christmas Is All Yours」とかすごく好きで、コード進行からしても自分はこれ作れないなと思うし、めっちゃいいな、これがKeishiくんの領域なんだなと思って。
Keishi:うれしいなあ。この曲は転調してるんだけど、それがわからないくらい自然なメロディをつけるのがテーマで、それが今セッキーくんが言ってくれた部分なんですけど。難しいことがやりたいわけじゃないんだけど、なんかちょっといいねと思えるポイントを入れたくて。
関口:わかる。たぶん僕は作り手側の耳でも聴いちゃってるから、コード進行を含めいろんな要素が入ってるところがいいなあって思うところがあるかもしれない。
Keishi:いやーうれしいな、もっと言ってほしい(笑)。
関口:あとやっぱり、いちばんは歌い方。Keishiくんは自分がやってきたフィールドの男性ヴォーカルと全然違うイメージがあるからすごく新鮮で、いいなって思う。僕のやってるOvallは歌もサウンドの一部としてあるんだけど、Keishiくんの場合はヴォーカリストとして声1本で表現する人だから、ストレートに響く。すごく日本語が伝わってきて、そこが新鮮でした。
ずっと何かを追い続けてられるか、みたいな感覚になってからはすごくラク
―Keishiさんはソロで10年経ちますけど、ずっと制作に向かわれていて、スランプみたいな時期はないんですか。
Keishi:全然ありますよ、3日間くらいできないことはいくらでもある(笑)。そういうときはムリに作ろうとしないで、自分の中で出てきたら出すことにしています。あと今年の年明けにおみくじを引いたら凶が出て、「焦るな」と書いてあった(笑)。今年中にアルバムを出そうとはなんとなく思ってたけど、そのおかげで焦らずにやろうと思えたのがよかったですね。
関口:ポジティブだね。僕ならヘコむね(笑)。
―(笑)。おふたりともキャリアを重ねてきて、今だからわかることってありますか。
関口:そうだな...振り返ってみると40歳を目前にした1、2年前に考えることが多くなりすぎちゃって、あんまりよくない周期に入った時期がありました。経験を重ねていろいろ知りすぎたせいで変に頭が良くなっちゃったというか。曲を作ってるときに「前にこうしたら良かったから、今度もこれでいけるかな」みたいな邪念が気づいたら多くなって、ジャッジに迷うようになった。でもそれだとつまんなくなっちゃうんですよね。それで最近40になって、そういうのはもういいやと思って。もう1回原点に帰って、自分が好きだな、直感的にこうしたいなって思う方向にもっていくようにしてるんです。
Keishi:その話を聞いて思い出したけど、自分もセッキーくんの話と似たようなことがあって。数年前の自分にはどこか焦りがあって、もうちょっとスイッチ入れて走らないとって思ってた。でも今思うのは、そんなに焦らなくても、走っている状況を楽しめればそれでいいんじゃないかってこと。どちらにせよどこかで落ち着こうなんて思ってないんだから。
関口:うんうん。
Keishi:それで今回のアルバムは『Chace After』というタイトルを付けたんです。例えば何かに満たされたとしても、それからずっと満たされたままってことはなくて、その日は最高!って感じで打ち上げとかしても、次の日に起きたらまた違う方向に向かってるだろうし、向かってなきゃダメだと思う。そうやってずっと何かを追い続けてられるか、みたいな感覚になってからはすごくラクですね。
関口:年齢的なものもあって、40になっちゃうし、ここまでは行っとかないと、とか勝手に思っちゃうんですよね。でも実際はそれよりも楽しいことをしたいっていうのが原動力だから。変に焦らずに、その原動力で行った方がいいよね。
Keishi:そうそう、それに気づけるかどうかっていうのは結構重要な気がする。「Let Me Feel It」の《「満ちていたい」と笑えそうかい?》というフレーズはそれを言ってる。今満ちていないとして、それで苦しくなるんじゃなくて、その状態を楽しめてるかどうか。満ちてないからダメなんじゃなくて、だからこそ充実していることもあるだろうし、生きる理由にもなるから。自分は何かを追い求めてた方が調子がいいんですよね。
―Keishiさんはこの10年を振り返って、自分の強みはなんだと思いますか。
Keishi:いろんなことをポジティブに変換できる力は結構あると思います。コロナ禍でもすごく思ったけど、何かあっても抜け道を探せる。例えば雨の日は憂鬱だけど、ライブで「雨」っていう曲が聴けたからラッキーとか、そのくらいのことでいいと思う。そういうのを無意識に続けていけることが強みになるのかな。
―それはコロナ禍で毎日インスタライブをやっていた関口さんとつながる話ですよね。
関口:確かに、言われてみたら僕もそういう考えをするかも。それにインスタライブのように定期的なことをやると生活が規則正しくなるんですよね。何時に始めるからそれまでにごはん食べなきゃ、とか(笑)。奥さんにも「毎晩1時間も喋ってるのはきっと体にいいよ」って言われて、それでコロナ禍もメンタル的な健康を保てたのかなと思った。
Keishi:そうそう、日課があるっていいらしいよ。僕もラジオ(KC Radio 『たまに飲むコーラはうまい』)をそういう思いでやってる。やることがあると気持ちが安定するし、日課があるからこそ、たまに外して朝まで飲むときに喜びが爆発する(笑)。
―おふたり、なんだか似てますね。
関口:ね、意外と(笑)。
Keishi:これからセッキー君といろんなことをやれそうです。ライヴもしていきたいね。
関口:そうだね、まだ一緒にステージ乗ったことないしね。ぜひやりましょう。
取材・文:廿楽玲子
撮影:柴田恵理
取材場所:a-bridge 三軒茶屋店
〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2丁目14-12 RF 三元ビル
営業時間:OPEN 12:00/CLOSE 0:00
@abridge2001
RELEASE INFORMATION
Keishi Tanaka「Chase After」
2022年12月7日(水)
Format:Digital
※CD/LPはツアー会場にて先行販売(2023年1月一般発売予定)
Track:
1.Will
2.Let Me Feel It
3.A Base Of Life
4.雨
5.Sunny
6.Call Me Up
7.Christmas Is All Yours
8.Slow Dance
9.青のサーカス
試聴はこちら
LIVE INFORMATION
Chase After Release Tour
2022年12月17日(土)
大阪 梅田 Shangri-La
OPEN 17:30/START 18:00
2022年12月18日(日)
名古屋 池下 CLUB UPSET
OPEN 17:30/START 18:00
2022年12月21日(水)
東京 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 18:00/START 19:00
<Band Set>
Vocal, Guitar, Keyboard:Keishi Tanaka
Drums:Junpei Komiyama
Bass:Keito Taguchi(LUCKY TAPES)
Guitar:Akira Yotsumoto(oysm)
Keyboard:Kazuhiro Bessho(パジャマで海なんかいかない/Gentle Forest Jazz Band)
Tenor Saxophone:CrossYou(RIDDIMATES/HeiTanaka/REGGAELATION INDEPENDANCE)
Trumpet:Chan Keng(videobrother/The SKAMOTTS)
<Ticket>
一般発売 : 2022年11月21日 (月) 10:00~
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/keishitanaka-oat/
ローソンチケット https://l-tike.com
e+(イープラス) https://eplus.jp
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オフィシャルサイト@KeishiTanaka
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